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擬態していた小悪魔

??:おはようございます先輩!


◯◯:おお...村井か。今日も元気だな。


毎朝のことではあるが毎度彼女の元気さには驚かされる。これから一日憂鬱な仕事が待っているとは思えないほどの快活さ。


優:...先輩は毎朝元気ないですよね。


◯◯:...そりゃ仕事なんかしたくないからな。


優:それでも毎日ちゃんと来てるんだから偉いです!



眩しい笑顔の後輩。オレの唯一の癒し...なのだが。


◯◯:...まぁ...その...村井もいてくれるし...


村井:えっ!?嬉しいです!私も先輩がいるから頑張れます!"今日も"ランチ一緒に行きましょうね!ふふーん♪


上機嫌で自分のデスクへと向かう彼女の後ろ姿に溜息を吐き出す。


今日も、スカされてしまった。


オレは村井のことが好きだ。いつからかは分からないが、いつでも明るく天真爛漫な彼女に気付けばどんどん惹かれていった。



しかし。


____彼女は、鈍感なのだ。超がつくほどの。おまけにド天然。


こんなに分かりやすい男もそうそういないだろうに。


確かにオレのアプローチは下手だ。この歳でろくに恋愛経験もないし、やり方など知らない。


それでも、なけなしの勇気を振り絞って色々と言葉にしてきた。


『今日の髪型似合ってるぞ』

とか

『メイク変えたのか?良いじゃないか』

とか。


しかし、毎度毎度それらの言葉は彼女を上機嫌にするだけに留まってしまっている。


やはり直接言うしかないか...しかしランチの時に言うのもなぁ...


そもそも想いが通じるのかもわからないし...


始業のベルが聴こえ、再び吐き出した大きな溜息と共にオレはデスクへと重い腰を下ろした__

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終業後。またしても背後から快活な声。


優:先輩!お疲れ様です!今日も一日頑張りましたね!


まるで先輩かのように後ろからオレの頭を撫でる後輩に、一日の疲れも吹き飛ぶ。


◯◯:...おう、お疲れ。


優:この後お暇です?ちょっと付き合って欲しいところがあるんですが!


◯◯:...ん?あぁ...構わないが。


優:やったー!そうと決まれば早く行きましょ?


帰り支度を終えたオレの手を取り、笑顔で走り出す村井に連れられて、日の落ちた街を歩く。

彼女はオレの腕を取り、鼻歌交じりでご機嫌だ。


__これを好きでもないただの仕事の先輩に出来てしまうのだからこの上なくタチが悪い。


こちとら脳にまで響くほどの心臓の音で目眩すらしていると言うのに。


◯◯:...で、どこ行くんだ?


優:...知りたいですか?


悪戯っぽく微笑み、一呼吸置いた後。彼女は恐ろしいことを言い出した。


優:...下着屋さんです!


◯◯:...は?何で?


聞き間違いだろうか。困惑するオレの耳元で彼女は妖しく囁く。


優:...もしかして気付かれてないと思ってました?笑っちゃうくらい"ドンカン"な先輩が...我慢できなくなっちゃうような...そんな下着を買いに行くんです...そしたらその後は...分かりますよね?




面白いほど分かりやすく身体が震える。


そんなオレの気持ちを見透かしたかのように目を細める彼女はいつもより何倍も大人びて見えた。


どうやら彼女はオレの思っていたような人間ではなかったらしい。


鈍感で天然な皮を被った"捕食者"だったのだ。


そしてそのターゲットは他でもない...



◯◯:...な...なんか...すまんな。こんなことまでさせて...


羞恥とそれを大きく上回る期待で彼女の顔を見ることが出来ない。


優:ふふふ...まぁそんなところが可愛くて大好きなんですけどね?


◯◯:はは...これは1本取られたな...


優:でしょー?えへへー...可愛いの選んでくださいね?それで...お返事は?


大きな目がオレを見つめる。鼓動は鳴り止むどころかどんどん大きくなるが、深呼吸して丁寧に言葉を紡いだ。


◯◯:そっ...そうだな...これからも...よろしくな。村井...いや...優を悲しませないように努力するよ。


優:...ふふ...合格です!さぁ!行きましょ?


梅雨のジメジメした陰鬱な空気も吹き飛ぶほどの笑顔でこちらを振り向く小悪魔に連れられ、オレは歩き出した__


_______________end.

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