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君と僕の行方 epilogue

___信じよ。さすれば与えられん。


厳しい寒さもどこかへ消え、暖かい春がやってくる。

店の窓からもよく見える大きな桜の木は今年も満開だ。


アケミ:...今年も綺麗ねぇ...


カウンターに頬杖をつきながら1人呟く。


あら、ごめんなさいね?自己紹介してなかったわ。アタシはアケミ。この『占いの館』の店長。


性別?そんな事知りたいの?ウフフ♡強いて言うなら『私はどちらだと思われても構わない』というところかしら。まぁつまりそういうこと♡


ここでアタシは日々迷える子猫ちゃん達をお得意の占いで助けてるってわけ。


アケミ:...しっかし暇ねぇ...


占い師なんてのはよっぽど売れっ子じゃない限り、忙しく仕事をすることなんてない。


実際アタシも占いだけではこの店を維持なんてとても出来ないから、夜はバーをやっている。


お酒を飲みにくる人って、大抵何か悩みを抱えてるし、一石二鳥よね。


それにしても、最近暇。まぁ、悩んでる子達が少ないってことはいいことかもね?


そんなことを考えていると、店の扉が開く。


アケミ:いらっしゃいませぇー♡って、あなた...


入ってきた女の子には見覚えがあった。随分と大人びてしまったようだけど、面影がある。


そう。




__忘れるはずはないのだ。

―――――――
epilogue
占い師、曰く
―――――――


アケミ:...お久しぶりね?


ひかる:...私を覚えているんですか?


アケミ:もちろんよ?アタシのモットーなの。受け持ったお客様の顔と名前は絶対に忘れないわ。


これは嘘。流石に全員は覚えられない。アタシが彼女を覚えていたのは、彼女との鮮烈な出会いのせい。


あれは確か...5年くらい前だったかしら。


まだ幼さの残る彼女はある男の子を引連れ、この店にやってきた。


その瞬間___


アタシの頭に、ある映像の断片が映し出された。


これは彼女の...未来__


...アタシには、幼い頃から他の子達にはない不思議な力があった。


それは、未来を見る力。


未来を見るとは言っても、自分の意思で好き勝手に覗けるわけではない。


今のように、勝手に向こうから頭に流れ込んでくるの。だから、"視える"こともあるし、"視えない"こともあるってわけ。


この力の存在を確信したのは、大好きだった祖父の死が...頭に浮かんだ時だった。


まだ幼かったアタシはそれを祖父に伝えてしまい、結果として祖父が亡くなったので、親戚中から気味悪がられ、最後には実の両親からも勘当されてしまった。


アタシはそれから他人の未来が視えても、それを口に出すのはやめた。この力は災いの元だと。


そしてアタシは、占い師になった。自分の力が少しでも生かせるかも知れないと思ったから。

しかし、現実はそうではなかった。客は皆、自分に都合のいい占いのみを信じる。仮にアタシが悪い未来を視て、そうならないよう助言しても、誰も耳を貸さなかった。


結局アタシのこの力は、誰かを幸せになど出来ない。そう思わせられただけ。


__ちょっと話が逸れたわね。この子を初めて見た時。アタシの頭に流れ込んできた未来。


彼女は泣いていた。1人桜の木の下で。着ている服は今着ている制服ではなく、大人びたものだ。
かなり先の未来なのだろうか。


アケミ:(...でもこの子たち...カップル...という訳ではなさそうね)


案の定先に話を聞いた男の子は、彼女との未来を視て欲しいと願っていた。


では先程の映像は...?


今思えばほんの少しの興味だったんだと思う。


アタシは彼に『運命を信じろ』とだけ告げた。


占い師らしからぬ無責任な言葉だ。何なら形式的な占いすらしていない。


彼女が泣いていたところからして、おそらくこの子たちの関係は崩れてしまう。だとするなら、彼に諦めないよう促すことで、少し未来を変えることが出来るかもしれないと思った。


女の子の方には、少し...お説教じみたことを言ってしまった。あの年頃の子には少々堪えたかもしれない。しかし彼女の目は悲哀ではなく決意の色を灯していた。女の子は強いものね。


アケミ:...それで、今日はなんの御用かしら?


ひかる:...前に言ってましたよね。『自分に正直になれたらもう一度来なさい』って。私、あなたの言う通り、自分に嘘をついてました...彼のこと好きだったのに...彼の気持ちを弄んで...


アケミ:...もういいわ。そんな泣きそうな顔しないの。まずは座りなさい。


アタシは涙が止まらない彼女を宥め、話を聞いた。

_________________

アケミ:...彼、とても優しいのね。こんなあなたを待っていてくれる、だなんて。でもあなたはその優しさを受け入れる勇気がなかった。

彼女は無言で頷く。その顔には後悔と自責。


アケミ:...それで、アタシに彼とのことを視てもらおうと思ったわけね?

ひかる:...正直、占いに頼っても仕方ないと思う気持ちもあるんです。でも、今の私には本当に何もなくて。何でもいい...どうしたらいいか...示してくれるものが...欲しいんです。


泣きながら彼女はアタシの目を見た。その大きな瞳はあの頃と同じ強い意志を宿していた。


アケミ:...なるほどね。『占いに頼っても仕方ない』ってのはちょーっと気になったけど、いいでしょう、占ってあげるわ。


もっとも、形式的な占いなどそれこそ彼女の言うように頼っても仕方のない気休めのようなもの。


だけど彼女がそれを求めているのなら、望み通りにしてあげましょう。


アタシは占いの道具を準備しようと、机の引き出しを開けた。




__その時だった。




アケミ:っ!?


頭に強烈な衝撃が走り、それと同時に脳内に鮮明な映像が流れ込んでくる。これは...


そこには満開の桜の木の下で空を仰ぐ青年の姿が。どうやら泣いているようだ。なにか呟いているようだが、そこまでは分からない。舞い散る桜の花びらが彼に降り注ぎ、まるでドラマのワンシーンのよう。


前に視た時は泣いていたのは彼女だった。
ということは少なくともその未来は変わったということ。しかし何故こんな映像が?
これが彼女の未来だと言うのか?そしてあの青年...もしかして...


ひかる:...どうしたんですか?大丈夫ですか?


アケミ:アタシのことはいいわ...それよりあなたさっき...彼と『約束』したって言ってたわよね?
...それはどんな内容か聞いていいかしら。


ひかる:...私の気持ちが決まるまで、いつまでも待っててくれるって...

アケミ:それはさっき聞いたわ。場所は?どこでその約束をしたの?


鼓動が早くなる。まさか...さっきの映像...


ひかる:...この近くの大きな桜の木の下...だったと思います。



アケミ:.........!!!!






___全てが繋がった。


満開の桜の木。空を見上げ泣いている青年。そして、今目の前にいる彼女。


アケミ:...あなた。今すぐここを出てそこへ向かいなさい。


ひかる:...え?あの...占いは...


アケミ:今はそんなことどうでもいいわ!行きなさい!あなたがずっと欲しかったものがそこにある!信じなくてもいい!とにかく行きなさい!早く!!!!走るのよ!!!!今行かなきゃ...一生後悔するわよ!!!!!


アタシは占い師としての立場も矜恃も忘れ、叫んだ。


さっきの映像の青年。おそらくあの時の男の子だ。彼女の話を総合して考えるなら、5年経った今でも彼は待っている...愛する人を。約束の場所で。


『運命』を...信じているんだわ...アタシの...言葉を。


ひかる:...桜の木...私の1番欲しいもの.........!!!


アケミ:...わかったならいいから行きなさい。前言ったでしょ?お代はいらない。ただ1つ、約束して。

ひかる:...?


アケミ:...必ずモノにするのよ?恐らくこれが最後のチャンス。女は度胸。勇気出しなさい!


ひかる:...はい!


彼女は力強く返事をして、店を飛び出して行った。


アタシはその後ろ姿を見送り、天を仰ぐ。


今までずっと忌まわしいと思っていた。自分の力を。


この力は誰かを幸せにすることなど出来ないと。






__違ったのね。



幸せになるかどうかなんて、未来が見えてもわからない。当人がどうするか、どう感じるか...



それが全てだったのね。


だからこそ願う。彼女には...いや、彼女たちには幸せになって欲しいと。


いや、ここはアタシも『運命』とやらを信じてみましょうか...


__________________

それから数日後__


店のポストに、一通の封筒が入っていた。


そこには可愛らしい字で『アケミさんへ』と書かれている。


一目でわかった。"彼女"だ。


中には小さな手紙と、少しばかりのお金。そして、桜の花びらが入っていた。


手紙には『アケミさんのおかげです、ありがとう。今度は2人で来ます』とだけ書かれていた。


アケミ:...お代はいらないっていったじゃない...粋なことするじゃないの。ふふ...次来たら、もっとふんだくってやるんだから。


アタシは久しぶりにいい気分で、営業を開始する。すると、店のドアが開く。開店直後からお客様とは珍しい。


??:...あの...ここで占ってもらえるって聞いたんですけど...


入ってきたのは女の子...20代前後位かしら。とても美人だわ。彼女は車椅子に乗っており、スーツの男性達を従えていた。どこぞのお金持ちのお嬢様かしら。


アケミ:いらっしゃいませぇー♡ようこそ!ここは初めてよね?あっもしかして怖がらせちゃったかしら?そうよねぇー?いきなりこんなゴリゴリのオカマにに出迎えられるなんて思ってないわよねぇー?でも安心して?腕は確かだから♡

??:何かすごそう!早速お願いします!


アケミ:…順応性高い子、好きよ?それで、何を視て欲しいの?


??:私の身体、見ての通りあまり良くなくて...リハビリ頑張ってるんですけど、不安で...


アケミ:なるほどねぇ!わかったわ。それではお部屋にご案内するわね?お付きの方々はここでお待ちになって?♡


アタシは彼女の車椅子を押しながら思う。


この子は、幸せになれるだろうかと。

アケミ:......っ!!

ふと頭に映像が流れ込んでくる。彼女の未来。


アケミ:(...これならきっと大丈夫ね...)


アケミ:占いを始める前に3つ約束して?まず1つ...


個室に入り、アタシは彼女の目を真っ直ぐ見据え占いを始める。


彼女の幸せを願いながら___


_______________end.


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