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わかり合えない人の話を、あえて「聞く」ということ。 #表現のこれから

私は、ハフポスト日本版というインターネットメディアで編集長をしている。

ハフポストには「広告チーム」、ネット動画やSNS連動型のイベントなど新しいメディア開発を担う「真ん中チーム」、そしてそれらとは別に「編集部」がある。編集部のエディター(記者/編集者)は十数人いる。

エディターのキャリアも様々だ。新聞社、ウェブメディア、雑誌、広告代理店、プラットフォーム企業、物流会社、テレビ局…。様々な業界から、多様な人材を採用するよう努めてきた。

記者の問題意識も幅広い。毎日、いろいろな人に取材をさせてもらう。話を聞いた相手の大切な言葉を社会に届けるお手伝いをすることで、読者にとって、ちょっとでも生きやすい世の中になって欲しい。

ただ、インタビューをした相手の中には、ジェンダーに対する課題や政治的な立場などにおいて、編集部とは違う意見を持っている人もいる。

さらに言うと、編集部の中でも、個人個人で考えはまったく違う。別の記者が書いたインタビューの考えに賛同できず、社内で議論になることも起こる。かなりフラットな組織で、編集長である私も、ミーティングで遠慮なく批判される。

では、ハフポストは、自分たちと考えが異なる相手とインタビューで向き合うときにどんなことを考えているのか。そもそも、そうした方を取材する必要はあるのか。そして、なぜメディアとして、そうした記事を載せるのか。

ハフポストが実際に掲載したいくつかの記事のことを振り返ることで、このテーマについて考えてみたいと思います。

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「許されない」と思った人をインタビューした

ハフポストは10月27日、音楽グループ「レペゼン地球」のリーダー、DJ社長という男性のインタビューを載せた。DJ社長が2019年7月、セクハラを炎上商法に利用して批判されたことに対してその「真意」を聞く内容だった。

最初に私の個人的な意見を言わせてもらえるなら、私は、DJ社長の行為は許されない、と非常に強く思っている。

彼は何をしたのか——。DJ社長は、自身の音楽事務所に所属するジャスミンさんに「DJ社長のパワハラが酷く、何度もホテルに誘われてます」とツイートをさせた。ジャスミンさんの衝撃の“セクハラ被害”告白はネット上で反響を呼んだ。

だが、この告白は「すべてウソ」であり、「ネタ」だった。自分たちの音楽活動のプロモーションに悪用した炎上商法、だったことが明らかになった。

これまで声を上げられなかった女性らがネットで性被害を訴える「#MeToo」のムーブメントが世界的に始まったのが2017年。にもかかわらず、今回のような「ウソのセクハラ告白」があると、今後は本当に被害を訴えたい人が、真偽を疑われる可能性がでてしまう。

どうして、こんなことをしたのか。

そこで、DJ社長に対して、セクハラ問題に詳しいジャーナリストで、相模女子大客員教授の白河桃子さんが話を聞いた。白河さんは著書「ハラスメントの境界線」で、「セクハラは偉い人が気をつけるべきで自分とは関係ない…」と勘違いしている読者に向けて丁寧に説いている方だ。

白河さんは、著書のように、日本や世界における性暴力やセカンドレイプの深刻さを、DJ社長に丁寧に伝えようとしたのだ。

「MeToo」を知らない?

インタビューの中で、特に大きな反響を呼んだDJ社長の言葉がある。私が、この記事を載せるべきだ、と迷いながらも掲載を決意した理由の一つだ。

それは、MeToo運動について、「ミーツー?それ、なんですか?」「知らないです」とDJ社長が答えている部分だ。

YouTubeに200万人の登録者がいて、ネットに詳しいDJ社長。

本当なのか?と私は最初思った。実際、読者からも「ネットで話題となった、MeTooを知らないはずがない」「無知であるからといって、セクハラ炎上商法が許されるわけではない」「ハフポストはだまされた」「(ハラスメント加害者の)声を届けるべきではない」という強い批判が寄せられた。

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ニュースをあまり見ない人

だが、インタビューをした白河さんや、対談の場を設定した坂之上洋子さんに聞くと話は少し違った。2人によれば、DJ社長はネットに詳しいものの、ニュースをあまり見ないそうだ。

たとえば10月12月に日本全国で甚大な被害をもたらした台風19号の上陸のニュースに関する「交通規制」や「外出注意」など大きく報道された情報についても、本当に「知らなかった」様子であったという。

白河さんは「DJ社長が、MeTooを知らなくても不思議ではない」という。また、「仮に言葉を知っていたとしても、それを茶化し、プロモーションに使ったという時点で、本当の意味で理解しているとはいえない」としている。

テレビ世代とYouTube世代の断絶

もちろんDJ社長が「知らないフリ」をした可能性もあるだろう。

ただ、私は普段の取材を通して「MeTooを知らない人は多い」という感覚がある。ちなみに、AbemaTVが渋谷で街頭取材をしたところ、MeTooを知っているのは30人のうち6人だけだった。

法務省によると、国内の2018年のセクハラの事件数は、前年比35%増の410件。社会の関心も高まっているし、少しずつとはいえ、声を上げる人も増えている。

ただ、本当の意味でMeTooが広まり、セクハラがない社会にするためには、こうした動きがなぜ起きているのか、なぜみんなにとって大切な話であることなのか、「知らない人」のことも見つめないといけないと私は考えている。

インタビューというスタイルの記事は簡単そうに見えるが、実は難易度が高い。なぜなら、メディアがその人の声をそのまま載せているスタイルのように読者には感じられ、話し手の声を「代弁している」と受け止められることもあるからだ。

もちろん話してくれた方の言葉を正確に届けるのがメディアとしての大原則だ。ただ、ハフポストでインタビューをするときは、それに加えて、読者に届けたいと思った「ビジョン」を明確に定義する。

そういう意味では、今回のDJ社長のインタビューの狙いの一つは、「知っている人」と「知らない人」を可視化することにあった。

別の風景を見ている

たとえば今回の記事では掲載直前の10月24日、DJ社長が炎上を謝罪し自分のYouTubeチャンネルで公開した動画は、YouTubeでランキングが急上昇し、150万回以上再生(当時)されたが、Twitterでは大きな話題にならなかった印象だ。

3日後、ハフポストの記事が出たあと、Twitterで話題が広がり、その後AbemaTVが特集を組み、他のネットメディアからDJ社長に関する記事が出た。それをまた誰かがリツイートし、その意見によって記事の評価を始めとした「ネットの世論」も刻一刻と変わっていった。

YouTube、Twitter、ネットメディア、ネットテレビ…。それぞれの読者(視聴者)が別の風景を見ている。流通によって、違う文脈でコンテンツを見ている——。いずれも、今の社会を象徴する「断絶」を感じるには十分だった。

台風などのニュースを見ない人もいれば、MeTooを知らない人もいれば、逆にDJ社長が活躍するYouTubeの流行をまったく知らない人もいる。

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何がどこまで「知られているか」

今回のインタビューや反応そのものがこうした姿を描き出している。今後、性暴力に限らず、社会の問題を報じる上で、何がどこまで「知られているか」をも、メディアとして発信し、読者と一緒に考えたいと私は思っている。メディアは「伝達機能」だけでなく、「可視化機能」もあると考えるからだ。問題の全体像が分かるからこそ、解決策が生まれることもある。

また、編集部とは異なる意見を持つ人の記事を載せると、記事の広まり方が変わるということも今回改めて分かった。DJ社長のインタビューは、聞き手の白河さんが、MeTooのことをゼロから説明した。「MeTooのことが初めてよく理解できた」という声も寄せられた。

普段ハフポストを読むユーザーは、ジェンダーに関する問題に詳しい。今回は、そうした読者の方以外にも記事を届けたいと思ったのも、掲載したもう一つの理由だし、MeTooの理解が深まったという声は本当にうれしかった。

そもそも反対する相手と「対話」をする必要ある?

読者の中には、まるっきり分かり合えそうもない相手にマイクを渡す必要はあるのか?という疑問もあるだろう。

端的にいうと、私個人としては、そう思わない。

日常生活において「噛み合わない相手」と無理に話す必要はないし、ヘイトスピーチやハラスメントを繰り返す人と「対話をする義務」は誰にもない。むしろ怒る権利がある。無知は「免罪符」にならないし、仮に法律に抵触する場合は捜査機関などに通報するべきだと私は思う。

「批判型」と「記録型」。メディアの2つのアプローチ

ただ、私はメディアの編集長としては「時には必要だ」と思っている。

その理由の説明として、意見が違う人にインタビューをするとき、どのような取材手法で相手に接しているのか、お伝えしたい。主に2種類ある。

①「批判型」 と ②「記録型」の2つだ。

まず①「批判型」については、厳しい質問を投げかけ、時には相手を論破することもあるインタビュー手法だ。テレビドラマや映画でみる「ジャーナリスト」のイメージかもしれない。

もう一方の②「記録型」は、反対する立場の人の声をまずは聞き、こちらの立場を説明しながら、対立点を明確にする。

規範的な批判よりも、発言の構造を描きだし、自分と異なる意見を持つ相手の「内面」を可視化したり、後世の検証のために記録として残したりすることにもゴールを置く。そもそも、どこが「違うのか」というのをまずは知ろう、という意図だ。

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「記録型」インタビューのむずかしさ

ただ、この②「記録型」のインタビューの難しいところは、記事として載せたメディアがインタビュー相手の発言に「同意」していると思われることだ。

例えばハフポストは、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」に反対していた名古屋市の河村たかし市長のインタビューものせた。ここでも個人としての意見を言うと、私と、河村市長のスタンスはまったく違う。ただ、反対派の人が、どこに問題意識を持っているのかを聞くことも必要だと思っていた。

もちろん「結果的」に河村市長の言葉を広めることにもなったし、ハフポストが市長を「応援」していると思われた可能性もあった。

そのため、考えが違うところは「注釈」の形で追記し、読者といっしょに考えるための記事にしたが、それでも「垂れ流しではないか」という意見もある。

取材相手の「プロモーション」に利用されないか

②記録型のインタビューは、相手の言い分を「伝える」ことで、プロモーションに利用されるというリスクがある。編集部内でも、そういう点でいつも論争になる。

そのとき議論となるのは、相手の「言質」を取るために、インタビューをする、という面もあるということだ。

言質とは、「後で証拠になる約束のことば」。

先ほど検討したDJ社長のインタビューをもとに考えてみよう。2019年11月現在、「DJ社長」と検索をすると、上位にハフポストの記事が出てくる。そこではDJ社長自身の「(性暴力の被害者らを)辛い気持ちにさせてしまったんですよね。僕のふざけた企画で」という言葉が載っている。

DJ社長本人は、今後、どのような活動をしてもこのインタビューで自ら発した言葉を背負っていくことになるだろう。もし性犯罪を揶揄する活動をしたとしたら、今以上の批判がくるはずだ。

読み終えた新聞紙や、放送後のテレビと違って、ネット上には記事がずっと残っていく。賛成の意見も、反対の意見も、それがどう交差したかも含めて、みんなで積み上げていくのが、ネットの「ストック性」だと思う。彼の好感度をあげるプロモーションというより、これからの行動に対する「言質」につながったことを願う。

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加害者と同じテーブルにつくべきか

先ほど伝えたように、日常生活では、「噛み合わない相手」と無理に話す必要はない、と私は思う。加害者側の「言い分」を聞くことは、さらなる被害につながる可能性もある。連帯する人たちが、SNSや署名キャンペーンなどで怒りを表明することは大切だ。

ただ、私は発信することを職業としているメディアとして、別のアプローチを取ることも時にはある。今回お伝えしたような様々な手法を使って、試行錯誤を重ね、社会の課題の解像度を高め、微力ながらその解決に貢献していきたい。

誠意をもってDJ社長の取材に取り組んだ白河桃子さんや、「断絶」を理解するために対談の場を設定した坂之上洋子さんに感謝したい。DJ社長も取材に応じてくれた。ハフポストに記事を載せる判断をした責任は、すべて私にある。

今回のインタビューに対して今もさまざまな声が寄せられている。私は家族からも編集部員からも「ああいう記事は読みたくなかった」「それでも、DJ社長の言い分を広げたのではないか」という意見を聞いた。

性暴力に対して厳しく向き合ってきたメディアとして真摯に受け止めていきたい。

この記事をきっかけに、いろんな人との会話が生まれている。都市部だけでなく地方の人からも声が届く。批判的な声も、みなさんの本音と向き合うことで、編集部でも次の企画や会話が生まれている。

ネットは「共感」を生みやすい場所だ。そのためネットメディアも、それに引きづられ、自分たちが賛同できる人を多く記事として取り上げがちだ。

自分たちの発信する内容をよく「知っている」人に向けて記事を書くだけでいいのか。それによって社会が大きく変わることもあるが、そうでないときもある。

私たちはこれからも、自分たちが考えていること、手法も含めて読者に明らかにしながら、SNS時代にとっての「#表現のこれから」を追いかけていきたい。

(表現のこれから、という企画をハフポストでは始めています。SNS時代の表現のむずかしさ、暴力性、そして何よりその楽しさと可能性。メディアとして反省と検証を繰り返しながら、日々発信しています。この企画をなぜ考えたのか、詳しくは下記の文章にも書きました。良ければ読んでみてください)。

*この記事は、ハフポスト日本版に11月29日に掲載したものをnoteでも読んでいただきたく、編集や加筆をした上で掲載しています。元記事はこちら

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ハフポスト日本版編集長。「会話が生まれる」メディアを目指しています。慶應義塾大学法学部卒。2002年朝日新聞社入社、2016年退社。朝日新聞の経済部記者、新規事業開発を担う「メディアラボ」を経て、2014年〜2015年スタンフォード大学客員研究員。 2016年5月から現職。
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