蛆虫

対話し続けると決めたんだ。
解決し続けると決めたんだ。

自他との対話をやめた時、彼は何者でもなかった。
ただ物質を人体の形に留めるだけの構造体。
実に唯物的で物質的な思想の中にあった。

己の中で複雑に絡み合いながら乱回転する糸たち。
あの感覚は染色体が増殖する過程を想起させる。

きっとあれらは過去の柵と現在の彼との差異から湧き出た蛆虫。
焼いて食うなり、具に摘み取るなり、好きにすればいい。

あいつらは差異から湧き出す。
過去と現在、現在と未来。
柵を捨て、未来の梯子に手を掛ける。
細胞をどんどん分裂させて、強い遺伝子を残していく。

途端に梯子から蛆虫が湧く。
そりゃそうさ、今の彼と手を掛ける瞬間の彼は別人。
手を掛けちまえば、それが今になるのさ。
蛆虫なんていたっけか?

そんな己が一つの箱の中で膨らみ合う風船みたいに暮らしてるのさ。
膨らみすぎると他の誰かを萎ませてしまう。
ちょっと待てよ、誰が風船は球体だなんて言ったんだ。
縦に伸びたって、尖って曲がったっていいだろう。

他の風船を膨らます小さな活力に満ちた風船があったっていい。
透明で触れなくて膨らんだことすら気づかれない風船があったっていい。

そうやって、対話して解決し続けるって決めたんだ。

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