「トラツグミの鳴く夜」

 新芽が出始めると、鳥たちの囀りも多くなる。5月頃が一番賑やかだが、今頃でも夜中にふと目覚めるとフクロウの鳴き声が聞こえたりする。
 夜のしじまに渡るフクロウの声は、孤独だが温かい気がする。目のくりくりした愛嬌のある顔姿が浮かぶからか。

 田人に来て初めてトラツグミの声を聞いた。絹を裂くような声で、ヒィー、ヒィーと長く伸ばす。夜の深いころから明け方にかけてが多い。伝説の妖怪「鵺」の声と思われ、「平家物語」に源頼政が「南無八幡大菩薩」と叫んで退治した話などが載っている。我々の世代には横溝正史原作映画の「鵺の鳴く夜は恐ろしい」が親しい。

 夜明け前に鳴き渡るトラツグミの声は、恐ろしいというよりも哀切である。それは決して不安を呼ぶものではなく、逆にそれを包み込み、引き受けているような慈愛がある。起こった事を、自身の善悪で責めるな、運不運で受け流せ、過去を引きずるより、現在を開けとでも云うように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?