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【上山晃語録7】ゲームメーカーとしてのOPEC(石油輸出国機構)

じゃあ、今日はOPECの話をしましょうか。

A. 力をつけてきたOPEC

ざっくり言うと、200~300年前は欧米の国々が植民地を支配してた時代。その中で、第一次世界大戦が起こった時、チャーチルって当時の英国海軍大臣(のちの首相)が船の燃料を石炭から石油に変えて、それから石油がすごく大事なものになったんだ。その頃から中東は石油がたくさんある場所として知られていた。

で、その中東を昔支配していたオスマントルコ帝国が崩れて、大手の石油会社「セブンシスターズ」が中東での石油の取り決めをしたんだ。ある実業家が地図に赤い線を引いて、そのエリアでは石油を掘らないようにしようって話になった。これで、石油の値段もコントロールできるようになった。

その後、第二次世界大戦が終わると、中東の国々が独立していくようになった。すると、国の自立を求める気持ち、ナショナリズムっていうのが強くなってくんだよね。特に1950年代と1960年代には、自国資源を守るためのナショナリズムが盛り上がって、セブンシスターズの影響力が低くなっていく。

この流れで、1959年ごろから中東の国々は石油の価格を自分たちで決めようってなった。そして、1960年にOPECができたんだよ。これは石油産油国が力を合わせて、石油の権利を取り返そうとする動きだったんだよね。当時象徴的だったのは、1973年に、OPECの国々が中東戦争でイスラエルを支援していたヨーロッパやアメリカに対して石油を送らないって決定をしたこと。これで、石油の力が完全にOPECの手に移ったことを世界にまざまざと見せつけた。

だから、1973年から1983年の10年間は、OPECが石油の価格を決める役割があった。1983年にアメリカが新しくWTIという原油先物取引を始めて、石油の価格は市場の動きで決まるようになっていくんだけど、いずれにせよ、最大産油グループであるOPECがどんどん影響力を持っていったんだよ。

B. 「OPECプラス」の始まり

2019年撮影(Sputnik)

グローバル化の中で、先物市場を通じての石油価格が当たり前になったのは事実。ただ、2017年、ここでちょっとストーリーが変わったんだよね。
2014年の8月までは、原油の価格って100ドル以上だったのに対し、アメリカでのシェールオイルの生産がどんどん増えていった。

そんな中、2014年11月23日には、多くの人たちが「OPECが需給調整のために石油の生産を減らすんじゃないか」と考えてた。でも、OPECは違う道を選んで、シェールオイルを潰すことを目論んで、生産量の減少(減産)は見送ったの。たしかに、アメリカのシェールオイル生産コストが70-80ドルと言われてたから、石油の価格がそれより下がれば、アメリカの生産者たちは赤字を出すことになる。そして、このOPECの策略によって、原油価格は一気に45ドルまで下がってしまった。

当初の想定よりも、アメリカのシェールオイルの生産は急激に減少しなかったけど、数ヶ月ごとに徐々に減産に追い込まれていった。45ドルに一度下がった後、2015年4月には価格が70ドルくらいまで戻ったんだ。ここで「もう大丈夫か」と思ってたら、次に中国の経済の問題が起こって、2016年2月に石油価格は27ドルまで暴落する。

この価格の波乱は、最初はシェールオイルの影響から始まったけど、後には中国の経済の不安定さにも振り回されてた。これで、OPECだけでは手に負えないと感じて、ロシアやオマーンなどの他の石油産出国も加えて「OPECプラス」という新しい枠組みを作ったんだ。ここで、彼らは一緒に石油の生産を調整して価格を安定させることに成功した。2017年には価格が50-60ドルからスタートして、結局2018年には87ドルまで上昇させれたんだよね。

でも、サウジアラビアは当時、アメリカのトランプ大統領の意向を優先して、イランに対する制裁による供給不足やガソリンの価格上昇を避けるため、大幅に生産を増やした。その結果、石油の価格は再び50ドルまで下がってるんだよ。この価格の変動を見て、やはりOPECプラスという仕組みが石油市場に大きな影響を持っていることがわかった。

そして、2020年3月、新たな問題が浮上。世界中でコロナウイルスの感染が拡大する中、サウジアラビアとロシアの間で生産量に関する意見の不一致が生じた。ロシアは生産コストが低かったので低い石油価格でも十分やってけた。一方のサウジアラビアも生産コストは低かったけど、財政のバランスを考えると70ドル以上の価格が必要だった。この違いが原因で、2国の協議は決裂し、サウジアラビアは大幅に生産を増やすことを決定。価格を支えるための減産ではなくて増産だからね、まったく逆のことをやったわけ。その結果、原油の価格は15ドルまで暴落してしまった。

この危機的な状況を受けて、アメリカのトランプ大統領が介入。ロシアとサウジアラビアを再び結びつけ、「OPECプラス」の体制での再度生産調整を進めるように指導した。そして、2020年4月以降、石油価格は再び上昇の一途を辿ることになったわけ。この一連の出来事からも、OPECプラスのカルテルが石油市場において依然として強い影響力を持っていることが明らかになったわけよ。

C. 資源ナショナリズムの影響

© Nikkei montage/Source photos by AP and Getty Images

さて、今の時代、石油だけを追いかけるだけじゃなく、鉱物資源全般に目を向けるのが大事になってきてる。特に、再エネがどんどん増えてくる中で、リチウム、コバルト、ニッケル、銅といった鉱物資源の重要性はどんどん高まっているよね。特に注目されてるのが、ニッケルと銅。市場はすでに大きくなってるし。

考えてみて、インドネシアみたいに、ニッケルを原料として売りに出すんじゃなくて、ニッケルベースの電気車や風力発電の部品を作って、それを海外に売るって考え方が増えてる。だから、メーカーを自分たちの国に誘致して、自国内で生産しちゃう流れができてきたんだ。昔とは違って、生産国は自国での生産や製造を強化して、鉱物資源をもっと上手く使おうと考えてるんだよ。

前までは、先進国は資源を買う立場、途上国は原料を提供する立場だった。でも今、インドネシアみたいな国は、資源の価値を全部自分たちで享受する方向にシフトしてる。

ニッケルとか、リチウムとか、生産国が数カ国に限られてるから、将来的には安全保障上のリスクや資源ナショナリズムのリスクが高まる可能性がある。今後、途上国はただの原料供給国から、資源のサプライチェーンを囲い込むプレイヤーに変わるかも。

そう考えると、先進国が途上国を支援する方法も変わってくるかもね。リチウムのバリューチェーンを確保するために、先進国がカルテルを形成する可能性もある。先進国としては、競争力を保つためにサプライチェーンをしっかりと作って、資源ナショナリズムや安全保障を目的としたカルテルの動きをきちんと見ていく必要があるよ。OPECプラスの動きを参考にしつつ、新しいカルテルの形成を目論むかもしれないね。

過去を振り返ってみると、OPECの合意内容をちゃんと守る国が少なかった。結局、各国は自分たちのことしか考えてない。そんな中、唯一調整役として活躍してきたのが、サウジアラビアだったんだよね。でも、なぜサウジアラビアがそんな役割を果たしてきたかっていうと、自国の軍隊を持つことのリスクがあったから。軍隊のトップが反乱を起こすことを恐れて、他国であるアメリカとのつながりを強化する方向を選んだんだ。

一方のアメリカは、米ドルの価値を守るためにサウジアラビアと手を組んだんだ。原油決済を米ドルで行う代わりに、サウジアラビアの王政を守るという取り決めをしていた。そのおかげで、サウジアラビアはアメリカの意向を受け入れながら、原油の需給調整の役割を果たしてきたんだよね。

一番驚いたのは、第二次オイルショックの時。原油価格が一気に40$/bblに上がったことで、新しい油田が次々と出てきた。そんな中、1985年にはサウジアラビアが生産量を大幅に減少させた。これで原油価格は大暴落することはなく、これは完全にサウジアラビアが減産して調整したおかげだったんだ。

少し憶測も入った裏の話をすると、アメリカのレーガン政権はソビエト連邦を「悪の帝国」と呼んで批判してたんだ。そのソビエト連邦の収入源の大部分は石油だった。サウジアラビアは前年までは減産して価格を支えていたのに、翌1986年には原油生産量を大幅に増やし、原油価格は8$/bblまで大暴落したの。そして、その結果、5年後にソビエト連邦は財政難も影響し、崩壊した。もし、サウジアラビアの増産がなかったら、ソビエト連邦は崩壊しなかったかもしれないね。

こういった歴史的経緯あるから、ロシアはサウジアラビアを信用してなかった。だけど、2017年にロシアがOPECと協力し、「OPECプラス」に参加したってことは、本当に意味深い出来事だったんだよ。昔の対立国が、手を組むっていう展開になったんだからね。

このような歴史的背景や現在の流れを考えると、鉱物資源や資源ナショナリズムの影響をしっかりと把握しておくことが大切だよね。

D. サウジアラビアとアメリカの関係

Saudi Arabia and the United States Awkward relations

サウジアラビアの役割って、結構デカかったんだよ。アメリカの意向に沿って、原油の需給を調整してきたからね。だから、他のOPECの国々がルールを守らなくても、まるで上手く動いているように見えたんだ。

でも、その後サウジアラビアがアメリカをどんどん信用しなくなってくんだけど、きっかけがあって、それは9.11テロ。そのテロリストの中に、サウジアラビア国籍の人が多かったから、アメリカの中でサウジアラビアの評価がドンドン下がっていったんだ。その後も、アラブの春で、アメリカがサポートしていた親米政権が次々と崩壊し、サウジアラビアは超心配してた。特にエジプトでムスリム同胞団が政権を取った時は、サウジアラビアが一番動揺したんだよね。なぜなら、サウジ国内にもそういう考え方を持ってるグループがたくさんいるから。

その後、シリアのアサド政権が化学兵器を使ったとき、アメリカのオバマ大統領が「化学兵器を使うのはレッドラインだ」と言ったんだけど、結局、介入をしなかった。それに、オバマが「アメリカはもう世界の警察官じゃない」と言ったとき、サウジアラビアはかなりムカついた。アメリカが中東の警察官役をしてくれてたから、サウジアラビアは安心していたんだよ。でも、オバマのこの一言で、その信頼関係が崩れてしまった。

2013年は、サウジアラビアとアメリカの関係が最も冷え込んだ時期だったと言えるかな。でも、その後、トランプが大統領になったことで、関係がまた良くなってきたんだよね、面白いよね。

アメリカの大統領が最初に訪れる国って、いつもメキシコかカナダだったんだけど、トランプが大統領になって最初に飛び込んだのは、なんとサウジアラビアだったんだよ。

サウジアラビアはこの行動にビックリして、二国間の関係が一気に復活した感じ。2018年にアメリカがイラン制裁を始めたとき、イランの原油が市場に出なくなるから、サウジが代わりに生産を増やしてくれたんだ。トランプが石油価格を上げたくないっていう要望をきちんと受け入れて、サウジアラビアはアメリカのニーズに答えたわけ。

でも、2019年にアメリカのジャーナリスト、カショギがトルコで殺される事件が起きて、欧米はサウジを批判した。でも、トランプはサウジの味方をしたんだ。そうやってまた、サウジとアメリカが近づく感じが出てきた。

問題は、バイデンが大統領になった後。彼はカショギ事件の件でサウジを批判していたから、彼が大統領になったとたん、サウジとアメリカの関係は冷え込んだんだ。特に2022年のバイデンのサウジ訪問が冷ややかだったのは印象的。サウジアラビア側は誰も彼を迎えに来なかったんだよ。それに対して、中国の習近平が訪問したときは、超特別な歓迎。バイデンと習近平、両者の違いは歴然だったね。

今まで、サウジはアメリカの大事なパートナーだった。OPECを束ねるとか、ソビエト連邦の崩壊のきっかけ作りとか、アメリカの外交にめちゃくちゃ貢献してきたんだ。でも、オバマの「世界の警察官を辞める」とか、バイデンのカショギ事件の批判とかで、関係は冷え込みつつある。

サウジアラビア、特にOPECプラスのリーダーとして、今はアメリカの要求に耳を貸さないんだよね。アメリカが原油の増産を求めても、サウジは逆に減産を選択してる。これは石油価格を上げたいからだけじゃなくて、アメリカへのメッセージでもあるんだよね。

E. 緩やかなパラダイムシフト

How OPEC and BRICS will change the world in 2023

OPECプラスが今、BRICSやグローバルサウスともっと組む流れになってきてるよ。だって、OPECプラスが持ってる原油生産量、世界の1/3強もあるんだから。今後、もしBRICSが新しい共通通貨を持つなら、OPECプラスの原油がその通貨のバックアップになる可能性だってあるよね。昔、サウジが原油の決済をドルでやるって約束して、ドルをサポートしてくれたけど、これからは、だんだんとドルとのつながりが薄れるかも。

でも、ちょっと待って。GCCって、中東の6か国の連合のことなんだけど、実は、彼らの通貨はドルとペッグしてるの。だから、たとえばサウジやUAE、クウェートなど、彼らの通貨は自由に動かすわけじゃないんだ。アメリカが金利を上げたら、彼らも上げるしかない。なので、もしこの連合がドルとのつながりを断ち切るってなったら、それはかなりの大きな話になるよ。今のところ、それぞれの国の経済がドル依存してるから、すぐにそういう大きな変化はないだろうね。

それにしても、サウジやUAE、イランとかが、新しい共通通貨のアイデアとかで、今までの「ゲーム」を変える役割を果たす可能性がある。最近は、アメリカが作った経済のルールやシステムから、こういう国々が徐々に距離を置く傾向が見られるよね。

でも、急な離脱とかじゃないと思うんだ。なぜなら、先ほど言ったとおり、彼らの国内経済がまだドル中心だからさ。だけど、原油取引の決済とかで、ドル以外の通貨を使うことも増えてきてる。たとえば、最近のニュースで、UAEとインドが原油取引でルピーでの決済を始めたって話があったよね。このような流れが続けば、ドルの中心的な地位が少しずつ揺らいでくるかも。

アメリカの原油生産も結構すごいんだよね。今、1200万bpdもあって、うち輸出が500万bpdにもなることがある。OPECプラスが原油市場でのシェアを拡大してるけど、アメリカもまだ影響力はあるよ。つまり、これからの動きを見るとき、アメリカも無視はできない。

でも、将来的には、現在のドル中心のマーケットから、例えば人民元を基軸にした上海の先物市場みたいなものに一部マーケットシェアが移行するかもしれないよね。G7の国々は今のままでいくだろうけど、他の国々、特にOPECプラスとかが、新しい経済のルールを築いていく可能性があるんだ。この流れ、しっかりチェックしておく必要があるよ。

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