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『自殺帳』(春日武彦)のこと

 精神科医の著者が、正直に認識を吐露しながら偽りのない記述を志向した跡が随所に見られる、テーマはラディカルで危険を冒して書いたその態度が真摯な本。

 クンデラの「画家の乱暴な手つき——フランシス・ベーコンについて」の「かぎりやすく壊れやすく、身体のなかで震えている「自我」という、「あの秘宝、あの金塊、深みに隠されたダイヤ」を隠している顔」という表現が思い出された。

 煽ってはいないが人畜無害でもない。醒めた視点を保ちながら、海にダイヴするように自死した者らの内面に肉薄し理解と対話を諦めない。

 読み終えたあと、包み込むみたいに本書を両手で持ちクルクルと回すと、「表面が石鹸みたいにツルツルとした用紙」と「文字の骨格を重視した書体」が組み合わされた装丁にこの両面性が表れていることが了解されるだろう。

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