「井戸沢断層」

 十年前、3.11の震災からちょうど一か月後の4.11夕刻、田人を震源とするM7、最大震度6弱の地震が起きた。仕事を終え、遠野町方面から帰るところだった。鮫川にかかる柿の沢橋を抜けたところの山道で、目の前のアスファルトがみるみる裂けてゆくのが見えた。山からは落石。

 なんとか借家まで帰ると、玄関のサッシ戸が割れ、本棚の本が全部落ちていた。これは3.11ではなかったことだ。その夜からゴンゴンと山鳴りが続いた。
 翌朝仕事に向かおうと南側のルートを行くと、田人中のプールを割り、体育館を傾けさせ、食堂「ながせ」前の県道を分断した地割れが、まっすぐ石住の方へ向かって走っていた。魔物が通った痕のようだった。最大段差2mの井戸沢断層である。

 原発事故から一週間避難して帰り、燃料も手に入りやすくなって、ようやく生活が落ち着き始めたと思った矢先だった。
 京大が調査に入って作った断層剥ぎ取り標本は、田人町ふれあい館に展示されている。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?