農協は「悪の組織」なのか?
謎の組織、農協。
いったい何をしていて、私たちの生活にどう関わっているのでしょうか。
その全貌が見えないだけに、ときにミスターXのかっこうの餌食になってしまいます。
そして、ミスターXによって沼に引き込まれてしまうキウイくん。
「農協は農家を滅ぼそうとしている悪の組織なんだよっ!」
農協は悪の組織なのか。
私たちの生活と農協の関わりとは。
そして、農協がなくなるとどうなってしまうのか。
お野菜系フクロウのルルさんが解説します。
登場人(?)物
・キウイくん
まだ若いキウイ。純粋であるがゆえにどんな話でも信じてしまう。
・ルルさん
野菜づくりの専門家。
・ミスターX
いつも怪しい情報をつぶやいている。
青い鳥さんに下剋上をぶちかまして看板を奪った。
1. 農協ってなんだ?
キウイくん:激おこだよ。激おこっ! 農協ゆるすまじっ!
ルルさん:どうしたの? 藪からスティックに。
キウイくん:農協が酸化グラフェンで毒野菜を作って、人口を削減しようとして、世界はディープステートに操られてしまうんだよっ! そのためのワクチンなんだぁ! ピラミッドは宇宙と交信するアンテナで、ナスカの地上絵は宇宙船の滑走路で、ムー大陸はあって、世界は終わりだぁ~~~!
ルルさん:キウイくん、いろいろ混ざってわけがわからなくなってるよ。とりあえず、落ち着こう。
キウイくん:はあ、はあ、はあ…
ルルさん:ずいぶんといろいろ盛り込まれてるけど、何があったの?
キウイくん:農協が、農協がぁぁ~ 世界は支配される~
ルルさん:なるほど。その界隈はミスターXを通してつながってるからね。
とりあえず、お茶でも飲んで。
キウイくん:農協のお茶か! 農協のお茶は農薬で汚染されてるんだよっ! 農薬が三倍なんだよっ!
ルルさん:ふう。これは手ごわい。
ルルさん:ところで、キウイくんは農協ってなんだかわかる?
キウイくん:悪の組織だよ!
ルルさん:ふむ。悪かどうかはともかく、組織というのは間違いないね。
それじゃあ、農協って何か、というところから始めよう。
キウイくん:うん。
ルルさん:まずは、農協というのは略称で「農業協同組合」というのがちゃんとした名前だよ。
ということは、農業に関わる人たちの組織だということはわかるね。
キウイくん:農業に関わるっていうのは、農家の人とか?
ルルさん:そうそう。キウイくんは農家の仕事ってどんなのか知ってる?
キウイくん:えっと、お米とか野菜とかを育てる?
ルルさん:そうだね。
農家の仕事っていうのはとてもリスクが高いんだ。例えば台風が来ただけで一年の売り上げがなくなってしまうとか、農産物の価格が暴落するとかね。
キウイくん:ああ、リンゴがぜんぶ落ちちゃったとか聞いたことあるよ。
ルルさん:そうそう。
なので、農家の人たちがお金を出し合って貯めておいて、そういう時に困った農家を助け合いましょう、というのが農業協同組合の基本だよ。
キウイくん:悪の組織じゃないの?
ルルさん:なんで悪の組織になってしまうのかがわからないね。
もちろん、それだけじゃなくて、他にもいろいろな役割があるよ。
例えば、農薬とか肥料を買うときに一度に大量に買うと単価が安くなるけど、農家は家族経営が多いからそんなにたくさんは必要ない。
なので、みんなで一緒に買って分け合えば安くなるね。
キウイくん:それ知ってる。共同購入ってやつ。このまえサプリを買ったよ。
ルルさん:(大丈夫かな。そのサプリ)
ルルさん:あとは、お金のかかる設備をつくったりとかね。
これは酪農とかによくあるよ。
キウイくん:酪農は牛乳を作るやつだよね。
ルルさん:そう。
酪農家の仕事は牛を育てて牛乳を搾るわけだけど、その牛乳は殺菌したりパックに詰めないとならなくて、とても大きな設備や工場が必要になるんだ。
とても個々の酪農家ではできないから、そういう設備を酪農共同組合がつくったりするわけだね。
キウイくん:その工場で牛乳に人類削減ワクチンを入れてるのかっ!
ルルさん:くっ、手ごわい。
とにかく、農業協同組合は「農家の農家による農家のための組織」というわけだね。
キウイくん:むっ、なんだか名演説っぽいけど、だまされないぞっ!
ルルさん:今日の説明はざっくりしすぎていたから、これから個別の事例を見ながら農協の役割をみていこうね。
2. 農協への出荷とはどういう意味?
ミスターX:キウイくん、農協は手数料をぼったくってるんだよ。それで農家が苦しんでるんだ。ひどいよね。
キウイくん:激おこだよ。激おこっ! ぼったくりだよ。農協ゆるすまじっ!
ルルさん:どうしたの? 怪しい飲み屋にでも行った?
キウイくん:農協がぼったくってるんだよ。
農協に出荷するとすごい手数料がとられるんだっ! 農家の手取りはキウイの涙くらいなんだよっ!
ルルさん:なるほど。
それじゃあ、今回は流通に関わる農協の話だね。
キウイくんは「農協に出荷する」って言ったけど、具体的に農家と農協でどういう取引がされているかわかるかな?
キウイくん:えっと、農家のところに農協の人が野菜とかをとりに来て、「ほらよっ、これで子どもに食いもんでも買ってやりな」的な?
ルルさん:どこの世界の話なの?
農家はできた作物を市場に持っていくことが多いんだけど、その市場は国や地方自治体から認可を受けた団体が運営しているんだ。
「卸売市場(おろしうりしじょう)」と呼ぶよ。
有名なところだと「豊洲」とかね。正式には「東京都中央卸売市場 豊洲市場」という名前だよ。
キウイくん:マグロ解体ショー!
ルルさん:野菜とかも扱ってるんだけど、そのイメージが大きいね。
で、農家が卸売市場に野菜とか果物を持っていくと、競りが行なわれて、農家は売り上げを受け取る。
この時に法律で決まっている手数料を卸売市場に支払うんだ。
キウイくん:ぼったくり?
ルルさん:これはまだ農協の話じゃないよ。
それに手数料は「野菜なら競り値|(卸売値)の8.5%」と作物ごとに決まっているから、ぼったくれないよ。
キウイくん:農協はどう関わってるの?
ルルさん:農家が卸売市場に作物を持って行くときは自分で箱詰めとか袋詰めをしないといけない。
これはけっこうな手間なんだ。
キウイくん:野菜や果物は箱とか袋にキレイに入ってるもんね。
ルルさん:で、農協は「共同選果場」とか「集荷場」とかをもっていて、農家はこっちに持っていくときは箱詰めとかをしなくて、収穫したままコンテナに入れて持っていけば、そこで働いている人が選別や箱詰めをしてくれるんだ。
そして、農協がまとめて卸売市場に持って行ってくれる。正確にはその施設が卸売市場を兼ねていることが多いから、その場で競りになるけどね。
他にも、小売店に卸したりもするよ。
キウイくん:なるほど、そこでぼったくるんだね。
ルルさん:ところが、そうはならない。
キウイくん:どうして?
ルルさん:まず、そこで行なわれる競りとかの手数料は他の卸売市場と同じだから、農協はぼったくれない。
キウイくん:じゃあ、箱詰めとかの代金をぼったくるの?
ルルさん:いいや、それもできないよ。
自分にかわって誰かに何かをしてもらうわけだから、手数料を払うのは当たり前だ。これはわかるね。
キウイくん:自分で引っ越ししたらタダたけど、家具とかを運ぶのはたいへんだから引っ越し屋さんにお願いしたらお金がかかるみたいな?
ルルさん:そうそう。
で、もし農協が手数料をぼったくっていたら、農家は自分で箱詰めとかをして他の卸売市場に持っていけば良いんだよ。
たいへんだけど自分で引っ越ししようという感じだね。
キウイくん:でも、ミスターXは「農家は農協に出荷しないとならない」って言ってたよ。
強制なんでしょ。だからぼったくりができるんだよ。
ルルさん:それは間違いだね。農協に出荷しなければならないという決まりはないよ。
まあ、近所のめんどくさいジジイが取り仕切ってて、農協に出荷しないとめんどうなことになる、という事例はあるかもしれないけど。
ミスターXはそういう事例と勘違いしたんじゃないかな。
キウイくん:そいつが悪の手先なんだね。
ルルさん:悪の手先ということはないけど。
まあ、実際にこういうところが若い人の農業への興味を削いでいることがあるから、やめてほしい所だね。
けれど、それは個人や地域の問題で、とにかく、農家は農協の選果場や集荷場にもっていかなくても良いんだよ。
キウイくん:じゃあ、農協がぼったくろうとしたら?
ルルさん:農家は、農協に頼む手数料、箱詰めなどの手間、収穫にだけ専念するか箱詰めまでするか、こうしたことを考えていちばん利益が出る方法を選ぶ事ができるから、農協はぼったくりはできないんだよ。
農協の手数料がぼったくりなら、他の方法を利用できるからね。
キウイくん:じゃあ、ミスターXが言ってたぼったくりは?
ルルさん:こうした仕組みを知らないからだろうね。「農家は農協に出荷しないとならないし、農協がすべてを決める」と思っているのかもしれないね。
実際は、農協が運営していない卸売市場に持っていく方法もあるし、直売所に出す方法もあるし、スーパーとかと直に契約することもできるし、ネットとかで直販もできる。
そんな中で農協への出荷を選んでもらうためには、むしろ農協は手数料を安くしたりしないとならないよね。
キウイくん:農協も大変なんだね。
ルルさん:そうだね。農協への出荷も農家にとって数ある出荷先の一つでしかない、ということを覚えておこうね。
ちなみに、店頭で売っている野菜や果物の箱や袋に「共選」とか「JA○○」とか書いてあったらこうした農協を経由しているよ。「共選」は「共同選果」のことだね。「JA」は農協のことだよ。
スーパーに行ったらよく見てみてね。
3. 農協の購買の役割とは?
キウイくん:激おこだよ。激おこっ! ぼったくりだよ。農協ゆるすまじっ!
ルルさん:どうしたの? 物干しざおの移動販売?
キウイくん:農協に出荷するためには農協の農薬を買わなきゃならないんだっ!
手数料をぼったくれないからって、こんな卑怯な方法でっ! 農家はぼったくられてるんだよっ!
ルルさん:こんどはそっちか。
農協に出荷するからって、農協が売っている農薬を買う必要はないよ。
キウイくん:嘘だぁ! こんなにたくさんの農薬を使わなきゃいけないんだよ。(紙束ばっさぁ)
こんなにいっぱい。農薬まみれの毒入り野菜だよ。人口削減っ!
ルルさん:どれどれ。なるほどね。
これは使わなきゃいけない農薬のリストじゃないよ。
キウイくん:えっ? じゃあ、なんなの?
ルルさん:農薬というのは、作物ごとに「使える農薬」「方法」「濃度」「使える回数」「農薬を使ってから出荷まであける日数」が細かく決まっているんだよ。
しかも、農薬は何百という種類がある。
もし、間違って使ってはいけない農薬を使ってしまった場合はどうなると思う?
キウイくん:えっと、「誠に遺憾に」的な?
ルルさん:そんな生易しいものじゃないよ。
個人で卸売市場に出した場合や小売店に直に卸した場合はすべて回収される。もちろん費用は農家の負担だよ。その後の取引もできないだろうね。
だから出荷用の箱には名前を書くんだ。スーパーで箱ごと並べてあるトマトとかキュウリがあったらよく見てごらん。箱には名前か識別番号が書いてあるからね。
それは、生産者としての責任の証だね。
キウイくん:厳しいね。
ルルさん:食べ物だからね。当然だよ。
そして、農協の共同選果を通した場合だ。
この場合は誰が作った作物かわからなくなるから、その選果場を通った作物すべてが回収の対象になる。
ちゃんと決まりを守った生産者も含めて、ぜんぶ。
キウイくん:ひえっ…ガクガクブルブル…
ルルさん:だから、農協の出荷場に卸す農家に向けて農協が「この作物に使って良い農薬はこれらですよ」という資料を配るんだよ。
そうした事故を防ぐためにね。
キウイくん:でもでも、これをぜんぶ農協から買って使わないといけないんでしょ。農協は大儲けだね。
ルルさん:それは間違いだね。
まず、ぜんぶ使うということはないよ。
農家は自分が育てている作物の様子を見て、使う農薬や頻度を決める。
無駄に使う必要なんてないし、このリストの農薬をぜんぶ使うとなったら毎日のように農薬をまかなくっちゃいけない。
農家が過労死してしまうよ。
キウイくん:はえ~ でも、農協から買わないといけないんでしょ。
ルルさん:そういう決まりもないね。
実際は資材やさんや、近所のホームセンター、ネットで買ってもOKだよ。
価格や利便性を考えて農家が選べるわけだね。
ということは、農協はぼったくり価格も押し売りもできないよ。
キウイくん:ええ~
ルルさん:ついでに購買の話もしておこうね。
とくに、農薬とか肥料でよくあるんだけど、前に出てきたまとめ買いだね。
キウイくん:あっ、共同購入で安くなるってやつ?
ルルさん:そうそう。それ。
とくに規模の小さい農家で使う量なんてそれほど多くないから、農協がたくさんの農家から注文をまとめてメーカーに発注するんだ。
そうすると単価が下がるからね。
キウイくん:で、それを農家に高値で売りつけると。
ルルさん:しないしない。
そんなことしたら農家は他で買うようになってしまうからね。
前の手数料とかもそうだけど、農協は選ばれる立場だからね。
資材やさんのセールスの人が「農協より安くしますよ」なんて売り込みに来るようなこともあるから、農協もたいへんだよ。
キウイくん:そうなんだぁ…
ルルさん:ちなみに、肥料は農協の独自の配合のものがあったりして、商品としても優秀だよ。
とにかく、農家は農協以外の選択肢もあるということは覚えておこう。
4. 農協の融資と農家の借金
キウイくん:カネ返さんかいっ! ぼけぇ、こらぁ!
返す当てがないんなら、内臓でも売ってもらおうかぁ。ふっふっふっ。
ルルさん:金融漫画でも読んだの?
キウイくん:ひどいよっ! 農協は農家を借金でがんじがらめにしてるんだよっ!
ルルさん:それは悪いことなの?
キウイくん:えっ、えと、トイチで、内臓を売って? 悪いことのような気がするケド。
ルルさん:キウイくんは借金は悪いことだと思っているかな。
キウイくん:うん。怖い人が押しかけてくるだろうし。
ルルさん:それは悪い借金だね。
でも、こういう場合はどうだろう。
ある企業の商品が大人気で、その商品をたくさん作るために工場を拡張する。そのお金を銀行から借りる。という場合は?
キウイくん:え~と、銀行から借りると、後で土下座が待ってるから…
ルルさん:それはドラマだけね。
こうして企業が事業拡大のために銀行からお金を借りることはよくある。「融資」と呼ばれることもあるけど、わかりやすく言えば借金だね。
でも、設備投資のための融資を受けることは悪いことじゃないよ。その企業の業績が伸びている証だからね。
キウイくん:で、農協と農家はどう関わってるの?
ルルさん:農協には銀行の役割を持つ組織があるんだよ。
機械を買ったり温室を建てたりするときにお金を貸すんだ。
そうして、より効率的に作物が作れるようになって農家の利益が増える。
キウイくん:なるほど。たくさん機械を買わせたりして、お金を貸して利息をむしり取るんだね。ひどい!
ルルさん:それはありえないね。
キウイくん:どうして? 利息がたくさん取れれば農協は儲かるでしょ?
ルルさん:それで貸しすぎて、返せなくなった農家が破産したり夜逃げしちゃったら、貸したお金が返ってこなくなっちゃうよ。
そうすると、場合によっては農協が数千万とか億単位の損失になっちゃうね。
キウイくん:損失隠しっ! 倍返しだっ!
ルルさん:なので、農家が融資を受ける際には当然だけど審査があるよ。
今の経営状態、これからの事業計画、現在の借金の状態。
そういったことが審査されて、貸せないと言われることもあるよ。土下座したって借りられないよ。
キウイくん:じゃあ、借金でがんじからめは?
ルルさん:それは農協が悪いわけじゃなくて、借りすぎた農家の責任。経営に失敗しただけだよ。
実際、中古で十分なのに新品の機械を買ったりする農家もいるからね。
そうして経営に失敗する農家もいるし、借金を返しながらも利益を増やす農家もいるし、借金をしない農家もいるし、農家もいろいろだね。
キウイくん:えっと、そしたら、利息が異常に高いとか?
ルルさん:それもないよ。
農協の融資の利息はそんなに高いわけではないし、場合によっては国や地方自治体の補助金で利息の分が補填されたりすることもあるから、実質ゼロ利息になったりするよ。
キウイくん:それなら、農家に悪いことはないの?
ルルさん:まあ、ご利用は計画的に。借りすぎに注意しましょう。ということかな。あたりまえだけどね。
むしろ、農協の融資をうまく利用することで事業拡大が図れるよ。
キウイくん:そんな。ミスターXの言ってたことは…
ルルさん:ちなみに、こうして農協には金融業もあるから、銀行と同じように口座をつくれるよ。
「JAバンク」ってCMとかでもみかけるね。
キウイくん:知ってるっ! 「ちょちくちょきんぎょ!」
※ちょちくちょきんぎょ…かつてJAバンクでもらえたノベルティアイテム。
ルルさん:(マイナーなの知ってるなぁ)メガバンクがない田舎にも支店やATMがあるから、農家御用達だね。
あと、保険もあるよ。
キウイくん:保険って、たとえば?
ルルさん:自家用車、トラック、温室や倉庫などの設備、家、医療、その他もろもろ。
他の保険会社で扱っている保険は一通りそろってるよ。
キウイくん:はえ~ すごい~
でも、強制加入で、ぼった…
ルルさん:ない!
もちろん、他の保険会社も利用できるよ。
ただ、自動車保険は畑のトラックと一緒に加入すると安くなるとか、特典がいろいろあるからけっこうお得だね。
出荷とは購買とかは利用しないけど、保険は利用しているという農家も多いね。
5. 農協という組織の全貌
キウイくん:農協って悪の組織じゃないのかなぁ…
ルルさん:さて、ここでクイズです。
キウイくん:おっとぉ、唐突ぅ!
ルルさん:正解者には、JAバンクでもらえる「ちょちくちょきんぎょ」をプレゼント!
※今は「きょきんぎょシリーズ」は引退して、「ちょリス」がもらえます
キウイくん:がぜん、やる気!
ルルさん:日本で農協といえばこれまでも出てきたように、「JA|(Japan Agricultural Cooperatives)」ですが、このJA全体のうちボスは誰でしょう?
キウイくん:ええっ! 何これぇ。多すぎる!
ルルさん:そう。JAは農家の経営や生活に関わる全てのものを扱うと言っても過言ではないくらいに大きな組織なんだよ。
日本最大の総合商社とでも言えるだろうか。
キウイくん:すごっ…
ルルさん:今まで出てきたので言うと、「経済事業」が肥料とか農薬とかの購買、「共済事業」が保険、「信用事業」が融資、だね。
そして、「厚生事業」というのは病院や福祉施設の運営。
「その他事業」では、農業関連の新聞や雑誌の発行や旅行代理店まであるよ。
キウイくん:旅行まで。
ルルさん:あっ、これから「JA」と「農協」という言葉が出てくるけど、同じものととらえて良いよ。
JAの具体的な事業をあらわす場合は「JA」で、農協の概念をあらわす場合は「農協」にするね。
それで、JAのボスは誰でしょう!
キウイくん:えっと、じゃあ、今まで出てきてない、この「JA全中」とかいうの?
ルルさん:ぶっぶ~ はずれ。正解は、真ん中の「組合員」です。
「ちょちくちょきんぎょ」ぼっしゅ~と~
キウイくん:ああ~~~、ちょちくちょきんぎょ~~~
って、なんかずるい、なんかわかんないけど、ずるい!
ルルさん:じゃあ、解説するね。
まずは、JAを株式会社ととらえてみよう。
あらゆる事業を手掛ける株式会社だ。
キウイくん:うんうん。
ルルさん:しかし、事業が多すぎてまとめ役が必要になる。
それが「JA全中」という組織だね。正式名称は「JA全国中央会」と呼ぶよ。
株式会社でいうところの「ホールディングス」だとわかりやすいだろうか。株式を持ってるわけじゃないけど、グループ全体の指揮をとるよ。
キウイくん:じゃあ、そこがボスでしょ。
ボクの当たりだよ。「ちょちくちょきんぎょ」ちょうだい。
ルルさん:ところが、株式会社でも社長に意見したり場合によっては社長を解任したりできる人たちがいる。
キウイくん:えっと、会長とか?
ルルさん:株主だよ。
キウイくん:あっ!
ルルさん:JAグループは株式会社じゃないから株という概念はないけど、いわゆる株主にあたるのが、この「組合員」だよ。
キウイくん:その組合員ってのは農家の人?
ルルさん:そう、農家だね。
農家はJAに出資をするんだ。株式会社の株を買うのと同じ感覚だね。
で、出資をすると「正会員」になって、議決権が得られるんだ。
キウイくん:議決権というのは、株主総会的な?
ルルさん:そういうこと。JAの経営は総会を通してすべてこの正会員の意見に基づいてるんだよ。
キウイくん:「準会員」というのは?
ルルさん:農家じゃないけど、JAに出資してる人だね。
キウイくん:農家じゃないのに出資する意味があるの?
ルルさん:JAのサービスが組合員価格で利用できるようになるよ。
ただし、議決権はないから運営には意見できなくて、サービスを利用するだけ。
キウイくん:なるほど。
ルルさん:そして、農家はJAにとってお客様という意味もある。
JAから資材を買うのも、保険を利用するのも、農家だからね。
つまり、株式会社にとってみたら株主の上にお客様だ。
キウイくん:最強!
ルルさん:なので、立場としては「農家>>>農協」というわけだ。
ということは、「農協が農家をつぶす」なんてどう考えてもできない。
ミスターXが言うようなぼったくりなんてしようものなら、総会で徹底的にたたかれて困った立場になるのは農協の側だからね。
キウイくん:確かに…
ミスターXの言うイメージだと、農家が農協にペコペコしてる感じだったよ。
ルルさん:実際には支店長が手土産をもって農家を回っていたりするよ。
洗剤もらってもしょうがないから、農薬の割引券とかくれればいいのに。
6. 農協の役割を知る
キウイくん:農協なんて腐敗組織、つぶせぇ!
ルルさん:どうしたの? 反政府組織みたいな恰好で。
キウイくん:腐敗だよ。腐敗。
農協の職員は農家のお金を懐に入れてるんだ。汚いよ。
ルルさん:そうだっ! 潰してしまえっ!
キウイくん:えっ、あれっ?
ルルさん:どうしたの?
キウイくん:いや、てっきり、そんなことないって言うと思ったのに。
ルルさん:実際に職員が農家の預金をポケットに入れたなんて事件はたまにあるからね。
あとは、職員の自爆営業とか、パワハラ、セクハラ、無能な職員…挙げればキリがないよ。
キウイくん:じゃあ、つぶした方が良いね。
ルルさん:しかし、農協全体をつぶす必要はない。
キウイくん:え、でも腐敗してるんでしょ?
ルルさん:一部がね。
農協というのはこれまで見てきたような巨大で複雑な組織だ。
ただ、他の会社と違うのは、各組織から支店単位までかなり独立しているということだね。
キウイくん:えと、どういうこと?
ルルさん:農業というのは、地域によって大きな差がある。
例えばあるJAの支店の管内ではお米が主流だけど、他のJAの支店では果物、みたいにね。
キウイくん:確かに。
ルルさん:そうなると、支店ごとに力を入れる部分が変わってくるわけだ。
購買と共済の比率とかも違ってくる。
だから、JA全中が全体の指揮をとるといっても、各組織や支店の裁量はとても大きいんだよ。
キウイくん:ふむ。それで、腐敗は?
ルルさん:例えばある支店で、不正が行われていたとしよう。しかし、全く離れた地域の農家にとってはほとんど関係ない話だ。
例えば、あるプロ野球チームの選手が悪いことをしたとしても、他のチームは関係ないよね。一つのチームの選手が悪いことをしていたからプロ野球をつぶせというのもおかしな話だし。
農協は県単位や支店単位でそのくらい独立した組織なんだよ。なので、一部の不正をもとに全体の組織をつぶせというのは違うね。
キウイくん:あ~、まあ、そうだね。
ルルさん:もちろん、こうして農協全体のイメージが悪くなるから、不正を行った者やその支店はペナルティを受けるべきではあるし、全体を通して不正をなくす必要はあるね。
まあ、これはどんな組織、会社、政府でもおなじことだけどね。
それに、農協が潰されていちばん困るのは、食べ物を買っている消費者だよ。
キウイくん:農家じゃなくて?
ルルさん:これまでも言ってきたように農家は他の選択肢があるからね。
ただ、農協がなくなるといろいろなコストが上がることは確実だね。
キウイくん:なんで?
他の会社とかでもできるんでしょ?
ルルさん:例えば、前に出てきた「共同選果」をはじめとして、農産物の流通では農協を通すことが多いんだ。
農家から大規模小売店に作物を卸すという場合でも、間に農協が入っていることは多い。
キウイくん:それなら、農協がない方が安くなるでしょ。中間搾取ってやつだよ。
ルルさん:そうすると、農家と小売店が直に契約するわけだけど、まずその手間がかかる。
そして、農産物というのは常に同じ量が採れるわけじゃないんだ。
スーパーがいつも100個のトマトが欲しいと言っても、今日は80個、明日は120個、みたいになってしまう。
なので、農協が間に入って各地から集めた農産物を小売店との契約に従って分配してるわけだ。
キウイくん:ん~、でもそういうのって、卸売市場とかでもできるんじゃないの?
ルルさん:卸売市場はその地域の農産物にしか対応できないからね。
卸売市場が他の地域の農協から作物を買ってくることもあるよ。
こうして農協が日本全国にネットワークを持ってるから、日本全国どの地域でも美味しい食べ物が買えるわけだね。
卸売市場とかでこのネットワークをすべてまかなうのは難しいね。
キウイくん:はえ~、じゃあ、農協がなくなると?
ルルさん:スーパーの生鮮食品がしょっちゅう品切れしたり、キャベツばっかり大量に並ぶけど玉ねぎは一個もないとかなったり。
小売店が品ぞろえを充実させようとしたら、各地から個別に買ってこないとだから手間がかかって値段が上がるね。
キウイくん:それはやだなぁ。
ルルさん:それに、農薬や肥料などの資材の価格は上がるし、農機具の保険なんて他の保険会社だと高くなるし扱っていないこともあるからね。
そうしたコストが作物の価格の上昇につながるよ。
キウイくん:でもでも、不正はよくないよ。今の組織が不正ができちゃうようになってるんでしょ。
なら、農協をつぶして新しく農家のための組織を作るのは?
ルルさん:キウイくんちゃんは農協の大きさをわかってない。
キウイくん:へっ? 大きいの?
ルルさん:わけがわからないくらい大きいよ。
例えば、「信用事業」、要は「JAバンク」の預金額は94兆円で、三井住友銀行とかみずほ銀行とかのみんなが知ってるメガバンクと同じくらい。
「共済事業」という保険組織の総資産額は52兆円で、国内の保険会社の中でもトップクラス。
資材なんかを扱う「全農」という組織の売り上げは年間6.2兆円で、住友商事に次いで国内7位。
キウイくん:なにそれ~。
兆円とかサイコロを転がして日本全国を回るゲームでしか知らないよ。
ルルさん:組織一つひとつがその分野で国内トップクラスの規模のうえに、それが集まってる超巨大組織が農協だ。
それを新しく作るなんてできるだろうか。
キウイくん:う~ん…
ルルさん:しかも「新しく農家と消費者のための組織を作りました」といったところで、それは農協と同じ意味の組織だよね。
キウイくん:たしかに。
ルルさん:でもやっぱり、巨大で長く続く組織だから、悪い所もある。
だから、農協という組織を解体する必要はないけど、既存の組織の悪い所や無駄なところをきっちりと洗い出して、よりクリーンでみんなのための組織をめざす方が理にかなってるね。
7. 他にもある農協の役割
キウイくん:農協は悪の組織じゃなかったのか…
ルルさん:そうだね。
他にも農家や消費者にとっていろいろと役に立っているよ。
キウイくん:どんな?
ルルさん:いちばんはやっぱり流通だね。
東京とかの大きな駅で「JA○○フェア」なんて見たことあるだろう。
キウイくん:そういえば、スーパーで福井フェアやってたよ。JAって書いてあった気がする。
これ、チラシ。
ルルさん:それそれ。
そうして各地の農産物を消費地である都市で売るわけだけど、農産物を売るということは収穫期なわけだ。
収穫期は農家にとっていちばん忙しい時期だから、とても都市へ行って販売する時間なんてない。
それを農協が引き受けるわけだね。
キウイくん:確かにね。
ルルさん:こうした取り組みはブランド化につながるね。
キウイくん:シャネルの五番!
ルルさん:それ違う。
○○県産の××は美味しい! みたいな名産品をつくれば全国で高く売れるようになるからね。
農家は良い生産物を作り、農協がブランドとして育てるんだよ。
キウイくん:そういうの、けっこう聞いたことあるね。
ルルさん:そうして作り上げたブランドを小売店とかに「ウチの野菜は美味しいですよ」と売り込みに行ったり、海外への輸出なんかもやってる。
キウイくん:海外まで!
ルルさん:日本の農産物は美味しいからね。
とくにアジア圏ではお米や果物なんかが大人気なんだよ。
ただ、農家が個人で輸出までやるとなるとたいへんだ。作物を作っている時間なんてなくなっちゃうよ。
キウイくん:そういう交渉も農協がやるんだね。
ルルさん:そうそう。
それから、農業政策にも関わるよ。
キウイくん:おっと、きな臭くなってきたぞ。
お主も悪よのう。とか、何票入れましょうか。とか。
ルルさん:まあ、そういうのも否定はできないけど。
政治家は農業のプロじゃないから、農業に関係する政策を決めるときに助言をしたりするんだよ。
国内の政策もそうだし、農産物の貿易とかね。
農業のことを知らない政治家が適当に決めた法律で農家や消費者の不利益にならないように、とね。
キウイくん:それは大切だね。
ルルさん:あとは、「食育」とか、「野菜をたくさん食べましょう」とか、「残さず食べよう」とか、そういう啓発活動とか。
キウイくん:僕はエサは残さないよ!
ルルさん:えらい!
他にもスポーツチームのスポンサーになっていたり。
キウイくん:スポーツ?
ルルさん:卓球の選手のユニフォームには「JA全農」の文字が入っているし、国際大会では現地で食事を提供したり。
キウイくん:ほえ~。
ルルさん:あと、子どもたちの野球とかね。
前にも言ったように、各地のJAは独自で運営されているからそれぞれの地域のスポーツチームや選手のスポンサーになってたりもするよ。
キウイくん:そういうのは良いね。子どもたちの夢にもつながるし。
ルルさん:それから、テレビとかラジオの番組のスポンサーなんかも。
「JA全農カウントダウンジャパン」というラジオの音楽番組では、全国各地の美味しい農産物がプレゼントされるよ。
キウイくん:いろいろやってるんだね。
ルルさん:JAも「選ばれる立場」だからね。
キウイくん:あっ、それ前にも出てきた。
ルルさん:農家にとっては農協を利用してもしなくてもよい。なんなら組合員になる必要だってない。
小売店も農協以外にも多くの選択肢がある。
そんな中で農協を利用してもらうためには、農協にもいろいろな努力が求められるということだよ。
実際に農家数はどんどん減っているので、農協も今後の在り方をしっかり考える必要があるね。
8. まとめ
キウイくん:それにしても、どうしてミスターXは「農協が農家から搾取してる」とか言い出したんだろう。
ルルさん:根底にあるのは無知だね。
キウイくん:うわっ、辛辣っ!
ルルさん:実際に「農家は農協に加入する必要はない」とか、「農家や小売店は農協以外にも多くの選択肢がある」とか、そうした基礎的なことを知っていたら「農協はぼったくり」なんて発想は出てこないよね。
キウイくん:だね。
ミスターXは、農家は強制的に農協に加入させられて、農産物は安く買い叩かれて、農薬を高く売りつけられて、借金でがんじからめ、みたいに言ってたからね。
ルルさん:それをやったら農家はすぐに離れてしまって、あっという間に農協は破綻だよ。
実は昔から「農協不要論」なんてしょっちゅう出てるよ。昭和の時代からね。
週刊誌なんかで「農協の闇」なんて安っぽい見出しはよくあったからね。
キウイくん:えっ、そうなの?
ルルさん:ミスターXとか動画配信とかで誰でも何でも言えるようになって、再燃してるだけだね。
それだけ昔から農協不要論が出ても続いているということは、必要とされているということだよ。本当に不要で誰も利用しなかったら勝手につぶれるからね。
キウイくん:なんだぁ。
ミスターXが自信たっぷりだったから、すごいことなのかと思った。
ルルさん:まあ、巨大組織だったり、複雑な構造だったり、政治にも絡んだり、ということで陰謀論とかにはまってしまう人は喰いつきやすいのかもね。
キウイくん:どきっ!
ルルさん:キウイくんも注意しようね。
『月刊ムー』とかを読むと陰謀論には耐性が付くようになるよ。
キウイくん:地下に地底王国があって、僕らは地底人の奴隷なんだぁ!
ルルさん:まあまあ、福井県産の二十世紀ナシでも食べて落ち着いてよ。
キウイくん:シャリシャリ…みずみずしくて甘いっ!
ルルさん:いつでもどこでも美味しいものが食べられるということにも、農協という組織が一役かってるわけだね。
キウイくん:なるほど~
ルルさん:大きい組織だから悪い部分もあるけどそういう部分はしっかり正して、農家と消費者のための組織として、日本の食料生産という大きな役割を担っているということは忘れないようにしてほしいね。
農協にも、消費者のみんなにも。
キウイくん:若狭牛シャトーブリアン…ごくり…ルルさん!
ルルさん:解散っ!!
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