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心電図検定1級~対策法~

2021年1月に受験した心電図検定1級に合格したので、これから受験する方に向けて、役に立ちそうなことを書いていきます。需要がありそうなテーマ順に紹介します。

現時点では心電図検定1級受験者の体験談や勉強法について書かれたブログ・note等は多くは無く、自分が検定を受験するにあたり、情報収集に際して苦労したことが今回のnoteを書く動機です。

なお、自分は1級以外の級は受験したことがないので、2/3/4級については言及しません。このnoteの記載内容については、(他の級と内容に重複があることは予想されるものの)1級に限定したものだと思っていただいた方が良いと思います。

※追記して欲しいことがありましたら、コメントにて教えてくだされば、可能な範囲で編集して追記します。

※自分は医学部6年生で、ツイッターで心電図検定に取り組んでいる臨床検査技師さんや循環器医には到底理解レベルでは及びません。パターン認識もを中心としながら勉強したので、私の意見はあくまで1受験者の感想として読んでいただければ幸いです。

どんな問題が出題されたか

①WPW症候群

WPW症候群はやたら出題されました。A/B/C型の区別と、副伝導路の場所の推定については次回以降の試験でも必ず出題されると思いますので、集中的に対策すべきテーマの1つと言えるでしょう。

②ペースメーカー心電図

これもかなり出題されました。ペースメーカーのモードや、ペーシング不全・センシング不全を扱った問題は市販の問題集で対策しましょう。公式問題集では足りないと思います。正直あんなに出題されるとは思ってなかったので、本番で面喰いました。


本番で一番出題されたのは、上記のWPW症候群とペースメーカー心電図ですが、記憶にある限り他の出題についても書いていきます。

③融合収縮/副収縮

副収縮については特に、市販の問題集でも扱われることが少ないものだと思います。出題されたという事実はありますので、対策せずに試験に臨むということがないようにしましょう。

④VTの起源

絶対出ます。対策必須です。

⑤徐脈頻脈症候群

これはストーリーが大事です。単回の12誘導心電図では診断がつかずに24時間心電図や入院中のモニターなどで診断させる問題や、頻脈の治療のために抗不整脈薬を投与したら徐脈症状が悪化した、みたいな話が出てきます。

⑥心膜炎/心筋炎

自分が受けた2021年の試験では、なんと心膜炎が2問出ました。心筋炎については少なくとも選択肢にはありました。心筋炎はその心電図の特性上、出題しにくい疾患ではありますが、この2疾患についてはそれぞれ特徴的な臨床症状がありますので押さえておくと良いと思います。大袈裟な話、問題文に「吸気時に痛みが増悪する」と書いてあったら、心電図をほぼ見ないでも心膜炎を選べます。

⑦植込み型ループ心電計

これは問題としての出題と言う意味ではなく、単語として問題文に記載されていたので取り上げました。なかなか心電図の勉強をするだけだと聞きなれない単語かもしれませんが、検査についてもそれなりに知っておいたほうが良いと思われます。

今回は出題されなかったけど対策した方が良い事項

2021年の試験では出題されませんでしたが、2020年以前に出題されていたと各ネット上の体験談にて言及されている事項を扱います。

①AHA分類

心電図から、冠動脈のどの部位が梗塞していると最も考えられるか、という問題が出たことがあるそうです。自分は本番直前に頭に叩き込みました。

②先天性QT延長症候群

3種類ありまして、それぞれ波形に特徴的な所見があります。これも過去に出題されていたそうです。

③先天性心疾患

先天性心疾患、と言ってもおそらく問題で出題されるのは心房中隔欠損症ぐらいではないでしょうか。『実力心電図』でも取り上げられていますので、所見を拾えるようにした方が良いと思います。

本番は時間が足りない

これは初めて心電図検定を受ける方は意識した方が良いと思います。1級では、90分で50問を解きます。正直、系統的に心電図を読むなんて時間はありません。問題文の記載から程度目星をつけ(虚血性心疾患?不整脈?etc)、次に5択の選択肢を眺めて何が聞かれているのか(疾患?VTの起源?etc)を把握し、それから心電図を読みましょう。そこで心電図から何も読み取れず、チンプンカンプンだと思ったときに初めて「系統的に読む」という選択肢が検討されます。もちろん制限時間の関係で問題を飛ばすのも全然アリだと思います。

心電図よりも問題文が大事!?

心電図検定の心電図は実際の症例が使われているはずで、当然それぞれの心電図に症例が提示されています。年齢や性別、症状などが書かれていますが、これはバカにできません。例えば心膜炎について先述した通り心電図を見ないでもその記載から答えが分かる場合もありますし、症例情報は大きなヒントとなり得ます。以下に例を2つ挙げます。

例1)

例えば、突然意識を消失した高齢女性の症例だったとします。この患者がBrugada症候群である可能性はあるでしょうか。おそらく心電図検定においてその可能性は限りなく0に近いでしょう。有病率は、男性は女性の9倍で圧倒的に多く、特に40歳前後を中心とした男性に多く発生します。疫学的に稀な症例がわざわざ提示されることは考えにくいでしょう。

この例は極端ですが、他にも不整脈源性右室心筋症など、疫学的に特徴がある疾患もありますので、そういった疾患の一般知識も意識しながら対策することをお勧めします。

例2)

これは実際に私が受けた試験問題であったのですが、問題文に「Ⅲ群抗不整脈薬を使用していた」との記載がある症例がありました。たぶんQT延長症候群だと思い、まずⅡ誘導とV5誘導でQT時間をチェックし、実際に当たりました。限られた試験時間内では、こういった瞬発力も必要になると思いました。

使用した教科書

『レジデントのためのこれだけ心電図』と、『3秒で心電図を読む本』を取り敢えず通読するところから私は勉強を始めました。かなり見通しが良くなったのでお勧めです。

使用した問題集

・『12誘導心電図よみ方マスター トレーニング編』

・『楽しく学んで好きになる!心電図トレーニングクイズ』

・『続 楽しく学んで好きになる!心電図トレーニングクイズ』

・『心電図診断ドリル 波形のここに注目!』

以上4冊を、それぞれ最低3周はしました。特に上3冊はお勧めです。Amazonのそれぞれのページに「ライ」というアカウント名でレビューを書いているので、ここではそれぞれの本についての感想は割愛します。

公式本2冊について

『心電図検定 公式問題集&ガイド』

公式から出版されている以上、この本をやらないという選択肢はありません。実際3周はしました。が、内容に関しては先述の4冊の問題集に劣ります(主観)ので、1番最初に取り組む本としてはオススメできません。

『実力心電図』

これまた高価な割に使い方に難渋する本です。あくまで参考書で、疾患ごとに順番で書かれているので、そのまま問題集として使用することはできません。受験生の中にはコピーしてランダムで演習していた方もいるようですが、なかなか手間がかかります。問題集で扱われることが比較的少ない事項(移動性ペースメーカ、促進房室接合部調律、LGL症候群、副収縮、二方向性心室頻拍、QT短縮症候群など)について理解を深めるために折に触れて各項を読む、と言うのが現実的な使い方でしょうか。通読は自分は出来ませんでした。

その他、使用した本

『そうだったのか!絶対読める心電図』

薄くて割と使い勝手の良い参考書です。初学のときは結構お世話になりましたし、上記【使用した教科書】の2冊を当たってもわからなかったことがあった時にこの本を頼りにして参考になったこともありました。絶対必要かと言われたら全くそんなことはありませんが、書店で見て相性がよさそうなら検討してみても良いかもしれません。

『心電図ドリル』

これも初学の時に使いましたが検定対策としてはカンタンすぎます。謎にLGL症候群が載っていて、ここで初めてその名を知りました。

『危ない心電図の見分け方』

端的に言うと途中で取り組むのを辞めました。解説が感覚的で(「心電図から右心負荷を感じ取ってください」など)、相性が悪かったです。

『スキ間時間で極意‼いつでもどこでも心電図判読88問』

コンセプトは最高なんですが解説が少なすぎて途中でやめました。

心電図検定用(超個人的)心電図の読み方

注意

ここからはオマケです

思うに、心電図検定では検定特有の読み方が必要だと思います。たとえば実臨床だと胸痛と言う主訴でまず4 killer painを考えますが、心電図検定というセッティングにおいては気胸や大動脈解離、もちろん食道破裂とかも、まずありえないわけで、検定ではある程度特化した考え方が必要と思います。

以下に心電図検定用に作った自分の読み方を書いていきます。

この読み方は、自分の中での系統的な読み方なので、もちろん本番で解くときに問題全部でこの思考だったわけではなく、大体はショートカットしています。こういうのは各々で作るのが良いと思いますが、あくまで参考までに。

①キャリブレーションを見る。目的は2つです。
・感度の変更の見落としを防ぐ。肢誘導は普通だけど胸部誘導だけ1/4になってたりします。
・低電位、左室高電位の有無をこの時点で把握する。
低電位なら、鑑別は4つ:肥満、心嚢液貯留、アミロイドーシス,急性心筋炎
エコーで心筋肥大が認められるのに低電位、というgapはアミロイドーシスを示唆します
左室高電位なら、当然左室肥大の可能性があるので、ST低下とstrain型(圧負荷のみ)陰性T波の有無を確認。左室肥大が軽度であれば陰性Tにならないこともあるので注意。
鑑別として、高血圧、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症、大動脈弁閉鎖不全症を思い浮かべます。

②心拍数を求める。これはとても大事で、S/OとR/Oの判断材料になります。例を2つ挙げます。
・頻拍→高カリウム血症R/Oです。テント状T波に目を奪われて心拍数を確認しないと引っかかります。
・徐脈→肺塞栓症R/Oです。肺塞栓で最もよく見られる心電図変化は、頻拍です。SⅠQⅢTⅢでも、右側胸部誘導の陰性T波でもありません。主訴が胸痛や呼吸困難では肺塞栓を鑑別に挙げますが、徐脈だったらR/Oです。

③洞調律かどうかをみる。目的は?よくわかりませんが、個人的には、、
Ⅱ,Ⅲ,aVFで陰性P波→異所性心房調律S/O
Ⅱ,Ⅲ,aVFでP波なし→房室接合部調律S/O

④軸と移行帯
・まず、軸。
右軸偏移であれば、その時点で右室肥大S/Oで、V1,V6に目を移します。右室肥大は左室肥大と比べて見落としがちなので、この時点で拾うのが賢明だと思います。右軸偏移では、他に右胸心,COPD,ASDもあることを何となく意識します。

左軸偏位であれば、左脚前枝ブロックS/O(→Ⅱ誘導のQRS波をチェック)
特に他に所見がなく、左軸偏位だけであればなおさら疑われます。
Cf.先天性心疾患で左軸偏位をきたすもの:心内膜床欠損症と三尖弁閉鎖症の2つを暗記
・移行帯
反時計回転:後壁梗塞,WPW症候群
どちらも見落としやすいので、回転異常の判定の時点で頭に思い浮かべます
時計回転:ザックリと、なんとなく右心系のトラブル。
つまり、S/Oは、右心負荷を生じる先天性心疾患,肺塞栓症,COPD

⑤Ⅰ,ⅡのQ波を見ます。このプロセスは『3秒で心電図を読む本』で提案されている心電図の読み方とまったく同じなので割愛します。(引用は著作権的に問題ありそうなので、ごめんなさい)

⑥V1~V6のR波を見ます。このプロセスも上記と同じ理由で割愛しますが、『3秒で心電図を読む本』でやること以外に、加えて2点あります
・PRWPはあるか?
指摘できれば、陳旧性前壁(中隔)梗塞S/Oです。この場合、V1~V4あたりでST上昇していたら何を考えるでしょうか?心室瘤です。意外とこれ、出ます。
・QRSはwide?(Ⅱ誘導をみる)
もしwideであれば、脚ブロックorWPW症候群がS/Oとなり、まず脚ブロックの有無を見るためにV1,V6,Ⅰを見ます。二次的ST-T変化もサボらず指摘して安心を得ます。矛盾していて、胸部症状があったらACS S/Oです。ST上昇があったら必ずST低下も探す。
WPW症候群は反時計回転のところでも拾いましたが、見落としやすいのでここでも拾おうとします。Δ波は見えにくいことも多いので、全誘導でちゃんと探します。PR間隔の短縮も探します。

⑦QT延長の有無を見ます(Ⅱ,V5で。ビミョーだったらV1でトライ)
基本的に連続する2つの心拍のQ波の始まり同士の中間点に1泊目のT波がかかっていればQT延長とみなしますが、微妙であれば目盛りを数えて、QTが11目盛り以上(つまり、0.44秒以上)であればQT延長S/Oです。厳密には間違ってますが、このやり方で特に問題ありませんでした。
QT延長の原因は暗記で、スラスラ言えなきゃいけません
・薬剤(抗ヒスタミン薬や抗菌薬)
・徐脈(完全房室ブロックなど)
・電解質異常(低カリウム血症,低カルシウム血症)
※電解質異常に関してS/Oの材料となる所見
低カリウム血症:U波増高、ST低下、陰性T波
低カルシウム血症:ST延長(なんとなく、雰囲気で)
(さらに補足:基本的に私は心電図変化について、その電気生理学的な機序とか考えていません。虚血でST上昇する理由とか、全くわかりません。ただ、この低カルシウム血症だけは例外なので書いておきます。心電図のST部分に相当する心筋の活動電位第2相ではCaが細胞内に流入します。血中Caが低ければ、ここに時間がかかるので、STが延長することは想像できます。この機序が合ってるかどうかは知らないし、正直どうでもいいのですが、ST延長という所見を覚えるための都合の良いツールだと思っています)
⑧T波を見ます。といってもここまでで何も鑑別が浮かんでないことは無いと思うので、基本的に巨大陰性T波(GNT)の有無を判定します。もしあったら鑑別は3つ。
・たこつぼ心筋症(aVRを2度見する)
・心尖部肥大型心筋症:GNTがV4で最大+左室高電位であればS/O
・心筋梗塞

キャリブレーションに注意しないとGNTを見逃すリスクが増えますので、注意です。

T波については、T波にP波が隠れていないか?という考え方も不整脈では重要です。

⑨P波を見ます(Ⅱ,Ⅲ,aVF,V1,V2)。心房拡大の判定が目的です。
ポイントとしては、右房拡大ではP波の幅の延長は無く、左房拡大ではあることです。
左房拡大:僧房弁狭窄症S/O
右房拡大:肺高血圧症S/O

※不整脈においては、P波はⅡ,Ⅲ,V1が分かりやすい。


以上です。冒頭にも書きましたが、何か追記して欲しいことがあればコメントよろしくお願いします。

受験から1か月たちましたが、今自分が受験したら受かるかどうか、全く自信がありません。個人的に心電図は毎日継続していないとあっという間に読めなくなります。ので、来年も時間があれば受けようかなと考えていて、そのためにもnoteを記録として書きました。

このnoteが誰かの何かお役に立てたら幸いです。


#心電図検定

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