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トラウマ関連の読書記録㉛「コミュニティ・レジリエンシー・モデル、SCOPE」

ついにこんなマニアックな雑誌に手を出した

Xでたまたまこの雑誌の情報が流れてきた。「精神看護」って、どう考えても支援者向けの専門誌だ。でも、専門家向けにどのようなことが書かれているのか読んでみたくなり購入した。マニアックすぎる。

「精神看護」は、月刊では無いらしい。次号予告には11月号が載っている。バックナンバーの案内から推測すると、奇数月に出ているようだった。どれも表紙の写真がとてもいい。今回の表紙の基調になっているブルーはとても好みの色だ。

お目当てのトラウマからの回復についての内容は特集記事として扱われており、それ以外は連載や能登半島地震のメンタルヘルス活動の報告などが載っている。読み込んだのは特集記事だけだが、他の記事も連載も流し読みしてみた。巻頭の「傍らでいて」という連載と、「それは<支援>か<施し>か」という特別記事(トラウマを抱えている方の書いたものだった)が心に残った。そして書評の「発達障害Q&A」についても面白く読んだ。

ただ、巻末の読者投稿の内容が「『毒母』という役割を担わされる母たち」というもので、「あなたはそう思ってんだろうけど知らんがな」という感じだった。ちなみに私は自分の母を毒母だとは思っていないけれど。自分がどう思っていようが子どもにそう思われているんだったら納得いかなくてもそういうことなんでしょうよ、ジタバタすんなよ、と思った。


「毛づくろい信号」=身体症状

特集は3つの記事から成っている。1つ目は看護師がトラウマを抱える患者をケアする視線で、ポリヴェーガル理論や患者のケア、看護師自身のセルフヘルプなどが書かれている。

その中にデズモンド・モリスの著書にあるサルの慰安としての「毛づくろい信号」について以下のように解説してあって、ものすごく納得した。

「モリスはこの知見を人間に拡大し、人間にとっての『毛づくろい信号』は咳、頭痛、腰痛、発疹、喉の炎症などのよくある身体症状であると言っています。こうした症状が出ると、人は休息と慰安を求め、周囲の慰安行動を引き起こすのです。周囲から十分なケアが得られない場合は、医療の専門職へと向かうことになるとモリスは言います。
であれば、症状を出している人が求めるのは、必ずしも治療や薬ではないということになります。場合によっては、治療でさえないのかもしれません。苦しみの中で生きてきた人は、苦しみが消えることを切に望みながら、一方で自身の一部ともなっている苦しみを手放したくないと無意識のうちに思っていることもあります」


トークセラピーの限界

3つ目の記事ではトークセラピーの限界と身体的アプローチについて書かれている。内容はこれまでに読んできた本でも多く見かけたものだったけど、書き方がわかりやすい。海外で書かれたものを翻訳してあるものと、日本語を使う人が日本語として理解した上で書くものを比べると、同じ内容でもやっぱり後者の方が断然頭に入りやすい。

これまではトークセラピー(言語的アプローチ)が主流だったが、トラウマ治療については限界を指摘する声が上がっている。治療は「安定化→トラウマ処理→統合」という3段階で進められるが、重症であるほど治療の最初の段階である「安定化」の対応でいっぱいになってしまう(「安定化が不十分なままトラウマ処理に進むと、かえって不安定になる」)。そして「トラウマの症状は心理的な問題以上に身体反応と密接に関わっている」のに、アプローチが十分でない上に、トークセラピーだけだと自律神経系の調整不全への配慮が不十分であること等を指摘している。

日本では漢方や鍼灸などの東洋医学も知られていて「心身相関」はなじみやすいとあるが本当にその通りで、こういった方法も身体からのアプローチの際にうまく使っていけたらいいのにと思う。私はトップダウンもボトムアップもどちらも必要なのだと改めて思っている。


コミュニティ・レジリエンシー・モデル(コレモ)

2つ目の記事は、ソマティック・エクスペリエンシング(SE)プラクティショナーである臨床心理士の方が書かれている。SEの資格を取る際のトレーニングについても書かれていて興味深い。この方が記事の中で「コミュニティ・レジリエンシー・モデル(コレモ)」と「SCOPE」について紹介している。これがものすごくよかった。

コレモは本やネットで名前だけは見かけたことがあるが、どんなものかは全く知らなかった。この心理士さんは公立小中学校のスクールカウンセラーとしても活動されているのだが、不登校や癇癪や暴言暴力などのケースについての相談がひっきりなしに持ち込まれてくる。

「話を聞いているだけで解決できる問題は、ほぼありません」
「学校で見るケースもご多分に漏れず、防衛反応でいうところの『闘争/逃走』反応から『凍りつき』に入る、もしくはいきなり『凍りつき』から始まっていることが多いのです」

ただ、学校でスクールカウンセラーがセラピーを行うことはできない。その時にこの「コレモ」を利用しているらしい。
コレモは「自律神経系の自己調整機能の安定化を目的とした身体感覚を用いた介入が、たとえ短期的なものであっても気分の改善やPTSD発症の軽減などに有効であると見出し、一般の人でもセルフケアとして活用できる知識とスキルを学べる方法として」開発されたとある。自分でできるものだというのがとてもいい。

コレモでは心理教育として自律神経の働きを「大丈夫ゾーン」「ハイゾーン」「ローゾーン」という言葉で説明している。「大丈夫ゾーン」は耐性領域のことだな。こういった心理教育に加えて、6つのウェルネス・スキルで構成されている。
これはいいと思った。教育の場で子どもに対して利用するのは効果があるだろうと思う。

「”子ども(の自律神経系)に何が起きているか”を把握するのに大変便利」
「ストレスやトラウマの影響で大丈夫ゾーンを飛び出してローゾーンやハイゾーンに入っているのであって、子どもが『怠惰』であるとか、『わざとやっている』わけではないのだ、ということを理解してもらうのにとてもよいです」


SCOPE

コロナ禍の2020年にソマティック・エクスペリエンシング・トラウマ研究所が「SE 危機的状況においてのセーフティエイド」を発表したのだが、それがこのSCOPEというものであるらしい。
「危機やストレスの時期に、人々が自己調整し安定するのを支援する包括的なツールセットです」

以下のSCOPEのそれぞれの頭文字で始まる簡単な5つのエクササイズになっている。
1. SLOW DAWN
2. CONNECT TO BODY
3. ORIENT
4. PENDULATION
5. ENGAGE

詳しい解説と動画についてリンクが紹介されていたので、そのページを貼っておく。内容はSEのはじめの一歩のようなもので、効果があるだろうと思う。


セルフケアできるって大事

セラピーを受けていたとしても、それ以外の時間でしんどくなる時だってある。そういう時に少しでも楽になれる方法を知っておいたり、自分のことをケアするのを継続するのって大事なことだと改めて思う。

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