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アイリッシュコンサーティーナにおける装飾音について #1

仙台でコンサーティーナを弾いているRyoと申します。
アイルランド音楽におけるコンサーティーナの装飾音(ornamentation)について,今分かっていることを整理していきたいと思います。

記事を書くに至った理由 ~ 情報が少ない!

アングロコンサーティーナでアイリッシュ音楽の演奏を始め,ある程度弾けるようになったときに疑問に思うのが,「どうしたら著名な奏者のような装飾音が付けられるのだろう」ということです。

他の楽器,例えばフィドルやティンホイッスル,アイリッシュフルートなどは,ロールやカットなどの装飾音の付け方がある程度確立され,調べれば情報が入手できると思います。

しかし,コンサーティーナの装飾音についての日本語の情報は検索しても見当たらず(2020年5月現在),そもそもコンサーティーナの教本は日本では出版されていないのです。

Youtubeなどで動画を見て学ぼうとしても,楽器の特性上ボタンが両面に付いているため,前から見てどのボタンを押しているか判別するのは困難です。

それならCDを聴いて研究しよう

そこで私は,著名なコンサーティーナ奏者の演奏を聴き,(場合によってはスロー再生などで)聴き取った装飾音を特定し,押し引きの関係などからボタンを推測することにしました。

いくつか演奏を聴いてみると,奏者によって装飾音をあまり使わない人もいることが分かります。

コンサーティーナが独特なのは,奏者によって装飾音の付け方・使い方が大きく異なるというところです。

そもそもアイルランド音楽における装飾音とは

アイルランド音楽の装飾音を考える際は,最も古くから用いられている楽器,イーリアンパイプスについて触れておく必要があります。

イーリアンパイプスは全ての孔を塞がないと音が止まらない楽器で,演奏中に音を区切るために生まれたのが装飾音です。

イーリアンパイプスが生まれたのは17世紀頃と言われているため,そのずっと後に導入された他の多くの楽器の装飾音は,基本的にイーリアンパイプスの奏法を参考にして行われていると考えられます。

ティンホイッスルやアイリッシュフルートでは,音を区切るためにカットやロールなどを入れるのは自然ですが,コンサーティーナはボタンを押して演奏する楽器なので,本来は音を区切る必要がありません。

しかし,パイプスの模倣と言えるような装飾音を入れることにより,アイルランド音楽独特のリズムが生まれるため,著名な奏者たちが取り入れているのだと考えます。(私はそのリズムが大好きです!)

研究の前提となること

アイルランド音楽でコンサーティーナを用いる場合,30ボタンのアングロ・コンサーティーナを用いることが多いです。(※例外はあります。)
本記事では30ボタンのアングロ・コンサーティーナの奏法について言及します。

また,本記事ではコンサーティーナ奏者のCD音源を元に考察していきます。
現地でのパブセッションでの演奏,地域性などについての議論はひとまず置いておきます。

コンサーティーナの装飾音の種類

さて,いよいよ装飾音(ornamantation)の種類について整理してみましょう!

1.カットグレイスノート(Cut,Gracenote)
最も多く使われるものです。

2.ロール(Roll)
やり方にはとても多くの種類があり,海外のコンサーティーナフォーラムでも議論されています。コンサーティーナ独特のクランロールなどもあります。

3.トリプレット(Triplet)
2つの音の間を繋ぐように入れるトリプレットと,アコーディオンで用いられる同音トリプレットがあります。

4.コード/ドローン(Chord,Drone,和音,重音)
これは装飾音の定義に当てはまるか微妙なところですが,コンサーティーナの奏法として重要だと思うので,一応入れました。

次回以降の記事で,楽譜付きで例を載せながら紹介したいと思います。

ご興味のある方はよろしくお願いします。