【歌詞批評】愛は必ずしも理解を要さない: Mr.Children『ファスナー』

 Mr.Childrenの「ファスナー」は傑作である。

 それは、「ファスナー」という比喩を通じて、愛は必ずしも理解することだけではないという気づきを与えてくれるからである。


「君の背中にもファスナーが付いていて
僕の手の届かない闇の中で
違う顔を誰かに見せているんだろう」


 他者の全貌を理解することの難しさを示している。「ファスナー」の内側は、人間の内面や秘密を暗示する。相手が隠している部分に触れることのできない孤独感と、その理解不能な部分への違和感が、独特のメタファーを通じて鮮やかに表現されている。他人の背中につけられたこの開けられない「ファスナー」は、他人の心の奥深くにある感情や思考に触れることの難しさを物語っている。


「君の背中にはファスナーが付いていて
僕にそれを剥がし取る術はなくても
記憶の中焼き付けて
そっと胸のファスナーに閉じ込めるんだ」

 恋人との葛藤の結末を描く。愛する相手の全てを理解し、把握することはできないとしても、その人を愛し続けるという選択が示されている。
 それは自分自身の内面に、相手が隠している部分に触れることのできない孤独感や、理解できない違和感を保管するというメタファーでもある。

「惜しみない敬意と愛を込めてファスナーを…」

 この結びは、その選択の結果を力強く表現する。愛と尊敬の感情を持って相手を受け入れるという、ファスナーの象徴する意味を明示している。

 「ファスナー」は他者理解の困難を緻密に描き出している楽曲で、それは愛するということが必ずしも理解することとは限らない、というメッセージを伝える。
 歌詞全体を通して、私たちは自身と他者との間に存在する見えない「ファスナー」、つまり理解しようとする力と理解できないものを受け入れる力のバランスについて考えさせられる。

 この楽曲の歌詞は、他者理解の限界を探求する非常に優れた作品である。

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