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浅利先生追悼公演 『ユタと不思議な仲間たち』 2019.05.02(木)マチネ

ゴールデンウィークいっぱいで終わってしまうこの公演、当初は3回観る予定であったが、1回目予定(公演初日)はインフルエンザ、2回目(1週間前)は病後の体調不良でいずれも観劇できず、ようやくこの日にマイ初日(そしておそらくはマイ楽)を迎えることができた。

浅利慶太さんは、私がいちばん尊敬する人だと言っても過言ではない。劇団四季を成功に導いたことは結果としてそのとおりだが、その背景にある彼の考え方、立論の仕方が大好きだった。叶わぬことであったが、人生でもっとも師事したかったお方でもある。
その先生が昨年7月13日にお亡くなりになり、今年、追悼公演シリーズが上演されることになった。何を置いても駆けつけたい公演群だ。『ユタと不思議な仲間たち』はその1作目に当たる。

ストーリーについては詳細割愛するが、主軸は、東京から東北に引っ越してきた勇太(ユタ)が、もやしっ子と呼ばれいじめられる中、座敷童子と友達になり、成長していく物語だ。
今回ユタ役を演じた山科くんという人は初めて観たと思うが、とてもユタに合っており、二幕後半でのダンスも素晴らしく、言うことなしであった。2年前にやはり浅利先生の事務所主催で上演した『夢から醒めた夢』の完成度がイマイチだったこととは対象的に、この『ユタ』再演のクオリティはかなり高かったように思う。うれしい驚きであった。

座敷わらしの親分ペドロは、下村さんだ。下村さんがこの作品にキャスティングされたとき、ヒノデロでの再登場を期待したファンも多かったとは思うが、夢醒めで光枝さんのデビルを引き継いだように、ユタでもペドロを引き継いだ。そしてその大役をじゅうぶんにこなしたと思う。

私事であるが、自分に子どもが生まれてから初めてのユタ観劇であった。これまでは、知識として知っており、それなりに辛い思いを持って観ていたはずの「間引き」に関する説明が、もう胸に迫ってきて仕方なかった。しかもその説明が結構小出しにされるのだ。生まれてきた赤子をどのようにして神様にお返しするのか、口を塞ぐことで息を止めるシーンなどもあり、観ているのが本当に辛かった。これは過去とは明らかに違う感じ方だったと思う。
本来は、ユタの成長の物語に感動する作りになっているのだと思っていたが、それ以前の背景となる(過去とはいえ)むごたらしい現実に、胸をかきむしられる思いであった。

そういえば、初めてユタを観たとき「主役はペドロなんだな〜」と思ったことを思い出した。光枝さんの存在感があまりにも大きかったのだと思う。それ以降は、芝さん、田代さん、菊池さんのペドロを観て、特にペドロが主役と感じることもなくユタを主役を捉えていた気がするが、それが芝居としてはバランス取れた形なのだとも思う。特に今回のようにユタ(の役者)が光っていると、きちんと「ユタの物語」が伝わると思う。
もちろん芝居は、見る人の目や心によって変わってくるものだし、それでよいのだ。どちらの見方が正しいなどということは、ない。

体力作りを終え、村に戻ってきたユタとクラスメートたちのダンスは圧巻だ。セリフ無しのダンスでここまで雄弁に成長を語ることはなかなかに困難なはずなのに、それが痛いほど伝わってくる。
この短いシーンだけでも、今回のカンパニーが如何に大切にこの作品を演じているかがよくわかるし、稽古の質の高さが想像できた。2019年版の演出は野村玲子さん。浅利先生の遺志をしっかりと継いでいらっしゃることがわかって安心した。

小夜子役の若奈まりえさんは、小夜ちゃんの雰囲気にとてもよく合っていたと思う。歌唱力だけならばアンサンブルの林さんに軍配が上がると思うのだが、若奈さんは浅利先生のお気に入りであったし、技術だけではなく生き様を重視する先生が生きておられたらきっと若奈さんを小夜子にキャスティングしただろうと思うので、追悼公演としては正解だったと思う。玲子さんのナイスキャスティングだ。
最後のビッグナンバーは正直荷が重かったと思われるが、アリエル等の大役を経験したことが功を奏した。きちんと舞台を締めくくってくれたと思う。

この作品から受け取ることができるものは、「いじめはよくない」という狭いメッセージなどではない。まさに先生が演劇を通じて生涯訴え続けて来られた「人生は生きるに値する、素晴らしいものだ」というメッセージだ。

カーテンコールは本当にすごかった。最近のカテコでは、観客が楽しむために延々と拍手をするケースなども散見されるが、この日は本当に、最高の芝居を観た観客が、最大級の賛辞を与えるために喝采し、万雷の拍手をしたのだ。劇場にいれば、拍手がどれだけ心からのものかはすぐにわかる。
もちろん私自身も、劇場の民であることを本当に感謝した公演であった。

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