塾長の話。 企画騒動顛末

もう亡くなられて年数が経つが
勉強会の主催をされていた方の事を思い出すきっかけがあった。

よくその方を塾長と呼び慣わしていた、
その頃の話。

とある日塾長が
「ちょっと意見を訊きたい。」
と或る案件を持って仕事場に来られた。

中身はイベント計画の概要で案を出来る限り出した上で決めたいとの話。

塾長は関西の生まれなのでどうしても食や地場産業が主になるが、と愚痴を零すのを聞いてふと思い出した事を並べたところ、それをそのまま採用とか言われて慌てた記憶が、ある。

慌てたのはそのイベントの前回の事を覚えていたからそれを回避したからってなだけであって、

結局
似たようなネタになるんですってばーーーーーーーーーー!!!!!←声にならない叫びと伸ばしたくても出せない手。

ネタもなにも無いから仕方無く恐る恐る「場所は絶対決まってますか?」と訊くと
「出来れば管轄内で」と言われ、それと同時に違うなら近隣は避けた方が良いだろうと思い、あれこれ探し始めた。ウチが駄目で隣なら良いのか?と言われかねないのはどちらがどちらでも同じだろうからと思っていると
「もし仮に違うなら隣とか近場は外した方が良い」と釘を刺された。

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『文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは複数の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すもの』
国際万国博覧会−ウイキペディア−

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E5%8D%9A%E8%A6%A7%E4%BC%9A

このイベントである万博の規定、
そこに提示されたこの辺りがネックとなって同じネタに傾きやすいのだろう。

『政府以外の団体が主催者となった場合、その主催者はBIE条約上、政府機関とみなされる』

云ってみれば国の顔であると云う自負。
この、重みに。

仕方が無いのでイチから組み直してはみるものの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

キツい有様のまま、〆の日に暗い気分で企画を出す、怒られるのは元より承知の上で。

「なんだ、これは!!管轄外じゃないか!!」
当然ながら怒号が飛ぶ。
「でもここ数年同じ企画が続いています。」
これを言うしか無かった。
案の定、渋い顔をされながら目を通してもらい
許可となった。

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タイトルにもなった宇宙を主軸に、それだけでは難しいので未来に関わるものを。
それが多いとなると先ず限られていた。個人的にはあれもこれもとなったがそうは行かないと没ネタにしていると、
「同じやるんやったらお宅さんの扱うとるのも出してほしい。」
最初はイベントはこうだと思ってるのかもと説明しようとしたところ

「なんかしら見合ったもんがあるんならお願いしたいと思うて。」

これには確かに一理あると思った。

確かにこちらは音楽主体だしイベントはイベントだし。文句も言ったから腕の見せ所ーーーーーとは言いたかったが実際のところは、宇宙に見合ったネタはなーんにも無かった、皆無と云っても良いくらいに。

夜にするにしても
宇宙でアニメに持って行くにしても厳しかった。

アニメ、漫画からゲームに至ってふと思い出した事があって先方に問い合わせる。
発売時期が大幅に合わないからと断られ掛けたのを事情を話してどうにかこうにか約束を取り付ける。


延々企画が整うように
期日までに間に合うように

ずーっとこの繰り返しをするのだ。

時間はあるもののゲーム以外の企画も平行しているのでそちらにしわ寄せがいきなり行く事になりその後方支援をしつつ、新たな参加企業を探しつつ、本来の仕事をしつつ、「これが管轄内なら」と怒られつつ・・・・・当日までに会場の打ち合わせもしなければならなくなった。

会場の端はどうやっても足が遠退くためにネックになりやすい。そう頭を痛めながら納入やらなんやらと詰めていく。
現地で割り振りに頭を悩ませているといきなりにゅっと手が出る。
「入館許可証、渡しとこか。」
受け取りながら続く説明に一瞬凍りかけた。
「入館はあっても回数に制限がある。」
ゲ!!いや待っーーーーいやいやいやいやいや。今回はいつものと違うからそれまでに詰められれば良いのか。

そう思ったのがそもそもの間違いの元でもあったのに気付いた時にはもう遅かった。

音が酷い。
最初に気づいたのは所謂リハの時。慌てて走り寄る。瞬時に機材に被りつい・・・・・・て見るまでも無くハリボテだと気づいた、と同時に何処のどいつの仕業かも解る。ヤバくなりそうな気配に延長許可を言いに行く、確認したら全て全滅だったのだから。

「今日はええけど。

でも来週からはあかんで。」

あるはずの余裕はその時点で全て無くなった。慌てて理由をまくし立てる間にも冷や汗が吹き出るのが解る。
「でもあの曲は音がそもそもの音質が特殊でウチでも殆どライブで演らないんですよ!!そんな事したらファンがなんと云うか!!そもそもーーー」
焦って説明が説明になってない事に気づいても上手く行かない。
そりゃそうだ、オーダーしたはずの機材が丸々二束三文のガラクタにすり替わっているのだ、それで失敗の烙印を圧されたも同然なのだから。
 
「でも断ったちゅう事はこっちからはなにも提供して無いから今回の趣旨を外れる訳やし。」
ーーーーーその言葉に瞬殺される。まるで塾長の時に言った時そのままだ。ヤバい!!

このままだとこのままだとおじゃんになる!!

ーーーーーーーーーー

「え?目玉なのに断ったの?どうして?」
新たにステージ用にアタリをつけるためスケジュールを組み直して居ると企画から外れていると聞かされおかしいとボーカル兼ギタリストが不服を募らせる。
目玉にしたいと云うだけで実際の予算は取れない、それならと断った旨を説明する。
数が増えた事、そして元々予算も、ライブもしない事を前提としたスペシャルバージョンに仕立て上げた事が一番の要因だと知っているからこそ。

そこに電話が入る。
納入の代金が未だに収められていない、と。

厭な感じだと思いながら話を聞くがあやふやで掴めないまま、確認を取る事だけしか解らない。そもそも納入期限はまだかなり先の話のはずなのに「そんなはずは無い」の一点張りで、どれほど確認しても掴めない上に先方は型通りの答えしか出さない。焦りと時間だけが流れる。
塾長に相談すると「だから近場は外せと言っただろう。特に隣はこう云う時厄介なんだ。」とため息を吐かれたので、その電話以外で話の合うものは見つからない旨を告げると、その途端に機嫌が良くなった。びっくりしていると
「それならわしが残りを引き受ける。一回お灸をすえてやらんといかん。」と言うなり案件を持って出掛けられた。

一息吐く間も無く音源の調整に戻る。
それでも一番の目玉になってしまうのだから力は抜けない。

そう思って調整した計画と機材を丸々やられたのだ。警備も一番良いものに変えたのに、それを現場のゴリ押しだけですり替えられてまんまと盗まれ、イベントは今や風前の灯火状態。
ーーーーー冷や汗が、止まらない。

「今行けないが様子はどうだ。あまり良くないんじゃないのか?」
塾長から連絡が入る。ひやりとしながら調整している旨を伝えて切る、ため息と冷や汗が止まらない。

計算をやり直し、スケジュールと計画を何度も見直してまた計算をし直す。何度目のため息か?
「大丈夫?手伝おうか?」
ボーカル兼ギタリストが心配そうにしている。本来、スケジュール通りなら音源の調整と練習に当てている頃か。
「終わったのなら休んでてよかったのに。スケジュールもそうなってたでしょ?」
「なんかあったんじゃないかと思って。だから手伝いが出来ればって思ったから。」
有り難いの半分、でもどうにもならないの半分だと思いつつ、以前の話をして納入の機材が無くなった話をした。
本当ならイベントの目玉としての新規を探すとか映像のフォローに回っているはずだった。

話を一通りするや
「解った。」
と言うなり出て行ってしまった。なにをしに行くんだ?と思いつつ戸を開け後ろ姿を見送りでも、と、思った途端に戸が開いて
「他の仕事。他の仕事やってて!」
珍しく大きな声。あ、ハイ。と云うと速足で行ってしまった。

ーーーーーーー

まさかのトラブルがバレないようにとこっそり動画スタジオに入るもなんだかんだで見つかって進行の話になる。映像はセル画一枚に一コマの停止画一枚しか描けないから時間を食う、当然だから仕方が無いっちゃ仕方が無い。その上まだ殆ど使われてなかったパソコン動画も導入したから尚更だ。
その動きが合わないと慌てている。それで参加を願った班もお手上げ状態。渋々手伝うがマッキントッシュは最初のカバー以来なんだけどな、とは思いつつ。

どうにかすぐにやっつけられて進捗が戻ってほっとしてると、足りないからと駆り出されたキャラクターデザインが言いにくそうに棚の陰で話を切り出した。
「僕がこんな事言うのもどうかと思うけど、これが出てるんじゃないの?現地でもトラブルがあったとか聴いたし。」
え、と思って顔を見ると挙動が微妙になり、
「別件でも入ってて行ったからさ。」
と慌てた。
「ああ、あっちか。通ったんだ?良かった良かった。」
その後の言葉を、
「ま、解るまでは待っててよ。」
と言った。それしか言えない。
それしか言えない、今は。

ついで主軸の企画にも顔を出す。
何故か同じようなトラブル・シューティングで立ち往生していた。なんとなくみんなの様子が緊張感と違っている?気が、する。

でも
誰もなにも訊かない。
誰もなにも言わない。

それしか言えない、だから。

ーーーーーーー

仕事場に戻るとボーカル兼ギタリストが
「大丈夫だよ。早いものから納入してくれるって。」
まるで犬のようにはしゃいでいた。驚いて固まる。
納入を待って滑り込んだ。調整のためにといくらか用意をして行ったのだが全て綺麗に使えたお陰で大幅に時間短縮出来そうだと思った。

が。納入は一日では終わらない以上、日程はずれ込む。バレないようにと荷物に紛れて入り込みはしたものの
「ひとりだけそんな事をされては困る!!」
と怒られ結局はトラブルが起こらないようにと市長と知事、自ら立ち会いと云う形になってしまった。
「でも市長。解らなくは無いんですけど、他の人を立ち会いにしても良いんですか?」
※責任者はこの場合市長ひとりを指す。
と訊くと
「あん人は実直で信用がでける。やや人を信じ過ぎるところはあるけど、それでもあれだけ実直で真面目な人もなかなか居らへん。逸れたらわしが教えてたげたらええんや。それでもなにかあったらわしが責任持って問いただす。それが巻き込んだ責任や。」
そう言って視線を送る真剣な面持ちに進捗の後の段取りもしなければ、と気を引き締めたものだ。

怒られ続けながら進捗を進める。すぐに厳しい顔は軟化して手伝いまで買っていただいた、荷受けから設置までをするのに重量物をなんキロも往復する事に気づいたからだろうけれど。

そう
音響機器は死ぬほど重たいのだ、

ペンチプレスなんか目じゃない程度には。

塾長が珍しく仕事の合間に立ち寄ってくださった。
挨拶と云うより厳し目のお小言をいただく。
そこに出資企業の中のひとりが近づいてきて塾長に声を掛けた。傍に見知った顔がにこにことしている。
その時の塾長の顔はとても印象的だった。

助かったと頭を下げて続きに取り掛かる。
いくつものいくつもの助けを借りて大凡目安で当日まで掛かると読んでいた取り替えは一週間速く終了し、持ち込み機材でリハを再開し、軽く生ライブみたいな事までやらかして慌てさせた。

これも必要な作業ではある事を説明しながら。

リハの前のりをしたボーカル兼ギタリストは
「終わったの?」
と言いながらステージを見渡していた。
「うん、お陰で。」
と結局ひとつも出番の無かった一式を指して。それを見て良かった、と笑うボーカル兼ギタリスト。
まだ早いのに他のメンバーも到着して顔つきが明るくなっていた。

ーーーーーーー

開催当日に間に合わせた詰めをやっている時にモバイル会社の代表に出くわした。
まだまだ新規の企業だが、新しい取り組みにいくつもトライしていて将来性がある。これから成長する予測を個人的にしていたから商品の話をし、ふと、キャラクターの話になる。ステージでも使う予定だと話をすると慌ててそれは以前に無理だと聴いたから問い合わせた方が良いとアドバイスを受け、通していなかった事に思い当たった。つんのめるようにして走り出す、挨拶したかどうかすら怪しかったが既にステージの時間は近づいている以上はそんなこと言ってられなかった。

ようやく見つけた市長にキャラクターの事を話す。
内容が違えば使えたが時既に遅し。

時間には間に合う、話をしてキャラクター回収すれば良い、間に合う!!

息を切らしながら楽屋でスタンバイしているところを漁り、ベーシストの傍にキャラクターが居るのを確認する。
「ごめん。予定変わった。そのキャラクター置いていって。許可取れなかったから。」
「これ?」
ベーシストが指差す先の、赤い首輪の白い犬のような猫のようなキャラクター。
「そう、それ。今回は残念だけど置いていってね。事前には持って出るって話だったんだけど駄目なんだって。」
解った、の声を聴くと、どうお詫びするかをあれこれ考えている内にスタンバイのコールが出たのを聞き逃して一瞬遅れた。
キャラクターは?
居残りのはずのキャラクターが居ない?!
狭い中で椅子が当たって前に進め無い事が更に最悪だった。
会場のマイクにまで声が入るほどでは無い程度のデカい声で怒鳴った。スピーカーの残響で判る、よし、よし通って無いな。
それよりも、キャラクター!!
伸ばした手が袖の先の空を掴む。
軽い騒ぎだけ起こしてそれをボーカル兼ギタリストにフォローされるのをスピーカー越しに聴くも喜ぶどころの話では無くなった。

もう駄目だーーーー!!!!

心の中で泣き叫びながらまたしても市長を探す。
市長よりも先に件のモバイル会社の代表を見つけたので謝罪をする。言い訳がましいとは思いながら話はしたものの確認するより前にお詫びの事を考えてしまいトラブルになった事を市長も探さなければならない旨を話すと笑いながら、
「市長なら後に。」
と手を伸ばした。
えええ?と思いながら後ろを見ると、何故か驚いたような顔をしている。その理由が解らず、それでも頭を下げると
「いや、いいです。頭を上げてください。」
と神妙な面持ちで
「こちらこそきちんと仕事振りを信用してなかった事を謝罪します。」
と深々と頭を下げられた。意味が解らずにいると理由を続けられた。

冷や汗がどっとと吹き出す。

さっきの
さっきの残響は、マイクを通った後だったのか・・・・・・・!!

がくがく震えているところに予定の立たなかったはずの塾長が来られていて
「良い万博に仕上げたな。私も鼻が高い。」
と嬉しそうに話をされた。

ーーーーーーー

お気づきとは思うが
イベントの名前は愛知トリエンナーレ万博
愛・地球博であり
その総括責任者の河村たかし市長であり
大村秀章知事であり


メインとして
TALES OF THE ABYSSの
ゲームとアニメーションとを披露し

BUMP Of CHICKENは
そのメインテーマを歌い

バンドの歌でもあり
キャラクターでもある
ニコルによく似ていると言われる
白い犬のお父さんのキャラクターで
広く認知されるソフトバンクであり
代表の孫正義氏であります。

本来ならば
同じくして
キャラクターデザイン氏の関わった
動画やゲームの顛末や

この後まだ続くトラブルもあるのですが
あまりに長くなるので
一旦
まとめとさせていだきたいと思います。

塾長は塾長であり
それ以上の事を教わりました。
既に鬼籍にて
許可の取れない事もありますので
この形とあいなります。

尚これは
単なる一スタッフの
顛末メモであります。

TALES OF THE ABYSS−ウイキペディア−

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%BA_%E3%82%AA%E3%83%96_%E3%82%B8_%E3%82%A2%E3%83%93%E3%82%B9

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