強オピオイドの基礎知識

弱オピオイドと違って天井効果ceiling effect(コデインは120mg,トラマドールは300mgを超えたら強オピオイドへ変更)がない強オピオイドについて.
最初から強オピオイドから開始することもあるし(最近ではby the ladderが原則から外れている),よく使うNSAIDsは増量しても鎮痛効果はあまり変わらずに副作用の頻度を増加させてしまう.とにかく内科病棟では強オピオイドについて普段処方しなくても最低限は知っておかなければいけないと思い,まとめてみる.
 
私は普段オピオイドを処方しないため,研修医本レベルの知識です.
 


基本


ベースにオピオイドの徐放製剤(定期処方)を使用,疼痛がそれでも生じるときに頓用でオピオイドの速効製剤(頓用処方)を利用する.
原則としては,少量から開始する.
悪心,便秘の予防を.
 
MSコンチン®はモルヒネの徐放製剤,オキシコンチン®はオキシコドンの徐放製剤である.
注)絶対に徐放錠を割ったり,粉砕したり,懸濁をして使用しないこと.
 

目標


1st:夜間の睡眠の確保
2nd:安静時痛の緩和(←まずは2ndステップを目標とする)
3rd:体動時痛の緩和
4th:痛みを感じずに日常のQOLが保たれる
 
効果判定は1~3日後に行う.持続痛と突出痛を区別できるように詳細に問診.
 

痛みの評価


性状から,内臓痛・体性痛・神経障害性疼痛に分けて考える.
内臓痛にオピオイドが効きやすい.神経障害性疼痛には効きにくい.
 

投与経路


まずは経口でできるか?を考える.無理なら注射.
 

オピオイド・ローテーション/スイッチ(スイッチング)


・鎮痛効果の改善や副作用(鎮静,嘔気,便秘,頭痛,せん妄など)軽減を得るために他のオピオイドに置換すること
・剤形や投与経路の変更も含む
・用語的に正確には複数回スイッチングした状況をローテーションと呼ぶ
 
オキシコドン内服中に便秘のコントロールが困難となりフェンタニルに切り替える,というのが代表的な具体例.
換算表例は各文献参照.まずは下記をおさえると良いかも.
 
リン酸コデイン360 mg
経口モルヒネ60 mg=持続静注20 mg
経口オキシコドン40mg
 
例)
リン酸コデイン®(20 mg)4T4x定時,レスキューとしてリン酸コデイン®(20mg)を6回/日使用している腎機能障害のある患者
→オキシコンチン®(10 mg)2T2xに変更(レスキューはオキノーム®5 mg)
→疼痛は落ち着いたが,便秘がひどい
→デュロテップMTパッチ〔3日毎貼り替え〕2.1mgへ(レスキューはオキノーム®5mg)
オキシコンチン®内服と同時に貼付して,次回から内服を中止した.
 
〇使用中のオピオイドの量が多い時(経口モルヒネ換算120 mg/日以上)は,一度に全量スイッチングせずに,2~3日ごとに30~50%ずつスイッチングするのが安全.
〇スイッチする際は,新しいオピオイドには耐性が低い可能性が高いため,現在と同量換算かやや少なめ(疼痛増強なければ20~50%程度減量)で新しいオピオイドの量を決める.特にフェンタニル→他のオピオイドへのスイッチングでは過量となりやすく,換算比からさらに減量して行う.これはincomplete cross tolerance(不完全交叉耐性)という考えに基づく.
〇フェンタニルは安全域が狭いため,フェンタニルにスイッチする場合は等価換算から20%減量してスイッチすると安全.
〇オピオイド持続静注から貼付剤への変更であれば,パッチを貼付して6時間後に持続静注を半減,12時間後に中止する(血中濃度の上昇に合わせて徐々に注射剤の速度を下げる).
 

覚え方 equianalgesic ratio


【経口モルヒネ30 mg = 経口オキシコドン20 mg = フェントステープ1 mg】
→「さん に いち」と覚える.
【コデインは経口モルヒネの1/6の力価】
【経口トラマドールは経口モルヒネの1/5の力価】
【タペンタドールは経口オキシコドンの1/5の力価】
【モルヒネ経口:経直腸:皮下:静脈 = 1:2/3:1/2:1/3】
【オキシコドン経口:皮下:静脈 = 1:3/4:3/4~1/2】
 

指示の原則/必須知識


・経口では1日2回に分けて,12時間おきに内服
例)「8時・20時」
※定時薬の切れ目の痛みがあるとき,3回/日に切り替えることもある.
・レスキュー:「呼吸抑制(RR<8回/分,SpO₂低下など)がみられなければ」
・レスキューは1日総量の1/6(10~20%)を,(30分~)1時間あけて内服する.回数制限なし.
注)フェンタニルの口腔粘膜吸収剤は1日4回まで
・静脈投与ではレスキューは1時間量を早送り.(15~)30分以上あけて使う.
・レスキューが連日1日3,4回以上でベースアップ検討:1.3~1.5倍目安
※経口モルヒネ換算で120 mg/日までであれば50%ずつ,それ以上の場合や高齢者や全身状態不良であれば20~30%ずつ.内服で3日程度ごと,注射で1日ごと.
・CSIの場合,薬剤の投与量の限界(1 mL/時間)がある.出血傾向あれば禁忌.
・麻薬拮抗性鎮痛薬(ブプレノルフィン,ペンタゾシン)の併用は禁忌.
・オピオイドは終末期の意識低下,鎮静開始後も中止しない.
・筋注は痛みを伴うのでダメ.
 

副作用


3大副作用(悪心・便秘・眠気):頻度はモルヒネとオキシコドンで同等

・悪心(30~50%)


1~2週間で耐性ができる。
オピオイド導入後ノバミン®(5 mg)3T3x毎食後 開始,1~2週間後に嘔気なければ中止.
ハロペリドールも有効(CTZ関与).
前庭症状を伴えばトラベルミン®.
末梢作用が強いドンペリドン,メトクロプラミドも(特に食後に生じる嘔気に)使用されるが,効果が十分得られない場合がある.
※ただし,制吐剤の予防投与はエビデンスなし

・便秘


ほぼ必発.耐性形成なし.下剤を併用する.
モルヒネ,オキシコドン>フェンタニル
経口>非経口
オピオイド開始と同時にMgO定時開始.腸管運動刺激剤を組み合わせる.
ダメなら以下追加.
スインプロイク® 0.2mg 1回1錠 1日1回 朝

・眠気(20%)


耐性形成。
1週間以内に改善することが多く,オピオイド減量の理由とはなりにくい.著しい眠気,せん妄などで減量が必要な場合,2(~3)割の減量を1~3日ごとに繰り返しながら適量を探す.
特にRR保たれていれば,オピオイド以外の原因を考えることも大事.
※ノバミン®も原因になる.

・呼吸抑制


縮瞳していると呼吸抑制の危険性があり注意.眠気も呼吸抑制の前兆と捉える.

・皮膚掻痒感


ジフェンヒドラミン塩酸塩150 mg分3.モルヒネ使用中であればローテーションも選択肢.
 

減量法


10~30%ずつ2~3日ごとに減量.
経口モルヒネ換算20 mg/日まで減量できれば中止可.
急を要するときは,50~30%に減量する.
呼吸抑制が非常に強ければナロキソンを使用する.ナロキソン塩酸塩注1A(0.2 mg/mL/A)+生食で合計10 mLとし,1~4 mLずつ30秒~2分ごとに静注する.半減期は5~20分で,効果は40分程度持続する.状態を見ながらRR>10回/分まで反復使用する.One shotで一気に全量使用しないこと.便が吹き出す,激痛,誤嚥などの可能性がある.離脱により不快になるので,特に末期癌患者ではリバースは避ける.
 

モルヒネ


オピオイドのなかで唯一呼吸困難に適応がある.鎮咳作用も強い.
腎機能障害がある場合には、原則なるべく避ける.
胸・腹水があると血中濃度が上がりにくい(スイッチの際に注意).
「硫酸塩」が長時間製剤,「塩酸塩」がレスキュー製剤.
副作用が比較的多く,呼吸困難を伴わない疼痛では第一選択とすることは少ない.
例えば,経口可・腎機能障害(-)の患者では,モルヒネの徐放製剤であるMSコンチン®開始
処方例)
MSコンチン®(10 mg)2T2xから開始(モルヒネ20mg/日).
レスキュー:オプソ®1回5 mg(即効性モルヒネ製剤)
 ※10分程度で効きはじめて,最大鎮痛効果を発揮するまで30分くらいしかかからない.服用時に水は不要.
→例えばレスキュー6回/日使うようだったら……
 MSコンチン®60mg/日 1日2回,レスキューはオプソ®10mgとする.
 
CSI/CVI:モルヒネ塩酸塩注(10 mg/mL/A)5~10(20)mg/日から開始
処方例)
モルヒネ塩酸塩注5 mL(50 mg)+生食45 mLで50 mLとし,0.5 mL/hr(モルヒネ12 mg/日)で持続静注・皮下注開始
意識レベル,RR(>10回/分)に問題なければ8~12時間ごとに増量
 
腎機能障害あるが呼吸困難が強くモルヒネを使用したい場合は
GFR 10~50 mL/分で元々の量の75%,GFR<10 mL/分で50%に減量する.
★EAPCガイドラインでは,GFR<30で「使用すべきでない」
 

オキシコドン


腎機能障害がある場合にも使いやすい.せん妄が少ない.
徐放製剤の最小規格5 mgで,オピオイドとしては最低用量での開始が可能.
CYP2D6およびCYP3A4阻害作用を有する薬との相互作用に注意.
処方例)
オキシコンチン® 10 mg/日 1日2回 で開始
レスキュー:オキノーム®1回2.5mg
 
CSI/CVI:オキシコドン塩酸塩水和物(オキファスト)注(10 mg/mL/A)5~10(20)mg/日から開始
 

フェンタニル


内服薬なし.注射剤,貼付剤(処方にはe-learning受講が必要),口腔粘膜吸収剤がある.
便秘の副作用が少ない(μ₂受容体への親和性が低い)!
腎機能障害患者にも使用できる.
腸蠕動を抑えたくない場合(重度の便秘やイレウスなど)によい適応.
モルヒネやオキシコドンによる副作用が強い際にもフェンタニルへの変更を検討する.ただし,消化管の完全閉塞による疼痛の場合には,フェンタニルへの変更で蠕動亢進による疼痛増悪や消化管穿孔の可能性があり,注意.
貼付剤がある唯一のオピオイド.初回貼付してから12時間以上して有効血中濃度に達するため,毎日増量では過量投与になる.毎日貼り替えのものでは少なくとも2日間は増量を行わない.
フェンタニル貼付剤からオピオイドを開始するのはよろしくない.注射から切り替える.
フェンタニルの口腔粘膜吸収剤については専門家に相談すること.
 
例1)
フェンタニル注射薬(1A=2 mL=100μg)12 mL+生食36 mLで48 mL(12.5μg/mL)とし,0.4 mL(5μg)/hrから開始.
8~12時間ごとに30~50%ずつ増量,24時間以上安定した鎮痛が得られれば貼付剤に変更.
 
1 mL/hr(12.5μg/hr)で安定していた場合,フェントス®テープ1 mgに変更
※注射薬は貼付剤を貼付した6時間後に50%減量,12時間後に中止.
レスキュー)モルヒネ坐薬10 mg 1回1個 1時間空けて,1日3回まで
 
例2)
モルヒネ持続静注20→30 mg/日に増量したら眠気が強いし疼痛コントロールも不十分
→フェンタニル 600μg(静脈内投与)にスイッチング
→安定したので,皮膚貼付剤に変更
 
例3)
フェンタニル注(0.1 mg/2 mL/A)0.3 mg/日 CSI(0.2 mg/日 CVI)より開始
 
例4)
フェンタニル(フェントス)テープ 1回1 mg 1日1回 貼付 毎日貼り換え
レスキュー:オキノーム散 2.5 mg
 

法律の話


「麻薬及び向精神薬取締法」参照.
診療施設所在地の都道府県知事から麻薬施用者の免許を交付してもらわないと,医療用麻薬は処方できない.
※トラマドールは「麻薬及び向精神薬取締法」上の麻薬ではない.
※コデインの100倍散剤は麻薬処方箋がいらないため,処方しやすい.
 

医師国家試験(115C52)


72歳女性、「悪心に対する対策を行ったうえで」NSAIDsに加えてオピオイドを開始したら2カ月後から腹部膨満感と腹痛がでてきた.CTではニボーあり.
→対応としての正解は「オピオイドスイッチング」
オピオイド使用にあたって,便秘対策を怠った場合,宿便,麻痺性イレウスへの発展の可能性があることを学べ,という出題者のメッセージを感じた.
 

初期研修のはなし


胆管癌末期,疼痛コントロール悪くトアラセット4T4x開始(本当は良くない),腎臓悪いのにロピオンとかも使われて問題になった(全然ダメ).数日後やっとフェンタニルの皮下注開始.増量し0.48 mg/日へ.痛みは良くなったがせん妄発症,せん妄コントロールはつかず.その後すぐ亡くなった.薬剤決定には関与していないが,疼痛コントロールの勉強は大事だと痛感した.
 

外科当直時,消化器外科病棟から術後患者の「嘔吐」でcallあり.嘔吐だから教科書通り心筋梗塞をまず除外……いや消化器だからイレウス?なんて考えて焦ったが,実際のところはPCAポンプ使用中であり,ほどなく主治医到着し速効でプリンペラン®ivしていた.よくあることらしい.ワイは何の役にも立たず.ちなみにPCAはpatient controlled anesthesiaの略.
 

おまけ


オピオイド定期服用している患者が疼痛で救急受診した場合の処方例
緊急のレスキュー投与量として,日頃患者が使用している内服量の50~100%増が通常必要量.
例)
徐放剤モルヒネ200 mg/日,レスキューとして速放剤モルヒネ30 mg使用しており,レスキュー4回/日使用しても痛みが中等度以下にならない.
→30 mgの50%増は45 mgなので,15 mgを経静脈投与.15~30分後に疼痛評価した.
 

参考文献


・デキレジ2
・チーレジ1
・国家試験後の臨床
・内科診療ことはじめ
・総合内科マニュアル
・内科レジデントの鉄則
・内科レジデントマニュアル
・日常治療薬の正しい使い方
・UCSFに学ぶできる内科医への近道
・総合内科病棟マニュアル(赤本+青本)

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