「ざ、ざ、ざ、」

 今日は山の沢に竹を切り出しに行った。
 沢の源流沿いに竹はのんのんと伸び、北風に揺れてこすれて乾いた音を立てていた。
 古竹をよけながら沢の斜面を下りてゆく。
 目ぼしい太さの竹の根本に鋸を入れる。
 ゆっくり空が傾く。
 大抵は周りに立った竹に枝葉が寄りかかって降りてこない。
 切断した根本を抱えて「ましら」のように渓を引く。
 竹は、ざ、ざ、ざ、と音を立て、冬を斜めに落ちて行く。
 ふわりと青いものが地面にさわる。
 それから魚を捌くように枝葉を払ってゆく。
 竹はひと節毎に枝葉を対角線に付けている。
 少しふくらんだ生え際に下からノコを入れ、上から払うと枝葉は簡単に落ちる。
 そうして必要な太さの分だけ枝を払い、細い梢の部分は切り離す。
 ざ、ざ、ざ、
 ざ、ざ、ざ、と青いものが抜かれ、ふわりと地に寝る。
 他に音はない。
 切り倒すごとに空がひらかれる。
 いくらでも澄んでゆく気がする。

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