From my past 第9話~第2の重要参考人~
◯◯:...で、君の志望動機は?
『土生さんに憧れて!!』
『由衣さんの下で仕事がしたくて!!』
『えっと...何となく。』
次々と流れていく"不純な動機の数々"に辟易とする間もない。
生徒会役員になりたいと集まった生徒は生徒会室の外まで長い列を作っているのだから。
◯◯(...1人くらいまともな動機を聞かせてくれ...)
新入生歓迎会が終わり、次に僕が任された仕事。
そう、面接である__
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第9話
"第2の重要参考人"
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◯◯:...はい、次の方どうぞ。
美空:2年×組の一ノ瀬美空です!趣味は◯◯鑑賞と、◯◯の写真集め...
◯◯:...お帰りください。
美空:えぇーっ!?そんなぁ...冷たすぎん?こんな可愛い◯◯の事だぁーい好きな幼馴染...何の不満があると?
何故か面接にトライしてきた美空はしょんぼりと肩を落とす。
◯◯:...いや...不満とかじゃなくてさ...催実じゃん、美空は。掛け持ちは出来ないでしょ。
美空:...ミナミさんにはちゃんと許可もらったけん!
"ミナミさん"とは催事実行委員会の会長。実際に会ったことはないが、生徒会メンバーの反応を見るにかなり厳しい人のようだ。
◯◯:...ホント?なんて言われたの?
美空:.由衣さんが認めるならいいよって...
◯◯:...そりゃ実質ノーだよ。美空。
美空:えぇぇ!?そうなん!?がっくし...まぁ...そんな上手くいくわけないか...
またしても肩を落とす美空に緊張の糸が解れるのを感じる。
◯◯:...でも気晴らしにはなったよ。ちょっとしんどかったし。ありがとう、美空。
美空:...でしょ?やっぱり◯◯の隣にいられるのは私だけやけん!
◯◯:...ところでさっき『◯◯の写真集めが趣味』とか言ってたけど...詳しく聞かせてくれる?
美空:...あっ...そういえば私先生のとこ行かなきゃいけんのやった!ごめん!も、もう行くね!
さっきまでのご機嫌はどこへやら、慌てた様子で生徒会室から出ていく美空。
◯◯:...逃げられた...。
夏鈴:...まったく...美空ちゃんは相変わらずやなぁ、お疲れ。
◯◯:...あぁ、ありがとう。夏鈴。
どうやら今日の希望者は美空で最後だったらしい。
紅茶のカップを僕のデスクに置いて笑う夏鈴に安心からかどっと疲れが押寄せる。
夏鈴:...だいぶやられたみたいやな、ふふっ...
◯◯:いやホント...1人くらい真面目な動機を聞きたかったよ...
女子生徒の殆どは土生さんか由衣さん目当てだし、そもそも男子は1人も来ていない。
夏鈴:...まぁ、生徒会の仕事やりたくて来る子は珍しいと思うわ。みんな普通に学園生活楽しみたいやろうしな。
気持ちはわからなくもないが、だとしても不純な動機が多いことに納得は出来ない。
◯◯:...そういえば...夏鈴はさ、何で生徒会入ったの?
少し遠い目をする夏鈴に、ふと気になったので聞いてみる。
夏鈴:...保乃に誘われたから...ってのが1番かな...それと...
◯◯:...それと?
僕の問いに少し俯いた後、夏鈴は僕の目を真っ直ぐ見据えた。
夏鈴:...変えたかったからかな..."臆病で何も出来ない自分"を。私には得意な事もやりたい事も...何にもあらへんから...でも...ここにいる時だけはいつもと違う...みんなの役に立てる私でいられる気がするから...なんて。
段々と小さくなっていく声が、自信のなさを物語っているようで真意を聞くことは躊躇われたが、ただ1つ僕にはわかっていることがある。
◯◯:...何も出来ないなんて言わないでよ。
夏鈴:......え?ちょっと...◯◯?
気付いた時には夏鈴の肩を掴んでいた。
◯◯:...夏鈴は僕を何度も助けてくれたじゃない。それこそここに来てまだ1ヶ月も経ってないのにもう何回も助けてくれた。自分で気付いてないのかもしれないけど...夏鈴は...すごく優しくて、周りを落ち着いて見てくれてて...いつもさり気なくサポートしてくれて...だから...
夏鈴:...◯◯...もうええ...もうええから...
真っ赤になって俯いてしまったもののその手は肩に置かれた僕の手を強く握り締めており、離れようとした僕を引き留める。
◯◯:ごっ...ごめん...何か急に恥ずかしい事言っちゃって...
慌てる僕をゆっくりと見上げた夏鈴は、いつもとは少し違う顔で微笑んでいた。
夏鈴:ううん...めっちゃ嬉しかった...ありがとう。お陰で私...やりたい事1個見つけたわ。
◯◯:...やりたい事?
夏鈴は1度深呼吸してから、また僕の目を真っ直ぐ見つめた。
夏鈴:...◯◯の側に...いること。出来るだけ長く...これからも...ずっと...
◯◯:かっ...夏鈴...それは...どういう...
何かをせがまれるような瞳に吸い込まれそうになる。
夏鈴:...あかん...これ以上...我慢出来ひん。
2人の距離はだんだんと縮まり、ついに彼女の鼻先が眼前にまで迫った
__その時だった。
背後で扉の開く音。弾かれたように2人は距離をとる。
??:あ...あの...生徒会に...入りたくて来たんですけど...
俯いて遠慮がちに入ってきた1人の女子生徒。
◯◯:あっえっ...はいはい!じゃじゃじゃあ早速面接を始めますね?
狼狽えて受け答えもしどろもどろになってしまう。
間一髪だった。恐らく見られてはいないはずだ。そうであってくれ。
夏鈴:...私も隣で見ててええ?
◯◯:もっ...もちろんだよ...
女子生徒を椅子に招き、対面する形で夏鈴と2人並んで座る。
◯◯:...ではまず自己紹介からお願いします。
??:1年○組の...山下...瞳月です。
あがり症なのだろうか。小さな声で自己紹介してくれた。
僕はメモを取りながら注意深く様子を伺う。
◯◯:山下さん...ですね。早速ですが、生徒会に入ろうと思った動機を教えて貰えますか?
顎に小さな握り拳を当て、キョロキョロと周りを見渡しながらさっきよりも小さい声で彼女は言った。
山下:...えっと...その...生徒会の活動に...興味が...あって...
今日初めて聞く"まともな動機"。しかし申し訳ないが目の前の挙動不審な彼女に説得力は感じられなかった。
__僕にでさえ分かる"取って付けたような動機"。
◯◯:なるほど...分かりました。選考結果は後日生徒会室前の掲示板に貼り出しますので、それまでお待ちください。今日はありがとうございました。
山下:あっ...はっ...はい...ありがとう...ございました...
夏鈴と共に頭を下げる。椅子から立ち上がる音が聞こえ、顔を上げるともう彼女は扉から出ていくところだった。
山下:...あ、そうそう。1つ言い忘れてました。
◯◯:...えっ?
振り返った顔は先程の彼女からは想像も出来ないような自信に満ち溢れたしたり顔だった。
山下:...ウチ...知ってますよ。"あの子"が誰なのか。
__耳を疑った。
◯◯:なっ...何だって!?
確かに聞こえた。"あの子"という言葉。それが誰なのかは言うまでもない。
しかし何故彼女が?まさか彼女も...僕の過去を知る人物だと言うのか?
驚きのあまり呆然とする僕らを見て、彼女は更に意地悪な笑みを浮かべた。
山下:あははっ!その顔!その顔が見たかったんです。私を生徒会に入れてくれたら...教えてあげてもいいんやけど...どうです?
夏鈴:あなた...一体...
山下:...選考結果...楽しみにしてますよ。春月◯◯さん...それに...藤吉夏鈴さんも...ふふ...あはははっ...
彼女は言い捨てて、楽しそうに笑いながら去っていった。
立ち尽くす僕らを残して___
_________be continued.
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