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トラウマ関連の読書記録㉑「逆境的小児期体験(ACE)と心身の疾患の関係」

逆境的小児期体験(ACE)

この言葉はトラウマ関連の本を読むと結構な割合で出てくる。私もEMDRのセラピストにこの言葉を説明されたことがある。小児期のトラウマと深く関連している。


ACEについての説明は、このサイトが分かりやすいと思う。このサイトを読んだら「あれ、この本読む必要なくない?」と思ってしまったが、私にとってはこの本は一番最後の章が肝だと思ったので、やはり読んでよかった。

ACE研究により「さまざまな子ども時代の逆境と、成人後の身体疾患および精神障害の発症には、明らかに科学的な因果関係があることが証明されている」。もちろん、成人後に病気になる要因はACEだけではないが、可能性が高くなることは否定できないらしい。

この本にACE質問票が載っているが、10項目のみのシンプルな質問だ。そして、これに全く当てはまらない子ども時代を送った人の方が少ないのではないかと思うぐらいだ。ちなみに、上に貼ったサイトにも質問票へのリンクがある。私は3つ当てはまった。当てはまる回答数が多いほど深刻だが、かと言って1つだから大丈夫というものでもない。

「子どものころの精神的なショックを大人になってから器質性疾患に変える」とあるが、その病気には慢性的なものが多い。自己免疫疾患、心臓病、炎症性腸疾患、片頭痛、持続性抑うつ障害など。私のバセドウ病もそうだし、過敏性腸症候群なども当てはまる。心当たりがありすぎる。

ちなみに、上のサイトにもあるが、女性の方がリスクが高いそうだ。思えば甲状腺の疾患も、病院の待合室は女性ばかりだったな。その医学的な理由も本の中に書いてある。


深刻な虐待だけではない

自分はちゃんとそれなりに育ててもらったし、虐待なんて受けていないし…みたいな考えに後ろから蹴りを入れてくるのが、「軽度の小児期逆境も見過ごせない」という部分だ。

ACE調査の回答を分析した結果、特定の項目が突出して影響を及ぼすわけではないらしい。家族間の愛情不足や両親の仲違いなども、発達段階の脳へのダメージになる。比較的長期間というのがポイントらしい。まあでも、親の仲違いや親の不安定さなどが短期間であっという間に終わることの方が珍しいだろう。

あとは、家族間の問題だけではなく、学校でのいじめやけがや病気によるトラウマも影響を及ぼす恐れがある。とにかく、現在抱えている健康問題に小児期が大きな影響を及ぼしている可能性があるらしい。
「幼年期や小児期は終わることなく、乾いていないセメントに残る子どもの足跡のように一生消えない」らしい。辛い。

ACEが身体に及ぼす影響についての医学的な解説や、成人後に身体に影響の出た事例などを載せつつ本は進んでいく。後半にはちゃんと回復についてなどが書いてある。


大事なのは頼れる大人の存在の有無

幼少期のトラウマについての本を読むと出てくるのが「1人でも信頼できる大人がいたかどうか」だ。これがとても大事なことなのだ。「いまの状況はきみとは関係ない、きみのせいではないとはっきり言ってくれる大人」の存在。頼れる人がいて、愛情を注がれれば、脳は深刻な損傷を受けずに済むとある。それは親でなくていいらしい。親戚でも祖父母でも学校の先生でも近所の人でも。

不運なことに、私にはそういう存在の大人がいなかった。両親ともに実家は遠方で、家庭の本当の状況を常に知っている親戚もいなかった。みんなそれぞれ自分たちの抱えている現実でいっぱいいっぱいだった。やはり両親共に、そのきょうだい達にもそれなりに何かがあったのだと今はわかる。

私の学校の先生や近所の人たちにも、特に私が頼れる存在はいなかった。何かひどいことをされた訳ではないが、よそよそしく薄い関係性ばかりだった。大人は誰も信頼できないと感じていたのを覚えている。私が可愛げのない子どもだったのかもしれないが、そうやって自分の責任にしていいことでもないなと思う。とにかくずっと孤独だった。


脳は修復可能

小児期の逆境が身体に影響を与える仕組みと共に、このストレスによるダメージを回復する方法も解明されてきた。
「小児期のストレスが慢性の成人病や対人関係の問題につながると理解するだけで大きな解放となる」「小児期の逆境が神経系に残した傷跡を消すために、科学に基づいた必要な措置を取ることができる」「選ぶのは自分だ」「私たちは脳を再起動することができる」

回復する方法もいろいろと書かれている。トラウマ治療ということになるので、ソマティック・エクスペリエンシングやEMDRなども紹介されている。あとはマインドフルネス瞑想なども。自分に合ったものをやるといいのだろうけれど、どれか1つの方法のみで回復するということは無いらしいので、試行錯誤するしかないのかなと思う。

この本では瞑想で「大きなものと繋がった感覚がして安心感を持てた」と回復できたように書いてあったけど、現時点の私には合わないなと思う。抽象的でざっくり過ぎて、性に合っていない感じがするのだ。もっと自分の内面を詳しく見つめて分解していくようなものの方が合っている。IFSとかEMDRとか。

人それぞれだよなあ、それにしても瞑想だけで回復するんか?…と思いながら読み進めていたら、その後に出てきたEMDRなどのセラピーで同じ事例の人が瞑想に加えて受けていたりしたので、やっぱり合わせ技になるのだなと思った。


そんな状態なのに親になっちゃった皆さーん

最後の章が、そんな逆境的小児期体験のある人が親になった時の子育てについて書いてある。私には必見だ。「子どもや家族を救うのに遅すぎるということはない。子ども時代が幸せだったかどうかは、一瞬で決まるわけではない。いまからでも手を差し伸べて、変えることはできる」
「頭はきわめて”柔軟”で、経験によってすぐに変わる。何歳になっても健全でバランスの取れた精神状態に導くことは可能だ」

ちなみに完璧な子育てや完璧な親は存在しないと断言している。ですよね。そして、自分のことを責めない。親である自分が具合悪かったり精神的にキツい状態で、子どもを不安な気持ちにさせたとしても。
「子どもに対する”過ち”で自分を責めつづけていれば、みずからの精神的な問題にとらわれ、子どもとの関係を築けなくなる」
私って何てダメな親なんだろうとか言ってる場合ではない。いつからでも変えられるし修復もできる。上書きできる。でも、それはできるだけ早い方がいいともある。

「子どもたちにとって大事なのは、そのときの経験であなたがどう関わっているかということ、そしてかつてはトラウマとなる人生だったとしても、子ども時代が終わる前に、いま安定しているということです」


親である自分ができること

一番の秘訣は「とにかく何ごとにも大げさに反応しすぎないこと」だそうだ。大げさに反応しすぎると、自分のことしか見えなくなりますよね、わかります。

「あなたと子どもを助ける14の方法」は、かなり参考になる。これまでに読んできた本の内容とも一致するものも多い。一番最初は「自分の『荷物』を管理する」とある。これは「自分の未解決の問題を管理し、子どもを自分の子ども時代と同じ目に遭わせないようにすること」とある。つまりは自分の幼少期を振り返り、トラウマがあるなら回復すべく取り組むということなのだろう。

「子どもが深い愛情を抱くかどうかは、親が自身の子ども時代の経験をどれだけ理解しているかで決まる」「よい親であるためには、まずは自分自身をいたわることが必要だ」
不思議というか当然というか、自分の内面の傷に向き合って癒すと、物ごとに敏感に反応しなくなってくるのを実感している。「そういうのもあるよなー、まあいっか」となる。子どもに対しても「まああの子が考えることだしいっか」と一歩離れて見守ることができる。

その他にも、子どもが「気にかけられている」「安全」「落ち着かせてくれる」「守られている」と感じるように心がけるとか(これも親自身が自分のことを同じように扱うようになると、自然にできるようになるのではないかと思う)、子どもの感情をありのまま受け止めるとか、厄介な感情に名前を付けるとか、いろいろある。ですよね!というものばかりだった。

思うのは、無理にやらないとと思って行動すると逆効果なのではないかなということだ。自分の心はそれどころではない状態なのに、子どもの感情をありのまま受け止めることができる訳が無い。その前に自分の感情を自分でありのまま受け止めないと。というわけで、やはり「自分の『荷物』を管理する」ことからなのかなと思う。


自分の内面を探求し、傷を癒すことで得られるもの

小さい頃から辛い思いをして、その挙句に身体に症状が出たり病気になりやすかったりキツイことばっかりでやってられんと思うが、それでもそうやって自分を受け入れるために向き合うことには大きな意味がある。

「人生の終盤を迎える65歳から84歳までのあいだに、小児期に一度も逆境を経験していない人は逆境を経験している人よりも炎症ホルモンの値が高くなるというデータがある」
「みずからの経験の意味を探し求め、過去を複雑なアイデンティティに取りこみ、いまの自分をつくりあげていることを認められれば、私たちはより深く自分を受け入れるようになるのだろう」

年を取り老いていき、自分の衰えや病気、自分自身や周りの人間の死に向き合わなくてはならない時に、きっと今取り組んでいることが大きな助けになると私は信じている。この年になって子ども時代の傷を癒してどうするんだ、ではない。この年だからこそなのだと思う。放っておいたら良くなるものでもないのだから。


身体に意識を向けるといろいろなことが見える

自分の持病だけではなく、頭痛や腹痛、肩こりなどの身体の痛みや倦怠感など、身体の感覚に意識を向けると自分のトラウマなども見えてくるように思う。気のせいかもしれないけど、私がそう感じているのならそうなのだと思うことにしている。




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