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トラウマ関連の読書記録⑩「レジリエンス」

今まで読んだ本の中でベスト1だった

前回のソマティック・エクスペリエンシングの本の訳者繋がりで読んでみた。購入時はこれまで読んだ本と変わらないだろうし、読む必要は無いかもしれないと思っていた。

ところがどっこい、私にとっては最も解像度が高く、いろんな理論を繋げてとてもわかりやすく早期トラウマについて書いてある本だった。ベスト1である。めーーっちゃくちゃ面白かった。


早期トラウマで失われていくもの

序文はピーター・A・ラヴィーン博士(ソマティック・エクスペリエンシングの提唱者)が書いている。私的には胸熱だ。
そして、まずは「早期トラウマによりどのように健全な発達が損なわれていくか」ということが書かれている。愛着、協働調整、内受容感覚といったものがどのように発達していくのか、そして早期トラウマによってどのように損なわれていくのか。

ちなみに、愛情あふれる親であっても、出生時に医療措置を受けたり、幼少期に親から離されて長期入院したりすると、早期トラウマになることがあるらしい。確かに治療のために押さえつけられたり、親から離れて入院したりするのは心の傷になるだろう。

この本には「調整」という言葉が何度も出てくる。
「恐怖・悲しみ・怒り・欲求不満などの感情が高まっているときに、自分自身を落ち着かせ、感情をうまく収めていく能力」のこととある。
人は、この「調整」の能力を早期の養育者との愛着形成を通して獲得するのだそうだ。

子どもは自分の感情を自分で調整することはできない。親などの養育者が強烈な感情を味わっている子どもの神経系をなだめる役割をする。この相互作用を「協働調整」と呼び、協働調整が継続的に行われていくことで、子どもの神経系は発達していき、調整の能力を獲得していく。

養育者と子どもとの愛着や協働調整が損なわれていたら、成長してから自分の感情を調整する能力を獲得できないままになっているということになる。つながりの感覚も、内受容感覚(自分の内的状態に気づくプロセス)も発達しない。

子ども時代に自分の感情を受け止めてなだめてくれる大人が周りにいるかどうかというのは、私が思っていたよりもずっと重要だった。そしてそういった大人がいないこと、大人はいてもそういった関わりをしてもらえないことで損なわれるものが、かなり深刻だということがわかった。

小さい頃に発達させることができなかった能力を育てなくてはいけないのだから、時間も労力もかかるわけだ。脳には可塑性があるとは言っても、そんなに簡単なことではない。


トラウマは受ける年齢によっても影響が違う

この本では、胎児期や周産期のトラウマや出生数日から数か月にかけてのトラウマなどが出てくる。この時期は神経系が発達する決定的な時期なのだそうだ。妊娠中の母親のストレスや出産時のトラブル、出生後の愛着の形成不全などがあると、その後の成長や発達に大きく影響する。

トラウマ研究の本を読み始めるまでは、赤ん坊や記憶が無いぐらい小さい頃のことは、忘れてしまっているのだからあまり関係が無いと思い込んでいた。それはまったく正反対だったわけだ。意識できる記憶にはなくても、身体が記憶している。重要な発達の時期を妨げた影響は、大人になってもずっと残り続ける。怖い。赤ん坊だからって舐めんなよってことか。

例えば私は、おそらく胎児期や周産期、0歳から3歳ぐらいまでの時期はさほどのことが無く過ごしてきたのだと認識している。母は時々突拍子も無いことをするけれど、まだ母にも余裕があり、家庭も落ち着いていたように思う。その時期の神経系やある程度の調整能力の発達がそれほど妨げられていないのかもしれない。


逆境的小児期体験(ACE)

この言葉はEMDRのセラピストからセッションの際に何度も聞いていたので知っていた。早期トラウマの原因となる体験のことで、行動や健康問題の間には強い相関があることが実証されている。

ACEは特別なことというのではないらしい。1つ程度であれば広く一般的にも経験されていることだとある。そして、ACEにより癌や心疾患などの慢性疾患や精神疾患にかかりやすく、暴力の加害者や被害者になる可能性が高く、経済的・社会的な健康問題はこのACEに大きく関係している。
「子ども達を苦しめているのは貧困ではなく、ストレスである」

ACEや早期トラウマは何もかもダメにしていってくれるではないか。
子ども時代に損なわれたものがあると、成長してからもこんなにダメージを受け続け、悪循環にハマってしまう。
不安になりやすいとかそんなものだけでなく、癌?心疾患?冗談じゃない。

やはり身体と心の問題を切り分けて考えるのには無理があるのだ。
この本にも「健康問題を単体として扱うのでは不十分であり、それらの問題の根本原因であるトラウマに働きかけることが必要である」とある。
そんな状況に日本の医療が追いつくのはいつ頃になるだろう。知っている人だけが対策を打てるようでは意味が無い。


レジリエンス

この本の後半には、レジリエンスを築くためにはどうしていったらいいのか、という回復のための過程が書いてある。臨床家に向けて書かれた本のため、クライアントのレジリエンスを築くためにどう理解し支援していったらいいのかという内容になっている。

レジリエンスは「自己回復力」のことだが、この本では「逆境にもかかわらず、積極的に心理的、感情的、社会的、精神的な成果を挙げることができる能力」と定義されている。
このレジリエンスの発達を支える重要な要素というのが以下の4つである。
・支持的な大人と子どもの関係
・自己効力感と事態をコントロールできるという感覚
・適応力と自己調整能力
・信頼や希望を与えてくれる文化的伝統などの存在

ちなみに、レジリエンスの発達には生まれながらの素質は大きな影響を与えないのだそうだ。子どもがレジリエンスを発達させるために最も重要なのは「親、養育者、その他の大人等、誰か一人の人と深い安定した関係を持つこと」。
…これは私には全く無かった要素だった。とにかく、大人との関係性という文脈の中で育まれるということなので、これまで私の中にレジリエンスが発達していない状態だったのは無理もないことだった。それどころかトラウマによって否定的な影響を受けてきた。それを今、育てなおそうとしている。


私の適応は偽りの防衛的反応なのか

人は生き延びようとするため、間違った方法を使ってでも適応しようとする。調整の能力が発達していないため「耐性の窓=刺激を受けても過度に覚醒せず、自然に落ち着きに戻れるような最適な状態の範囲」にとどまることができていないにも関わらず、自分で「偽りの耐性の窓」を作り出し、見せかけで「適応」できているように振舞うことがあるらしい。この適応は、結局防衛的反応なので本当に調整ができている訳ではない。

「私安定してますよ」という風に見える場合でも、内側では「偽りの耐性の窓」の中に留まっており、本物の調整を行っていないことがある。でも本人も気づかない。読者である臨床家には、見分ける目を持つように書いてある。私自身がそうだとしたら、もう自分ではどうにもならないってことなのか。確かに気づいていない人なんてたくさんいそうではある。私も前まで自分の状態に気づいていなかった。
自力でどうにかするなんて、とてもじゃないけど無理だと改めて思った。


これまでに学んだ知識が繋がった感じ

トラウマ治療に関する本を読み漁ってきたが、それぞれの治療や理論の提唱者が書いた本を読むことが多かった。愛着、ポリヴェーガル理論、自律神経系の調整、世代間連鎖、身体的なアプローチの必要性…全て繋がっているのはわかっていたものの、この本で一気に理解が深まった。

時間はかかるし、何も回復していないように思えてしんどくて絶望する時期もある。でも、少しずつ回復していくのだ。

誰かに「トラウマ治療関係の本を読みたい」と言われたら、その人のタイプにもよるけれど、まずは「その生きづらさ、発達性トラウマ?」をお勧めしたい。

そして、さらに「まだ自分読めます」という人には、今回の本を勧めるかもしれないが、それはあくまで私の個人的な感想である。

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