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甘い媚薬

_____チョコレート...多くの人を惹きつけてやまないお菓子。もちろん私も大好き。



そして明日は2月14日。バレンタインデー。



女の子が意中の人にチョコレートをあげる日だ。




『所詮お菓子会社の陰謀だ』などと宣う人もいるが、恋する女の子の背中を押してくれる素敵なイベントだ。



かく言う私もそんな恋する女の子の1人。



明日の一大イベントに向け、休みだと言うのに早起きして台所に立っている。



ひかる:んーと...チョコレートを細かく刻んで湯煎...お湯で溶かすってこと...よね?



板チョコを包丁で細かく刻んでいく。



ひかる:...くぅっ...意外と固いんやね...これは大変や...



気合を入れて業務用の大きな板チョコを買ってしまったことが災いし、私は1番初めの工程で既にヘトヘトになっていた。



ひかる:えっと...次は...湯煎...なになに...50℃~55℃のお湯...中途半端な温度やね...



先程から鍋で沸かしていたお湯はどう見ても沸騰している。火を止め、冷めるのを待つ間私はまた業務用の分厚いチョコレートと闘っていた。



??:ふぁーあ...おはよ、こんな朝から何してるん?



ひかる:えっ?あっ!夏鈴...おはよ...



彼女は同居人の夏鈴。高校の時の同級生で、大学が同じ方面だったのでルームシェアをしている。








__私の...意中の人だ。




夏鈴:んん?チョコ?あぁ、明日バレンタインデーやっけ...手作りなんて、女の子やねひかるも。



眠たそうに微笑み、頭を撫でてくる。



ひかる:...珍しく早起きやね。



夏鈴:何か朝からひかるの呻き声とデカい音聞こえて目が覚めてしまった。



ひかる:ごっごめん...私そんなにうるさくしよった?



夏鈴:ふふ...冗談やって、たまには早起きもええかなって。



そう言って彼女は私の頭に顎を乗せ、後ろからハグしてくる。眠たいと甘えん坊さんなの可愛い...



ひかる:ねー?凄く作業しづらいんですけども...



夏鈴...ええやんか、ひかるの匂いして落ち着く。



ひかる:もー...



口ではこう言っているが、私の心臓はバクバクだ。絶対この音聞こえとるよね...



夏鈴:しかし手作りチョコなんて...好きな人でも出来たん?



ひかる:まっ...まぁね...そんなとこ。



夏鈴:誰?ウチの知ってる人?



ひかる:それは...秘密。



夏鈴:...ふふっ...何やそれ。



まさか『貴女です』などと言えるはずもない。
夏鈴は曖昧な私の返答を笑い、ようやく私を解放する。



ひかる:夏鈴はさ...好きな人にチョコとかあげないん?



さり気なく聞いてみる。



夏鈴:...そんなことするように見えてんの?



ひかる:あははっ!!それもそうやね!



夏鈴:あげるにしても買って済ますわ。料理苦手やし。まぁあげる人なんておらんけどな。



少しホッとする。私の恋が序章で終わりを迎えることはないみたい。



そもそもいつから夏鈴の事が好きだったんだろう。



高校の時はお互い波長が合い、ずっと一緒にいた気がする。



普段はクールであまり感情を表に出さないけど、ふとした時の起伏が愛しく感じるようになり、気付けば四六時中彼女のことばかり考えるようになってしまっていた。



女の子を好きになったのはもちろん初めてだし、気持ちをどう伝えればいいのか、果たして受け入れてもらえるのか...



ボウルの中でゆっくり熔けていくチョコレートを眺めながらぼんやりと考える。



ひかる:えっと...次は...



夏鈴:...生クリームって書いてるで。



ひかる:あっ、そっか!ありがと。



夏鈴:しかし...ひかるにも好きな人なんか出来たんやなぁ...どんな人なん?



ひかる:えっ...?っとね...優しくて一緒にいると安心する人...かな。あとちょっとミステリアスな感じで...



夏鈴:...ええやん。上手くいくとええな。



彼女はそう言って笑う。少し寂しそうなのは気のせいだろうか。



ひかる:...よし、これであとは冷やして固めたら完成!



冷蔵庫にチョコをしまい、洗い物をしている間も、夏鈴はずっと私の横に立っていた。



ひかる:...珍しいね、こんなにベッタリなの。



夏鈴:ん...なんかそういう気分。



私は嬉しいけんね?口には出せんけど。



ひかる:...そういえばお腹空いとらん?なんか食べる?



夏鈴:んー...じゃあチョコ食べたいかな。



ひかる:えっ?チョコ?全部使っちゃったよ?



夏鈴:......あるやん、ここに。



ひかる:...っ!?夏鈴!?



彼女は私の頬についていたチョコを直接舌で舐めとった。突然の事に何も考えられなくなる。



夏鈴:...甘っ...



ひかる:...あの...夏鈴さん?



夏鈴:なんで急に"さん付け"やねん。別にこのくらい普通やろ?女同士やねんから。



いやいや何今の。女の子同士だったとしても普通手でとってから口に入れるでしょ。直接はもう...キス...じゃん...



ちょっともう心臓の音ヤバいんよさっきから。



夏鈴:真っ赤んなってどうしたん?可愛ええな。



ひかる:...えっ!?ちょ...



信じられない出来事の連続はまだ終わらないらしく、夏鈴は俯く私をキッチンの壁に追い込み、手をついて逃げられなくする。



これは...壁ドン...ってやつ!?



ひかる:...夏鈴?どうしたん急に?



夏鈴:...どうもせんよ。...ただひかるのこと誰かに取られんようにしたいだけ。



ひかる:...はい?



彼女の言葉の意味を理解しようと必死に考えたが、意味はひとつしかない。



夏鈴:...まだわからへんの?ひかるのこと...好きやねん...ずっと。だから...何処ぞの誰かにチョコなんか作って欲しくない。あげて欲しくない。



見上げると夏鈴も真っ赤になっていた。唇は震え、私の目を見ることが出来ないみたい。


___愛おしかった。私は感情に任せ、俯く夏鈴の顔を両手で持ち上げ覗き込む。



ひかる:...そんな顔しないの。あのチョコはね...?夏鈴にあげようと思って作ったんよ。私の好きな人は...夏鈴やけん...


夏鈴:......!!!



その時の彼女の顔を私は一生忘れられないだろう。惚けたような、安心したような...絶妙な表情だった。



夏鈴:...そっか...じゃあもう何も我慢せんでええやんな?



ひかる:...え?



私の返答を待たず彼女は私にキスをした。彼女の舌が私の舌と絡まる。微かに甘いチョコレートの味...頭が蕩けそうになる。



ひかる:...んっ...んんっ...夏鈴...



もう私の理性は崩壊寸前だ。夏鈴の首に腕を回し、先程より激しくキスをする。



夏鈴:はぁっ...はぁっ...あかん...完全にスイッチ入ってもうた...



彼女はやや乱暴に私を抱え、歩き出した。



着いたのは寝室。



抱えていた私をベッドに下ろし、上に覆いかぶさってくる。



夏鈴:もう我慢出来ひん...覚悟してな?



ひかる:...大丈夫やけん...早くきて?



夏鈴:...何でそんなに可愛いねん...ズルいわホンマに。



ひかる:...夏鈴だってこんなことしよって...私だってずっとこうしたかったんよ?



彼女の真っ赤な頬を撫で、もう一度キスをする。
静かな部屋に2人の吐息だけが響く___


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ひかる:おっ、ちゃんと固まってる!完成!



夏鈴:...上手に出来とるな。食べてもええ?



ひかる:どーぞ。



夏鈴:...食べさして。



ひかる:もう...今日はずっと甘えん坊さんやね...



私はチョコを手に取り口に咥え、そのまま夏鈴の口の中へ舌で押し込む。絡み合う2人の舌の上で蕩ける甘いチョコレートと私の脳。



夏鈴:...んっ...甘っ...ひかる...



ひかる:...ふふ...もういっこ...欲しい?



___2人の口の中で溶けるチョコレート。




それはこの世で最も甘い媚薬___



__________________end.

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