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NFTが「コンテクスト・エコノミー」を生むかもしれない話

こんにちは、LINEでNFT事業をやっているRyo(@RyahooBB ) です。ここ5年ほどブロックチェーンやWeb3.0のことだけを考え続け、LINEではNFTウォレットやNFTマーケットの立ち上げ、業界団体でのNFTガイドラインづくりもやってきました。LINE Blockchainではすでに100万ウォレットを突破して、日本でNFTが広がっていくのを感じています。

最近、NFTは単なる投機、お金儲けの対象ではなく、「コンテクスト・エコノミー」が本質的な価値じゃないかという仮説を考えていました。コンテクストとは「文脈」です。文脈を集めたものがストーリーになります。

これは私の造語ですが、コンテクスト・エコノミーとは「コンテクスト・文脈やストーリーがお金を稼ぐメインとなる」というイメージです。なので、「ストーリー・エコノミー」とも言えるかもしれません。

Context Economy

NFTは投機がほとんどで、バブルじゃないかとよく言われます。でも、なぜ人はNFTを欲しがるんだろう?と本質的な欲求を考えると、投機だけでは説明できない何かがあると感じていました。その何かがコンテクストエコノミーという概念で、全部とは言わずともある程度は説明できるのではないかなと。お金儲けだけの目線でNFTを見てしまうのはあまりにもったいないなと。

ちょうど最近、ブログ、SNS等でNFTに関する白熱した議論がかわされて盛り上がっていたのですが、実際にNFTの現場から見えている景色をお話していきたいと思います。一連の議論のリンクを記事最後の柱脚(*1)にて紹介していますので、ご興味ある方はどうぞ。

なお、勘の良いみなさまはお気づきかもですが、​​アルのけんすうさんによる「「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です」のnoteから連想したアイデアになります。ここから、NFTがプロセス・エコノミーを加速させるんじゃないか説を考えていて、それをお話していきます。


NFTってなんだっけ?

NFTは、動画や画像などのコンテンツにトークンIDという識別子をつけて、誰が持っているかとか、取引の履歴などをブロックチェーンに記録したものです。

もちろん、コンテンツに紐付かないNFTもありますが、ここではコンテンツに紐付いたNFTを前提に考えます。

そのコンテンツがいつ、どこで生まれたか、誰からもらったかというコンテクストに関するデジタル記録がNFTの本質です。つまり、NFTは動画等のコンテンツそのものではなく、コンテンツに対するコンテクストをブロックチェーンに記録しているのです。

人はこのNFTによって、コンテンツに紐づくコンテクストやストーリーを簡単にやりとりできるようになる方法を手にしました。それによって、人はストーリーによる自己表現を拡張でき、自分が外の世界に所属している感覚を得られるようになります。

簡単に交換できるのがNFTの長所なので、もちろん投機的に売買してお金儲けのために使うこともできます。しかし、お金目的だけじゃなく、NFTのコンテクストを交換することによって自己表現を広げたり、コミュニティへの帰属意識を深めたりすることも可能なはずです。そして、実際にそれは起こり始めています。

コンテクストエコノミーとは

NFTによって、ファンとアーティストがつながった瞬間のそのコンテクストを記録し、永続的に残すことが可能になります。そのコンテクストがお金を稼ぐメインになるようなイメージが「コンテクストエコノミー」です。

NFTがコンテクストエコノミーを起こすとすれば、それはプロセスエコノミーの選択肢を広げて、加速させる役割を果たすことになりそうです。

ファンが推しの活動や成長のプロセスを応援する過程で、いままでは動画などを通じてサブスクリプションや投げ銭でお金を投じていました。そこに、NFTという新たなフォーマットが登場します。NFTをうまく使うことでより強く、長くファンと推しがつながるインタラクションが生まれるかもしれません。

このようなNFTの使い方によって、プロセスエコノミーにおけるコンテクストをもっと重視した取引が広がる可能性があるのではないでしょうか。プロセスにおけるコンテクストを売り買いする媒体、メディアとしてNFTが機能する。そんなイメージです。

これまで、プロセスエコノミーやコンテクストについて詳細な説明なくお話を進めてきました。これから先は、そもそもプロセスエコノミーってなんだろうとか、コンテクストがなんで重要なのかなど、もうちょっと詳しく説明していきます。

プロセスエコノミーとは

最初にプロセスエコノミーの概念を紹介されたけんすうさんのnoteから引用すると、

最近、「プロセス・エコノミー」という概念があるんじゃないか・・・と思っていたりします。
コンテンツを作るプロセスや、プロセスにおける物語が、相対的に重要になっているんじゃないか。
プロセスに価値があるなら、プロセス自体でもう課金しちゃうほうがいいんじゃないか?

「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です

というのがコアな考え方です。

このプロセスエコノミーが起きているという前提で、NFTがそれをさらに強くしたり、可能性を広げるような選択肢の一つになるんじゃないかな、と。

アウトプットエコノミー

これもまたけんすうさんのnoteから引用すると、

アウトプット・エコノミーは、「プロセスでは課金せずに、アウトプットで課金する」というものです。たとえば
つまり、アウトプットとして音楽や映画などのコンテンツでお金を稼ぐことです。これは普通の人がイメージする王道的なビジネスです。
アウトプットの品質がどんどん上がってて、クオリティで差別化することが難しくなっている傾向をけんすうさんは指摘されています。

「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です

ユーザーはどれも良いものだって知っている現象が起きつつあるよねという感じです。

ブロックチェーンは空中に約束を固定する(*2)

突然ですが、こちらの写真をご覧ください。

「愛の南京錠」といって、恋人同士で永遠の愛を誓って、フェンスや橋の柵に南京錠をかけるものです。

これってすごくブロックチェーン的だなって思っています。

愛の南京錠は、フェンスに恋人の約束や思い出の記憶を固定します。恋人たちはそこに行けばいつでもその約束に触れて、南京錠をかけた瞬間の愛の気持ちや感情を呼び起こすことができます。

これってブロックチェーンというフェンスに、NFTという南京錠の約束をかけることに非常に似ていませんか?NFTの発行・取引が記録されたブロックがチェーン状につながっていく感じ、、あたかも、空中に約束が固定されているかのように。

NFTは、いつ、誰から、どうやって手に入れたのか、約束や思い出をブロックチェーンに記録しているのです。

コンテクストがなぜ重要か

人はストーリーを語る生き物です。もっと言えば、ストーリーでものを考える生き物です。

木津(@ayumukizu)さんによる素晴らしいブログ「コンテンツとコンテクストとストーリー」があったので引用させていただきます。

「コンテクスト」と「ストーリー」は、よく似ています。

なんなら「ストーリー」とは、「コンテクスト」をコンテンツ化したものだと思う。
「コンテクスト」を体系的に語るのが「ストーリー」。

コンテンツとコンテクストとストーリー

ふつうの人が記憶して維持できる人間関係は約150人と言われます。1,000人とか100万人との関係性を脳に記憶することはできません。そこで人は文字や絵とそれを記録する道具を発明し、記憶を外部装置に記録して、150人以上のもっと大きな集団で社会を築きました。「記憶の外部化」が人間社会の基礎となっています。

なんの記憶を記録したのか?それはいろんな情報であり、情報のコンテクストの体系、すなわちストーリーでした。

最も強烈に人々を突き動かすのは共感できるストーリーです。大昔、人間の祖先が火を囲んで語りあった80%がストーリーテリングだったと社会人類学者は考えているそうです(*3)。それが根強くわたしたちにも受け継がれています。

聖書や法華経など仏教経典をはじめ、童話やTEDのプレゼンまで、古今東西ストーリーを記録したコンテンツが人々に支持され続けてきました。

そして、ストーリーとはコンテクストの体系です。コンテクストをコンテンツ化したものです。ここでまた引用します。

コンテクストを考えるということは、ストーリーを受け手に自発的に読み取らせる仕組みを考える、ということと同意です。

コンテンツとコンテクストとストーリー

はいそうなんです、NFTはコンテクストを受け手に自発的に読み取らせるための媒体(メディア)になるのです。NFTとして記録されたいつ、どこで、どうやって、誰から手に入れたかといったデータが、コンテクストとして残り続けて、NFT保有者はいつでもそのコンテクストを自分の中で感じることができるのです。

NFTはわたしたちに、コンテクスト豊かなコミュニケーション方法を広げてくれているのです。

NFTをストーリーを語る道具に使ってほしい件

NFTでストーリーを語る。コンテクストの体系を残す。それで自己表現してほしい。自分以外の世界とのつながりを深めたり広げてほしい。

そのストーリーを意識的にNFTとして残してほしい。

例えば仕事で。

「今日はみんなで話してめっちゃいい議論ができた。これはきっと良いサービスになる。なんかこの気持を残しておきたいよね」

といった瞬間にNFTを発行して記録してほしい。

そのNFTが1年後に届いたりしたら、サービス誕生の思い出と気持ちを呼び起こすことができたら。

例えばアーティストが。

「今日は私にとって大切な日です。私の子供時代からの夢は、この舞台に立つことでした。今日夢がかなった瞬間を、このライブに集まってくれたみんなとの大事な思い出にしたい。それをずっと残せたら素敵だよね。」

その瞬間をNFTを発行し、ファンとの思い出として共有して、ずっと残すことができたら。

そのような未来にちょっとワクワクしているのです。

そんなわけで

コンテクストエコノミーということがNFTで起こせるんじゃないか、という話をしてみました。

NFTは投機ばかりでバブルで本質的価値はないんじゃないか、という意見も多いですが、ちょっとそれには違和感を覚えてもいました。今回はその気持ちを言語化してみました。NFTという新たなメディア、媒体の可能性をお金儲けだけに限定してしまうのはあまりにもったいないと思うのです。

「NFTに価値があるのか?」ではなく、「NFTに価値をもたらすのはいかなるコンテクストがあるときか?」を問われていると思うのです。どんな文脈・ストーリーに価値があるのかを探るのが私たちの使命です。

「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というアラン・ケイの箴言がまさにぴったりの状況だと感じてます。

LINE NFTでは、NFTで嬉しい、楽しいことが広がる未来を発明していきたいし、一緒に取り組める仲間をいつでも募集しています。

いつでもご連絡くださいね(@RyahooBB )

(本記事は「NFTの本質は「コンテクスト・エコノミー」じゃないか説」の記事をnote用に編集して転載したものです。)


(*1)NFT関連議論まとめ

(*2)「 信用の新世紀 ブロックチェーン後の未来」斉藤 賢爾

(*3)「ビジネスと人を動かす驚異のストーリープレゼン」カーマイン・ガロ

(*4)ツイッター創業のドーシー氏が語るビジョン 「全人類への普及目指す」

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