わたしはVtuberに焦がれて泡と消えるネットの人魚姫を見ていた

わたしが璃子と出会ったとき、彼女はまだ「生身」だった。進路どうしよう、親がうるさくってとぼやき、ちょっとした恋やバイトや旅を経験して、人生を楽しみながらゆっくり大人になっていった。わたしが早いうちからネットの世界とオンラインゲームの仕事にどっぷり浸かってしまったのを見て、「不健康だなぁ。ほんと、不健全」と15も下の彼女は苦笑した。

時は流れ、わたしの年齢から15を引いたって、さすがに璃子も若いとは言えない歳になった。オンラインにて消息を掴み、再会を果たした彼女は疲れ、落ち込み、自己否定をしながら生きる女になっていた。現実世界で何があったかは聞いていない。

久しぶりに言葉を交わした彼女の口、というかチャット欄からは「V単推しで生きていくことの覚悟と辛さ」という、今まで聞いたことのない言葉の羅列が飛び出した。彼女は現実で恋愛をする意欲を失い、愛する男性Vtuber(以下、時々単にVや推しと記述することもある)をただ1人と定め、その男をひたすらに追うバーチャル乙女に変貌していたのだ。

「聞いてほしい」「否定しないで」「ただ聞いてほしい」璃子はそう言った。わたしは聞くことにした。同情や友情からではなく、珍しくておもしろそうだから耳を傾けた。璃子はわたしが共感する力どころか、常識的な感性の大きく欠けた人間であることを知っているはずだ。それでもわたしを聞き手に選んだのは、しょせんネットの出来事に過ぎないから、現実ではないからといって頭ごなしに「否定することは絶対ない」その一点だけに価値を置いたからだろう。

ここではただ聞いた話を記録しておくだけだ。何も解決策なんて考えていないし、このエントリにオチや結論は存在しない。残念ながら、彼女のためになる何かを、わたしはひとつも見つけられなかった。本当に、ただ聞く役だけを全うした。

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