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Missing 第6話

彼女はいつだって太陽みたいに笑う。


__日陰にいる私を照らしてくれるかのように。


麗奈:おはよー、夏鈴ちゃん!




夏鈴:お、おはよ...


楽屋に入ってきた麗奈に明るく声をかけられ、恥ずかしくて俯いてしまう。いつもの事だ。


元々そんなに社交的な方ではない。


でも、彼女と目が合わせられない理由は他にある。


私は...好きなのだ。



麗奈の事が。


_________

第6話
与えられた力

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



__鳴り止まない地響きと、舞う砂埃。


目の前で倒れている天。大量の血溜まり__


少し離れたところではひかるが謎の怪物と闘っている。


私は目の前の状況がどうしても飲み込めなかった。


夏鈴:何...これ...夢?


隣で立ち尽くす麗奈と目が合う。彼女は困惑しながらも倒れている天に駆け寄った。私も彼女に習い、天の傍にしゃがみ込む。


麗奈:...良かった...まだ息してる...。


天の頬に触れてみる。荒い呼吸と大量の汗が、状況の深刻さを物語っている。


しかし、私はずっと夢の中にいるような感覚から抜け出せない。脳が理解することを諦めたかのようだった。


夏鈴:...麗奈...ウチ...


麗奈:...大丈夫...きっと大丈夫だから...。


まるで自分に言い聞かせるかのように繰り返す麗奈の目は宙を泳いでいた。

いっそ夢なら早く覚めて欲しい...そんな事を考えていた、その時だった。


??:...すまないが、私の話を聞いてくれないか?



夏・麗:っ!?


急に近くから知らない声が聞こえて驚く。


周りを見渡すと、天が何か抱えていることに気づく。...兎だ。声は間違いなくそこから聞こえている。


夏鈴:兎が...喋ってる...!?


??:あぁ...喋る兎は珍しいだろうな。私はピーター。ひかると天の友人だ。状況が呑み込めないのだろう。私が説明する。聞いてくれ。


喋る兎は自身をピーターと名乗り、天の腕から這い出てきた。どう見ても本物の兎...喋る玩具などではない。


夏鈴:ちょちょちょ...ちょっと待って...ホンマに頭が追いつかん...


麗奈:...聞いたら納得出来るの?兎さん?


ピ:...確約は出来ない。だが、渦中にいる君達には聞く義務がある。ひかる達の為にも聞いてほしい。


"渦中にいる"ということは、この状況は私たちに無関係ではないと言うことか...


夏鈴:...わかった。話して?


麗奈と目を合わせ、互いに頷く。


ピーターの方を2人で見る。彼は静かに話し始めた___


夏鈴:...ホンマに映画みたいな話やな...


麗奈:そうだね...


彼の話によると、彼は"異世界人"で、元の世界に戻る為ひかるたちに協力してもらっているのだそうだ。なんやかんやあって今は兎の姿らしい。


そして、私と麗奈はと言うと、黒い兎のお守りのせいで今この不思議な所に連れ去られてしまっていたところをひかるたちが助けに来てくれた...との事。


ポケットから例の黒い兎を出してみた。このお守り...確かに私がこの神社で買ったものだ。


麗奈のことが好きだったけどどうしても勇気がでなかった自分を鼓舞する為に。


夏鈴(...これが...ウチと麗奈を惹き合わせた...?)


少し寂しさを感じた。


麗奈は...これの力のおかげで私の事...


麗奈:...夏鈴?こっち見て?


夏鈴:えっ...?


顔を無理矢理麗奈の方に向けられる。


麗奈:...私は最初から好きだったよ。夏鈴の事。その黒い兎さんのせいじゃない。


真っ直ぐな彼女の視線。


夏鈴:...ウチの心読めるん?


麗奈:わかんない。でもそういう顔に見えた。


驚いた。でも、嬉しい。"こんなもの"に頼らなくても、ウチらは両想いだったんや。


しかし、状況は何一つ好転していない。


夏鈴:それより天は...大丈夫なん?


ピ:...一命は取り留めた。後は私が何とかしよう。問題はひかるの方だな...


そう言って彼はひかるの方を見る。


激しい地響きの中立っているひかるの足元に、無惨な姿で倒れ伏す怪物。


遠くてはっきりとは見えないが、私の目に映るひかるは...笑っていた。



見た事もない恐ろしい顔で。

____________________

__どれくらい気を失っていたのだろう。


意識を取り戻した私の眼には、信じられない光景が映っていた。


サキ『おのれ...小娘ェ!!!!』


ひかる:...無駄。もう分かってるやんね?


ひかるが...私を圧倒していた九尾の狐と戦っていた。


次々に繰り出される攻撃は苛烈を極め、ひかるに襲いかかる。


だがひかるはそれらを全て躱し、一気に間合いを詰め、九尾の鳩尾に拳を叩き込んだ。


サキ『...ぐぅっ!』


骨の折れる鈍い音。くぐもった呻き声を上げ吹き飛ばされる姿には先程の威厳は全くない。


いや、それよりもひかるが纏っているとても強い力は何だ...?もしや"サクラ"の力を?


そんなはずはない。"あの力"はその強力さ故、使うものに大きな負担を与える。生身の人間が扱えるようなものでは無いはずだ。


しかし眼前の信じられない光景が、私の判断を鈍らせる。


私が知る限り、ひかるには戦闘技術などは備わっていないし、何より暴力を振るうような性格では無い筈だ。

そして何よりあの禍々しいオーラは一体...

天:...うぅ...ピーター...?


ピ:...天!?


そこで初めて、私は天に抱えられていることに気付いた。


ピ:...無事か?


天:うん...多分。すんごい吹っ飛ばされたけどもう痛みもない。でもちょっと...眠いかも。


呼吸が荒い...まさか怪我を?


幸い外傷は無いようだが...


ピ:あぁ...少し休むといい。あまり安全とは言えないがな。

天:うん...ちょっとだけ...


私は目を閉じた天の腕の中で状況を整理した。


__恐らく私が敗れた後、九尾と出くわしたひかるは追い詰められ皆を守るためにあの力を使った...?


いや、自分の意思ではないだろう。天が危険な目に遭って激昂した結果だろうか。


いずれにせよあの小柄な体躯に似つかわしくない膂力と目にも止まらぬ速さは元々ひかるに備わっていたものとは到底思えない。


ひかるの身体は淡く発光し、神々しいとも言える出で立ちだが、その背中から感じる気配は仄暗い。まるで底の見えない闇を覗いているかのようだ。


ひかる:...まだまだ、終わりじゃないけん...立って?


サキ『...く...お主...一体...何者じゃ...何故"その眼"を持っている!?』


ひかる:...これから死ぬのに知る必要あると?


サキ『ぐぅぅっ...有り得ぬ...認められるものかぁぁぁ!!!』


ひかる:...ごちゃごちゃうるさいなぁ...私にもよく分からんけん、ちょっと黙って?


最期の力を振り絞った九尾の攻撃も、呆気なくひかるに受け止められ、そのまま地面に叩きつけられる。


ひかる:ひとつだけ...聞いてもいい?


ひかるは足元に転がった九尾の傍にしゃがみこみ、その顔を覗き込む。


返答はない。しかし彼女は続けた。


ひかる:...天とピーターを...治せる?治せるなら...命は助けてあげるけん。


サキ:...ふふ...ふふふふふ...


ひかる:...何笑っとるん?


力なく笑う九尾からは、もはや先程までの力は感じられない。人間の姿を保つので精一杯なのだろう。


サキ:...九尾の狐として生きてきた千年余り...人を傷つけたことはあっても癒した事など一度もない...。分かっておるのだろう?潔く殺せ...。


九尾の言葉を聞いたひかるの目がすっと細くなる。あれは...まずい。


ひかる:...そっか...じゃあお望み通りにしちゃるけんね...

少し残念そうな表情で、ひかるは拳を振り上げた__


ピ:待て、ひかる。もう充分だ。あとは私に任せてくれ。


ひかるが稼いでくれた時間のおかげで力が回復した私は彼女の元へ飛び、静止の言葉をかける。


ひかる:...っ!?ピーター!?...大丈夫なん!?天は?


ひかるの表情に少しばかりの希望が垣間見えた。


ピ:...あぁ...大丈夫だ。だからもう...やめるんだ。


ひかる:でも...こいつは2人に酷いことしたけん...絶対に許せん。


解けた緊張も一瞬。険しい表情に戻ったひかるは九尾に向き直る。


ピ:あぁ...その通りだ。だがこいつにはまだ聞くことがある。処遇はその後決めても遅くはない。


ひかる:...でも!


納得出来ないのだな。わかっているよ。


だが君にこんなことをさせる訳にはいかない。


サキ:...ふふ...ふ...貴様らに話す事などもうない...早う殺せ...あの小娘の敵をとりたいじゃろうに...


ひかる:っ!!こいつまだ...!!


瞳に怒りを灯すひかるは九尾の胸ぐらをつかみ、持ち上げた。構えた拳が強く輝く。


ピ:...待て!待つんだ!ひかる!!


まずい...力が強すぎる...止められないか...


??:まって!ひかる!!


ひかる:っ!?



激昂したひかるを後ろから抱き留めたのは





__倒れていたはずの天だった。


______________be continued.

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