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心と痛みの関係

LLLTの記事の中で痛みを緩和するメカニズムとして痛覚の緩和を二番目に挙げました。この記事の中では心と痛みの関連性についてもっと詳しく述べたいと思います。軽く痛みのメカニズムについて再度述べますが、先ず皮膚、筋肉、関節、内臓等に存在する侵害性受容器という痛みの受容器が警告シグナルを発します。そしてA‐デルタ若しくはC繊維という二種類の神経線維を伝わって電気信号が脊髄に送られます。A‐デルタの方が神経の伝達速度が速く、C繊維の方は幾らか余分に時間をかけて送られます。そして脊髄で一回目の処理をした後で、脳に送られ、痛みを知覚します。この時のポイントは脊髄にたどり着いた時点では、まだ痛みを知覚していないということです。

ゲートコントロール理論

以上が、痛みのメカニズムですが、しかしながら、同じ種類で同じ分量の警告シグナルが侵害性受容器から発せられたとしても同じように痛みを知覚するとは限りません。皆さんも経験があると思いますが、ジョギングレベルで痛みがあったとしても、インターバルトレーニングや、レースに出ると痛くないということが往々にしてあります。或いは小さかったころ、転んで足を擦りむいた時、母親か父親に抱き上げてもらうと痛みが消えたということはありませんでしたか?

これはゲートコントロール理論によって説明されています。脊髄後角にある種のゲートがあり、このゲートが狭くなったり広くなったりすることでどれだけの警告シグナルが脳に送られるかがきまります。そしてこのゲートの開閉は鍼治療等によっても狭くなりますが、精神状態によって決まっています。安堵、幸福感、興奮、喜び、静かで澄み切った気持ちがゲートを狭くするのに対し、緊張、不安、怖れ、罪悪感、混乱、注意散漫な状態等が痛みを悪化させます。ランナーにとってはインターバルトレーニングの間はあまり痛まないとか、レース中は痛まなかったのような、数十分間からせいぜい数時間の範囲内での間のみゲートが狭くなるという経験をしていると思いますが、実はこのゲートコントロール理論はもっと長期間の現象としても説明され得ます。

例えば、年を取ると腰痛持ちの人が増えますが、脊椎狭窄の人の大半は痛みを感じません。勘違いされては困りますが、私は腰痛や脚の痛みが実は気のせいで、実在しないものだとか、痛くないと思えば痛くないんだとかそういうことを言っているわけではありません。寧ろ私の立場は反対で、たとえレントゲン検査でMRI検査で何の異常が見つからなくても痛いと感じる限り、痛みはそこに実在するという立場をとります。そして時に痛みは心の作用によって引き起こされる可能性もあります。高橋尚子さんを育てたことで有名な小出監督は著書の『マラソンでたらめ理論』の中で、予めトレーニングプログラムを渡しておくと今日は大事な練習という日に限って脚が痛いと言ってくる選手がいる、自分で自分にまけてしまうようなタイプに選手だという趣旨のことを書いておられます。この場合、いわゆる仮病ではありません。脚は本当に痛むのです。しかしこの場合も肉体的な要素だけではなく、心が何らかの作用を及ぼして、引き起こした痛みだと私は考えます。もう一度誤解を招かないように言っておきますが、その選手が故障することを望んでいたと言っているわけではありません。おそらく、不安や怖れ、緊張といったものが作用したと私は考えるということです。すべての痛みは個人的な経験であり、何らかの形でそこに心の作用が関与していることは間違いないと私は思います。

インドのヨガ行者や日本の禅僧は、時に信じ難いデモンストレーションを行います。それは例えば、針が何本も刺さった板の上に寝そべっても痛みを感じないだけではなく、確かに穴が開いているのに出血しないとか、焼けた砂の上を平然と歩き、しかもやけどの症状を起こさない等です。こういった話が興味深いのは痛みを感じないだけではなく、出血、水膨れ、ただれ等の引き起こされるはずの症状が引き起こされないことでしょう。

プラセボ効果

プラセボ効果、若しくは偽薬効果という言葉を聞いたことがあるでしょうか?簡単に行ってしまえば、効かないはずの薬でも聞くと思えば効くという効果のことです。これは、痛みに関するものではなく、持久力向上に関与する新しいサプリメントを試してほしいということで、様々な偽の実験効果を選手に見せた後、コーンシロップの入ったカプセルを自転車競技の選手に摂取してもらい、その後タイムトライアルを実施すると有意にタイムが向上したという実験もあります。興味深いのは関節炎患者へのプラセボ手術によって、痛みが緩和されただけではなく、関節可動域も広がったということです。プラセボ手術というのは麻酔をかけ、切開して開くだけ開いて何もしないという手術のことです。ただこういったプラセボ手術やカプセルの難点はうそをつかなければその効果を発揮することが出来ないということであり、そしてその嘘を告白した後、患者と主治医の信頼関係を維持することが困難になることです。

もうひとつ面白いのは、逆のノシーボ効果と呼ばれるものもあるということです。これは効くはずの薬や手術でも患者がその効果やもしくは担当医を信じていないと効かないということです。これは医師の言動によっても引き起こされます。藁にもすがる思いで手術の決断をする患者は担当医の自信のなさを敏感に感じ取るでしょう。そして、たとえ全身麻酔を用いた手術の最中の医師の言動でさえも治癒に影響を及ぼすことが今ではわかっています。

心と痛みの関連性に関する研究を困難にしているのはその因果関係があやふやであるということと心の働きも痛みも個人的な経験であるということです。科学的知見が個人的であってはならないのに対して、心や痛みは踏み込めば踏み込むほど個人的な範囲にとどまらざるを得ないのです。このことは次のことを考えれば容易に理解できます。あなたは私の痛みを決して知覚することが出来ないのです。「いやでも、レントゲン検査をすればとか、MRI検査をすれば」という人もいるかもしれませんが、そこには損傷した骨や筋肉があるだけでそこに痛みはありません。「いやでも、走り方を見ればわかるよ」という人もいるかもしれませんがそれも違います。あなたが見ているのはいつもと違う異常な走り方をしている私であって、私の痛みを知覚しているわけではありませんし、程度によっては、私は痛くても熟練した指導者にばれずに走ることもできます。第一あなたが私の痛みを知覚することが出来れば、知覚した瞬間にそれは「私の痛み」から「あなたの痛み」に変わってしまうのですから。

さて、踏み込むのが困難な領域であることは間違いありませんが、人類はこの分野に関しても何とかして研究を重ねてきました。そしてそれは実際に先進諸国でも医療に見放された患者達(興味深いことに、高度な教育を受けてきた人が多い)が心へのアプローチによってガンや、白血病を治療し続けています。おいおいもっと詳しく記事の中で書いていきたいと思います。

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