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地球ゴージャス 『The PROM』 2021.03.20(土)ソワレ

地球ゴージャスが初の輸入ミュージカルを上演している。その作品は『The PROM』だ。2016年に初演され、2018年にはブロードウェイでも上演された秀作だ。

2020年にはNetflixが映画化し、映画館での上映に続いて配信でも見られるようになったため、比較的手の届きやすいミュージカルとなっている。

主観であるが、この映画はかなり出来が良い。何度でも見たくなる。いちばんには曲が素晴らしいし、そして出演者たちの歌唱力もなかなかに高い。そしてダンスシーンも見応えがあり、ミュージカルとして完成度の高いものになっている。
一方で、一部で指摘されるようにストーリー的な弱さというか、心の機微がわかりにくい部分がないではないが、それも含めてザ・ミュージカルだと思う。未見の方はぜひ一度ご覧いただきたい。

この作品を日本人キャストが演じるとなると、あれこれ妄想したくなるところであるが、地球ゴージャスの主催となると、どこまで実力のあるミュージカル俳優をキャスティングできるのか、未知数であった。

そんななか、なんと、トリプルキャストとはいえ、実質上の主役であるD.D.アレンに保坂知寿さんがキャスティングされた。これはもう、奇跡と言ってもよいほどのビッグヒットだ。メリル・ストリープとはドナ繋がりでもあり、日本一のミュージカル女優として存在感を見せつけてくれることが確信できた。

二度のトニー賞を受賞したことのあるD.D.アレン。作中では「わたしはスターなのよ」というセリフもある。作品主義を徹底し、スター主義を排してきた劇団出身の保坂さんがこんなセリフを言うことになるとは。だから人生は面白い。
もっとも、浅利先生もアルプのインタビューで「ドナ役の保坂くんはもちろんスターですよ。輝いてるじゃないですか」ともおっしゃっていた。劇団四季が排除したのはスター主義であって、スターそのものではないということがわかるエピソードだ。

アレンたちは、保守的な街インディアナで同性愛者であることをカミングアウトしたエマに会いに行く。エマのためにプロムが中止されようとしていたからだ。
その同性愛者エマ役には、葵わかなさんがキャスティングされた。映画版のキャストに雰囲気が通ずるものがあり、歌唱力や滑舌も悪くなく、好演していたと思う。
……と、思うのだが。どうしてもピンと来ない。葵さんが同性愛者に見えないせいだろうか、と考えたが、そうではない。葵さんが「恋をしている」ように見えないのだ。ここが映画とのいちばんの差だったと思う。
同性愛者か異性愛者かは関係なく、恋に落ちているように見えない。その点だけがしっくりこなかったが、それでも非常にキュートで、技術的には観ていてストレスのない役者さんであった。

エマは、アレンたちに応援されながら、それでも自分のやり方で、プロムを開催し、参加する方法を模索する。詳細は映画や舞台に譲るが、マイノリティが受ける抑圧がよく描かれており、その壁を打破していく様は、爽快だ。

正直、制作発表動画や初日付近の劇評を見るに、大変にひどい出来であることを予想していたが、どうしてどうして。もちろん各論で役者の出来をあげつらえばひどいところも多々あったが、それでも感動を届けることのできる舞台に仕上がっていたと思う。
私の大好きな『RENT』などと通ずるテーマがあると感じるが、RENTの持つ悲惨な空気感はなく(もちろんマイノリティの苦しみは残る)、観た人に元気を与えてくれるミュージカルに仕上がっていると思う。

翻訳がちょっと微妙と感じるところも多々あったが(それ以前に聞き取れないシーンも多い)、映画版で脳内補完することでかなり楽しめる出来になっていたと思う。
正直、保坂さん以外のアレンではどのような舞台になるのか想像もつかないので容易にはお勧めしづらいのであるが、それでもオススメの作品だ。

余談であるが、上演中に、かなり長い地震があった。同じ時刻に上演していた『アリージャンス』や『オペラ座の怪人』は上演が一時中断されたらしいほどだ。客席もざわついたが、板の上では粛々と演技が続けられていた。役者魂に拍手を送りたいが、俳優の皆さんも安全第一で過ごしてほしいと切に願う。今回は大事に至らず、本当によかった。

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