アイリッシュコンサーティーナにおける装飾音について #4 ロールを使わないときの注意点
前回の記事では、コンサーティーナでの様々なロールの奏法についてまとめました。
その中で「8分音符3つ分の音価」の部分でロールを使うという説明をしましたが、全ての部分でロールを使う必要があるわけではありません。
また、ロールを使うにはある程度のテクニックが必要なので、無理に使うよりは正確なリズムで演奏することのほうが大事だと思います。
アイルランド音楽におけるコンサーティーナの発祥地、クレア州の最も伝統的なスタイルを好む方も、ロールをしないという選択をすると思います。
しかしロールを使わない場合の注意点もあります。
特にリールにおいては、楽譜通りに弾くとダンス曲のもつ推進力や勢いを失ってしまうケースがあります。
今回は、ロールを使わないときにどう演奏するのがよいか考えていきたいと思います。
※前回の記事
■表拍ロールと裏拍ロール
前回の記事で書ききれなかったことですが、リールやホーンパイプは4分の4拍子なので、表拍から始まる「8分音符3つ分」と、裏拍から始まる「8分音符3つ分」の部分が存在します。
これらを仮に表拍ロールポイント、裏拍ロールポイントと勝手に呼びます。この2つのポイントでは、ロールを使わない場合表現の仕方が違ってくると思うのです。
(1)表拍ロール
表拍から始まる「8分音符3つ分」の部分では、ロールする以外に次の3つの選択肢が考えられます。
以下、リール「The Musical Priest」を例に楽譜で説明します。
・単純に音を伸ばす
・2+1に分割する
その間にカットを入れることもできます。
・3つに分割する
この場合、スタッカート(音を短く)して弾くと不自然になるため、なるべく音をつなげるように演奏したほうが良いと思います。
なお、ジグの場合もこの表拍ロールと同じ対応になり、上記の3パターンからの選択になります。
(8分の6拍子で、一拍の単位が8分音符3つになるため。)
(2)裏拍ロール
これが問題だと思っています。
The Sessionを始めとする楽譜サイトでは、裏拍から始まる部分を次のように記載しているものが散見されます。(ロール記号 ~ が上に付いている場合もありますが……)
リール「Fred Finn’s」を例にしてみます。
表拍ロールのように音を伸ばすと不自然になるので、このような1+2に分割した書き方になるのでしょう。
特に楽器の初心の頃は、楽譜通りに弾くことが多いかもしれません。
しかし、ロールを使わない奏者はこのように弾いていないのです。
その理由は、上記の通りに弾くと弱拍(2拍目や4拍目)で音が伸びるため、ダンス曲がもっている推進力や勢いが失われてしまうからだと考えます。
裏拍でロールを使用しない場合、次の3つの選択肢があります。
・2+1に分割する
・3つに分割する
・一部を別の音に変更する
これは曲のバリエーションの問題になるので限定的ですが、同じ音が3つ連続しないように弾くパターンです。
以上のように弾くと弱拍が区切られるため、曲の流れを止めずに演奏できます。
【根拠となる参考演奏①】
Mary McNamara (公式サイトに掲載されている動画)
全てのロール位置で前述の弾き方をしています。
(例)ドファファーではなくドファーファ、ソドドーではなくソドード
【根拠となる参考演奏②】
Jack Talty & Cormac Begley - (Na Fir Bolg)
2:01からのCronin's Reelが分かりやすいです。両名とも、全てのロール部分を8部音符3つに分割して弾いています。
このアルバムはロールを使わない弾き方の研究に非常に役立ちます。
※ちなみに、ティン・ホイッスル奏者hataoさんが運営している「ケルトの笛屋さん」のサイトにあるリールの楽譜では、裏拍ロールポイントは8分音符で区切って書いてありました。さすがです。
ケルトの笛屋さん - 楽譜の無料ダウンロード アイルランドの伝統音楽
https://celtnofue.com/play/download/download_05.html
(The Sessionへのリンクのみの曲もあるため注意)
■ロール編の総まとめ(楽譜)
ここまでの説明のまとめとして、有名なリール「Silver Spear」を例に使って実際の弾き方に近い楽譜を作成してみました。
あくまでも参考までにどうぞ。
■今回のまとめ
ロールを使える場所には、表拍から始まる部分と裏拍から始まる部分がある。ロールを使わずに弾く場合、特に裏拍ロールの場所の弾き方に気を付ける必要がある。
ロール編はなかなか複雑な内容になってしまいましたので、ご質問やご意見、情報などがありましたらお気軽にコメントください。
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次回はトリプレットについて解説したいと思います!