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「はるのゆき」が降る日に、深呼吸をして

抜けるような水色の空に、ひらひらと雪のように舞い散る桜。昼食用に残り野菜とウインナーでスープを拵えて、近所のパン屋に娘とふたりで向かう途中、あまりにも気持ちのよい春の風に誘われて、立ち止まって空を見上げて大きく息を吸い込んだ。

自分で選んだ大好きなパン(ぶどうパン)が入った袋を小さな手にしっかりと握りしめた娘が「はるのゆきだあ〜!」と桜並木へ駆け出していく。ちなみに娘は、桜のことを「はる」と呼んでいて、桜が現れると「はるがきた〜!」と喜び、桜が見えなくなると「はるがいなくなっちゃった」と寂しそうにしていた。その光景があまりに微笑ましくて、なんだか胸に込み上げるものがあって、追いかけて、パンは桜の木の下で食べることにした。

桜が咲き始めた頃に、夫と娘と3人でランチをしたアジア料理のお店は閉まっていたけれど、桜並木は、お花見をする人たちで溢れて賑やかな例年の雰囲気とはまた違う、散歩をする親子や老夫婦がちらほら、なんとも穏やかで伸びやかな風景が広がっていた。娘とベンチに腰かけて「おいしいね」とふたりでパンを分け合っているうちに、張り詰めていた心が少しずつ溶けていく感覚がした。

思えば私はここ1週間ほど、保育園の送り迎え以外、外の空気をちゃんと吸っていなかった。もともとフリーランスの在宅ワークではあるけれど、取材や打ち合わせはすべて延期あるいはオンラインになって、人と会って雑談したり、移動をしながら気分転換することがなくなった。御多分にもれず、週末に友だちと会う予定やイベント事など、楽しみにしていたことも軒並み中止。SNSやメディアから無意識のうちにコロナ情報、世の中の不穏な空気ばかりをたくさん吸い込んでしまっていた。だからこそ、春の陽気がそうさせるのか、穏やかに流れる外の空気が美味しくて、気持ちよくて、生きた心地がしたのだと思う。

自宅で過ごすことにも飽きていたのか娘も「帰りたいくない」と駄々をこね結局、桜並木から公園をはしごして、娘が眠りに落ちるまで、散歩した。その間、「はとさんにバイバイしてなかった!」と鳩に喋りかけたり、風が吹くたびに「はるのゆき〜」と天を仰いだり、娘の言動に、なんどもふたりで笑い合った。「おかあちゃんの名前は?」「ゆりか!(正しくはるりか)」、「パパのお名前は?」「チームラボ!(正しくはたかし)」というのにも笑った。2歳半の娘とのおしゃべりは本当に楽しい。

娘が名前だと認識してしまうほど、なぜか相変わらず夫は忙しく、現在も福岡に出張中。自粛ムードが続くなか、正直、娘とふたりっきりで過ごす週末はちょっと憂鬱だった。ひとりだったらひたすら本を読んだり、Netflixを観たりしているだろうけど、子どもとふたりだとそうはいかない。そもそも我が家は子どもだけに合わせることはあまりなく、普段の週末も、友人とわいわい食卓を囲んだり街に出かけたり、娘を大人の予定に巻き込むことも多い。

自宅で過ごす週末だって、できれば娘と私が一緒に楽しめることを見つけたい。娘にNetflixを観せながら、ひたすら部屋の掃除をしていた土曜の午前中。つかの間、散歩に出かけて外の陽気な空気を吸って桜を見上げたら、なんだか元気が出て、娘と一緒にできることややりたいことが思い浮かんできた。

たとえば、ジブリ作品など一緒に観られる映画を増やしたい。先週一緒に「魔女の宅急便」を観たのだけれど、気に入ったようで2時間弱飽きずにかぶりつき、私も何十年かぶりに観てやっぱり好きだと心が踊った。「紅の豚」はまだ早いかな? とりあえず、私も観たことない「思い出のマーニー」を観てみよう(金曜ロードショー万歳!)

子どものテンションに全力であわせすぎることはできないけど、ごっこ遊びは嫌いじゃない。お店屋さんごっこをすると、アイスクリームをくれたあとに「はい、おかね。」となぜか必ず支払ってくれるので笑ってしまう。最近のブームは、お互いに好きな音楽やMVを順番に流して歌って踊るライブごっこや、プリンセスごっこ。私はただ座っているだけなんだけど、娘がお化粧や髪を結う真似をして「おかあちゃんプリンセスのできあがり〜かわいい〜!きれい〜〜!」とひたすら褒めてくれるので気分がいい。娘はよく、私の化粧ポーチを持ち出して、紅を引いたり、眉毛をかく真似をしていてその姿も愛らしい。週末限定で、一緒にマニュキュアを塗るのもちょっとした楽しみだ。

そして私たちふたりの共通点はなんと言っても食いしん坊。特に朝と午後にある「おやつタイ〜ム!」は盛り上がる。娘は牛乳で、私はビールで「カンパ〜イ!」することも。おやつやおつまみ、お取り寄せしてみようかな?

日々の食事のなかに、娘の「生まれて初めて」を取り入れるのも、味覚が開いていく瞬間を目撃できて面白い。先週、生まれて初めていくらを食べた娘は、「おいしいーーー!」と声をあげて、「いくらいくらいくら〜」とリズムをとって小躍りしていた(笑)。まだまだ世界は、娘が(私も)知らない味であふれているよ〜。

散歩の帰り道、本屋に立ち寄って『暮しの手帖』を買った。「春野菜をシンプルに食べたい」と自分の気持ちと重なる企画に魅せられて。さっそく、夜ごはんに新にんじんのオイル煮をつくってみると娘が頬を両手に「あま〜い!」と反応してくれた。外食もできないし、せっかくだから、日々の食事も、いつもとは違うメニューを取り入れてみよう。娘と一緒に料理をするのもいいな。

最近、逃避がてら、好きな料理家たちの本をぼちぼち読み返しているのだけれど、日々の生活に目が向けられ料理に対するモチベーションも上がるのですごく良い。辰巳浜子さんの『料理歳時記』や細川亜衣さんの『食記帖』や『野菜』、高山なおみさんの『日々ごはん』など。読んでるだけでつくらなくても、満たされてしまうのだけれど。

何かを制限して娘のイヤイヤが発動すると、こちらもストレスがたまるので、自粛中の自宅では、映像コンテンツ(YoutubeやNetflix)もおもちゃもおやつも大盤振る舞い!いつもよりたくさん観ていいし、思う存分散らかしていいし、好きなものを食べていい、ということにする。

と、娘と過ごす日々を楽しみながらも、自宅でもできる限り自分のひとり時間もつくりたい。今朝、娘が目覚める前に、久しぶりに半身浴をして本を読んだら、気持ちよかった。SNSやメディアからもシャットダウンされるし、ほどよく汗もかく。子育て中、なかなかゆっくり本を読むこともできないのだけど、情報を浴び過ぎてしまうインターネットとは違う時間軸で別世界へ連れ出してくれる本はやっぱりいいよね。昔はよくしていたけど、改めて習慣にしたいと思った。

きっとこれからも自粛ムードは続くだろうし、たくさん情報も飛び交って、心が落ち着かない毎日になるとは思うけれど。こういう時だからこそ、ちゃんとごはんを食べて、おやつも食べて、適度な運動をして(散歩やストレッチ)、近くにいる人(主に家族)とおしゃべりして笑い合って、ゆっくりお風呂に入って、しっかり眠る。当たり前に大事にしたいことだけれど普段おろそかにしがちなことをやっていきたいな。

自分にできることはなんだろう? 大きな世界の動きの中で小さな自分の無力さを感じることもあるけれど、今、私にできる唯一のことは、おうちで、目の前にいる娘と一緒に笑い合って日々を過ごすことなのかもしれない。

「はるのゆき」が降る日に、ただただ、改めてそんなことを思ったのでした。というか、世界で起きていることはつゆ知らず、陽気な春の風と無邪気にはしゃぐ娘が気づかせてくれたのでした。

長引く引きこもり生活は気が滅入ってしまうので、できる範囲で、散歩がてら外の空気を吸って、窓を開けて春の風と光を部屋に取り入れて。すう〜っ、はあ〜っ!(深呼吸)

さあ、今日は何して遊ぼうか?


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