ショートショート【暑く、冷たく、熱い】

大学2年、新学期の初日に教育社会学の講義で、小学校の保健室の先生はどのような理由でどのような怪我をした子がいたのかをまとめて報告しなければいけないことを知りました。

大変そうだなぁと幼稚な感想を抱いた時
ひとつの思い出が蘇りました。

保健室の前で打ち合わせをした私たちはおでこをおさえながら涼しい保健室に入りました。
眉を八の字にした先生があの子の話を聞く間、回る椅子に座り、潰れた2Bの鉛筆を持った私は、上から並ぶ読めない字に続けて
「ろうかでぶつかった」
と書きました。
丁寧に2つの保冷剤を出してくれた先生にお礼を言い保健室から出ると、
よっしゃぁ!と君の広げた少しだけ大きな手とハイタッチをしました。


昼休み終わりのチャイムが響く中、さっきまで追いかけていたサッカーボールを手に持ったあの子の、
2人で頭をぶつけて保健室で保冷剤をもらおうという案に乗り、運動場の隅っこでせーのでごっつんこをした9歳の夏の日

悪知恵ばかりをはたらかせていた君はこのことを、
おでこの痛みと冷たさと赤い頬を、覚えていますか?



保健室の先生に対する申し訳なさ、実際に頭をぶつける必要はなかったこと、そして保冷剤をもらっても体温が下がらなかったワケに気が付いた今、少しだけ大人になった気がします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?