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Missing 第4話

__恐ろしい出来事から数分後。


私たちは自宅に辿り着いた。


リビングのソファに座ると、疲れと忘れかけていた恐怖に眩暈を覚える。


さっきのは...何?



聞き間違いじゃなければあの巫女さん私たちのこと...殺そうと...してたよね?



...いや、今はピーターの話を聞こう。考えるのはその後でいいや。


私はソファにもたれ、ゆっくりと深呼吸した。


__脳裏に焼き付いた恐怖を和らげる為に。


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第4話

"The nine tailed fox"
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ピ:...どうやら状況は私が考えていたものよりずっと悪いもののようだ...こちらの世界によもやあの様な者がいるとはな...完全に誤算だった。


天:...あの人は何者なん?っていうか人?


ピ:薄々勘づいているだろうが、あの者は人ではない...だが...私のような異界のものではなかったように思う...。

珍しく歯切れの悪い結論。


ひかる:...もしかして...幽霊とか?



ピ:"ユウレイ"というものがどんなものかは私にはわからないが...何か心当たりがあるのか?


うーん...幽霊と言ってはみたが、心当たりなどあるはずもない。黙り込む私の横で、天が呟く。


天:...何か...キツネみたいやった...


ピ:...何か感じたか?何でもいい、教えてくれ。



天:んー...あの人を初めて見た時、何かに似てるなって思ったの。
最初は遠かったし、マスクしてたから顔よく見えへんかったけど...近くで見た顔が、キツネみたいやったなぁって...ほら、キツネって人を化かすって言うやろ?


キツネ...神社...先程まで思いもしなかった仮説が私の中に生まれる。


ひかる:...もしかして..."おいなりさん"...ってやつ?

ピ:詳しく説明してくれ。



"おいなりさん"...正式には"お稲荷"さん。
その名の通り稲の神様...農業の神様として古くから日本で祀られている。


厳密にはお稲荷さんはキツネではないのだが、キツネと縁の深い神であったことから、キツネ自体をお稲荷さんとして祀っている神社も多い。


キツネは古くから霊的な動物として知られ、先程天が言っていた様に、昔話ではタヌキと共に人間を化かす動物として有名だ。


私はスマホで調べたものを読み上げた。



ピ:...なるほど...土着の神...という訳か...道理で...しかし、神と言うのはあのような...邪悪なものなのか?


ひかる:...わからん...そもそも存在するかも分からんけん...


よく"バチが当たる"などという言葉を耳にするが、基本的には神様と言うのは人間を守ってくれるものだと思っていた。


あんな...禍々しいものが神様?あれではまるで...


天:...神様って言うよりは、妖怪みたいやったね。


ひかる:...それだ。


ピ:..."ヨウカイ"?それもまた神話的なものか?


ひかる:そんな感じやと思う。空想上の怪物...かな。


ピ:...成程...とにかく、ひとつ分かっていることは、あの怪物の力が、私の想像を遥かに上回っていた、ということだ。


ピーターはうさぎの姿なので表情は分からないが、声色で"あれ"がどれだけ恐ろしいものだったかが分かる。


ピ:だが、何らかの理由で奴はあの空間から出ることが出来ないようだ。
もし出ることが出来るなら、私たちをみすみす逃がすはずは無いからな。
...あくまで仮説だが。


確かに、生きて帰す訳には...とか言ってた割に追いかけてこなかった。と言うよりも...


ひかる:私たちがあそこから出られると思ってなかった感じだったんよね...逃げても余裕ある感じやったけん...


ピ:あの空間にはとても強い結界が張られていた。
恐らくそれは奴が張ったものではなく、奴をあの場に"閉じ込める"為に別の誰かが張ったのだろう。
私達が何故それほどの結界の中を出入り出来たのかは不明だ。もちろん君達の友人もだが。



ひかる:強い結界から出られない...封印されてたとか?いや流石にそんな漫画みたいな話...


そこまで言って思い知る。もうとっくに漫画みたいな話だと。



天:逆に漫画的に考えていった方がいいのかもね。



確かにそうだ。しかし、今回は夏鈴たちを巻き込む形になってしまった...



ひかる:...そうだ。夏鈴と麗奈ちゃんは大丈夫なん!?普通に置いてきちゃったけど。


天:...連絡も一切ない...


私も自分のスマホを見てみた。


日付は元に戻っている...が、夏鈴達から連絡は一切ない。

トイレだと言って抜けてきたことを思い出す。流石に不審に思って連絡してきても良さそうなもんだけど...


ピ:...何らかの理由で連絡出来ない状況にある、と考えるのが妥当だな。


ピーターの言葉に胸騒ぎがした。もしや2人して危険な状況なんじゃ...


ピ:...あの少女の意識を通じて、彼女らが置かれている状況を見られるかもしれん...見てみるか?

私たちは無言で頷く。


するとピーターの身体が輝きだし、一筋の光を壁に放った。

光は壁に到達すると、四角形に変化する。


そしてプロジェクターのようにそこに映像を映し出した。


天:...すごい...こんなことも出来るの?


驚くのも束の間。映像には木の床の上に横たわる夏鈴と麗奈ちゃんの姿が映し出される。


ひかる:...!!!2人とも...


ピ:...2人共生きてはいるようだ、気を失っているのだろう。


少しホッとした私たちの耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


??『...ほう、覗き見とはあまり褒められたものではないぞ?先程の童共かえ?』


間違いない。"あの巫女さん"の声。しかしその声はさっきよりも禍々しく、和らいでいた筈の恐怖を一瞬で思い出させる。


映像が少しブレ始めた。

ピ:...馬鹿な...気付かれた...だと?


??『...まあよい...聞こえておるのだろう?
丁度いい、この者達の命が惜しくばもう一度妾の元へ来い。フフフフフ...次は小癪な手を使って逃げようなどと思わぬ事じゃ...明日の夕刻、それまでに現れなければこの者たちの命はないと思え...待っておるぞ、童共...』


高笑いが聞こえた後、映像が途切れる。


だが、途切れる寸前、私は確かに見た。巫女服の女性の後ろ姿と、その女性の腰辺りから生えている無数の尻尾を__

ピ:...奴を見たか?


ひかる:うん...あれが何なのかわかった...気がする...

天:ホント!?


私は数々の疑問を一旦棚上げし、言った。





ひかる:...九尾の...狐...



__九尾の狐。

日本人なら1度は耳にしたことがあるだろう。
その名の通り9本の尾を持つ妖狐。
日本の伝説として語り継がれている数多くの妖怪たちの中で、最も有名で人気なものの1つだと言っても過言ではない。
漫画やアニメ、ゲームなどにもモチーフにしたものが数多く登場する。


__そして、そのどれもが"恐ろしく強い"存在として描かれていることが多い。


ピ:...なるほど...九尾の狐...か。確かに伝説的な存在に違わぬ恐ろしい力を持っているようだ...


天:...でもなんでまたその九尾の狐が恋愛成就のお守りなんか売ってたんやろ...しかもなんでよりによって夏鈴に?


さっきのピーターの話を総合して考えると、九尾の狐(仮)は夏鈴と麗奈ちゃんの間に生まれる"絆の力"...ピーターが言っていた"サクラ"の力が欲しいんだろう。



ピ:...確かめにいかねばならん。勿論友人のことも助けなければ...



ひかる:うん...でも...


私は言いかけた言葉を呑み込んでしまった。それを聞いてしまうと、恐怖に負けそうだったから...


ピ:...はっきり言って、今の私達では到底太刀打ち出来ない相手だ...次元が違う。


聞きたくなかった。


何となく予想はしていたけどいざ言葉にされると重みが違う。彼女と対峙した時の記憶が蘇り、身震いがした。


もう一度あの恐怖に耐えられる自信は...正直ない。


天:...でも夏鈴たちを放っておけへん!!どうにかなんないの?ピーター!


天が涙目で訴える。そうだ、怯えている場合ではない。2人の命が危ないんだ...


ひかる:私たちに出来ることあるなら何でもするけん、助けて...お願いピーター...大事な友達なの。


ピ:...覚悟は出来ているんだな?もちろん友人の命が懸かっている。が、それと同時に君達の命も懸かっているんだぞ?


ピーターの言葉がいつになく厳しく聞こえる。


怖い。もしかしたら死んでしまうのかも...


でも。逃げる訳にはいかない。2人を見捨てて自分が生き残るくらいならそれこそ死んだ方がマシだ。


震える膝を抑え込む。


__助けたい。2人を。


ひかる:...何度も言わせんで。私たちは、2人を助けたいけん。


天が私の方を見て強く頷く。私たちは自然と手を握り合った。


ひかる:...!!


すると繋いだ手から眩いほどの光が溢れ出し、私たちを包んだ。


天:えっ!?今度は何!?



ピ:...君達は本当に不思議だ...1度ならず2度までも奇跡を起こしてしまうとは...



眩しい光が消え、そこには見知らぬ人が立っていた。



真っ白な輝く髪。恐ろしい程に整った顔。



男女どちらとも言えないその美しい姿に思わず見とれてしまう。



ピ:...どうやら元の姿に戻ることが出来たようだ。



天:え!?じゃあこれが本当のピーターなん!?



ひかる:...すご...CGみたい...



ピ:ああ、そうだ。しかし...



人型のピーターが再び光に包まれ、収まるとそこにはうさぎの姿のピーターが。



ひかる:...あれ、戻っちゃった。


ピ:どうやら時間制限があるようだ...もって1.2分と言ったところだろうな。


ひかる:その姿なら...あいつと...戦えるん?


ピ:...正直分からない。だが、少し希望が見えたかもしれない。


天:ホントに!?

ピ:...それも踏まえて作戦を考える必要がありそうだな。


ひかる:そうやね。私たちにも出来ることあるといいけん。


天:...その九尾の狐の伝説を調べてみるとか?もしかしたら弱点とか載ってるかも!



そんなゲームの攻略本じゃないんやから...と思いつつ、私たちはスマホを覗き込む。先程までの恐怖は不思議と和らいでいた。

_______________be continued.

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