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殻の中からの脱出

釈迦の説法並みの説得力はまるでないけれど、もし聞いている人がいれば、単なる戯言だと思って聞いて欲しい。

20歳半ばを過ぎると、段々チャレンジ精神が足りなくなってくる。
色々なものから新鮮味がなくなり、当たり前と化していく。

車を乗り始めた時の喜びから、何キロも飛ばして峠を越えて走った勢いは、やがてなくなっていくだろう。
「車ってすごい!」から「車は便利で当たり前。」という感覚へ。

やがて、遠出も減って行き、落ち着いてくる。
自分はそのうち家から一歩も出なくなるんじゃないかと恐れるぐらいに。

そんな新鮮味が薄れると、当たり前のものがありふれて、気持ちもすっかり落ち着いてくる。

確かに、落ち着くのは心地よいけれど、わくわくする心は少し寂しい。そんな日々が始まっていく。

気がついたら、完全に落ち着いてしまって、挑戦することをしなくなる。

そんなのは嫌だと思うんだ。
心のどこかが「それでいいのか?」と問うてくる。

辛い辛いと泣いている。

ある日、久々に用があって、遠出をする。
長い時間をかけてJRに乗りこみ、ただただ外の景色を眺める。

すると、ふと、しばらくの間忘れかけていたものが喉の奥からぐっとこみ上げてくる。

そう、殻の中からの脱出だ。
自分はそれを忘れていた。
歳と共に過ぎ去ろうとしていた。

ごめんよ、と心に話しかける。

これから旅に出よう。色々な景色を見よう。
誰よりも古い、幼馴染みとの約束だった。


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