内観療法とは

過去を思い出し、自分の内面と向き合う自己観察法(自己探求法)


内観療法の概要

内観療法は、吉本伊信が開発した自己探求である。
自分の内面と静かに向き合い、過去から現在までに特に深く関わった人間関係の中で、「自分がどのようなあり方をしてきたか?」を調べていく。
調べる内容は、①「してもらったこと」②「して返してきたこと」③「迷惑をかけたこと」の3つの観点で、年齢順に思い出していく。
自己探求を深めることで、これまでどれだけ愛されて育ってきたかに気づき、迷惑をかけてきたことを心の底から反省し、これからの対人関係、物事の考え方自体が自然に変わっていく。
内観療法は刑務所や少年院の矯正教育の一環として用いられたり、精神科病院でも実施されている。最近は、職場での人材開発法として採用されるなど、適応幅はかなり広くなっている。

内観療法の方法

日常生活からかけ離れた静かな場所で、7日間泊まり込みで実施される(集中内観)1日約16時間を内観についやす。内観中は、お手洗い、入浴、就寝以外は屏風の中から出てはならず、食事も屏風の中でとる。
他の内観者と話をしたり、読書やパソコン、携帯電話に触ることは禁止され、内観だけに集中していく。
1~2時間ごとに1回訪れる指導者に対して、思い出した事柄を伝え、内観の進み具合を見ながら、次に内観するテーマが与えられ、内観を深めていく。

Point

内観療法は、1週間で効果が表れる心理療法。
しかしその効果は、1週間内観だけに集中する環境があって初めて得られるものである。

内観療法の全体構造を細かく理解する

内観を進める3つの条件

①環境条件
内観者は、家庭や職場から離れ、騒音・電子音から離れ、日常的な刺激や人間関係から遮断される環境
②身体条件
食事は1日3回適当な質と量。質素ではあるものの温かく、健康にいい食事が内観者のモチベーションアップに繋がる。身体的な条件として重要なのが、楽な姿勢で座ることが許されるという事。ただし、病気でない限り横になる事は許されない。
③時間条件
内観時間は、1日16時間。

指導者の3つの役割

①母について、父についてなどのテーマを与え、「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」の3つの観点で考えるように促す。
②面接で内観報告を聴き取ること
③内観に専念しやすい環境を作ること

Point

内観療法は、指導者が内観に専念しやすい環境を整える事が重要である。
きめ細やかな配慮を心がけ、自己探求に専念できる環境を用意すること。

指導者の条件を学び、実施手順を理解する

指導者の条件

①集中内観を体験したことがあり、その後も日常内観を実施していること
②安定した事故・情熱を持って、内観療法を実施できる人
指導者における資格・学職は問わないのが大きな特徴である。ただ、内観者には重度の精神疾患を抱えていたり、自我の成長が未熟な場合には、実施が難しくなる可能性がある。そのため、内観の指導者は、心理学、精神医学の知識も必要で、ストレス・感情障害などの心の病についての知識が求められている。

内観の実施手順

内観療法は、指導者から与えられたテーマに沿って、内観を進めていく。テーマは③段階に分かれている。第一のテーマは「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」。第二のテーマは「養育費の算出」で第三のテーマは「嘘と盗み」である。
はじめに「母」について考えてもらうように促し、その後はその内観者にとって重要な関係のあった人について考えてもらう。その後に、内観者が人間関係で苦しんでいる場合には、その苦しみを感じさせる人について考えてもらう。
これが一通り終わるともう一度母について考えてもらい、今度は年代区分を細かく分けて内観してもらう。これを繰り返すことによって自己探求が深まり、自分の本来のあり方がみえてくる。

Point

内観療法を実施するためには、まずは指導者の条件をクリアする必要がある。内観を進める過程を理解して、カウンセリングの流れをつかんでいく。

内観療法の導入

①内観希望者に内観に来た理由を簡単に説明してもらう
②内観の方法・注意事項などを説明する
③内観希望者に本当に内観を受けるかどうかを説明してもらう。
④住所・氏名・年齢・職業を書いてもらう。
⑤内観室に通し、その屏風の中に座るか示す。
⑥内観開始

内観療法の注意点

無駄な言葉かけ(世間話、内観希望者の苦労を労う語りかけ)は一切しない。無表情で、淡々と説明し、屏風に案内する。
これに対して内観者は、「事務的」「一方的」「腹ただしい」「怖い」「不安になる」という人もいる。

指導者がこのような態度をとる理由としては、
内観をするのは「内観者」内観療法は自己療法的な色合いが強い心理療法。
指導者は、信頼関係を築くために笑顔で話しかけたり、共感を示したりはしない。内観者から適度に依存されるのを防ぐために、あえて淡々とした態度をとる。

Point

内観療法の導入では、他者の心理療法とは違い、受容・共感的な関わりを意識的に避ける。内観者の自己治療を促すように接していく事。

母についての内観

「母親」は、人間の生育史において重要な関係性を持つ。
幼い頃に母と別れ、母との記憶のない場合には、他の家族なそ生活の面倒をみてくれた人に対しての自分を調べる。

母のテーマの重要性

母からの献身的で自己議定的な愛情をかけてもらったことを思い出すことによって自分の罪を後悔し、愛に報いようと努力する。

日本人の心情がベースの心理療法

日本文化の中には母性の重視視点がある。
人間は、献身的な自己犠牲愛を提供する母性的な愛に感動する。
はじめに、母性的な愛をかけてもらいやすい性的役割を持つ母親について調べ、母性的な愛情に触れられると、その後の深い他者を調べるときにも母性的な愛を感じ、調べやすくなる傾向がある。

Point

「母について」のテーマは、7日間の集中内観中に複数回調べる重要なテーマである。2回目以降は年代を細かくわけて順を追って調べてもらうようにする事。

内観者の抵抗と向き合う

内観者が抵抗を示すケース

自己探求に対する抵抗(自分を知る作業は、精神的負担が大きい)
内観は、自分の罪や酷さを直視していくため、「今更考えなくたって!」「そこはもうわかっている」と事故を深める作業から逃げようとすることがある。対処方法は「余計なことは考えないように促す」。内観者が抵抗を示すのは、自然な反応だが、この抵抗を放って置くと、内観がうまく進まず中断する事も多いので、指導者は内観の方法を根気強く繰り返し説明し、余計なことは考えず内観するように激励する。

感謝への抵抗(指導者に感謝を強いられているように感じる)
内観初期に「してもらったこと」を調べる時に起こることが多い抵抗で、指導者に対する不信感や、抵抗とも重なって、感謝する感情から逃げようとすることがある。対処方法は「感謝を強要しているのではないことを伝える」。内観は、感謝を強制しているのではなく、過去の対人関係を想起し、事実を具体的に調べる事。感謝は、内観の結果自然に湧き上がってくる感情に過ぎないことを伝える。

内観を抵抗なくスムーズに進める時間配分

してもらったこと20分
して返したこと20分
迷惑をかけたこと60分

迷惑をかけたことに時間を費やすと、新たな気付きや反省が促され、自己のあり方を見つけやすくなる。

Point

内観療法で、内観者が抵抗を感じることはよくあることである。
内観者の抵抗に対して的確に指導し、内観を進めるように促していく。

日常内観の指導方法

日常内観とは集中内観が終わった後に一人で行う内観。
実施する場所
日常生活する場所・学校の教室・電車の中など
時間・期間
1日30分~2時間・決まった時間ではなく、生活の折々に実施していく・期間に終わりはなく、生涯実施する。

集中内観のような環境面での制約はない。
日常生活の中で無理のない範囲で行うことが重要。

調べるテーマ
過去の一時期と、今日一日のことを調べる

日常生活で生じる出来事にたいして、相手を責める前にまず自分を振り返ってみる。相手に要求する前に自分がすべきことを考える。相手の立場になって考えてみる。

日常内観の実施目的
内観的志向を習慣化し、日常生活の中で具現化させ、集中内観を応用させる事

Point

日常内観の継続は、集中内観の効果を持続させる。
内観者にわかりやすく説明すること。

内観療法の終わり方

内観療法を終了する時の指導者の関わり

7日間を目処に終了する。内観者が延長を希望したり、内観がうまく進んでないようであれば、指導者から延長を提案することもある。

指導者が終結時に確認する事

・内観を始める前と、今とどう違うか、内観した結果どうなったかの確認
・今の感情
・大きなライフイベントがおきた時期の振り返り
・今後どういう在り方で人と関わっていくかの確認
・自信がついたかの確認
・日常内観を続けるように指示

終結時の指導者の語りかけ

・内観が終わって、その人に会ったらどういう態度で接しますか?
・これからどうしていきますか?
・あなたがもし相手の立場になったら、どうなっていたと思いますか?

また問題がぶりかえさないように確認をして集結する
これまで自分の問題をしっかりと反省させ、今後自分はどうあるべきか考え、語ってもらうことが、終結後の効果持続につながる。

Point

集中内観で学んだ考え方を、日常生活にも落とし込んでいけるように、これからどうしようと思っているのかをしっかりと聴き取ること。

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