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ここが変だよ「種苗法改正に反対」

2020年12月。種苗法が改正された。
その前に「種苗法改正に反対」という声が上がったが、不思議なことに声を上げたのは当事者の農家ではなく、芸能人や農業とはとくに関係のない人たちだった。

どうしてそうなった?

種苗法の改正は成立したものの、SNSでは当事者である農家を無視してひどいデマが飛び交っている。

ここは、農業に関わる者としてちょっと言わせてほしい。
なんで種苗法の改正に反対するの?

そもそも種苗法とは何ぞやといったことから、改正で何が変わるの、農業への影響は、といったあたりまでのお話。

お野菜系フクロウのルルさんが解説します。

登場人(?)物

・キウイくん
まだ若いキウイ。純粋であるがゆえにどんな話でも信じてしまう。助けて、ルルさん!

・ルルさん
野菜づくりの専門家。

・ミスターX
いつも怪しい情報をつぶやいている。青い鳥さんに下剋上をぶちかまして看板を奪った。


1. そもそも種苗法ってなんだ?


キウイくん:ルルさん、ルルさん。種苗法が改正されると農業がつぶれちゃうらしいよ。大変だよ!エサが食べられなくなっちゃうよ~

ルルさん:まあまあ、落ち着いて。そんなことはないから。
ところで、どうして種苗法が改正されると農業がつぶれちゃうのかな。

キウイくん:う~ん。よくわからないけど、ミスターXがつぶやいていたよ。

ルルさん:なるほどね。それじゃあ、種苗法ってどんな法律か知ってる?

キウイくん:タネと苗のなんちゃら?

ルルさん:むむう。そしたら、種苗法が何かをまず説明しようか。

キウイくん:ピヨピよ!

ルルさん:キウイくんは自分で曲を作って動画共有サイトに投稿してるよね。それは誰のものかな?

キウイくん:もちろんボクのだよ。

ルルさん:じゃあ、それが音楽企業から売り出されて、たくさん売れるとどうなる?

キウイくん:うれしい!

ルルさん:それはそうだけど。売れるということは買った人がお金を払うわけで、音楽企業は利益になる。そのうちの一部はキウイくんも貰えるね。

キウイくん:もちろん。ボクがつくったんだからね。

ルルさん:そうそう。タネも同じだよ。農家はタネをまいて収穫した作物を売って利益を得る。
タネを作った人は農家からその一部をもらうわけだね。
これを「育成者権」と呼ぶよ。作曲家なら「著作権」かな。

キウイくん:うんうん。

ルルさん:もし、どこかの音楽会社がキウイくんが投稿した曲を勝手に販売していたらどうする?

キウイくん:激おこ!

ルルさん:そうだね。もちろん貰えるはずのお金も貰えない。だから「著作権」でしっかり守られているわけだ。わかる?

キウイくん:うん!

ルルさん:それで、今回の種苗法の改正の目的の一つは、この「育成者権」をもっと強化してタネを作った人の権利をしっかりと守りましょう。ということだ。

キウイくん:でも、なんでそれで農業がつぶれちゃうの?

ルルさん:なんでそういう話につながるのかはわからないね。ミスターXはなんて言ってた?

2. そもそも農家はタネをとらない


キウイくん:大変だよ、ルルさん! ミスターXが言ってた。
新しい種苗法になって農家の人は自分でタネをとれなくなって、タネ屋さんにたくさんのお金を払わないとならないから、農家が経営できなくなっちゃうって!
ボクのエサは誰が作ってくれるのさ!

ルルさん:さっそく聞いてきたんだね。実はそのミスターXの話は間違いがあるんだよ。

キウイくん:そうなの? ミスターXは物知りだって聞いていたのに。

ルルさん:ただたくさんのことを知っているのと、正しいことを知っているのは違うよ。

ルルさん:さて、農業といってもいろいろな仕事がある。まずは野菜の話をしよう。
そもそも、野菜農家は自分ではタネをとらない。
だから、これまでもタネ屋さんからタネを買ってきた。種苗法が変わっても何も変わらないよ。

キウイくん:えっ!

ルルさん:実は野菜の種は雑種なんだ。Aという品種のおしべの花粉をBという品種のめしべにくっつけて雑種のタネを作る。交配って呼ぶよ。
こうしてできた雑種のタネは、良く育つし、質も一定で、病気にも強い、っていうメリットがいっぱいある。

キウイくん:すごいね。

ルルさん:ただし、その雑種からタネをとって栽培すると、育ちの悪いものや味の美味しくないものが混じるようになる。
たまに渋いトマトが混じっていたりしたら嫌だろう?

キウイくん:それは嫌だね。ロシアントマト?

ルルさん:だから、農家は新しいタネをタネ屋さんから買う必要がある。

キウイくん:タネ屋さんずるい。ぼろ儲けじゃないか。

ルルさん:待った待った。タネ屋さんも企業だから、利益がないと困る。そこで働いている人に払う給料も必要だろう。
それに単純に「Aという品種とBという品種を交配させて」なんて言ったけど、何十何百という品種の組み合わせを試して、最適な雑種を作るんだ。
これを品種改良って呼ぶけど、新しい品種を作るためには10年以上もかかる。
その間にかかるお金は莫大だ。わかるね。

キウイくん:うん。確かに。

ルルさん:それを農家が個人でやるのはたいへんだ。
それに、タネ屋さんにしっかりと利益が出て、育てやすくておいしい品種を新しく作ってくれたら、農家の利益も増える。
win – win ってやつだよ。

キウイくん:はぁ~、そんな仕組みになってるんだね。

ルルさん:というわけで、種苗法が変わっても野菜農家は何も変わらないよ。
ところで、野菜の雑種についてもっと詳しく知りたかったら「F1」で調べてね。
ミスターXには聞かないで、ちゃんと農業の本を読むんだよ。

3. タネをとることもある?


キウイくん:ルルさん、おかしいよ。
野菜を作っている農家でもタネをとっている人がいるよ。種苗法が変わったら自分でタネをとるのはダメになるんだよ。法律違反だよ!

ルルさん:まあまあ。
実は、自分で種をとってる野菜農家はけっこういるんだ。

キウイくん:ほら! やっぱりミスターXの言うことは間違ってないよ。タネがとれなくなっちゃったら農家はおしまいだ!

ルルさん:ところが、それもちょっと違うんだ。
ところで、キウイくんは『ももたろう』ってお話を知ってる?

キウイくん:もちろん。鬼をバッタバッタ。キウイの呼吸、壱の型! だよ。

ルルさん:まあ、そういうのもあるけど。
で、その『ももたろう』は絵本とかでたくさん出版されているけど、誰が書いてお金を受け取っているのかな?

キウイくん:えっと、さあ?

ルルさん:そう。『ももたろう』はいつ誰が作ったのかはわからないので、「誰のもの」とは言えないわけだね。
野菜にもこれと同じものがある。
ずっと昔から作られてきて、何代にもわたってタネをとって育ててきた野菜だ。各地の「伝統野菜」とかがこれにあたるね。
こうした野菜は「育成者権」がないから、自由にタネをとって使って良いんだよ。

キウイくん:じゃあ、タネをとってるっていう農家がやっているのは、これ?

ルルさん:そうそう。
ちなみに、タネ屋さんが作っているタネは「登録品種」って言って「育成者権」があるから勝手にタネをとって栽培に使ったらダメだよ。そもそも雑種だから自分でタネをとっても良い野菜は育たないけどね。
昔からの野菜は「一般品種」って言って、「育成者権」がないから、自由にタネをとれるわけだね。
で、種苗法の効力はこの「一般品種」には及ばないから、こうした農家はこれまでと同じようにタネをとって使える。

キウイくん:えっと、でも、自分でとったタネからは変な野菜ができちゃうから使えないんでしょ。

ルルさん:タネ屋さんが作る「雑種」の野菜はそうだね。
ただ、「伝統野菜」の場合はタネをとっても性質はほとんど変わらないんだ。これを「遺伝子が固定されている」と言うよ。
例えば犬のラブラドールのオスとラブラドールのメスの子は両親に似たラブラドールの子が生まれてくるはずだ。遺伝子が固定されているからね。だけど、ラブラドールのメスと秋田犬のオスの子は雑種の犬になるね。

キウイくん:なるほど。それが昔からの野菜なんだね。

ルルさん:そういうこと。「京野菜」とか各地の名前がついていたりするね。「加賀野菜」なんておもしろい形の野菜がいっぱいあるよ。

キウイくん:ということは、種苗法が変わってもホントに何も変わらないの?

ルルさん:そういうこと。野菜農家にとってはね。
だから、「種苗法が変わるとタネがとれなくなるし、農家の負担が増える」と言ってるミスターXは正しくないね。

4. タネで増やさない作物もあります


キウイくん:ルルさん! ひどい話だよ。サトウキビを作っている人は種苗法が変わったらお金を払わなくちゃならないんだって。ミスターXが言ってた。
甘いお菓子が食べられなくなっちゃうよ~

ルルさん:大丈夫。甘いお菓子はなくならないからね。
これまでは野菜の話をしてきたけど、今度はタネで増やさない作物の話をしよう。

キウイくん:植物はタネから育つんじゃないの?

ルルさん:そうでもないんだよ。
例えばさっきのサトウキビや果物なんかは茎を切って土にさしておくと根っこが出てきて新しい株が育つんだ。
「挿し木」とか呼ばれる技術だね。他にもいろいろな方法があるよ。
こうしたできた新しい株はタネから育つものと違って、親と全く同じ性質なんだ。だから、雑種という制約がある野菜と違っていくらでも同じ株が増やせる。

キウイくん:はえ~。植物すごい!

ルルさん:で、サトウキビや果物の苗もそうして増やすけど、「登録品種」になっていることがある。

キウイくん:あっ、出た。登録品種。それは権利があるやつでしょ。じゃあ、ミスターXの言ってたことはホントだ!
農家は自分で増やしたらいけないんだよ。

ルルさん:そう。これは部分的には正しいんだ。ただ、多くの場合はお金は必要ない。

キウイくん:えっ、なんで?

ルルさん:種苗法では「育成者がOKって言ったらお金を払わずに自分で増やして良いよ」っていう決まりがあるんだよ。

キウイくん:でも、そんなこと言う人いるの? 品種改良はお金がかかるんでしょ。タネ屋さんがつぶれちゃうよ。

ルルさん:そう。だから、サトウキビや果物の品種改良は国や地方自治体の機関がやるんだ。「農業試験場」とかだね。
税金で運営されているから、利益を追求する必要はないよ。

キウイくん:そっか。だからお金を払わなくても良いんだね。

ルルさん:そう。ただし、条件がある。誰もかれも勝手に増やすのはダメだよ。

キウイくん:条件? なんかちょっと怖い。

ルルさん:たとえば、「○○県の試験場で開発した新しいミカンは○○県の農家のみが使って良いですよ」という条件だね。

キウイくん:へえ。でも、なんでそんな条件を付けるの?

ルルさん:さっきのミカンだと、○○県のミカンはとっても美味しいと評判になれば高く売れるようになるから、農家の利益が増えるようになる。
ちょっと高いミカンだけど美味しいって聞いたから奮発して買ってみよう! なんてあるだろう?

キウイくん:あるある!

ルルさん:そうして、農家は利益が増えるわけだから、種苗法が変わって農業がつぶれるなんておかしな話だよね。
むしろ、その産地の特産品としてアピールのチャンスなわけだよ。

5. パクリ ダメ ゼッタイ


キウイくん:激おこだよ、激おこ!

ルルさん:どうした?

キウイくん:このまえシンガポールに旅行に行ったんだ。で、スーパーに行ったら日本のブドウが売ってたんだよ。すごい高かった。

ルルさん:そうだね。日本の果物はとっても美味しいから、各国の富裕層に人気なんだよ。

キウイくん:それが、日本産じゃないんだ。××国って書いてあった!
で、ミスターXに聞いたら日本の果物の苗を勝手に使っているんだって!
これ、「登録品種」でしょ。許せない!

ルルさん:そう。それが今回の種苗法の改正のキモなんだよ。

キウイくん:えっ? ミスターXはそんなこと言ってなかったよ。

ルルさん:ミスターXも困ったものだね。
実は日本で作られたたくさんの果物の苗が外国に流れてるんだ。前にも言ったけど、果物は挿し木とかで同じものが増やせるからね。
で、その国の果物として、酷い場合には日本産と偽って売られてる。

キウイくん:えっと、それはどのあたりが悪いことなの?

ルルさん:もし、キウイくんの曲が外国の音楽会社によって勝手に販売されて、世界で人気になっていたらどうする?

キウイくん:ボクの曲が勝手に売られるのはムカつくけど、人気になったら嬉しい!

ルルさん:そう。大人気で高く売れるということは、その果物は日本で作って売れば日本の農家はもっと利益があったはずだね。
でもそれを外国に持っていかれてしまった。
キウイくんの曲の利益はどこかの外国の音楽会社が丸ごと懐に入れてしまったわけだ。お金、いっぱい入ってくるはずだったのにね。

キウイくん:むう、許せない!

ルルさん:まあまあ、これは例えだから。
というわけで、こうした作物の国外への流失も厳しく取り締まる、というのが種苗法の改正だ。
それに、国際社会に対して「日本は育成者権がしっかり守られている国なので、勝手な苗の持ち出しや栽培には厳しく対処します」というアピールにもなる。
目的としてはもちろん、育成者や農家の利益を守るためだね。

キウイくん:じゃあ、農家とか農業がつぶれるっていうのは?

ルルさん:これまで話してきたように、全く反対だね。実際に農家で反対している人は聞いたことがないよ。
もちろん、自分でタネをとっている野菜農家やサトウキビとか果物の農家は、最初は動揺したけどちゃんと勉強すればむしろ良い事なんだってわかったからね。

キウイくん:あ、でも、ミスターXが「農家の人はこの真実を知らない」って言ってた。

ルルさん:はぁ。ミスターXはまったく。
声を上げないのと知らないのは違うよ。ミスターXの勘違いやデマがひど過ぎて呆れていただけだよ。
農家の人は家族の生活や人生がかかっているわけだしちゃんと勉強してるから、ミスターXよりかは農業に詳しいよ。少なくとも雑な煽り動画を見て「真実」とか騒いでいる連中よりはね。

6. 日本の農業が乗っ取られる?


キウイくん:ルルさん、まずいよ。外国が攻めてくるよ!

ルルさん:どういうことかな。戦争?

キウイくん:なんか、種子法ってのがなくなっちゃって、外国のタネ屋さんに日本の農業が乗っ取られるって!
ミスターXが言ってた。
どうしよう、お米が食べられなくなっちゃうよ~。チップスだけは嫌だよ~。

ルルさん:そうそう、それも種苗法の改正と合わせてというかごっちゃになって、いろいろ言われていたね。確かに、チップスだけになってしまうのは恐ろしいけど。
まずは、種子法の話をしよう。

ルルさん:お話は昔にさかのぼるよ。太平洋戦争が終わって日本は食べるものにも困るほどの状況だった。
そこで国は、米、大豆、麦、といった主要な穀物のタネは国が責任をもってつくり、農家に提供し、安定して食糧を確保することを目指したんだ。そこで、1952年に種子法ができた。
「種苗法」と「種子法」と間違いやすいから注意しよう。

キウイくん:たいへんだったんだね。今は食べ物はたくさんあるのに。

ルルさん:ところで、「食糧」と「食料」は意味合いが違ってくる。
「食料」は食べ物全体のことで、「食糧」は主食のことだよ。なので、文化によって「食糧」が指す作物は違ってくる。

キウイくん:あっ、間違ってたかも。

ルルさん:話を戻すと、そういうわけで、主要な穀物のタネは前に出てきた試験場とかで作っていた。
けど、時代は変わった。飽食の時代だ。
なので、国はもうこの法律はいらないと考えた。むしろ、いろいろな民間企業も参入してより質の高い穀物が作れるようにすべきだと。

キウイくん:えっと、それは良いのかな、良くないのかな。

ルルさん:良い面とよくない面があるね。
まずは良い面から見てみよう。民間のタネ屋さんが参入するということは、いろいろな新しい品種が出てくる可能性がある。
例えば、味はちょっといまいちだけど栄養が豊富なお米、とかね。

キウイくん:ボクはそういうのより、美味しいのが良いなあ。

ルルさん:そう。つまり、選択肢が増えるということだ。
農家も選択肢が増える。試験場でつくった無料で使えるお米のタネか、民間が作ったちょっと値段が高いけど機能性たっぷりのお米のタネか。
それぞれの販売戦略にそったタネが選べるのは良い事だね。実際に野菜の農家はそうしてるよ。

キウイくん:なるほど。ボク達もいろいろ選べるわけだね。あ、でも、法律がなくなったから試験場がタネを作るのをやめちゃうってことは?

ルルさん:あるかもしれないね。最近は独立行政法人とかで採算も求められてしまうことがあるからね。
それはよくない点と言えるかもしれない。

キウイくん:じゃあ、やっぱりダメだよ。外国に支配されちゃうよ!

ルルさん:大丈夫。心配しないで。国はもう穀物のタネの確保の責任はなくなったけど、多くの都道府県は「これまでと同じように主要穀物のタネは責任を持って作ります」という条例を作ったんだ。
むしろ、果物の例で出てきたように、美味しいお米とか国産の小麦なんてのは地域のアピールにもつながるからね。

キウイくん:それなら安心だね。
でも、何で急に外国の話になったんだろう。ミスターXに聞いてみよう。

7. 外国のタネ屋さんは怖い?


キウイくん:安心じゃなかったよ! 外国のタネ屋さんってすごい大きいんだよ! モンサントって、怖いよ~

ルルさん:どうした? ミスターXが何か言ってた?

キウイくん:モンサントっていう世界一大きなタネ屋さんがやってくるんだ!
で、遺伝子組み換えとかの食べ物でボク達はおかしくなっちゃうんだ!

ルルさん:ちょっと落ち着こうか。
まず、モンサントはアメリカの会社で世界初の遺伝子組み換えトマトを流通させたね。世界最大の種苗メーカーだった。

キウイくん:そうだよ。怖いんだよ。ボクもキウイじゃなくなっちゃう!
えっ、だった?

ルルさん:そう。今はドイツのバイエルという会社に吸収されてモンサントはなくなってしまったんだよ。

キウイくん:でも、ミスターXが怖い会社だって。すごい大きい会社だからあっという間に日本は支配されてしまうって!

ルルさん:そうそう、よくモンサントの名前が出てくるね。ただ、さっきも言ったようにモンサントという会社はもうないんだ。
だから、「モンサント」という名前が出てくる投稿は、ちゃんと情報を精査できない人が適当な情報をうのみにしてドヤ顔で語ってるだけの価値のない投稿だと思っておくと良いよ。

キウイくん:うわあ、辛辣… でもまあ、確かに。
でも、そのバイエルとかいう会社は?

ルルさん:バイエルのタネの世界シェアは17%で、日本のサカタとかタキイといったタネ屋さんの世界シェアは1%前後だね。

キウイくん:ほらやっぱり、桁が違うよ!

ルルさん:ちょっと待って。落ち着いて日本の国内を見てみよう。
実は日本の農業生産の現場で外国のタネ屋さんのタネが使われていることはほとんどないんだ。

キウイくん:えっと、どうして?

ルルさん:タネといっても野菜から牧草までいろいろあるけど、身近な野菜で考えてみよう。
ぶっちゃけると、外国の野菜は不味い。

キウイくん:えっ、不味い?

ルルさん:そう。
世界のタネのトレンドは味や質より、たくさんとれることが大切なんだ。一方、日本は味や見た目にもかなりこだわってる。
もちろん、日本のタネ屋さんはそうした品種を開発してる。そうなると、農家としては外国のタネ屋さんのタネは使いにくい。不味かったら売れなくなっちゃうからね。
良い意味でガラパゴス化してるってことだね。

キウイくん:そっか。確かに、ヨーロッパに旅行した時に食べたトマトは味がなかったよ。

ルルさん:お米もそうだね。
つやつやで、もちもちでしっとり、甘みと滋味が感じられて、ふっくら、なんてお米は外国にはない。オーストラリアとかのお米なんてバサバサだよ。

キウイくん:えーと、でもだからって、外国のタネ屋さんが来ないとは限らないと思うけど。

ルルさん:そうだね。ただ、こういう議論をするときにタネ屋さんも企業だということはしっかり考えた方が良いね。

キウイくん:どういうこと?

ルルさん:タネ屋さんも企業ということは儲けなくてはならない。株主とかに怒られちゃうからね。
で、日本に進出しようとしたとしよう。
前にも言ったとおり、品種改良には時間もお金もかかる。
で、苦節20年。ずっと赤字を出し続けてようやく日本人の舌に合う野菜ができた!

キウイくん:そしたら、農家の人は外国のタネ屋さんのタネを買っちゃうよ。

ルルさん:その間に日本のタネ屋さんも新しい品種を作り続けてるから、もっと良いタネができてるはずだよ。
なにしろ、日本のタネ屋さんは日本人の好みも日本の環境も知り尽くしてるんだから。
とくに環境は大切だよ。四季の大きな変化や地方ごとの天気の移り変わりなんて一朝一夕には理解できないからね。

キウイくん:あっ。そっか。でもでも、遺伝子組み換え。そういうのがあればすごいタネがすぐにできちゃうんでしょ。

ルルさん:遺伝子組み換えはそんな魔法の技術じゃないよ。すぐにできるものじゃないからね。

キウイくん:へえ、なるほど。

ルルさん:そうなると、研究にたくさんのお金をかけて、売り出してみてもぜんぜん売れなかったなんてことになりかねない。ビジネスとしては大失敗だ。
さんざん赤字を出して撤退という失敗のリスクが高いなか、日本という超ガラパゴス市場に仕掛けてくる外国のタネ屋さんはあるだろうか。
世界一だったモンサントすら吸収されてしまう、生き馬の目を抜くようなタネ業界でそんなリスクをとるかな。
しかも、世界には自国でタネを開発していない国がたくさんあるし、そうした国々を合わせたら、日本の市場規模よりはるかに大きい。
キウイくんが社長さんだったらどうする?

キウイくん:やめとく。もっと儲かるところに行くよ。

ルルさん:そうだね。賢明だ。ちなみに、バイエルとかの巨大タネ屋さんはもう日本に来てるよ。

キウイくん:えっ、知らないうちに!

ルルさん:世界の巨大タネ屋さんが扱っているのはタネだけじゃないんだ。農薬とか肥料とか農業資材とか、いろいろなものを扱ってる。バイオメジャーなんて呼び方をするね。
ガーデニングで使う農薬を買いに行ったらラベルをよく読むと良いよ。「バイエルクロップサイエンス」、「BASF」、「シンジェンタ」、「コルテバ アグリサイエンス」なんて書いてあるのはみんな海外の巨大バイオメジャーだよ。

キウイくん:侵略されてる!

ルルさん:侵略とはちょっと違うかな。日本の車メーカーも世界中で車を売ってるのと同じことだよ。
これも選択肢が増えるということだね。実際に良い薬や資材は多いよ。
もちろん、日本の化学メーカーも良い農薬を作っているよ。農家はその中からいちばんあった農薬を使っているんだ。

キウイくん:そっかあ、それで僕たちは美味しいエサが安く食べられるわけだね。

ルルさん:そういうこと。
バイエルクロップサイエンスの2021年の売り上げは約202億ユーロ=3兆円ちかくなる。
ただ、そんな巨大企業も手を出せないのが日本のタネだよ。そこまで心配しなくても大丈夫。

8. タネは外国産なのか?


キウイくん:ルルさんは噓つきだよ!

ルルさん:どうした?
嘘つき呼ばわりなんてひどいなあ。何かミスターXに言われたのかな?

キウイくん:ルルさんは日本のタネ屋さんは強いって言ってたけど、嘘だよ。
日本の会社もタネは外国で作ってるんだ。日本のタネじゃないんだよ!

ルルさん:なるほど。そういうことか。
確かに、日本のタネ屋さんの畑は外国にもあって、多くのタネはそこで作ってるよ。

キウイくん:やっぱり! そこから外国の会社が入ってくるんだよ!

ルルさん:じゃあ、ちょっとその話をしようか。
なんで日本のタネ屋さんはタネを外国で作ってると思う?

キウイくん:え、えっと、外国のタネ屋さんに支配されて?

ルルさん:外国のタネ屋さんに買収されたわけじゃないのに?

キウイくん:じゃあ、外国の方が人件費が安いから?

ルルさん:日本より人件費も物価も高いオーストラリアとかドイツとかで作ってるタネは?

キウイくん:うっ。ピヨぉ…

ルルさん:ごめんごめん。いじめたわけじゃないんだ。ミスターXが言ってることは「どうして?」が抜けてるって言いたかったんだよ。

キウイくん:えっと、どうして?

ルルさん:一言であらわすなら環境だね。
まず、たくさんのタネをとるためにはたくさんの作物を植えなければならない。
そして、他の品種の花粉がついてしまったら大変だから、違う品種どうしは離して植えないとならない。
けど、山と街ばっかりで土地が狭い日本では無理だ。だから、広い土地が確保できる外国で作るんだね。

キウイくん:あ、なるほど。アメリカとか広そう。

ルルさん:それから、気候だ。
例えば日本の梅雨の時期に花が咲く作物があったとするね。タネを作るには雄しべの花粉をめしべにくっつけないとならないけど、雨ばっかりだとうまくいかない。
だから、その時期に雨が降らない国で作るんだ。
暑さとか寒さとかそういうのもだよ。

キウイくん:はえ~。よく考えてるね。

ルルさん:電気製品とかも外国で作っているけど、人件費も含めて物流や材料の手に入りやすさとか、いろいろ考えてるわけだね。
ヒトが着ている服だって外国で作っているけど、外国の服メーカーに支配されているとは言わないよね。
タネも同じで、日本の会社が作っていることに変わりはないよ。

9. 学ぶことは大切です


キウイくん:ルルさん、タネのことがいろいろわかったよ。ありがとう。
でも、どうしてミスターXは種苗法の改正に反対なんだろう。

ルルさん:やっぱり、間違った知識が根底にあるのかなと思うね。
「農家は自分でタネをとっている」とか、「どんな場合でも自分で増やすことはできなくなる」とか。
あとは、外国のタネ屋さんが日本を狙っているとかも、実際の状況を考えたらそれはなさそうだろう。

キウイくん:そっかあ。ミスターXはなんでも知ってると思ってたけど、間違ったことも多いんだね。

ルルさん:そうだね。ミスターXだけじゃなくて、メディアの言っていることもホントかなと思うクセは付けた方が良いね。

キウイくん:そうそう。テレビに出てる人もずっと日本のタネとか農業は乗っ取られるって言ってたよ。

ルルさん:まあ、いろいろあるけど、農業とかいつもの食べ物に関心を持つことは良い事だね。
キウイくんもいつものエサがどこでどうやって作られているのか調べてみるのも良いと思うよ。タネのこと、そして農業のこと。

キウイくん:そうだね。ちゃんと勉強してみるよ。

ルルさん:そうそう、情報があふれる現代では、ちゃんと学んでたくさんある情報の真偽を見極めることが大切だね。
学ぶときはくれぐれも、ミスターXとか動画共有サイトはダメだよ。

キウイくん:うんっ!


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