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新宿

昼間の地下のライブハウスから地上へ出る。
日差しの照り返しを感じながらアスファルトを歩いていると、アゲハ蝶が潰れて死んでいた。あえて見るようにして歩いた。カナブンも潰れて死んでいた。あえて見るようにして歩いた。お姉さんめっちゃかわいいっすね、どこ行くんすか。やけに耳障りで、自分が話しかけられていることに数秒遅れて気がつく。軽い会釈で無視し、そのまま離れた。離れる際、二人の息はぴったりだった。

最近はごめんなさいと思うことが増えた。思っていれば許されるような気がしている自分に嫌気が差す。

適当なカフェチェーンに入り、ブレンドコーヒーを頼む。隣の席の青年が、伊坂幸太郎の文庫本を丸いテーブルの上に置いている。彼はなかなか本に手を付けず、ついに一度も開かないままカフェを出た。

新宿は、安堵の街だと思う。

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