犬とそばと架空の職業・押井守のもっともらしくする才能の暴走<押井守監督『立喰師列伝』(映画)>

 ハロハロ、押井守監督最新作『ぶらどらぶ』をまだ見ていないのにこの題材で書くしたことを既に後悔しているryoです。押井守監督と言えば! 僕が思いつくのは「犬」「そば」そして「立喰師(=架空の職業)」です。
 「犬」については様々、僕なんかより余程ヲタクな方々による研究がされているめちゃめちゃ考察が楽しい分野なので自分でググってください(押井監督の作品には「犬」がモチーフとしてよく使われ、本人もかなりの愛犬家で「犬には残飯でも食わせればいい」と発言した宮崎駿さんと喧嘩したほど、という情報のみここに置いておきます)。
 「そば」について押井監督は「(立ち食い蕎麦は)ディスコミニュケーションを求める若者の集う不穏な空間」という旨の発言をしています。よくわからないけどそうなんでしょう(投げやり)。特に僕が気になる事として、押井監督の描く立ち食い蕎麦のシーンでは往々にしてトッピングに「コロッケ」が使われる事。偏屈なサブカルオタクぶっていた大学時代の僕はよく立ち食い蕎麦でコロッケを注文していました。実際、そんなに合う組み合わせとも思えないのですが、なんで必ずコロッケってあるんでしょうね。
 「立喰師(=架空の職業)」はハイパーリンク的にあらゆる押井守監督作に登場しています。「立喰師」を空想することは押井監督のライフワーク?でもあるそうです。そして、このわけのわからない概念が一つの形としてまとめられたものが『立喰師列伝』です。

『立喰師列伝』とは

 まず、「立喰師」という意味不明なワードについて説明します。簡単に言えば「話術や奇行、風態などで店員を圧倒し、恫喝などの暴力的手段に訴える事なく食い逃げを成功させる人々」のことです。これは、言うまでもなく存在しない職業です。その存在をもっともらしく、史実を絡めながら語ることで、あたかも「知らないだけでどこかに存在するかもしれない界隈」のように演出しています。
 この架空の職業の架空の歴史を押井守氏が書いた本が『立喰師列伝』であり、ドキュメンタリーテイストで(『ミニパト』で使っていた紙芝居方式を使いながら)実写ともアニメともつかない形で映画化したものが『立喰師列伝』です。
 正直、これを簡単に人に勧めることはできない。この作品を十分に楽しむにはそれなりの「押井偏差値」的なものが必要になる。監督作『御先祖様万々歳!』の主人公が作中で逃亡していた時期の出来事がこちらで語られていたり、『うる星やつら』で出てきていた謎の単語の意味がここで明かされたりとハイパーリンクのオンパレード。作品そのもののテイストもかなりアクの強い(だが僕としては好きな時の)押井節が効いている。トンデモな展開や理屈をもっともらしい解説で成立させる(または諦めさせる)、一種の脱力的魅力に満ち満ちている。単純化して言えば「くだらないことを真面目な言葉で語る」というところだろう。このシィールさは『機動警察パトレイバー』の押井守脚本回「特車二課壊滅す」や「火の七日間」と近いだろう。あのノリが好きな人には確実にハマる一作であることは保証できる。「押井作品をそれなりに観ているけど、これは観てないな」というあなたは確実に観て欲しい。
 ちなみに、僕が押井守監督作品の中でベスト3を挙げろと言われれば、1位は『機動警察パトレイバー2 the Movie』になるのだが、2位にはこの『立喰師列伝』を挙げる。

一言コメント

 僕はこういう時の押井さんが好きなんです。

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