君と僕の行方 第5話
___何かを得ようとした時、対価に迷うなら諦めた方がいい。
本当に欲しいものは、何を失っても手に入れたいものだ__
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第5話
君との未来
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あれから3ヶ月が経ち、僕は進級して3年生になった。
今年は受験の年。周りからの無言のプレッシャーに悩まされる時期だ。
かく言う僕も例外ではなく、先程行われた2者面談では"もう少し勉強しないと厳しい"などと言われたばかりだ。
元々勉強するのは嫌いではないが、目的もなく続けるのは苦手だ。
正直なんの役に立つのかも分からないものを頭にいくら詰め込んでも、楽しくない。
__それは隣にいる彼女も同じようで...
ひかる:はぁー...〇〇...ちょっと休憩しよ?
〇〇:...ひかる、5分前に休憩したばっかだよ?
ひかる:うそ!?時間経つの遅すぎる...絶望なんですけども...
〇〇:はははっ...そんな顔しなくても...まぁでもやりたくない時はやらないのがいいよ。僕も正直気分じゃないし。
僕もひかるも幸い成績はそんなに悪くない方だ。焦ってやったところで半年以上先の受験が成功するとは思えない。
ひかる:それにしても...受験かぁ...とうとう〇〇と離れちゃうんやね...仕方ないけど…
〇〇:流石に幼稚園から大学まで同じなんてことにはならないと思うよ?
ひかる:寂しいなぁ...
僕らはそれぞれ違う高校を志望しているので、必然的に離れ離れになってしまう。
寂しいと言ってくれるのは嬉しいのだが、ひかるの本当の気持ちが最近ますます分からない。
〇〇:(このまま違う高校行ったら、お互い別の人のこと好きになったりするのかな...)
放送室の天井を見上げ、ふと思う。それも悪くないだろう、と。
だけど麗奈のあの手紙...最後にあった"本当に好きな人のことは諦めるな"、という言葉がずっと心に残り続けている。
__僕は忘れられるだろうか、ひかるのことを。
彼女以上に好きになれる人が現れるだろうか。
ひかる:まーた考え事?
ひかるが僕の顔を上から覗き込む。
〇〇:うん...まぁね。
ひかる:…わかった!麗奈ちゃんのこと考えよったんやろ?
〇〇:ううん...違う。麗奈のことは...もういいんだ。
これは本心だ。
もちろん未練がないと言えば嘘になる。
でも、麗奈が自分の気持ちを押し殺してまで僕にくれたメッセージを無駄にしたくなかった。
ひかる:何か...ごめんね?
〇〇:...ひかるは何も悪くないよ。
そう言って彼女の頭を撫でる。
ひかる:へへ...ありがと。あっ!そうだ!思い出した!
〇〇:っ!?急にどうしたの?
突然何かに弾かれたように僕の元を離れた彼女は携帯で何やら調べ始め、画面を僕に見せる。
〇〇:『新装開店...占いの館』?
ひかる:そう!何かすごいんやって!行ってみたいけん1人だとちょっと不安で...
どうやら僕らの住んでいる街に新しく出来た占いのお店に行きたいようだ。
〇〇:なになに...初回は無料...へー、タダで占ってくれるのか...ちょっと怪しいけど面白そう。
ひかる:でしょでしょー?今年は受験やし、その...恋の...悩みとかも聞いてくれるみたいで...
〇〇:...恋の悩みなんてあるの?
ひかる:むむむ..."なんて"とは失礼な...私にだってひとつやふたつあるもん!
〇〇:...僕でよければいつでも聞くよ、ふふっ...
ひかる:ねーえ?信じてないでしょー?
頬を膨らませて怒るひかるを宥め、僕達は件の占いの館にやってきた。
店の前の立て看板には確かに『初回無料!』と大きく書いてある。しかし...
〇〇:...なんか思ってたより入りにくいな...
店の外装は僕が想像していたものよりも...申し訳ないが悪趣味だった。
外壁一面がピンクで、毒々しいとすら思えるファンシーな彫刻や装飾...とても占いの館とは思えない。
ひかる:私は割と好きやけんね?行こ!
ひかるに手を引かれ、店内へ入った僕らの目に飛び込んできた光景...
??:いらっしゃいませぇー?ってあっっらぁ!♡これまた可愛いお客様♡ご来店ありがとうございますぅ!♡
僕たちを出迎えてくれたのは、身長190cmはあろうかと言う大柄で筋肉質の...男性...だと思う...
やたらと露出の激しいシースルーのトップスに、ピタピタのジーンズ...顔には厚化粧...
??:......っ!?
おまけにその人は僕らの顔を見るやいなや目を剥いて頭を押えた。あまりの異様な光景に僕達は固まってしまった。
??:...失礼、ちょっと眩暈が...ってあらぁ?もしかして怖がらせちゃったかしらぁ?そうよねぇー?いきなりこんなゴリゴリのオカマに出迎えられるなんて思ってないわよねぇー?でも心配しないで♡占いの腕は確かだから♡
とりあえず店を間違えてはいないらしい。
このオカ...いや、ニューハーフの男性...いや女性?頭がこんがらがってきた...まぁいいや...この人が占い師のようだ。
ひかる:…あの...ネットの広告を見て...来たんですけども...
??:あらぁ!ありがたいわァ!まだここには来たばかりで、全然お客さん来なくて暇してたのよォ!あなたたち可愛いからとびきりサービスしちゃう♡早速座って?
何か彼...いや彼女の言葉全部がいかがわしい意味に聞こえてしまうのは僕の心が汚れているからですか...誰か教えてください。
僕達は言われるがままに椅子に座る。
??:あらいけないっ!申し遅れましたぁ。アタシ、この占いの館の店長のアケミ♡よろしくね?
ひかる:よ…よろしくお願いします...
アケミ:んもぉーそんなにビクビクしなくても取って喰やしないわよォ!ホントに可愛いわねぇ!♡
じゃあシステムを軽く説明するわね?ウチの店、と言うかアタシの占いは1人ずつしか出来ないから、順番にイくわよ?まずは男の子の方からイッちゃおうかしら?♡
〇〇:えっ?あっ、はい...
僕は感じたことのない恐怖を感じつつも、アケミさんに連れられて個室に入った。テーブルと椅子2つが置かれた狭く薄暗い個室。外装とは打って変わって雰囲気のある部屋だ。
僕は椅子に座り、アケミさんと対面する形になる。
アケミ:さて...占う前に幾つかルールがあるわ。アタシが今から言うことを決して口外しないこと。結果が良くなくても文句を言わないこと。どんな結果が出ようとも、それを信じること。約束できる?
〇〇:...わかりました。お願いします。
僕の返答を聞くと、アケミさんは目を閉じる。先程のふざけた雰囲気ではなく、不思議な空気が部屋を包む。
アケミ:いいわ...何を"視て"欲しいの?
〇〇:僕は...
頭の中を様々な想いが巡る。ひかるとのことを聞きたいが、結果がもし辛いものだったら...?
アケミ:なるほどね...あの子との未来を知りたい...と。
〇〇:...!!!何でわかったんですか!?
アケミ:それは占い師じゃなくてもわかるわ...フフフ...そうね、アタシに言えることは1つ。"運命を...信じなさい"どんな事があっても。
〇〇:...運命を...信じる...?
随分抽象的な占いだ。しかし、彼...いや、彼女の目は真っ直ぐ僕を見据えている。冗談や酔狂だとは思えない。
アケミ:...ええ。占いはこれでおしまい。
〇〇:そう...ですか...
僕は少し拍子抜けした気持ちのまま部屋を出た。
ひかる:...どうやった?
興味津々で聞いてくるひかる。
〇〇:...とりあえず普通に占ってくれたよ。ひかるも行っておいで?
ひかる:うん...
緊張した面持ちで部屋に入っていく彼女の背中を見ながら、先程の言葉を反芻する。
運命を信じろ?それはひかるとのことなんだろうけど...どういう意味なのだろうか?もしかして...運命の相手...とかそういうことだろうか。
いやいや...占い如きに何を真剣に悩んでいるんだ僕は。アドバイス程度に思っておけばいいと来る前から思っていたじゃないか...
程なくひかるも部屋から出てくる。何やら浮かない表情で。しかし、結果は口外してはいけないと言われたので聞くのは野暮だろう。
〇〇:...大丈夫?
ひかる:うん...平気。
分かってしまう。平気ではないと。しかしやはり聞くのははばかられた。
アケミ:...2人ともお疲れ様。また何時でもいらっしゃい?♡お友達にも紹介しておいてねー?♡
元のテンションに戻ったアケミさんに見送られ、僕らは店を出た。
しばらく無言で歩く。すると突然ひかるが手を握ってきた。初めてのことではないが、胸の高鳴りを無視できない。
〇〇:...どうしたの?大丈夫?
ひかる:...ううん、なんとなくこうしてたくて...
〇〇:...そっか。
彼女の家の前に着くまで僕らはぎこちなく手を繋いでいた。
『運命を信じなさい、どんな事があっても』
どう考えても胡散臭いあの占い師の言葉を少し信じてみよう...そう思った。
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アケミ:...あなた...嘘つきね。
さっきまでの雰囲気とまるで違うアケミさんの口から出てきたのは予想外の言葉だった。
ひかる...どういうことですか?
アケミ:なるほど...自覚がないってとこかしら。"嘘と涙は女の武器"...なんてよく言うけど、あなたは"自分に嘘をついてる"...これは良くないわ。今のあなたを"視る"ことは出来ない。自分に正直になれたら、またいらっしゃい?もちろんお代はいらないわ。
ひかる:自分に...嘘を...
胸がチクリと痛むような感覚。何故か彼の顔が頭に浮かんだ。
アケミ:...ひとつだけアドバイスをあげるわ。これは占いじゃなくて、私個人からのアドバイス。目の前にあるものをよぉーく見ること。散々探していたものが、実は目の前にあった...なんてことない?人生なんて案外、そんなものよ?
ひかる:...わかりました...
アケミ:...ごめんなさいね、意地悪してる訳じゃないのよ?
店を出て彼の隣を歩く。彼も何だか元気がない。
そんな彼の手を握ってみた。いつもの事なのに何だか緊張するのは何故?
私の中で燻っていた何かが...蠢いた気がした__
_____________be continued.
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