雨の匂いとコンクリート
夏に夕立が多いのはぼくの地元の特徴的な気候だってことを上京して初めて知った。
でも、今日は東京も雨。
雨にうたれて立ちのぼるコンクリートの匂いでふと昔の恋を思い出した。
いや、あれは初恋だった気がする。
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中学生のときは周りに合わせて女の子と付き合っていた。
高校は男子校。別に自分がゲイだから男子校に入ったわけじゃない。
気づいたらぼくは同じクラスの子に恋をしていた。今までとは違う感情だった。いつなんどきもその子のことしか考えられなくなった。
彼は野球部だった。
たぶん始まりは、席が近かったこと。
彼の無口だけど、頭が良くて、口を開けば鶴の一声、的なところが好きだった。
ぼくは文芸部だった。ほかの部活はまとめて部室棟に部室があるのに、なぜか文芸部の部室だけ高校の敷地の隅に追いやられ、野球部のやつらがたむろしているところとちょうど正反対の場所にあった。
その日、ぼくは野球部の部活が終わるまで部室で待った。
もちろん同じ部活の人たちには「家じゃ勉強できないからここでしてく。」なんて嘘をつく。
彼には
「部活終わったらメールして。」
とメールをしておく。
彼はどんな嘘をついて1人で残るんだろう。たぶん同じ嘘かな。なんて1人で勝手に妄想しながら進むわけもない数学の教科書を開いて待つ。
ぼくらは平等にお互いの中間地点で落ち合う。コンクリートで舗装された地面が濡れていて夕立が降ったことに気づく。校舎と校庭を片目にぼくらも唇を濡らした。
雨の後のコンクリートの匂いがした。
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