見出し画像

ワケあり彼女はお隣さん

梅雨が明け、蒸し暑い夏がやってきた。

大学ももうそろそろで夏休みに入る。

初めての夏休みにワクワクする反面、テストが近づいていることにナイーブになってしまう。

「はぁ…彼女欲しいよなぁ…」

隣を歩く1人の友人が溜息をつきながらそんな事を口にする。

「大学生の夏といえば、やっぱり汗だくで彼女とヤリまくるしかないよな」

またその隣にいるもう1人の友人が女子の前では絶対に言わないであろう理想を語る。

ま、確かにそうだな。

彼女の居ない大学生の夏休みなんかたかが知れてる。

本来だったら今頃隣に居たのはこんな冴えない男どもでは無く可愛い彼女だったんだが…

なんでこうなったんだろう…



振り返ってみればそれは一か月前の事。

初めて出来た彼女に突然こう告げられた。

「ごめんね、別れたい」

あまりにも突然な出来事に開いた口が塞がらなかった。

初めて出来た彼女は顔が小さく、それでいて華奢でスレンダーな体型をしていた。

それ故に、周りからの人気も高く、密かにファンクラブが出来るほどだった。

そんな彼女と付き合えていたという事実だけでも十分嬉しかった。

自分とは無縁の人だと思っていたから。

でも、一度経験してしまったら、人は欲張ってしまう。

彼女を手放すなんて事は出来なかった。

俺は一生懸命に彼女と話をしたが、彼女は別れたいの一点張りで話は進まなかった。

そのまま、関係は自然消滅。

無事に俺は独り身に戻ってしまったという訳だ。



「〇〇はドンマイだな、彼女に振られちゃって」

痛いところをついてくるな。

「付き合って1ヶ月だっけ?笑」

アハハハハハハ。

友人に笑われ、からかわれる日々に耐えられなくなっている自分がいた。

そんな状況にうんざりした俺は思わず

「か、彼女ぐらいっ!も、もう出来たしっ!」

嘘をついてしまった。

当然信じていない友人達はニヤニヤしながら、

「へぇ…じゃあ紹介してよ」

俺を追い詰めてきた。

自業自得といえばそれまでだが…

一度嘘をついてしまった手前、後に引けなくなっていた。

「こ、今度な!」

俺はその場から逃げ出すように走り去った。



________________



その日の夜。

俺はひたすらスマホと睨み合いっこをしていた。

「どうしよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

近所に迷惑にならないように布団で声を殺す。

スマホの画面を見つめるが、全くもって策が思い浮かばない。

俺に女の友達なんて居ない。

ましてや、連絡先すら1人も持っていない。

母は例外として。

「完成にっ…詰んでる…」

希望のきの文字すら見えない。

そんな時、チャイムが鳴った。

ピンポーン

こんな夜中にチャイムを鳴らすなんて、どんだけ無神経な奴なんだろう。

時刻は既に23時をまわっている。

そんな事を考えながら玄関までやってきて、ドアを開ける。

「はーい…なんの御用で…」

目に入ってきた”彼女”は、一言で言うと綺麗だった。

ノーメイクなはずなのに目がぱっちりとしていて、ダボッとした服が妙に似合っていた。

彼女が居るその空間だけが、まるで光を放っているかのようにさえ見えた。

これを美少女と言わずして何と言うのか。

そう言えば、大家さんが隣に新しい子が引っ越してくるって言ってた気がする。

この子がその例の子なんだろうか。

気を抜きながら彼女を見つめていると、女の子が口を開いた。

「あなた…モラルって知ってる?」

「……へ?」

綺麗で見とれてしまうようなその眼で俺を睨む。

その表情と態度から、彼女が俺に対して怒っているというのはすぐにわかった。

「う、うるさかったですかね…?すいません…」

とりあえず謝っておこうと、謝罪する。

「……常識ぐらい無いと彼女なんて出来る訳ないじゃない」

グッ 心に刺さる一言ぉ…

「すいません…ってあれ?彼女?」

もしかして、声全部聞こえてた系?

そうなら普通に死ねるんですが。

ってか、それだと壁薄過ぎない?

「……どうでもいいでしょ、とりあえずうるさかったから静かにしてよね」

この反応は…うん…聞こえてましたね…はい。

今すぐに死にたい。

俺の首を今すぐにもぎ取ってくれ。

「本当にすいませんでした…」

謝ってばかりだが、俺が100%悪い。

言いたいことを言い終えたかのように、彼女はそのまま自室に足を運ぶ。

そんな彼女の後ろ姿を見て、ふと思ってしまった。

もし、彼女が自分の彼女になってくれたなら…

「あ、あのっ…!!」

「ん?」

「お、俺の…彼女にっ!…」

俺は今から彼女に振られるだろう。

「彼女に?」


「……か、彼女のフリをしてくれませんか?」

だがしかし、俺はひよった。

「…フリって言われても、無理」

どちらにせよ、振られましたとさ。

めでたしめでたし。

って!今更引き下がれるかぁぁぁぁ!!!!

「お願いしますお願い致します!!」

外の廊下で土下座を見事に披露する。

「頼まれたって無理なものは無理っ!」

「週一でもいいんで!」

「ほとんどバイトとかで忙しいから!」

「お金なら出します!」

「………いくら?」

お?意外にお金には弱いのか?

「えっと……いくらぐらいが相場なんでしょう…?」

「……1時間で5000円」

「へ?」

今、さらっと恐ろしいことを口にしたような…

「だからっ!1時間5000円なら彼女やってあげてもいいわよっ!」

1時間で5000円だと…?ぼったくりもいい所じゃねぇか。

しかし、背に腹はかえられん。

「分かった…それでお願いします…」

この日、俺たちの運命が始まった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?