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トラウマ治療について⑲「パーツワーク」

内的家族システム療法(IFS)

パーツについての本は、既に2冊読んだので、理論や概念についての理解は何となくできている。今回はIFS創設者であるリチャード・C・シュワルツ博士のこちらの本を読んだ。3月に訳本が出版されたばかりだ。


私たちはみんなパーツ(副人格)をいくつも持っている。それが常に自分の中で相互作用していて「こうすべき」とか「これはしない方がいい」とか、いろいろと葛藤したり強く思い込んだりしている。これは普通のことで、病的なものではない(解離性同一性障害になると、このパーツ同士が独立して極端に分離された状態になる)。

「心は一つ」という考え方だと、あるパーツの恐れや不安や怒りなどを欠陥だと感じて、そのパーツと自分自身を同一化して自分はダメだと思ったり、その「欠陥」を治療しようとしたりしてしまう。でもそれは欠陥などではなく、自分自身が生き延びるためのパーツなのだという考え方だ。

そうなると自己嫌悪に陥っていたあの言動もこの考え方も、私自身の欠陥とかダメなところじゃなくなる。それは私の中のパーツで、何かしらのきっかけや理由があって私自身を守ったり生き延びるために私の中で主張をしているということになる。こういう視点になると、自己否定など要らないし何の意味も無い。否定すべき自分はいないのだから。

そしてさらに大事なのは、どんなパーツも全て自分自身を守ろうという目的を持っていて、排除したり見ないことにしたりすべきではないということ。パーツは重荷ではない。好奇心と思いやりを持ってパーツの話を聞いて「なぜそういうことをしているのか、何を恐れているのか」を知って癒していく必要がある。

「こういう考え方本当に嫌だからそういうパーツはいなくなれよ」じゃなくて「何が怖いの?もっとあなたのことを教えて」だ。ちゃんと向き合うのがやっぱり大事なのだな。

「感情や思考を取り除こうとすればするほど、それが強くなっていくことに気づかされます。」とある。これは経験上身に沁みている。


結構シンプルなのかもしれない

これまでに読んだ本もとてもわかりやすかったのだけど「なんだか入り組んでいて私には手に負えなさそうだな」という印象があった。でも今回読んでみて、思ったよりもずっとシンプルなのでは?と思い始めた。

私の理解ではこんな感じだ。

  • 目指すのは「セルフ」によるリーダーシップ

  • パーツは「防衛パーツ」と「エグザイル(追放者)」に種類が分かれ、さらに「防衛パーツ」は「管理者」と「消防士」に分かれる

  • 防衛パーツはエグザイル(傷ついたパーツ)を封じ込めたり遠ざけたりするために働いている

  • 管理者はエグザイルが刺激され、その感情に圧倒されて私が苦しむことのないように、私を先回りして管理しコントロールしている。親代わりになってきた内なる子ども。子どもなのでやり方が稚拙だったり極端だったりする。疲れていてストレスを感じている

  • 消防士は管理者の先回り空しくエグザイルが刺激されて感情的反応が引き起こされた時に、緊急事態に対応すべくその感情から遠ざけようとする。そのやり方はさまざまで、いろいろなものに対する依存や私を傷つけるようなものまである(スピリチュアルな修行も使うことがあるらしい)

  • エグザイル(追放者)はインナーチャイルドのこと。トラウマや愛着の傷を受けて重荷を背負っている。その傷ついた場面から動けないままでいる。エグザイルの抱えている感情を再び体験するのは耐えられないぐらいキツい。なので、閉じ込めたり追放したりして気が付かないことにしている

  • 管理者も消防士もエグザイルも、みんな幼い。そして私のこともまだ幼いままだと思い込み「こいつに任せていたらどうにもならない」と信頼してくれていない

仕組みはシンプルに思える。
「エグザイルの感情を感じたくないので、管理者が先回りしていろんな手段で遠ざけようとする」
「エグザイルの感情が爆発した時は、消防士が緊急対応としてこれまたいろんな手段でどうにかしようとする」

で、この防衛パーツたちはしばしば私を乗っ取る。私がやっているように思えても、実は防衛パーツのことを自分だと思い込んでいるということらしい。そして、こういう状態だということは、防衛パーツがセルフとしての私を信頼していないということになる。「あいつに任せておいたら何もできないから何とかしなきゃ。あいつまだ子どもだし」と思われている。


「セルフ」と「ブレンド解除」

「セルフ」は自分自身の本質のようなもので、誰の中にもある。好奇心があり、穏やかで自信に満ちていて思いやりを持っている。どんなことがあっても、防衛パーツによって一時的に見えなくなることはあっても決して消えることはない。この防衛パーツに乗っ取られてセルフが見えなくなっている状態が「ブレンド」で、このブレンドを解除するとセルフが現れる。

上に書いたように、目指すのはセルフによるリーダーシップなので、まずはこのブレンド解除が必要になるという訳だ。もちろん「お前たちはどけ、出て行け」とやるのではない。好奇心を持って、パーツたちの話を聞いてリラックスしてもらう。そして「脇に少しよけてもらう」。私がもう大人であることを話して信頼してもらえるようになることが必要らしい。

この「脇に少しよけてもらう」というのが私にはうまく感覚として理解できなかった。お部屋に入っててね、とか、どこか安全な場所に連れて行ってここにいてね、というのではなくちょっと脇によけててね、ということなのか。SEで取り組むうちにわかってくるのかもしれないので、とりあえず保留にする。


自分に当てはめてみる

私を例にすると、布団や寝室を綺麗にしたい、汚したくないという強迫観念はおそらく私の防衛パーツ(管理者)なのだろう。エグザイルの感情から遠ざけるために、先回りして必死にこういう行動を取っている。「親代わりの子ども」なのだから、行動にアレ?というところがあっても当然だろう。子どものする行動なのだから。でももうヘトヘトに疲れている。

あるいは、本を読み漁るパーツもいる。管理者だと思う。私が不安になったり自分の価値を疑うことのないように、先回りして本をたくさん読むようにさせている。それによって不安から目を逸らし、自分の価値も付加されたような気持ちになれる。

他にも今思いつくだけでも、不安なパーツ、怒りに燃えるパーツ、人とすぐに比較して優位に立ちたくなるパーツ、自分の思い通りにして安心したくなるパーツ、きちんとやらなくてはと思うパーツ、お腹を壊すパーツ(最近見かけないが)、理由もなく夜更かししてしまうパーツなどがある。たくさんありすぎだ。

でも、これが普通ということなのだ。どれも価値があり、要らないパーツは無い。防衛パーツは守っているエグザイルが癒されると守る必要が無くなるので、その防衛パーツが本当にやりたいことをするパーツに変容するらしい。本当はスポーツがしたい、とか、のんびり散歩したい、とか。どのパーツも自分の内面の大事な一員という考え方はとても好きだ。


ワークもたくさん付いている

本文中にワークが14個載っており、巻末にもまとめられている。IFSのウェブサイトにはこのワークの音声データがあり、随時追加されていく予定らしい。やってみる価値はある。

ただ、エグザイルに触れるワークは無い。自分一人でエグザイルについてのワークをするのは避けて欲しいとのことで、専門家とのセラピーを勧めている。自分で行うのは、ブレンド解除やセルフへのアクセス、パーツたちのことを知ること、防衛パーツを理解することなどだ。あと、パーツマッピングというのもあって面白そうだ。

ちなみに、IFSでは「今ここ」の意識とか、グラウンディングとか、そういったことは一切不要らしい。


スケールがでかい

特に面白かったのは4章と5章で、自分の内面をパーツたちによるシステムと捉えるのは理にかなっているのだなと思った。

「問題に対して、体系的(システム的)ではない、脈絡のない方法でアプローチしているため、これらの問題に対する解決策はしばしば事態を悪化させ、地球を傷つけ、追放された人々を大量に生み出しています。」

このことは自分の内面にも当てはまる。問題が起きた部分だけを取り出して「ここが悪い、ここを無くそう」とやってもうまくいかないということなのだろう。これって、河合隼雄がユング心理学で話していた「コンステレーション」っぽい。もちろん同じものではないけれど。私はこういう考え方がとても好きだし、合っているのだなと思う。

ただ、シュワルツ博士はスケールがものすごくデカい。地球レベルでの考え方をしていて、自分自身の内面のことに目が行っている私にはちょっと壮大過ぎた。でも言ってることはわかる。トラウマを癒してセルフで生きる人が多くなれば、虐待も犯罪も減るだろう。そういえばSE(ソマティック・エクスペリエンシング)のラヴィーン博士も著書の中でのスケールがデカかった。行きつくところはそうなるのか。


パーツワークをやってみることにした

SEでパーツワークが始まること、この本を読んでシンプルだと思えたことで、ますますパーツワークに取り組んでみたくなった。
自分でやってみた記録はまたここに記録していきたいと思っている。


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