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トラウマ関連の読書記録㉒「ACE研究と医療」

続編に見えるけど続編じゃない

この本は前回の㉑で取り上げた「小児期トラウマがもたらす病」と同じ出版社から出ている。デザイン的にも続編?という印象を受けるが、そうではない。まず著者が違う。同じACEを扱っているが、違うアプローチで書かれている。

でもそれなりに面白かった。アメリカってここまで取り組んでんの?と正直びっくりしたし、同時にここまではっきりしているものがなかなか広まっていかないのって何なんだろうとも思った。これは日本も同じだけど。


著者は小児科医

著者は医師であって心理士などの心の専門家ではない。自分の患者達を診ることで「小児期の有害なストレス」と病気の関係性に気付き、ACE研究の存在を知る。子どもの有害なストレス治療に特化した総合的なサービスを提供する施設を設立し、TEDトークに出演し、ACE検査を通常の検査として広める活動をしていく様子が書かれている。ものすごく偏った見方をすると、この著者のナディンさんのサクセスストーリーという感じだ。

なので、そもそもの視点が違う。公衆衛生とか地域のメンタルヘルスとかスクリーニングとか、そういう面を中心に論じているので「闘うツールってタイトルにあるのだし、ACEやトラウマを回復に導く具体的な方法が載っているのかな」と思って読んだら肩すかしを食らう(私のことだ)。

トラウマ回復を目指していて、自分の内面のことに向き合うための情報を知りたいという時に読む本ではないなと思う。とは言え、後述するがとても興味深い内容やACEについての詳しい内容もちゃんと載っているし分かりやすい。ただ、どちらかと言ったら赤の「小児期トラウマがもたらす病」の方が当事者向きだと思う。


あなたも私もACE持ち

ACEはとにかくあらゆる地域で、階層で見られる。著者の知り合う優秀で恵まれた(ように見える)人たちにもACEを持つ人が多いし、この著者もそうだとある(母親が精神疾患だった)。ACEは自覚して治療をしない限り、家族でも地域でも世代間連鎖していく。これは世界中どこの国や地域でも同じだ。

でもACE検査はなかなか受け入れられず広まらない。なぜか。
「人々はなぜこれほど逆境の科学に抵抗し、基本的な生物学的事実に名前と数字を与えることに反発するのか?その答えは、細胞レベルまで掘り下げ、あるいは生物学的なメカニズムを突き詰めていくと、それが私たち全員の話になるからだ。逆境に直面すると、誰もが等しく影響を受け、助けを必要とする。そしてそれは、みんなあまり聞きたくない話なのだ。」

そう、向き合うのはとってもしんどい。大人になればなるほど時間もかかるし労力もかかる。見ないフリしてどうにかやり過ごす方が楽だと思いたくなるのは分かる。ただ、見ないフリをしていても身体に症状が出てしまったりいろいろな疾患にかかってしまったりするわけだが。


私のことが書いてある

読んでいて思わず声が出てしまったところがある。このくだりだ。
「予防注射の際にどれだけ騒ぐかで、その子のACEスコアをだいたい予想できる。」
私は幼少期、注射にひどく怯えた。逃げ回って暴れ、注射の針が曲がったことがあると母から聞いた。
「こうした極端な怯え方は、通常の注射恐怖症とは異なり『熊だらけの森』にいる状態の反応である。」

そして、この時の親の状態も有害なストレスが生じる重要な鍵となるらしい。親から優しく抱きしめてもらったり、なだめてもらったりすることがほとんど無い子どもは特にひどい反応を示したとある。私もそういう時に母からなだめてもらったことは無く、いつも怒られていた記憶がある。「恥ずかしい」「よその子達を見てごらん、どうしてあんな風にできないの」等とよく言われていた。

毎回のEMDRでも、こうやって本を読んでも、私は当時辛かった、私が悪い子だった訳ではなかったとつくづく思うようになった。怖くて怯えていただけで、恥ずかしいことでも何でも無かったんだ、と。


親は子どもの緩衝剤になれるか

この本は世代間連鎖を止めるために親や大人が子どもにできることが多く書いてある。子どもが有害なストレスから回復していくために親や周りがどう関わるかということだ。

子どもにだって生きていればストレスはある。許容範囲のストレスであれば別に構わない。防ぎたいのは有害なストレスに晒すことだ。トラウマにしないということなのだと思う。
「許容範囲のストレスを有害なストレスに変えないようにするには、ストレッサーの影響を軽減してくれる大人の存在がカギとなる。」
これもいろいろな本で異口同音に書いてあることだ。

有害なストレスに対する治療法は、逆境を減らすことと共に「保護者の健全な緩衝剤になる能力を高めること」とある。これは、保護者自身が健康で健全でなければできないことだ。なので、まずは親から回復して健康になる必要がある。子どもにだけ治療していても意味が無い。

「あなたのストレス反応がおかしくなっていたら、子供のストレスを制御しようと思っても不可能なの。」
「強力な緩衝剤を持つ子供の回復力は計り知れない」
「ストレス反応を配線し直すのに遅すぎることはないわ」

もちろん、大人は時間がかかるとも書いてある。
「一番重要なことは、まず問題が何かを認識すること」
「過度のストレス反応を起こす人の多くは自分の体内で何が起きているかをわかっていないため、問題の原因を探り当てる代わりに、症状を追いかけることばかりに時間を費やすこと。だがひとたび何が起こっているかを理解した人々は、治療への第一歩を踏み出していくこと。」


これができれば苦労しないよ

じゃあどうするのかという対策も書いてある。
「睡眠、運動、栄養、マインドフルネス、心の健康、健全な関係」に取り組むとある。

うーん、でもトラウマ持ちの人にはこれらの項目はやろうと思っても簡単ではないんじゃないかなと思ったりもする。眠れない人もいるだろうし、フラッシュバックがきつくてマインドフルネスが禁忌の人もいるかもしれない。回復してきてようやく自分の事を大事にすることができるようになったりとか。とは言え、全部の項目を一気にやるのではなく、まずは「心の健康」から取り組むのかなと思う。

ACEとかトラウマの無い人にも結構ハードルが高い項目だけど、「一般的には、6つの項目が満たされるほど、ストレスホルモンが減り、炎症が抑えられ、神経可塑性を高め、細胞の老化が遅くなると言われている。」

分かるけど!でもそんなに簡単じゃないよ、簡単に言わないでくれという抵抗が私の中にある。でも私だってこの6項目はいずれ全部取り組みたい。今は「心の健康」「健全な関係」に取り組んでいるところだけど。


そのADHDはトラウマ由来か

この本の中でよく出てくるのがADHDの子どもだ。ACE研究について知って以来、著者は自分のクリニックでACE検査を必ず行うようにした。そしてADHDと見られる子どもが来院すると、ACEのスコアがゼロであれば通常のADHD検査を行い、スコアが高ければ有害なストレスの治療を行う、という判断をしていると書いてある。

「ACEスコアが高いということは、衝動制御の欠如や集中力の低下を意味し、これは子供が学校でうまくやっていくには大きな障害だ。」

私も小学校低学年の頃は、癇癪がひどく弟や近所の子に乱暴だったりと落ち着きの無い時期があった。成長するにつれて無くなり、今はASD傾向が強い感じがしている(知能検査は受けたがそういう傾向だと指摘されただけで、別に診断は下りていない)。あれはおそらくトラウマ由来だったのだろうと思う。

これについてはあまり軽率なことは言えないが、確かにそういう場合もあると思っている。そういう場合は、トラウマ治療をするとADHDの症状が消えるらしい。この著者が書いているようなACE検査のスコアを判断基準にできれば、いろいろなものが見えてくるのかもしれない。でも日本では難しいのかもしれないなとも思う。


そろそろインプットはいったん終わりの時期かもしれない

トラウマ関連の本はどれも面白く読んできたけど、ここ最近は「もうそれは知ってる」と思うことが多くなってきた。どの本も面白く新たな発見があるけれど、素人のトラウマ当事者としては、この辺でインプットはいったんおしまいにしてもいいかもしれない。読みたい本があれば読むけれど、自分から探すのはもういいかなと思う。それよりも、自律神経を整えたり睡眠をしっかり取ったりしようよと自分に言いたい(と書きながら、今まさに夜更かししている)。これまで読んだ本を再読もしたいし、トラウマ関連以外の本も読みたいものがたくさんある。

と書きつつも、面白い本を見つけたのでまだ読んでいる。まあどちらでもいいけど、強迫的に読むことはもうしないだろうと思っている。



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