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庚申御遊の宴note版(中)

「夜な夜な亡き父の霊が現れるんです」
 七月の昼下がり。
 クーラーの効いた百瀬探偵結社の応接室で、依頼人・佐幕沙羅美(さばくさらみ)は、そう話を切り出した。
 僕と破魔矢式猫魔は、依頼人と向かい合うようにソファに座っている。
 事務員である枢木くるるが人数分のアイスコーヒーを置いて、奥に戻っていく。
「亡き父親。佐幕ザザさんですね。それで、未亡人になった母親は、果肉白衣(かにくびゃくえ)という工員と再婚した、と」
 猫魔は、総長が作成した資料の紙を見ながら、沙羅美に確認を取る。
「はい。母は、果肉白衣と恋愛で再婚し、今は果肉も家に住んで……います」
 自分の身体を抱きしめるようにしながら、沙羅美は身体をぶるぶる震わす。果肉白衣の名前を出して、下唇を噛む。
「で。亡き父親・ザザさんは沙羅美さんになんと言うのですか? どういうシチュエーションで?」
「…………シチュエーションは、話したくありません」
「大丈夫ですよ、沙羅美さん。おびえなくて大丈夫です。沙羅美さんが性的虐待を果肉白衣から受けているのは、調査済みです」
「……え?」
 沙羅美の声がかすむ。ガタガタ震えが一層ひどくなる。
 猫魔が沙羅美さんに訊く。
「クーラー、切りましょうか」
「いえ、結構です。あの、でも、幻覚なんかではないんです! 父が現れるんです!」
「わかってますよ。佐幕ザザさんは、思い残したことがあって、それを沙羅美さんに伝えようと現れるんですよね」
「なんで……それを知って?」
「勘ですよ。ところで、塗香(ずこう)の香りがしますね。失礼ですが、沙羅美さんは、なにか宗教的なものを?」
 僕は猫魔に、
「塗香?」
 と聞き返してしまう。
 ため息をして、猫魔は僕に答える。


「塗香とは、密教系寺院で用いられる清めのための粉末香のことだよ」
「密教系寺院……ねぇ」

 沙羅美は、意を決したように、猫魔に話しだす。
「村には今、高名なお坊様を招いているのです。一族の住む村は今、正体不明の疫病に冒されておりまして。当家が招いて、ご教示していただいております」
「村全体が疫病に冒されているのは、国の方で情報統制がされて隠されているみたいですね」
「それもお調べになって?」
「いえ、佐幕家の一族が住む阿加井村にはすでに、うちの探偵結社のメンバーのひとりを向かわせておりまして。それで知っているのです。近くに温泉地があって、そこの温泉宿に宿泊して、喜んでいますよ」
 僕はまた、口を挟んでしまう。
「猫魔。数日前からふぐりがいないのはそういうことなの?」
「そういうことだよ。小鳥遊(たかなし)ふぐりは阿加井村の近くの温泉宿で毎日卓球台にかじりついているだろうさ。相手がいないから、壁打ち卓球になってるだろうけどね」
「…………」
 依頼人に向き直る猫魔。
「坊さんの名前は」
「泡済サマ……と村の者たちには呼ばれております。実際の名前は、伽藍(がらん)マズルカ、と」
「泡済、と来たか。じゃあ、踊り念仏か念仏踊りを教えている最中なのかな?」
 沙羅美の顔が明るくなる。
「おわかりになりますか!」
「もちろん。泡済と言えば、ここ常陸に昔実在した坊さんの名前だからね」
「そうなのか、猫魔」
「はぁ。山茶花。泡済念仏といやぁ、有名だぜ。東京の方でもそれをアレンジした踊りが残っているくらいだ。江戸時代の僧侶だよ」
「へぇ……」
 沙羅美は、声を大きくして、言った。
「亡き父が〈このタイミング〉で現れるその理由を、思い残したそのことは、本当はなんなのか、それが知りたいんです! きっと、村の疫病ともつながりがあると、わたし、確信しております!」
 一拍置いてから、破魔矢式猫魔は、佐幕沙羅美に尋ねる。
「それで。ザザさんの亡霊は、沙羅美さんに、なんとおっしゃるのですか」
「はい。…………竜燈を照らせ、と」
「竜燈を照らせ……か。なるほど。お話、ありがとうございました。現地でお会い致しましょう。それよりも、ぬるくなる前にアイスコーヒーをどうぞお飲みください」
「……ありがとうございます」

 僕は、
「竜燈か……」
 と呟いた。
 なにかを思い出しそうだったが、それは夢かなにかに出てきた単語らしく、頭の中で上手く点を結ばないのだった。


 隣の県。湯の元温泉と呼ばれるところの、あえて選んだひなびた温泉宿に、小鳥遊ふぐりは、いた。
 金髪ロングの髪を大きなリボンで束ね、黒い眼帯をつけている、厨二姫スタイルの女性。
 それは小鳥遊ふぐりに間違いなかった。


 スマホで連絡を取ると、温泉宿の卓球台に、浴衣姿で壁打ち卓球をしながらふぐりはキャーキャー一人で騒いでいた。

「なにやってんの、ふぐり……」
 キャーキャー言ってるものだから、そう声をかけてしまった。
「あたしは昨日の夜、ピンポンの映画を観たのよ。そしたら温泉卓球魂が芽生えてきてねー! これが冷静になれますかって!」
「ピンポンの映画? ああ、イケメン俳優たちが温泉卓球やる映画だっけ」
「ほら、ラケット持ちなさい、萩月山茶花! 勝負よ!」
「仕事は進んでるの、ふぐり?」
「きぃー! なによ、山茶花! 進んでるわよ! 超進んでいるってーの。わかったわよ。阿加井村はこの町の隣にある村だし、行きましょうか。あのクソ探偵・破魔矢式猫魔はどうせ遅れてくるんでしょ。あたしが解決するわ、こんな事件。お茶の子さいさい!」

 大きく息を吐く僕。
「怪盗・野中もやいの奴から予告状が届いて、宝石店が昨日狙われたんだ。品物を死守するために野中もやいと戦った猫魔は、事件後の今日は午前中、ずっと寝てたよ。あとで来るって。僕だけ先に来た。怪盗と戦ったんだぜ、休ませてあげようよ」

「怪盗と勝負なんて、決着をつけられない猫魔はだからダメ探偵なのよ。あたしに任せてくれたら速攻で捕まえるのに。なんで珠総長はあたしに任せてくれないのかしら。高校生だからかなぁ。ん? なに渋い顔してんのよ、山茶花。……ふふん。あたしを甘く見たらダメなのよ? ビタースイートふぐりちゃんなんだから」

「はいはい、わかりましたよ、ビタースイートふぐりちゃん?」
「きぃー! 山茶花に復唱されると悪意しか感じないわー。このむっつりスケベえろげオタクがぁ!」
「うぅ。えろげは悪くない」
「えろげが悪いなんて誰も言っちゃいないわよ。あんたがむっつりスケベでえろげを年中プレイしてるのが問題なのよ! これだから童貞は」
「童貞は余計だろ」
「童貞をこじらせたえろげバカ山茶花のケツ穴にアナルパールぶち込んでひーひー言わして泣かしてやりたいわー、このぼぎゃー!」
「このぼぎゃー、じゃないよ。ちょっとは自重しなよ、ふぐり。じゃなかった、ビタースイーツふぐりちゃん?」
「ムキィー!」
「ああ、ああ。わかったからもう移動しよう。着替えてきなよ、浴衣じゃ行けないだろ」
「ふん。わかっているわよ」
「アナルパール好きなの?」
「殺すわよ」

「まったく。僕は泣きゲー専門なんだ。泣けるストーリーのテキストゲームを専門にプレイしてたら、えろげオタクと呼ばれるはめになってしまっただけだよ。ふぐりみたいなケツ穴ファッカーとは違うのさ」
「うっさいわね! 泣きゲーもえろげに違いはないわよ! 黙れオタク!」
「くっ! 言い返す言葉が浮かばない」
 僕は歯ぎしりした。


 その家の座敷に通されると、それは大きな掛け軸がかかっていた。
 僕が掛け軸を眺めていると、横の座布団に座っているふぐりが耳打ちするように、掛け軸の説明をしてくれる。
「青面金剛(しょうめんこんごう)が〈アマンジャク〉を踏み潰している図なのよ。両サイドにいるのは青衣(あおころも)・赤衣(あかころも)を着た脇侍(わきさむらい)、その下には青赤二匹の鬼、猿が三匹、鶏が雄雌二羽描かれている。もともとは農家のひとが怠けているのを見て、〈アマンジャク〉が雑草の種をまいて嫌がらせをしたのね。それを、青面金剛サマってのが怒って、〈アマンジャク〉を踏み潰している。……説明によると、そういう内容の絵の掛け軸なんだそうよ」

 そこに、対面(といめん)に座っている佐幕沙羅美が、補足を加える。
 どうやら、ふぐりの声は丸聞こえだったらしい。

「ええ。当家の屋敷には、青面金剛サマの塔が松の木の根元にあります。塔には天明八年一月三日と書かれていて、その出来事が事実だったことを物語っておりますのよ」
 僕は佐幕沙羅美と向き合う。
「出来事が事実……ねぇ。って。なんか音が聞こえてきた。んー、と。……あ。太鼓ですね。太鼓の音が聞こえますね。それも、激しいリズムの音だ。屋敷には沙羅美さん以外、今は誰もいないみたいですが、もしかして」
「そうです。伽藍マズルカサマが、村の者たちに〈厄病送り〉の念仏踊りをレクチャーしているのです。今日は、その踊りで夜通し村中を練り歩く予定です。今は、そうですね、リハーサルが始まる頃だったかしら」
「じゃあ、果肉白衣も、そこに」
「ええ。あの男は、太鼓は叩かず、見物に行っているのです。伽藍マズルカサマを招いたのは当家ですから」


「ふぐり」
「なによ、山茶花」
「行ってみよう」
「念仏踊りのリハに?」
「僕らも見物してれば、そのうち猫魔も来るだろうしさ」

「ふーん。いいけど」
「じゃあ、決まりだ」


 僕らは、村を見て歩き調査して、それから集会場に向かうことにした。


 阿加井嶽(あかいだけ)。阿加井寺薬師という古刹が、嶽の山頂にあった。
 見晴らしがとてもいい。
 遠くに、太平洋の水平線が見える。
 阿加井寺薬師というのは、東北の十二薬師霊場の第一番なんだそうだ。
 この境内の奥には、〈滝不動〉と呼ばれる滝がある。
「急転直下銀玉砕け水霧散ずるさまは壮観にして真夏といえども冷気を覚ゆ」と、立て看板には書かれていた。
 どうも不動明王を祀り水行の場にしている、とのことだ。
 そう。
 この薬師は密教系の寺院なのである。

 いや、僕には説明されてもさっぱりわからないんだけどね。
 今はもう七月。海開きシーズン間近の初夏だからさ。
「真夏といえども冷気を覚ゆ」ってのは、気になるよね。
 そういうわけで、マイナスイオンが満ちていそうな滝の前で、僕とふぐりはしばし足を止める。
 涼しい。


「前から訊きたかったんだけどさ、ふぐりはなんで猫魔にライバル意識燃やしてるの」
 滝壺の前に立つ、ゴシックロリータに黒い眼帯の金髪女子高生探偵見習い、というもはやキャラ立ちが激しすぎる美少女に、僕は訊いてみた。
 なにか声をかけなければ、見とれてしまうかもしらないから。
 性格はともかく、小鳥遊ふぐりが美少女なのは間違いない。

 ふぐりは「ふふ~ん」と鼻を鳴らしてから、勝ち誇ったように、
「あたしは天才だからよ」
 と、僕に答えた。
「は?」
 呆然としてしまった。
 今こいつ、自分のこと、さらりと天才とか言ってなかったか。
「天才? 誰が?」
「あ・た・し・が・よ!」
 自分の胸にドン、と拳を叩いて。背筋をピンと伸ばして。
「あたしはね。本当は今の段階でもどんな大学にでも入れる実力があるの。でも、そーいうのに興味ないし。服が好きだから服飾デザイナーになるための留学を考えてたとこに、総長に出会った。百瀬珠総長は、みんなが口をそろえて言うように、確かに〈魔女〉だったわ。でも、珠総長の下で働きたいと思っちゃった。学力エリートのプライドとナルシズム競争のなかにいるより、〈探偵〉っていうものに興味がわいた。〈本当の世界〉を、魔女はあたしに見せてくれた。本当の世界は、超能力もあれば超常現象もある。凶悪な犯罪を起こすシリアルキラーも聖者のような人間もいれば、怪異だって存在する。それらを全部取り扱う〈探偵結社〉が、百瀬珠総長の下で探偵として働くってことなの。それなのに話に乗らないなんてバカなことってある? カルトじみてるのは〈裏の政府〉も同じ。探偵結社の事務所が常陸にあるのは、東京の守護神・平将門の魔方陣から逃れつつ将門の件を調査をするって意味合いがある。そのために、〈裏の政府〉が、常陸に百瀬珠総長を常陸守護として配置した。あのプレコグ能力者の〈魔女〉を」


「結構なことだね」

「破魔矢式猫魔は。あの探偵は。珠総長が拾ってきた〈捨て猫〉なのに違いはない。でも、悔しいのよ。総長が一番信頼を置いているのは、その〈捨て猫〉ごときなんだから。総長のプレコグ能力があの探偵を〈選んだ〉のよ。超能力は、天才のあたしじゃなくて、猫魔を選ぶ。あたしは天才なのよ。だから、珠総長の〈魔女の部分〉があたしを求めて体中疼くように、悶え疼くように、あたしは成長して、猫魔から百瀬珠総長を〈奪う〉の。天才のあたしなら、それができる」


 滝の水が打ち付ける音を聞きながら、僕はこの風変わりな女子高生を観る。
 とても考えている。将来のことを。でも、ちょっと普通じゃ考えられない方向に。

「ふぐりはバカだなぁ」
 僕は笑ってしまう。
「なによー。文句ある?」
 恥ずかしそうに顔を赤らめ、ふぐりは頬を膨らます。
 今の自分語りは、確かに恥ずかしいかもしれない。
 が、こんなときじゃなきゃ訊けないことでもあったし。


「リハが終わる前に、太鼓の音の方に行ってみようよ。ここの長い階段を降りて村の中心部に行かなきゃいけないけど」

 小鳥遊ふぐりは言う。
「この山にはこんな寺があって、住職さんはずっと不在だって言うけど、とりあえず古刹があって、それで海も見える距離にあって、村は一族がみんなで住んでいて。のどかで、でも、疫病が流行っているって。それで、坊さんを呼んで」

「疫病が流行っているっていうけど、それは村の人々の主観が混じっていて、本当はこころの病気のことらしいんだ。情報統制は本当だけどね。感染の恐れはなさそうだから、僕らは村に入れた。依頼人の佐幕沙羅美も、こころの病である可能性も高い。でもさ、今、気づいたけど、ここ〈古刹〉だぜ? 古い由緒のある寺のことを、古刹と呼ぶ。そこの住職ではなく、違うところから偉い坊さんを呼んだ?」
 ふぐりの顔が変わる。
 気づいたようだ。
「お堂に入ろう、山茶花!」
「キーの解錠なら任せろふぐり!」

 僕らはこの阿加井寺薬師のお堂のなかに入る。
 入ると、案の定、護摩壇に磔(はりつけ)にされるようにして、寺の住職の惨殺体があった。内臓ははみ出ていて、蛆と蠅がたかっていた。

「山茶花。黙っていよう」
「こりゃもうずいぶん経ってるぞ、殺されてから。村ってクローズドな空間で騒ぐのは得策じゃないな」

 僕らは互いに目を合わせて頷き合う。
 事件は始まっていた。


 村の集会場は、村の真ん中から少し外れた、畑だらけのその只中に存在した。
 近づくと激しい太鼓と鉦(かね)の音が聞こえてくる。
 僕は硝子のドアを開けて、集会場の中に入る。
 〈圧〉がこもった、熱気が襲ってきた。
 一瞬たじろいだが、僕とふぐりはリハーサルが行われているであろう大部屋のなかにまっすぐ行く。この音響だ。言われなくても部屋を間違えることはなかった。


 その念仏踊りは、〈ヂャンヂャンガラガラおどり〉と地元では呼ばれていた。
 隣の県に住んでいるのだ。僕だって名前くらい聞いたことがある。
 花笠をかぶり、太鼓を肩にかけ、また鉦を手にし、ぐるぐる回りながら独特な節の歌を歌う。
〈円舞〉と呼ばれるもので、回りながら歌い、厄病送りをする民俗芸能。それが〈ヂャンヂャンガラガラおどり〉だ。
 ここに来る前に猫魔から聞いたところでは、民俗芸能には、神楽系、田遊系、風流系、民謡系などがあり、〈ヂャンヂャンガラガラおどり〉は風流系に属するそうだ。
 宗教的意味合いが強い踊り念仏が風流化、つまり芸能と化したのが念仏踊りであり、〈ヂャンヂャンガラガラおどり〉だ、という。


 激しい音圧のなか、僧服の壮年男性が、近づいてくる。
 僕らはお辞儀した。その男は、伽藍マズルカだった。

「驚きましたかな、萩月山茶花さん。初めまして、ですね。そして、ここには慣れましたかね、小鳥遊ふぐりお嬢さん」
 思ったより柔らかい物腰で、伽藍マズルカは話す。
 僕は円舞の中から果肉白衣を探す。
 ああ、踊ってないで見学してるんだっけ?

 見つけた果肉白衣は煙草を吸って手拍子している。奥さんの方はどこにいるかわからない。
 確認だけでいいや。
 僕は果肉白衣に話しかけるのをやめた。

 踊りを眺める。

「男性だけでなく、男女混合なのですね」
 僕が言うと、マズルカは豪快に笑う。
「はっはっは。それが〈ヂャンヂャンガラガラおどり〉なのですよ。わたしは、明治政府が禁止した、その以前の、本来の姿の〈ヂャンヂャンガラガラおどり〉の再興を目指しております」
「〈ヂャンヂャンガラガラおどり〉の再興?」
「跳躍念仏が激しく踊るも素朴であることに対し、鎮魂術であるだけでとどまらず種々の装飾、仮装が加わる〈遊びの観念〉の導入。踊り狂う男女がそのまま一夜をともにするほどの狂騒。それが民衆にとっては悪霊退散、〈厄病送り〉になる宗教的要素も持つ、にわかづくりの西洋文明の移入による国家建設をした当時の〈政府〉から睨まれ、廃止された、〈危険なまつり〉である、この〈ヂャンヂャンガラガラおどり〉。それを再興させるのが、我が務めと思っております」
「……………………」
 狂騒。それは確かに狂騒に違いないのかもしれなかった。本番の踊りを観なければ、わからないことではあったが。


 踊りの文句が熱く激しく、太鼓と鉦の音をバックに、囃し立てた。


 ♪
 おどりおどるのは仏の供養
 田ノ草取るのは稲のため

 盆でば米の飯 おつけでは茄子汁
 十六ささげのよごしはどうだい

 早く来い来い 七月七日
 七日過ぎればお盆さま

 阿加井嶽から七ノ浜観りゃ
 出船入船 大漁船

 誰も出さなきゃわし出しましょうか
 出さぬ船には乗られまい

 磐城ヶ平で見せたいのは
 桜つつじにヂャンヂャンガラガラ

 七月はお盆だよ 十日の夜から
 眠られまいぞなー
 おどりおどるのはヂャンヂャンガラガラ


 男女混成の大合唱。
 圧巻、だった。

 見とれてしまっていると、スマホが鳴った。
 相手は破魔矢式猫魔。
「山茶花かい? 阿加井村に着いたよ。おれ、土地勘がないからさ、駅まで迎えに来てくれないかな。しばらくいるふぐりなら、土地勘あるだろ。二人とも、徒歩で良いからさ。それにしても、そっちは騒がしそうだね」
 到着した探偵からの電話だった。



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