恐竜は変化する

大型肉食恐竜スピノサウルスの尾の部分の化石が新たに発見された。
おそらく、時事問題をテーマにすれば今時みんなコロナやプラスチックについて触れるだろうから、あえてそれは回避する。

スピノサウルスを知っているだろうか?

スピノサウルスは大型の肉食恐竜だ。
体長15m、体重は7トン。あのティラノサウルスよりも大きい。
背中には巨大な突起があり、見る人に強い印象を残す。
名前にピンと来なくとも、この突起こそトリケラトプスやティラノサウルスに並んでスピノサウルスを見ればわかる、見たことのある有名な恐竜たらしめている。
口はワニのように長く、びっちりと並んだ歯が印象的である。
図鑑や博物館ではスピノサウルスは陸上に暮らし科学者がこれまで再現してきたスピノサウルスは先端に向かって細くなる長い尾をつけていた。

それがコロナ禍で暗澹とした2020年5月1日に、大きくひっくり返った。
もしかしたらコロナよりよっぽど一部界隈にはビックニュースが舞い込んできた。
4月29日付けで学術誌『ネイチャー』に乗っていた記事にはスピノサウルスの尾が「骨でできた巨大なオールのような形をしている。」「今回発見されたスピノサウルス・エジプティアクスの尾は、これまでに見つかっている大型恐竜のなかで、最も極端に水生に適応した例だという。」ことを示している。

我々の知るスピノサウルスは陸上を我が物顔で闊歩する、ティラノサウルスよりも大きな肉食恐竜であった。草食恐竜を狩り、畏れられる存在。

しかし、実際はそうではなかったのだ。

スピノサウルスの尾の化石が雄弁に物語るのは、彼らが水中でくらしていたであろうこと、魚を追いかけていたであろうことだ。

よく、常識の移り変わりやすい歴史学者は嘘つきである。と揶揄する人がいるが近年、恐竜における常識もかわりつつある。

たとえばティラノサウルスをイメージしてほしい。
表面の色は?皮はどんな質感だろうか?群れでいるだろうか?それとも一匹で悠々と歩いているだろうか?

近年の発見から、恐竜の王様とされているティラノサウルスに羽毛が生えた。よくみるワニのような皮ではなく、最近の復元図ではふわふわの羽毛か描かれている。
もちろんまだ異を唱える学者もたくさんいるが、おおよそはこの見解が指示されている。

そしてさらに衝撃なのは、ティラノサウルスは群れで狩りをしていたであろう、ということ。

先ほど想像したティラノサウルスは一匹で悠々と森を歩き回り、恐れをなした草食恐竜たちが慌てて草むらに隠れる、そんなイメージを多くの人が持っていたのではないだろうか。実際私もそうだ。ティラノサウルスを扱った多くの映像作品もティラノサウルスを一匹で歩く王者として描いていた。

そのイメージが一変。ティラノサウルスは群れで狩りを行い、子供をつれ歩き、集団で追い回して疲れたところを仕留める。ふわふわの羽毛をゆらしながら。

ずいぶん変わってしまった。

私の知る恐竜たちは、もう古びた図鑑にしか見られなくなっているのである。
スピノサウルスは水中で魚をたべ、ティラノサウルスはふわふわの羽毛を生やし、集団で獲物を追い回す。

ただ、すこしの寂しさを感じながらも、彼らの魅力が失われたとはちっとも思わないのが不思議なところだ。
まだロマンを、未知の部分を我々に残してくれる、どんな突飛な想像も現実になるかもしれない余地がある恐竜に私も含め数億年後のたくさんの人間がますます惹かれていくのである。

【参考文献】

https://natgeo.nikkeibp.co.jp › news
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スピノサウルスの意外な尾を発見、実は泳ぎが得意 ... - ナショナルジオグラフィック

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