「山道」

 今日も一日の仕事を終え、オアシをいただいて山へ帰る。くねくねした山道。ここから向こうに見えるあそこまで、真っすぐ通っていたらいいのにな。
 山裾に沿って道は曲がり、冬の陽当たりのよい場所を選んで、古い家が建っている。
 昔は水道なんてなかったから、家々は後ろに山を背負った場所か、沢筋に限られていた。家の周りには菜園があり、倉や物置があり、小さな池があったりする。その暮らしを結ぶように道は通る。
 今より高所の開拓集落に住んでいたころ、仕事終わりに色んな山道を選んで帰った。未知のルートはいつもわくわくした。どんな細い脇道でも、電線が通っていれば、その先に集落があり、人々の暮らしがあった。思いがけなく開かれた集落に抜けると、思わず感嘆の声が漏れた。
 雑木林の美しい道を通っていた時、子牛ほどの大きさのイノシシに出くわしたことがある。シシはこちらに横向きの姿勢のまま陽を受けて佇み、静かに山へ入っていった。
 

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