意味のイノベーションについて
体験設計をする上で、抑えておかないとおくべき”意味のイノベーション”。
直感的に分かるようで、腹落ちして理解し、活用するのが難しい”意味のイノベーション”についてのメモ書きです。
意味のイノベーションについて
意味のイノベーションは、ミラノ工科大学のベルガンティ教授が提唱するイノベーションに関する考え方です。
ベルガンティは、従来の課題解決型のイノベーションというのは前時代的で、我々は意味のイノベーションについて、考えなければならないと解きます。
ベルガンティは、私達自身を”解決しなければならない問題”を抱えた存在しとして見ることに疑問を呈します。
「解決しなければならない課題を抱えている」というのは、特定の価値観や尺度、イデオロギーから観るから起こることです。
少なくとも先進国においては、物質的には非常に豊かです。
サブスクリプションやシェアリングエコノミーの進展により、個人が楽しめる余暇活動の選択肢も広がりました。
その様な世界において、まだ課題を探すのか?
そうではなく、個人個人の愛情の矛先、偏愛性を確立することが、本当に人間中心的な生活であり、ビジネスなのではないか。
こういう事が、彼の思想の背景にあると思います。
新旧イノベーションの比較
旧来のイノベーションを機能のイノベーションとし、意味のイノベーションとの違いを考えます。
旧来のイノベーションは、主に新しい機能を開発し、行かに課題を解決するかを志向します。
そこで、問われるのは”How”であり、課題を解決する方法です。
デザイン志向も従来のイノベーションの価値観に属します。
How might we ~?といのは、顧客の課題を”どのように”私達が解決してあげられるかを思考します。
一方で、意味のイノベーションは、より主観的な”愛情”などの人間的な感情を取り扱います。
そして、その様な意味を作り出す行為は、個人的体験、内省から始まります。
顧客インタビューを通してでもなく、ワークショップやブレインストーミングのような行為ではなく、個人的視点・問題意識を起点に始まります。
意味のイノベーションの例
ステークホルダーの変える
意味のイノベーションの例としては、任天堂のWiiが有名です。
当時、高画質化、高速処理の追求をしていたコンソールゲーム業界において、任天堂はスペック競争から降りて、新しい”価値”を見出します。
それが、”家族で一緒に楽しめるゲーム機”です。
当時、家庭用ゲーム機には、子供が一人で、家族からコミュニケーションを閉ざして遊ぶというイメージがありました。
ゲーム産業自体が、大人や女性から、あまり好意的な印象を持たれていない時代でした。
そのような時代に、任天堂は”お母さんに嫌われないゲーム機”を作り出します。
子供、両親、おじいちゃん・おばあちゃんの三世代のコミュニケーションの起点となるゲームを発明したのです。
欠点に意味を見出す
人類最古のろうそくは、古代エジプト時代に遡ると言われています。
大昔から、人類は光源としてろうそくを頼って来ましたが、エジソンが工業製品化可能な電球を発明し、”生活の為に、暗闇を照らす”という、ろうそくの役割は終わりを迎えます。
ろうそくは、電球と比較して、手間が掛かるし、光源がゆらぎ、そこまで明るくないという欠点があります。
現在のろうそくの使い方は、その欠点を逆に活用したものがメインになっています。
ろうそくには、「癒やし」や「安らぎ」の意味を求めて使用されます。
ろうそくの「あまり明るくない」点や、「(空気で)揺らぐ」という欠点が、癒やしの効果を生む基になっています。
余談ですが、フレンチレストランのレフェルベソンスのろうそく及びライティングは本当に美しい。
理想のライティングとなるように、ろうそくも徹底的に拘って選んでいるそうです。
意味のイノベーションの考え方
任天堂の例や、ろうそくの例を基に、意味のイノベーションの生み出し方を類型化できないかを考えます。
1つには、「ステークホルダーを変える」という方法があります。
任天堂のケースの、子供、ゲーマーのものだったゲームを、家族、非ゲーマーのものにするという形です。
もう一つには、「視点を変える」という方法があります。
これは、ろうそくの例の、「欠点に使用機会を見出す」という考え方です。
意味のイノベーション自体は、あくまでアイデアを生むきっかけに過ぎませんが、凝り固まった視点をシフトするのに有効だと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?