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トラウマ関連の読書記録⑦「発達性トラウマと不適切養育」

不適切養育(マルトリートメント)に注目する

「発達性トラウマ」は、ベッセル・ヴァン・デア・コーク博士が提唱した概念だ。子どもの成長の過程で起きてくるトラウマのことである。同様の状態を「複雑性PTSD」と呼ぶこともある。
ちなみにヴァン・デア・コーク博士は下の記事に書いた本の著者で、トラウマ治療の第一人者の一人だ。とても優しくて気のいい印象のおじさんである。私はスキーマ療法でヘルシーアダルトを作る際に、ヴァン・デア・コークさんのイメージを使わせてもらった。

何らかの原因が幼少期の慢性的なトラウマになり、それによって心身に不具合が生じること、と今回読んだこちらの本には書いてある。

著者は、前回読んだ「ポリヴェーガル理論」の訳者でもある。身体的なトラウマ治療に詳しく、巻末には詳しい用語集が付いていて、とてもいい。
トラウマ治療に関する範囲のポリヴェーガル理論については、この本を読めば十分だと思う。

そして何より、この本では虐待ほどではない「不適切養育(マルトリートメント)」に焦点を当てている。
親から身体的、性的な虐待を受けたわけではない。大学まで出してもらい、好きなものを買ってもらい、親の離婚なども経験せず、特に不自由なく過ごしたように思う、なのに生きづらいしいろいろな不具合が心身に出ている…そういう人に向けて書かれている。
不適切な養育を受けてきたことで、発達性トラウマを抱えてしまうことがあるのです、と。


分かりやすいし気づきやすい

本の内容は、とにかくわかりやすく書いてある。章や項目を細かく区切り、最初の方には不適切養育の事例がいくつも載っている。「え、こんなことで?」みたいに感じるだろうものもある。
不適切養育を受けた人は、自覚を持ちにくいのだそうだ。「でも育ててくれたし」とか「愛されていたし」と思ってしまう。
結果、自分が受けた不適切養育を自分の子どもにも繰り返し、連鎖していく。怖い怖い怖い。

そして、なぜそういった不適切養育がトラウマになるのか?ということを、ポリヴェーガル理論の詳しい解説と共に丁寧に書いてある。
今の自分はメンタルが弱いとか性格が悪いというのではなく「神経系の調節方法をうまく身に付けられなかった」だけなのだ、と。
生き延びるためのものだったのだから。

あとは、何より日本の人が日本で育った人向けに書いてあるというのが、わかりやすさの原因の1つだと感じる。事例などがすんなり入ってくる。トラウマ治療の本は海外のものが多いので、こういった本を読むとホッとする。


気付いたらどうしたらいいのか

じゃあどうしたらいいのか?ということもちゃんと書いてある。

セラピストの選び方、トラウマ治療の情報も載せてある。EMDR、ソマティック・エクスペリエンシングなどなど。著者がソマティック・エクスペリエンシングのセラピストでもあるので、その情報が中心になっている。
それから、ポジティブシンキングやアサーション、マインドフルネスの注意点なども書いてある。トラウマを抱えた状態であることを考慮しないで、健康な人に向けたメンタル調整法をいきなり試すことは慎重にしないといけないらしい。

そして、親を許すことや親が悪いということなのか、などにも触れている。
この本の後半部分は本当に勇気づけられるところが多く、心に沁みた。

「自分の状態に問題があると感じることも、力なのです」
「『自分は今よい状態ではないから、なんとかしたい』と感じられたということは素晴らしいことなのです」
「その人が悪いのではなく、その人が子どもだった時に悪いことが起こったのです。その人が失敗したのではなく、親が失敗したのです。(中略)親から差し出された、自分の姿を映す鏡の方が歪んでいたのです」

そして「トラウマ後成長(PTG)」についてもこう書いてあった。
「トラウマを体験し、その恐ろしい体験から再び立ち上がった人は、普通の暮らしをしていた人以上に力を発揮し、社会に貢献する」
社会に貢献してもしなくても、立派な人物になってもならなくてもいいのだけど、やってやろうじゃないかという気持ちに改めてなった。
私としては、もう普通にすくすく成長した人のことを羨ましいとは思わなくなった。私は私だし、今私は自分なりの成長をしている最中だと確信できているからだと思う。
でもまあ、不適切養育について考えると、すくすく成長してきた人なんて本当にいるの?という気持ちにもなる。


必要な人を専門家につなぐ本

この本にはセラピーやトラウマ治療について書いてあると共に、自分が楽になるためのおすすめの方法も書いてある。
ただ、それだけでは回復はしないだろう。神経系の調整方法を変えていくには、自分で何とかしようとしてもほぼ無理だ。そして、回復は本当に少しずつなのだ。

私も何度も実感として書いているけど、専門家と取り組んだ方が楽だし早い。カウンセリングやセラピーはぶっちゃけ「ダメな人」が行くという印象を持っている人が多いように思う。この本にも書いてあるけど、私は逆だと思う。
専門家に自分からつながれるというのは、それだけ力があって勇気があるということではないのか。

需要が高まれば、もっと間口が広がってトラウマ治療が広まり、いろんな人が受けやすくなるだろう。そういう日が来るといいなと心から思う。

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