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ひよこ人間


 わたしは四人家族のなかでいちばん口が悪い。心の中にギャルではなく暴力団の方がいらっしゃるのではないかと疑うくらい口が悪い。
 これはおそらく幼少期からの反骨精神によるものだ。小動物みたい・小さい・ちゃんと食べてね・小さい・いたの気付かなかった・小さいと褒められたりいじられたりして、ありがとうございますと思いながらも反骨精神はすくすく育ってしまい、家族一番の口の悪さを誇る。
 女性をお前と呼ぶ男の人が非難されているところを目撃すると、自分が叱られているみたいで逃げたくなる。
 わたしも怒ると家族や恋人に「おまえのせいだろ!」などと叫ぶのである。小さいひよこの襲撃。家族や恋人は毎回ほぼ八つ当たりの被害に遭っているので申し訳ないし、100%わたしが悪い。それでも小さい小さいと言われ続けてきたひよこからすると、うるせえ!見下しやがって!と、必死に背伸びをしたくなるのだ。

 ここまでつらつらと自分の罪状を述べてきたわけだが、なぜこんな文章を書いているのかというと、率直に、直したいからである。もう自分の口の悪さで大切な人を傷つけるのはやめたい。でもわたしはこの先もずっと小さいひよこ。

 褒められているのか馬鹿にされているのかちょっと疑心暗鬼になって、いやいや捻くれている自分がよくないのだと素直に喜ぶように努めてという繰り返し。

 白鳥になりたかったけれど、白鳥は白鳥なりの苦悩が絶対にあるんだ。白鳥なのにこんなこともできないなんて、とか、勝手にがっかりされる。
 では、トンビはどうだろう。本当はやさしい心の持ち主なのに、トンビだから恐れられて友だちができないかもしれない。
 結局、隣の芝生は青いってやつに行き着く。だから、わたしは小さいひよこなりに色々と考えて、口の悪さは防御のために使えるように、大切な人の攻撃には使わないようにがんばる。

 最近はひよこの可愛さに目覚め、ひよこのLINEスタンプを集めたり、ひよこが人間の手のひらに包まれてあっという間に眠ってしまう動画を見たりしている。ひよこって可愛い。小さいひよこ呼ばわりされるのって、なんて光栄なんだろう。

 ところで、YouTubeで「ひよこ」と検索していたら「ヒヨコの踊り食い」という物騒なタイトルの動画を発見した。嫌な予感がする。おそるおそる見てみたら、壁のほうへ避難した(追い込まれた)たくさんのひよこがワニに食べられていく様子が映っていた。ワニは全く躊躇わないし、ふわふわのひよこが大きな口へ吸い込まれていく。見ていられない。途中で再生をやめた。
 ひどく切なかったけれど、わたしも今日はこれからスクランブルエッグを食べる。タンパク質を吸収するわたしの細胞は、ワニの大きな口顔負けだと思う。食事というのは生きていく行為なのだ。いただきますとごちそうさまでしたを忘れずに。
 わたしは小さいひよこ兼人間だから、今日も明日も明後日もちゃんと忘れない。いただきます。ごちそうさまでした。
 この調子で、言葉遣いにもちゃんと気をつけたい。

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