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君と僕の行方 第7話

『それでは、第46回、××中学校卒業式をとり行います』

静寂に包まれた体育館に仰々しいアナウンスが流れる。

そう、今日は卒業式。




京介:しっかしみんな揃って志望校受かって本当に良かったよなぁ...


〇〇:おいおい...式の途中で喋るなよ...


京介:大丈夫だって。どうせ誰も聞いてねーよ。
それより、オレは今日やるぜ。


〇〇:...何を?


京介:藤吉さんに...告白するんだ。


〇〇:...京介には"鉄壁"は破れないと思うなぁ...まぁ、フラれても慰めてあげるよ。


京介:なにぃ!?そんなのやってみなきゃわかんねーだろ!お前だって森田に結局告白しないまま卒業じゃん?


〇〇:...僕はいいんだよ、これで。

そう、あれから結局僕らの関係は進展しないまま。


京介:...お前も色々あると思うけどさ、オレは...その...お似合いだと思ってるぜ?


〇〇:ふふっ...京介もそんな事言うようになったんだね。


京介:...やっぱ今のなしな。


今日が終わってしまえばひかるとは離れ離れになってしまう。


本当は彼女の気持ちを確かめたい。


でも...僕は待つと決めたんだ。ひかるの答えを。

――――――
第7話
臆病者たち
――――――



___式が終わり、僕は何となく放送室へと足を運んだ。ここへ来るのも今日が最後だ。いつもの場所に座り、天井を眺める。


そういえば、あの花火大会の後、麗奈から手紙が届いた。手術は無事成功し、今はリハビリの毎日だそうだ。いつか必ず日本に帰り、"2人"に会いにいく、と綴られていた。


〇〇:...2人に...か。


ひかる:まぁた考え事しよる...


〇〇:うわっ!もう...いるなら言ってよひかる...


ひかる:へへ...驚かせようと思って。


ひかるが物陰から出てくる。




__あの時と同じように。




ひかる:...卒業かぁ...なんか寂しいね。


〇〇:...いろんなことあったなぁ...


ひかる:...本当やね。


今度は2人で天井を眺める。


ひかる:...帰ろ?


〇〇:...うん。


帰り道の商店街を2人で歩く。無言だが、嫌な空気ではない。


僕らはどちらからでもなく、その先の公園に向かう。公園の真ん中にある大きな桜の木は満開で、思わず目を奪われるほどの綺麗さだった。



ひかる:...毎年綺麗やね。



〇〇:そうだね...



僕らは木の前で立ち止まる。桜に見蕩れていたひかるがこちらを振り向く。


ひかる:えへへ...


満開の桜の木をバックに微笑む彼女が心から愛おしい。


ひかる:...えっ?泣いてるの?


〇〇:...っ!?...そうみたい。


頬を撫でると、濡れていた。自分でもよく分からない感情が涙と共に溢れてくる。


ひかる:...私と離れちゃうの、寂しい?


そんな事言わないで。




__寂しいに決まってる。



今すぐにでも君を抱きしめて好きだと言いたいよ。


...でも。


僕は涙を拭って彼女を見た。


〇〇:...待ってるから。いつまでも...ここで...待ってる...。


何とか絞り出した言葉に彼女はなんとも言えない表情を浮かべた。笑っているような...泣いているような。


ひかる:...うん...うん...約束やね。


僕はひかるの頭を1度だけ撫でて、言った。


〇〇:...じゃあ...またね。


返事は聞かずに踵を返す。



___言えなかった。でも、これでいいんだ。


今はその場から少しでも早く離れたかった。









__僕は…臆病者だ。




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最終話
"どうかもう少しだけ"
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__桜の季節になると、毎年思い出す。


あれから5年。僕は大学2年生になり、勉強にバイトにと忙しい日々を送っている。


〇〇:...今年も綺麗だ。


家の近くの商店街の公園。その真ん中にある桜の木の前に今年も立つ。


君と約束してから5年。結局君は1度も現れなかった。


今思えば互いに若かったんだと思う。あんな曖昧な約束、きっともう忘れているに違いない。


〇〇:...滑稽だな。


心からそう思う。何故あの時正直に言わなかったんだろう。勇気がなかったのか、本気で待っているつもりだったのか...今となっては思い出せない。



__残ったのは後悔と、馬鹿みたいな自分。


突然強い春風が吹き、桜の花びらが舞散った。



僕は舞い散る桜を眺め、目を閉じる。瞼の裏に今でも鮮明に映し出される彼女の姿。


ねぇ、君は今どうしてる?



約束...まだ覚えてるかな。



僕は結局、君を忘れられそうにないよ。



『...大人になっても考え事しよるんやね』



彼女の声が聞こえた気がした。



そうだよ、君のせいでいつも考え事ばっかりしてたんだ。



大好きな君の事...四六時中考えてたよ?




それでもやっぱり僕じゃダメだったのかな?



桜が咲くこの時期にだけ、君を強く感じられる気がする。

"僕の願い"は叶わなくてもいい。


ただせめてもう少しだけ...



もう少しだけ満開でいてくれないか。



目を開ける。桜の木が滲んで見えるのはきっと気の所為だ。後悔と自嘲が襲う。


〇〇:...馬鹿だな...僕は。



こんな事は今年で最後にしよう。これではいつまでも前に進めない。諦めよう、彼女のことは。


きっとこれが..."運命"だったんだ。














__その時だった。



ひかる:...やっぱり考え事しよったんやね。


〇〇:っ!?



聞き覚えのある声に振り返るとそこには__



〇〇:...ひ...かる...?


そこには僕がずっと好きだった人が...僕を見て微笑んでいた。

____________________

ひかる:...はっ...はっ...


私は走っていた。人目もはばからず。


すぐ上がってしまう息に、もう若くないんだな、などと呑気に考える暇などない。


あの頃の私は嫌な女だったな、と自分でも思う。


彼の気持ちが私に向いているのをいいことに、曖昧な関係を続けてしまった。


彼のことは、好きだったんだと思う。


でも私は若かった。恋人になることで、今の関係が失われてしまうかもしれないと考えていた。





__私は最初から最後まで臆病者だった。



そうして高校生になり、彼のいなくなった私の世界には











__色がなかった。



すぐに後悔した。あの日彼を引き止めればよかった、気持ちをちゃんと伝えれば良かったと。失われるものもあれば、得るものも沢山あっただろうに。


彼への気持ちは日に日に強くなるばかりで、私はただひたすらに自己嫌悪し続けた。


しかし、彼との約束の場所に行く勇気がどうしても出なかった。こんなに後悔しているのに。彼はまだきっと待っていてくれているのに。


だからもう終わりにしよう。こんな臆病な自分と決別する時が来たんだ。


"あの人"の言葉が本当かどうかなどわからないが、不思議と私は確信していた。








__彼が待っている。と。



ひかる:...はぁっ...はぁっ...


商店街を抜け、懐かしいあの公園へと入る。


公園の真ん中にある大きな桜の木の下で、1人の男性が空を見上げていた。


考え事をする時必ず上を向く癖。彼に間違いない。


ひかる:...やっぱり考え事しよったんやね。


息を整え、声を掛けると彼は驚き、私の顔を見た。


〇〇:...ひ...かる...?


ひかる:...どうしたん?お化けでも見たような顔して。


彼は...泣いていた。"あの時"と同じように。


〇〇:...来て...くれたんだね...本当に...


ひかる:...うん...。ちょっと遅くなっちゃったけん...


彼の涙につられて私も泣いてしまいそうになる。
いや、ダメ。私には言わなければいけないことがあるんだ。


〇〇:ひかる...僕は...


ひかる:私、〇〇が好き。本当はずっと恋人になりたかった。
でも…勇気が出なくてずっと〇〇に甘えとった。
〇〇の気持ち、弄んどったよね。本当にごめんなさい。


彼の言葉を遮って私は言葉を吐き出した。



彼は私の目を見つめながらじっと聞いてくれている。


唇が震える。負けちゃだめ。今言わなきゃまた絶対後悔する。


ひかる:...私、ようやく気付けたんよ。〇〇がいなきゃダメやって。〇〇の隣にいたいって。
だから...本当に今更やけん...私と...私と…付き合ってください。


私の言葉に彼は安堵と喜びの混じったような表情を浮かべた。


〇〇:...もちろん...ひかるじゃなきゃ...僕にはひかるしか...いないよ...


泣き崩れてしゃがみ込む彼の頭を私は優しく抱き締めた。


ひかる:...大好きよ?


〇〇:...僕もだよ。


彼も私を抱き締めてくれる。大好きな久しぶりの彼の匂い。


ひかる:...本当に本当にずっと待たせて...ごめんね?


〇〇:…僕はひかるを...信じてたよ...きっとこれが"運命"だったんだ...


ひかる:ふふっ..."運命"か...本当にそうかもしれんね。


舞い散る桜が雨のように私たちに降り注ぐ。
今度こそ共に歩むことの出来る私たちを祝福するかのように___


______________end.

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