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おもいでばなし

人生でいちばん、とびきりすきだった。
大事に使ってきたのだとひとめ見ればわかる大きなリュックの中に、いつもぶあつい単行本を4冊くらい突っ込んでは、待ち合わせ場所に来ていたあのひとのことを。

いまでも、たまに、ふとした瞬間に思い出す。顔立ちや髪の色、声なんかは少しずつ忘れてきているのに、あのひとがすきだった音楽や本、話したことなんかは不思議といまでもよく覚えている。
きっといつまで経っても忘れらないんだと思う。宝物みたいなきらきらした思い出になっては消えずに心に刻まれていくような。いや、そんな綺麗なものなんかじゃないか。

あのひとに勧められて読んだ本、本屋さんに行って一緒に買った本、おすすめはないかと言われて夜な夜な悩んですすめた本。いつもは読まない作家さんの本に触れて、世界に触れて自分の世界がまた開けていくあの光景と、この本を読んだあのひとはどんな言葉を紡ぐのだろうとわくわくしていたことを同時に思い出しては、なつかしいなと笑ってしまう。
ラブレターみたいだよね。わたしはいつだってそんな気持ちに胸を踊らせていた。

元気かなあ。
元気だろうな。たぶん、いやきっと、うーん、絶対。あのひとはめちゃくちゃ元気に、そして逞しく都会で生きている。
だからわたしも負けずに元気で幸せでいたい。

またねなんてもう言わないよ、さようなら。
どうぞわたしとあなたのこれからの人生が、もう二度と交わりませんように。本棚に大事にしまっていた本を手に取りながら願うよ。


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読書メーターを見返していたら、懐かしい気持ちで満たされてしまったので思い出したあれこれを。

すきなひとに「これすきそうだよ」と言って手渡されるあのぬくもりがいつだってだいすきだから、わたしにこれからもそのぬくもりをください。>これを読んでくれたあなたへ。

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