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Horse Wisdom ❼ 「大丈夫・・・私がどうにかするから心配しないで。」 窮地に立たされた時、馬の声が・・・

それは、牧場について3日目のことでした。

9頭いる馬の名前もようやく覚えて、飼料小屋の馬のサプリメントの配合の仕方をレシピにそって1日一回準備する方法とか、朝の干し草を馬屋に投入する方法とか、馬達がお昼間雪の原野にいる間に馬屋を掃除したり、干し草を足したり、大きな水の樽を掃除して水を入れ替えたり、氷点下に下がる夜間に水が凍らないように電気のコイルを入れて調節したり、朝5時過ぎから夕食前まで、ありとあらゆることを見よう見まねで無我夢中でやっていました。

その日、病院での検査の為、チャーリーさんが牧場のスタッフに付き添われて牧場から2時間ほどのところにある街の病院に出かけることになりました。朝いつものように、スタッフと一緒に馬達に干し草を与え、馬達が馬屋の外に出ている間に馬屋の掃除をしていた時、「遅くても午後には帰るから、馬達は私達が帰ってくるまでそのままにしておいていいから心配しないで。あなたは、掃除が終わったらゆっくりしていればいいわ。」とチャーリーさんから声をかけられ、改めて広い牧場で初めて一人っきりになることに一抹の不安と緊張感を感じましたが、自分に言い聞かせるように、「何も心配ありませんから、ゆっくり氣をつけて行ってきてください。」と返事をしました。

チャーリーさん達が出かけてから、外で干し草を食んでいる馬達を垣根ごしに眺めてたり、母屋で一人分のサンドイッチを作ったり、薪ストーブに薪を足したり、チャーリーさんの書斎の本棚から本を借りて読んだり、一人で広い牧場にいることをあんまり考えないように、チャーリーさん達が帰ってきたときのために夕飯のスープを仕込んだりしながら一日過ごしていました。

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そして午後3時頃、もうそろそろ帰ってくる頃かもしれないなと思っていた時に電話が鳴りました。電話口の声は、いつもとちょっと違う緊張したチャーリーさんの声でした。「また別の検査をすることになったので、しばらくかかりそうなの。多分帰るのは夜遅くになるけど、あなたは夕飯を先に済ませてね。起きて待っていなくてもいいから先に休みなさい。今夜は雪も降りそうにないし、馬達も一晩くらいそのままにしておいても大丈夫。とにかく垣根越しに干し草をあげておいて。」と言われました。

馬の扱い方を知らない私にできるのは、それくらいのことしか無かったのですが、真冬に、一晩中吹きっさらしの荒野に馬達を置き去りにするのは心が痛みました。同時に自分の不甲斐なさに悲しくなりました。

どうしていいかわからないけど、とにかく馬達の様子を見るために外に出ました。時間は午後4時前、太陽はかなり西に傾いた夕暮れ前の静かな時間。馬達はいつもなら広い原野から、サプリメントのバケツが用意されている自分の馬小屋に戻る時間です。群れのリーダーの雌馬のスターはじめ、既に数頭の馬達がフェンスのところで並んでいました。

「ごめんね。チャーリーさん達は今夜遅くまで帰らないの。今の私には、何もしてあげられないの。だってどの馬がどの馬小屋に戻るのかさえハッキリ覚えていないし、馬を誘導する方法も分からないし・・・でも干し草だけは持ってくるわ。」と独り言のように馬に話しかけるように心の中でつぶやいていました。

すると・・・「私がどうにかするから心配しないで。柵を開けて・・・」という声が聞こえたような氣がしたのです。

驚いて声の聞こえた方角を見ると、雌馬のスターが、私のことをジーッと見つめていました。

「まさか・・・今の声はあなた?」と問いかけると、「そう、私がどうにかするから柵を開けて・・・サプリメント・・・?」最後のサプリメントの言葉の後は何を言ってるか聞き取れなかったけど・・・

「サプリメント? そうだ昨日サプリメントの調合の仕方を教わったばかり。飼料小屋にあるメモを見ながらなら、どうにか準備できる。馬達はサプリメントが大好物だから、準備しておけば自分から馬小屋に戻ってくれるかも?」と思い浮かんだ。

「そう、サプリメントのバケツを馬小屋に置いて、柵を開けて・・・馬小屋の扉も開けておけば、もしかしたら馬達は自分で馬小屋に戻ってくれるかも?」

でも・・・もしうまくいかなかったら、どうなるんだろう? かえって四方しっかりした柵に囲まれている原野の中にいる方が安全かもしれない・・・と迷っていると・・・またスターの声が聞こえてきました。

「私がどうにかするから、柵を開けて。」

太陽が西の空に沈みかけている夕暮れ時、私は、急いでサプリメントを調合し、それぞれの馬小屋にサプリメント入ったバケツを置き、馬達の待つ柵のところに行きました。

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「なんで私に馬の声が聞こえるの? ありえない。もしかしたら、自分は氣がふれているのかもしれない・・・でも今スターの声を信じるしかない・・・私がどうにかすると言ってくれてるんだから、それを信じるしかない。」怖さと不安で胸が張り裂けそうになりながら、もう後には引けない氣持ちでいました。

あまりの緊張感に膝がガクガク震えていましたが、スターの言葉を信じて恐る恐る柵を開けました。するとスター以外の馬は一歩下がってスターだけが柵から出てきました。私は一旦柵を閉めて、スターの後をついて彼女が自分の馬小屋に入ってサプリメントを食べ始めるのを見届けてから馬小屋の扉を閉め、残りの馬達が待っている場所に戻り、柵を開けるとまた一頭柵の向こうから出てきて、自分の馬屋に入って行きました。私は馬の後をついて行き、サプリメントを食べている馬の馬小屋の扉を閉め、また残りの馬のところに戻り、一頭ずつ同じことを繰り返しました。氣がついたら9頭全部の馬が、それぞれの馬屋でサプリメントのバケツをに顔を突っ込んで満足そうに食べていました。

「これで馬達が馬屋で夜を迎えられる。良かった。」安堵の氣持ちと、まだ何が起こったのか充分に把握できていないキツネにつままれたような氣持ちで、夕ご飯の干し草を、馬小屋に投入して、その日の仕事を終えました。

それから母屋に戻り、慣れない手つきで消えかけていた暖炉に薪をたしながら、「チャーリーさん達が帰ってくるまで、母屋の火を絶やさないように」だけを考えて暖炉の火を見ながら過ごしました。

チャーリーさん達が帰ってきたのは、夜中の0時を回っていました。

翌日の朝、馬屋に戻っている馬の姿に驚いたスタッフに、前日の話をすると、半信半疑の様子で聞いていました。

昨日起こった事は、馬が意図的に状況判断してとった行動だったと氣がついたのは、次の日スタッフと一緒にサプリメントを調合して馬屋に運び、スタッフが、昨日と同じように柵の前で馬屋に戻るのを待っている馬達の前で柵を開けたときでした。

柵を開けると、まずリーダーの雌馬スターが一番先に出てくるのはいつものことなのですが、他の馬達も我先にドドドッと次から次になだれ込んでくるように、開け放した柵から駆け出してくるではありませんか! 昨日一頭ずつ静かに落ち着いて出てきた馬の行動は、馬に慣れていない私を安心させるために、やはりスターが他の馬達の行動を仕切っていたという事なの?

そう思おうと思えばなんとでも説明はできるという人もいるでしょう、あなたの思い込みだという人もいるかもしれません。でも私には、馬達が私の状況に合わせて行動を共にしてくれたとしか考えられません。

本当に今考えても不思議でありがたい体験です。

窮地に立たされた時、自分以外の知性の存在と、それを受け取るアンテナが自分の中にあると言うことを信じるしかない瀬戸際で、馬達の優しさと賢さに触れた経験は、一生忘れられない出来事になりました。

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馬の叡智シリーズ・・・まだ続きます。

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