kono星noHIKARI 2部
BETRAYER Ⅰ 2020.07.22
ニコはまだ、相馬のいる青森へ行けない。
この星へのTRANS後の行方不明者のデータが集まらない。あれ程、管理体制の厳しいTop(中央省)にも、その先のコアの極秘データ内にも、片鱗さえない。相馬から聞いたGalaxy body clockを持ち天の川銀河の危機を救う為、旅立った人のデータもない。ジェフもこの結果に憤慨し、Topへ情報の開示を求めたが未だに反応はない。ここから自分たちの星KPnsに戻った人へアンケート調査を送ったが、こちらの返信も届いていない。
梅雨明けはまだだ。見よう見まねで、この星の夏を過ごそうと、屋上に作った四阿に誰かが下げた風鈴が早い夏の音色を奏ている。
オフィスではジェフとノアがふたりっきりで外出しようと企てていたが、ニコから監視役を頼まれてるリオにすぐ勘づかれ、結局3人で出かけることになった。ずっと雨の日が多かったが今日は曇り空の予報だ。気温も湿度も高い。3人はそれぞれ、Tシャツにショートパンツ姿だがノアは薄手のジャケットを羽織っている。3人ともストラップサンダルを履いている。
リオ「僕もね、買い物したかったの。ダニーの服を買いたいんだよね。いつか一緒に出かけられるようにさ。正体不明の彗星を解明できない自分に責任を感じてるらしくてさ、ビルから出たことあるのかな?誰も責めてないのにね。自分のことを不甲斐ないと思ってるんだ......?あれ?」
振り返ると、そこにふたりの姿は無かった。
リオ「ちょっとぉ~!何なのっ!」
戻ると通り過ぎた交差点の右手にペットショップがあった。ふたりはやはりそこに居て、いつまでも子犬のケージから離れない。しばらく見学させてから、やっと引き剥がし、ジェフの行きつけの店に向かった。
ジェ「ワーオ!ジジイ!」
いきなり大きな声でジェフが、店から出てきた小柄な老人を指さした。
久しぶりにペイさんと会えたジェフは嬉しさ全開で走り寄り、思い切り抱きしめる。
ペい「ジェフ、痛いよ。久しぶりだねぇ。またデカくなったか?」
ジェ「あ、sorry!デカくなったないよ!『light&shadow』がお休み貼ってて、ジジイと会えなかったよ」
ノア「ジェフの友達のGigiなの?こんちは〜」
リオ「こんにちは!Gigiさん!」
ジェ「はいはい。Youたちジェフの友達かい?これまた、元気そうな子達だ!買い物は後だ!ご飯を食べに行こう!」
3人は大喜びでぺいさんについて行った。
横浜の中華街にあるぺいさん馴染みの店に着いた。客が1組いたが、奥の部屋へ店主に通された。コロナ禍で予約制にしているので、客同士がかち合わないようになっている。しかし、ぺいさんは予約なしでもこの店に入れる特別な客らしい。
ジェフからぺいさんのことを聞いていたリオ、ノアは興味津々で円卓に座るや否や、前のめりにぺいさんに質問を始めた。
リオ「Gigiさんはもしかして、すごくやばい人なの?」
ジェ「やばい人?」
ぺい「どんな人がやばい人なんだい?」
リオ「例えば、街を牛耳る影のドンとか、大金持ちとかで、この辺りの店にも顔パスで入れるとか?」
ノア「首領なの?首領なの?」
ぺい「はーはっはっはっは。ああ、そうか僕のビジネス、教えてなかったね」
ジェ「『light&shadow』waiter?」
ぺい「Not like that!」
ノア「分かった!おじいさん」
リオ「職業じゃないじゃん!」
ぺい「合ってるよ。日本のいろんな物を外国に売る会社の社長だった。だけど、歳を取っておじいさんになったからな、他の人に代わったんだ」
ジェ「シャチョさん?すご〜い」
ノア「ってことは、首領だったの?」
ぺい「はーっはっは。ドンではないよ。もう働かなくていいから、楽しい事をしてる」
リオ「でも、ジェフと会ったお店はやってないんでしょ?他にも楽しいことあるの?」
ぺい「楽しいことなんて探せば沢山あるさ。ひとりで釣りやサーフィンをすることもあるし、家でだって音楽は聴けるし、楽器もできる。TVもあれば、ラジオもある。ゲームで対人もできる。海外の友達を見ながら話もできる」
ノア「サーフィンするの?」
ぺい「色んな国の波に乗ったよ」
ジェ「世界中友達いるね?」
ぺい「そうだよ。サーフィン仲間は沢山いる。連絡は取り合えるからね。今が不幸なんてちっとも思ってない。見方を変えるんだ。このお店だってやり方を変えたから、収入が減る事はない」
リオ「すごっ!いいこと聞いた気がする!僕も海外行ったよ」
ぺい「そうか!海外に旅行に行ったのか?」
リオ「この星の歴史が好きなんでね」
ぺい「そうか!ギョベクリ・テペは見たか?」
リオ「もちろんさ」
ぺい「Oh!それは良かった」
ノア「なにそれ?」
リオ「トルコにある最古の遺跡だよ」
ジェ・ノア「へえ〜」
専門店の味を堪能した後、海が見える公園を散策した。ジェフとリオが飲み物を買っている。
一ヶ所にとどまると相変わらず、ノアを目掛けて鳩や雀などが集まって来て、ぺいさんも驚いている。
ぺい「Youは生き物に好かれてるのか?」
ノア「オレ、そうなの。可愛くて皆んなと遊んであげたいけど、沢山来すぎてできないんだ。周りの人に迷惑かけちゃうし」
ぺい「みんなに大好きだよと言えばいいんだ。そうすれば安心して、追いかけ回さなくなるから」
ノア「やってみていい?」
ぺい「ああ」
ノア「みんな大好きだよ!大好きだよ!」
360度回転しながら、鳥たちに話しかけてみた。
ノア「あんま、変わらんなぁ」
ぺい「お?そうか?はーはっは!」
ノア「Gigi、ホントのことだったの?」
ぺい「誰かに聞いたんだ。はーっはっはっは。好きが伝わると落ち着くんだ。ノア、君は心と同じ、凄く澄んだ目を持ってる。君が必ず叶うと思って願うんだ」
ノア「あ〜なんかまた、変な鳥がきたよ?叶ってないじゃん!これ、ヨウムだよ?また、警察行きだ。だからシャツ1枚になれないんだよ。暑いのに〜」
ぺい「ほう?はっはっは」
ヨウムがノアの肩にとまり『スキダヨスキダヨ』と繰り返している。リオとジェフが戻ってきて、肩に大きなオウムを乗せた困り顔のノアを見て腹を抱えて笑う。
警察署で自分の住所と電話番号をヨウムが話し始めたお陰で、飼い主がすぐ分かり、手続きが長くなる事はなかった。
ノアとリオが警察署に行ってる間、公園のベンチにジェフとぺいさんが座って海を眺めた。
ジェ「ジジイ、元気なの。よかった」
ぺい「こんな世の中になるなんて、思ってなかったからね。心配かけたね。ありがとう。ジェフ、少し日本語がうまくなったよ」
ジェ「ほんと?Telephone number分からないから心配した。おしゃべりしたかった。楽しい事とか──また............」
声が小さくなり、視線が下を向く。
ぺい「んん?ジェフ、元気ないねぇ。どうかしたか?」
ジェ「ボク、みんなを騙した」
ぺい「どうして?どんなふうに?」
ジェ「I do not know, but............」
ぺい「ジェフは皆が好きなんだろう?皆もジェフが好きなんだろう?見てると分かるよ」
ジェ「I want to think so...」
ぺい「じゃあ、大丈夫だ。その気持ちが、支えになるよ。騙そうと思ったことはないだろう?」
ジェフはうんうんと頭を縦に振った。
ジェフは自分の記憶の一部が変化している事に気付いた。あのシークレットルームでのパスワードも操作方法も、今まで認識したことは一切なかった。自分が気付かぬ間に何かを知っていることが実際に起こっている。もしかすると、ノアにこの星で宇宙を救えと誘導したのは自分ではないかという猜疑心が湧いてきている。Topのエリートとして今まで何の疑問も無く生きてきた自分の足下が崩れだした気がする。仲間と一緒に笑いあって、助け合って、ぺいさんや店の人たちと音楽を楽しんで、そんな自分が本当の自分であって欲しいと祈った。
ジェフはぺいさんが携帯電話を持ち歩かないと知っているので、自宅の電話番号を聞いた。そしてジェフの連絡先のメモを渡した。
ジェ「ジジイ、一人暮らし。困ったことあったらtelephoneね。mailでもいいよ」
ぺい「OK。OK」
ジェ「ボク、Telephoneしていい?」
ぺいさんは笑って頷いた。ジェフはホッとした表情を見せた。
3人はぺいさんにご馳走になっただけでなく、洋服も買ってもらった。リオがダニーの服を迷っていると、ダニーの背格好を聞いて、これはどうだ?と次々とリオの両手に乗せていった。ニコへの服を探していたノアの腕にも服の山ができていた。ダニーやニコの分まで全てぺいさんが支払ってくれた。
またご飯を食べようと約束して、ぺいさんと別れ、ビルに向かう。
リオ「ルカにも服を探せば良かったかな?」
ノア「そこは、ほら、デートで買うでしょうから。ねえ」
リオ「あ。そか」
ジェ「ジジイ、いいひと」
ノア「ほんと、そうだね。ジェフ、Gigiに会えて良かったね」
ジェ「うん」
リオ「僕、Gigiさんと話してて、間違って地球の事『この星』って言っちゃったんだ。でも、スルーされて」
ノア「別に不思議じゃないよ?」
リオ「地球の人はあまり言わないんじゃない?気のせいかな。何かさ、なんか、意識の種類が違うんだ」
ノア「おじいちゃんだからじゃん?いっぱい色々知ってるみたいだしさ」
リオ「そう......かな?」
ノア「嬉しいなあ。Gigiと友達なっちゃった。えへへへ」
間もなく彼らのビルが見えて来そうなところで、ジェフ、ノアの意識にリオの声が届く、
——なんかさ、この1ヶ月くらい前からなんだけど、僕たちへの意識を感じるんだ。単なる、ファンなのかなって、興味なかったから気にもしてなかったけど、今日はずっとついてきてる。後ろに男女のふたりがいる。あ、振り返んないで。バラバラにビルに戻ろう——
ビルの300m程手前の交差点で「じゃ、また」とそれぞれが手を挙げて、別方向に向かって別れた。
バラバラになった3人に一瞬、ふたりは慌てたが、男はノアの後を、女はリオの後を追ってきた。ジェフが先にビルに入ろうと角を曲がった時、人とぶつかった。
女「あ。ごめんなさい!」
ジェフが持った沢山の紙袋の間から女性が見えた。見覚えがある。
ジェ「sorry!だいじょぶ?えと?コンビニの?」
女「あ?そうです。ぜんぜん大丈夫です。いつも買いに来てくれてありがとうございます!ごめんなさい。バイトの時間遅れそうで」
ジェ「そなのね?気をつけて、転ばないようにだよ。また、行きますから!」
女「ありがとうございます。待ってますね!」
ジェフが彼女の背中にずっと手を振っている。
リオとノアが近付いても気が付かない。彼女の姿が見えなくなって、ニヤニヤ顔のまま振り返ったジェフがふたりにびっくりする。
リオ「大丈夫だったよ。気のせいかな?すぐ、意識が感じられなくなって、追って来なくなったんだ」
ノア「何だったんだろ〜ね〜。あれ〜?ジェフはどうしたのかな〜?」
わざと覗き込む。
ジェ「コンビニの女の子と、会ったの」
リオ「へー?嬉しそうね」
ノア「オレらよく行くコンビニだよね?いたいた確か1か月前くらいからいた。めちゃめちゃ可愛い子だよね」
ジェ「......」
リオ「え?恋してるの?」
ジェ「ののののののぉーん!」
リオ・ノア「ふーん?」
ジェフは耳まで真っ赤だった。
はい、なんか沢山、人物出て来ました。怪しそうにしたつもりでしたが、そうでもなくない?みたいな感じですか。今、ちょっとバイク熱が湧いてきて、同時並行で書いていると言う己の首しめ事件発生中。語彙力のない排出欲?が止まりません。その原動力はやっぱり彼らなんですよね。ライブでの歌を本当に大事に大切に歌う姿や、舞台では思わず「そこまでやらなくても」と思ってしまうくらい全身全霊をかけて演じる姿、また絶対、観たいと思う、So addictedでございます。喉の調子は戻りましたでしょうか?せめてYouTubeバラエティ編では無理せずふにゃんと力を抜いて行ってくださいませ。
BETRAYER Ⅱ 2020.08.25
リオ「あれ?ジェフは?」
昼食の準備をしているルカに聞く。
ルカ「うん?知らないよ。リオも知らないの?」
リオ「ルカも?昨日の午後は、ジェフに会ってないよね。ダニーは知ってるかな?」
ルカ「いや、シークレットルームから出てないから、知らないと思うけど、一応、聞いてみたら?俺はここで食べるから、これ持っていきなよ」
と、大皿に盛り付けた2人分の大きなオムライスと取り皿、スープの入った2個のカップとスプーンをお盆の上にのせて、リオに渡した。
リオ「ルカありがと」
喜んでシークレットルームに向かう。
リオ「ダニー、お昼ご飯だよ」
リオの声に驚いてダニーが振り返る。
ダニ「あれ?ルカは?」
リオ「オフィスで食べるって。僕にここで食べなよって、持たせてくれた」
と、ダニーの隣にすわる。
ダニ「そうなんだ」
リオ「進捗はどお?」
ダニ「ノアがいた南の海の星の位置と季節から推測して、地球上のどこなのか、どのくらい先なのか、分かりかけている」
リオ「ほんと?良かった!」
ダニ「もっと詳しく特定しないと、ノアを連れ戻すことは出来ない」
リオ「そう...これが彗星の軌道?画面からはみ出てるじゃん」
モニタを仰ぐ。
ダニ「途方もない軌道だよ」
リオ「これを計算するって。すごいね」
ダニ「ルカがいるからできるんだよ」
リオ「2人ともすごいよ」
ダニ「途中で、他の強い恒星やブラックホールの影響を受けると、彗星の表面が欠けたりして質量の変化が起こるんだ。これで微妙な軌道のズレが生じる。これが移動する間に大きな誤差になるんだ。難しいよ」
リオ「お願い。ダニー、諦めないで」
ダニ「分かってる」
リオ「この彗星──」
──どこかで見たような気がする。そんなことあるはずないのに。
リオ「あ、そうだ。ねえ、ダニー。ジェフといつ会った?」
ダニ「いつって?」
リオ「僕、昨日の昼前から見てないんだ」
ダニ「俺は、俺もかな。昨日の朝ご飯作ってくれた」
リオ「そうだよね。ニコニコしてて、アキちゃんと会うの?って聞いたら、頷いてたから、デートだよ。でも、デートで帰らないこと無かったよね」
ダニ「まあ、俺らがとやかく言うことじゃないけどね。ジェフが苦しんでる今、幸せになれる時間があるなら、それでいいよ──寂しい?」
リオ「そんなんじゃないよ。すごく外、暑いしさ。大丈夫かなって」
ダニ「んー?んふふふっ」
リオ「もう!やめて。食べよう。ルカのオムライス美味しいよ」
リオはダニーが新しいTシャツとジーンズを身につけているのが嬉しい。ぺいさんと一緒に見立てた白いTシャツだ。が、モニタに気を取られながら食べているダニーのスプーンからケチャップの乗ったオムライスがポロリと白いTシャツに落ちた。
ダニ「あ」
リオ「何やってんだよ!ダニー!脱いでよ、もう!」
乱暴にダニーからシャツを剥がし、上半身裸のダニーを残し自分の部屋へシャツを持ってバタバタかけて行った。
8月の初め、結局、Topからの情報は得られないまま、ニコはルカに後を頼んで、相馬のいる青森に向かうことにした。待っている時間が勿体ないのだ。
ノアを助けた相馬が、先にひとり青森へ戻ってから、ニコはオフィスで相馬とビデオ通話をよくしていた。ノアの状態を報告する為だったが、通話中に映る相馬の家のペットの犬や猫を見て、ノアも行くと言い始めた。
確かに、ニコや相馬にとってノアが手の届く場所にいることは安心ではある。しかし、いきなり時空軸を越えられたら、対処のしようがない。ノアを助けるには、MINDが離れる前に、身体ごと未来のあの海へ装置を使ってTRANSさせるしか無い。それが出来るのはこのビルだ。相馬は、その時期はすぐには来ないはずだと言う。時空軸を越えるには、膨大なエネルギーが必要だからだ。ノアを飛ばしたエネルギーは物理学的な物では無いようだが、それでも、次に向けてのエネルギーを溜める為にかなりの時間が必要となる。相馬の言葉を信じて、ふたりは青森へ向かった。
青森に行ったノアからほぼ毎日のようにビデオ通話が入る。相馬家のペットたちにびったりとくっつかれながら、うれしそうなノアが近況を教えてくれる。ニコも元気だよと必ず付け加えてくる。リオと話し終わると、必ずジェフを呼んで、同じことを話している。
今日もノアから「ジェフは?」と聞かれ、「デートみたいよ」とリオが答えたが、「え?居るって言ってたのに」と首を傾げ不思議そうにしている。ジェフが決めたことを守らない事はないはずだが。
Topからのデータを諦めてニコが青森へ行くと決断したのは、ある決定的なことが起こったからだ。
◇
皆がオフィスにいた時に、コンビニのアキちゃんの話しが出て、ジェフが赤くなって照れていた。その姿を見て、ニコの苛立ちが限界に達した。
ニコ「ジェフ、何してるの?Topのデータがないって、なんだよ。エリートなんじゃないの?ノアを行方不明にするために来たの?それで、よく、僕らの星を、KPnsを守ってるなんて言うよね。ひとりが犠牲になれば、それでいいの?そうやって、今まで何人を行方不明にしたんだよ。何とか探してよ。ノアの前に時空越えた人、教えてよ!」
とジェフの胸ぐらを掴んで詰め寄ってしまった。
ジェ「まって、ニコ。Really don't know. ボク、report every day! Saying I want data. sorry...I think everyone is important...」
ジェフはうなだれた。
感情を露わにするニコを見たのは、ノアの心臓が止まった時以来だ。 ニコはジェフの胸ぐらから離した手をディスクに打ち下ろし、オフィスを出ていった。
呆然と立っていたジェフも少ししてオフィスを静かに出ていった。
皆が、勿論、どちらの気持ちも分かっている。だから、声をかけることもできず、4人はソファーに座り込んだ。
ダニ「役人だからしかたないんだよ。星を守る為に生産され、育てられたんだ。そして、脈々と記憶とスペックが受け継がれる。ジェフも何代目かのgeminiだ。要らない記憶はインプットされない。僕らの星にいるだけなら、それで良かったんだ」
ルカ「この地球がジェフを、目覚めさせたんだ」
苦しそうに呟く。
ダニーがテーブルの上にあるジェフ用の大きなマグカップを見つめながら、続ける。
ダニ「この星にTRANSするメンバーにジェフがいるって知らされた時から、予感はあった。何かあるなって。でも、ジェフ本人が疑問に思うことは一切なかっただろう。Topで教育をされてきてるからね。この星で、たくさんの人と関わって、長い時間過ごして、自分の存在に疑問が湧いてきたんだ。他の役人だったら何も感じないまま、ノアを送り出して任務終了だったろうね。ジェフは他の役人より、感性が豊かなんだ。...苦しんでると思う」
リオ「ノアは僕たちより後にこの星に来たよね?ジェフはノアが来ることを知っていたってこと?」
ダニ「いや、ノアの存在は知っていたみたいだけど、ノアが来ることもGalaxy body clock(宇宙時間)の話も本当に初めて聞いた様子だったよ」
ルカ「ここに俺が拠点を造らされたのも、ノアを送り出すためなんだろか」
ダニ「それだけじゃない。違う気がする。俺たちの星KPnsは地球より先に彗星のダメージを受ける。ノアのおかげで、KPnsが無事だったら良いけど、もし、違ったら。ノアごめん。これは仮定の話だからね。落ち着いて聞いてね。もし、KPnsが救えないとなったら、この星に移住しようとしているんじゃないか。と──」
リオ「侵略ってこと?」
ダニ「仮説だよ」
ノア「考えられるよね。だって、この星は、憧れじゃん」
ルカ「俺たちの遺伝子はこの星の人を模倣した物だし、俺たちの体の中にこの星がある」
ノア「そうなのよ。オレ、小さい時から知らないはずのこの地球の夢を見てたもん」
ダニ「少人数なら、ひっそりと、今の俺たちのように暮らせるけど......星全体の人数となると......」
ルカ「尋常じゃないな」
リオ「宇宙戦争とか、始まらないよね?」
ダニ「考えたくはないけれどね......でも、移住したとしてもこの地球も消える可能性があるんだが」
ルカ「Galaxy body clockを持つ、第二のノアの出現を待つのだろうか」
リオ「でもさ、新しい世代はTRANSができない人が多いってジェフ言ってたよ。この星に来れない人も出てくる」
ルカ「新しい世代は生き残るための篩にかけられるのか.......」
ノア「んー。ま、俺が成功させればいいってことよね!」
ルカ「なんだ、頼もしいな」
ノア「あのさ、オレも考えてたんだけどさ、オレが時間軸を越えたあの日。本当はあの日のあの時がXdayだったのかもしれないって思ってるんだ」
リオ「何で?」
ノア「だってさ、あんな遠くにMINDが飛ばされて、あんなに流れ星が降っていて、どれか1~2個落ちても、おかしくなかったくらいだよ。あのちっちゃい子も来ていて、その場であれ?違うよね?なんて、変じゃん」
ルカ「何かが、どこかが、ズレた?」
ダニ「ずっと、そこが気になってる。彗星の軌道かな?ズレなければ、ジェフも時間をかけずに、任務完了できるはずだったんだ。ノアは最初からあの日がこの星へのTRANSの予定日だったの?」
ノア「そこは分かんない。でもずっとオレを診てくれてたニコのTRANSが決まったから、オレもって感じ。オレ、originalだから無理だと思ってたけどね」
ルカ「ダニーもリオもGalaxy body clockを持ってないよね?」
ダニ・リオ「ないない」
ルカ「Topも何らかの彗星のズレが生じたから、俺たちの様子を伺っているのかもれない」
全て、仮説ではあるが、可能性はゼロではない。4人は押し黙り考え込んだ。
ひと息付くようにリオがノアに話しかける。
リオ「あ、さっき言ってたXdayってどゆことなの?」
ノア「Xday!って言い方、格好よくない?SF映画みたいでさ。で、俺が主人公!」
と口角をあげ、ニヤリとする。
リオ「うふふふ。ノアが名付けたんだ。採用してあげる」
ノア「もちろんっしょ」
少し緊張が和らぐ。想像がつかないほどの恐怖とずっと闘っているはずのノアに支えられているのは自分たちだと、改めて3人は感じていた。
この後、ニコはジェフとは会わずに、気まずいままノアを連れて青森に発った。
◇
洗面台でシャツのケチャップを洗い流しながら、リオはジェフを思った。やはり、ジェフのMINDや意識が感じられない。いつも鬱陶しいくらいに感じていたものが無くなると、やはり寂しいし、心配になる。昨日の昼過ぎからプツリと途絶えた。
──アキちゃんと会ってるなら、連絡は迷惑だよな。ジェフは僕には辛い胸の内を語ってくれなかった。僕は、何のインプットもされてないから分からないもんな。ジェフはたくさんインプットされたものが頭に詰まっている。それも大変なんだろうな。そしてある時、いきなり知らない指令が頭の中に出てくる。そんなことがあったら僕は耐えられるだろうか。自分の意図していないことをしなきゃいけなくなったら、僕はどうするだろう。ダニーが言うように、今、ジェフにアキちゃんがいて良かった。少しでも楽しい時間を一緒に過ごしてるんなら、それでいいや。
リオはジャブジャブとケチャップと格闘した。
もうすぐ、LIVEの感動と再び会うことができます。もう一度観たら、どんな気持ちが沸き起こってくるのだろう。楽しみです。ほら、彼らの足跡はしっかり、この地球上に確実に張り付いていて、これからも増えていくばかり。焦らずに、目の前の出来ること、楽しんでやれることも時々混ぜて、コツコツ。それだってあなたの足跡は増えていく。横一列でなくてもOK。足跡は消えない。
さて、この回は、ジェフ。ごめんなさいね〜辛いよね〜あ〜〜〜〜号泣。
BETRAYER Ⅲ 2020.08.24
電車で1時間揺られ、駅から少し歩いただけで、田園が多い静かな住宅街となる。暑さのせいか、外を出歩く人を見かけない。
ジェフとアキは示し合わせた訳でないが、Tシャツとジーンズ、スニーカー姿だ。待ち合わせの駅で、互いを見た瞬間、クスクスと笑い合った。電車の中でも、暑い住宅街でも他愛のない話をしている。歩くリズムに合わせて水色のシュシュで縛ったアキのポニーテールが左右に揺れる。
しばらくすると住宅街には場違いな、臙脂色の煉瓦でできた高く長い塀が見えてきた。
お兄さんにジェフをどうしても会わせたいと言うアキの願いを聞いて、閑散とした駅に降り、25分以上は歩いた。そして、今、この塀の扉の前にいる。ちょっとした小旅行のようにふたりではしゃいでいたが、塀を見上げゴクッと喉を鳴らした。
ジェ「おにさん、ここいるの?」
アキ「わたしも初めてよ。ここ。お兄ちゃんの友達ってすごい人なのかな?でも、驚かせたいって言ってたから、ここなのかな?LINEで教えてくれた住所だよね?」
とふたりでアキの携帯を覗き込み、住所と地図を照らし合わせ再度建物に目をやった。
アキの兄からのLINEには確かにここの住所が書いてある。
高身長のジェフのはるか上まで鋼鉄製の両開きの門扉が続く。高い塀のせいで建物が一切見えないが、門扉の隅に設置されている一般家庭用のモノとはかなり違う精密な防犯カメラをジェフは確認した。
アキ「ここだよね~うそみたいすっごい~」
自身を奮い立たせるようにわざと明るい声を出し、そろそろとインターフォンに指を伸ばしたが、鳴らす前に右の門扉だけがスライドを始めた。
目の前の光景は足下から20m程先までアスファルトが伸び、綺麗に刈られた庭木の裏に続いていた。かなり奥行がある。庭木の上から大きな黒い屋根が見えた。門が開いたのは、入れということなのだろう。
ジェフとアキは顔を見合わせて頷き、歩を進めた。
ゴツい家屋を想像していたが、黒い屋根の下は白い壁がアーチ状にくり抜かれたポーチで、いくつものカラフルなガラスが白い木製扉の上半分に埋め込まれ、彩っている。ここが入り口のようだ。見える範囲の広い窓は解き放たれ、淡いブルーのレースのカーテンが揺れていた。天井の高い平屋だ。
アキ「かわいい。こんな家に住みたい!」
と目を輝かせる。
男「いらっしゃい」
落ち着いた通る声がふたりの背後から聞こえた。びっくりしたふたりが振り返ると、にこやかに微笑む色白の痩せた男が立っていた。ノーネクタイの白いワイシャツにグレーのスラックス。光沢のある黒い革靴を履いている。緩いウエーブの黒い髪が左目を軽く覆う。口元に微笑みはあるものの、切れ長の右目は鋭く光って見えた。ジェフは一瞬、身構えた。
男「駅まで行ってみたんですよ。どこかですれ違っちゃったんですね。アキちゃん。お待ちしてました」
男の品のある穏やかな表情にさっき感じた鋭さは隠れてしまった。
男「アキちゃんの彼氏さんでしょ?」
ジェフの横で男が微笑む。
「ま、まだ」とジェフとアキが同時に声を出し、モジモジしているふたりを見て、男は「おや、そうですか」とクスリと笑った。人懐こい顔になる。
男は家の中へふたりを招き入れた。靴を履いたままでいいという。高い天井にはシーリングファンが回っていた。窓は開け放っているが、それとは別にどこからか冷んやりする空気が流れている。部屋は心地の良い温度だ。家を取り囲む樹木のせいかもしれない。ジェフは深呼吸した。
真ん中に6人掛けの白いアンティークなテーブルがあり、壁はオークの横板に煉瓦が階段状に貼られている。4面の内、ひとつの壁がガラスのショーケースで中には国外の物と思われる様々な形の色鮮やかなコーヒーカップや皿が飾られていた。
高梨「アキちゃんのお兄さんの友達で、高梨と言います。アキちゃん、ごめんね。お兄ちゃん、仕事が片付かなくてもう少し遅くなるんだ」
アキ「え?そうなんですか。どうしよう」
高梨「気にしないでいいですよ。お昼ご飯は食べましたか?何かみんなで食べながら、待っていましょう。頼んでくるから、くつろいで居て」
アキ「そんな、お気遣いなく」
高梨「私は、アキちゃんのお兄さんに沢山世話になってるから、いいんですよ」
男はドアの向こうに消えた。
かわいいを連発し、ショーケース内のカップを見ているアキにジェフが聞いた。
ジェ「おにさん、どんな仕事してるの?」
アキ「人事っていったかな?高梨さんの会社で働いてるっぽくない?ホントは、あんまりいい奴じゃなかったの。少し前まで。でも、改心したのかな。良かった」
ジェ「連絡とってなかったの?」
アキ「LINEが時々来て。前はお金貸せばっかりだったけど。しばらく、連絡がなくって、ちょっとホッとしてたの。また来た時は、やだな〜って思ったけど、お金の話はしなくなって、うれしくて世間話してたら、ジェフさんに会いたいって」
ジェ「そなの?うわー。ボク緊張よ」
アキ「わたし、ちゃんとしたお兄ちゃんに早く会いたい」
と、うれしそうに笑う。ジェフは、その笑顔にキュンとする。
アキといることで、気持ちが安らぐ。今、オフィスにいると、普段と変わらぬ仲間の態度が逆に苦しい。何も出来ない自分に腹が立ち、自分が望まない行動をしてしまうのではないかという恐怖に苛まれる。シークレットルームのコアもジェフに反応しない。Top(中央省)からも疎外されている。なにも関係ないアキの前なら、素の自分のはずだとジェフは願っている。
高梨「アキちゃ~ん!ちょっと手伝って」
ドアの向こうから高梨の声がした。
アキ「はーい!」
アキが駆けて行く。
ジェフは白い椅子に腰かけ、長い足を組み、時折流れる爽やかな風を頬に浴びている。
フィーン...フィーン...フィーン...フィーン......
どこからか、音が聞こえる。僅かな音は外の生垣の方?いや、足下から聞こえる。ジェフは耳を澄まそうとした。
高梨「ジェフ君、どうしました?」
ジェ「な、何も」
突然の高梨の声に慌てて立ち上がる。高梨が「ふっ」と笑う。
数種類の飲料とピザ、カットした果物、チップスが乗ったトレーを、高梨とアキが運んできた。
アキの表情が何故か浮かない。わざとジェフが大きな声を出した。
ジェ「アキちゃん!美味しそう!」
アキ「そうね」
弱々しく答える。
ジェ「アキちゃん?どしたの」
高梨「今、連絡来てね。お兄さんから。ちょっと今日は来れないって。ね、アキちゃん。残念だったね」
優しげな声でアキに話しかける。
高梨「でも、せっかく来てくれたんだから、食べていってよ」
兄に会えない寂しいアキを気遣っていたが、わざわざ準備してくれた食事を食べない訳にも行かなかった。
会社を経営しているという高梨から、簡単なパソコンの操作を聞かれ、ジェフは答えていった。言葉巧みに少しずつ難しいシステム上の話になる。ジェフは難なく答えられるが、この星の一般人の知識がどの程度なのか計りかねている。どこまで答えていいのか不安だ。
高梨「私も難しいところは分からないんだ。ちょっと困っていることがあって、見てもらえないだろうか」
と、立ち上がった。
ジェ「ボクも勉強中なの。あまりよく分からない」
高梨「一応、見てくれない?もしかするとジェフ君にとっては簡単なことかもしれない」
ジェ「できない思う」
高梨「でも、アキちゃんは、ジェフ君のスキル凄いって教えてくれたよ」
アキの家で、ウィルスに感染したアキのパソコンをリセットし、ジェフが独自にプログラミングしたセキュリティを入れてやったことがあった。その話をしてしまったようだ。
振り向くとアキは硬直したように椅子に座りテーブルの一点を見つめている。
──取り敢えず確認だけしてみよう。アキちゃんの様子も変だ。
高梨はジェフを連れ隣の部屋のドアを開いた。タイル張りの部屋に、簡素なキッキンと調理台があり、IHの上には、鍋がかけられ、コンソメスープのいい匂いがしていた。調理台の上には数種類の果物が入ったカゴが置かれていた。その部屋を通り抜けドアを高梨が開けた。右手にはシャワールーム、左手はいくつか部屋があるようだった。その真ん中を通り抜けると、そこから先はガラリと雰囲気が変わり、コンクリート打ち放しの窓の無い倉庫のようで、床の真ん中にぽっかり空いた丸い穴は地下までの空間を螺旋階段で繋いでいた。
高梨「コンピュータ室がね。地下なんですよ」
階段を降り切ると、セキュリティの張り巡らされた、厚いドアがあった。この先の部屋は先程自分たちが食事をしていた場所の下まで広がっているのだろう。高梨がセンサーに手をかざし、ドアを開けた。
その瞬間、上階で聞いた、フィーンという音が機械的な熱とともにジェフに不快感を与えた。
ガラスで仕切られた左右の部屋では、それぞれ10数名の男たちがパソコンを操作していた。その真ん中を通る通路の先に給湯室のある小さな空間があった。その場に似合わない3人の大男たちがそれぞれいじっていた携帯の指を止め、高梨とジェフを生気のない目で追う。その先にまた、センサーのある扉が見える。
高梨がドアを開ける。不快な音が大きくなる。
高梨「ここなんですよ。ジェフさんのところとは、大違いですけどね」
ジェ「どゆこと?」
ジェフの目の前にはコンピュータが収まるボックスが連なる。手前にはタワー型サーバーボックスが2機置かれている。少し古い型なのか、その熱を逃がすためのファンが大きな音を響かせている。
ジェフの後ろでシュタと扉の閉じる音がした。
2022.01.01です。やっと加筆できました。今年も私の推しは勢いそのまま突き進んでいくようで、推し事できる喜びもひと塩です。忙しいとは思いますが、健康に留意して、無理し過ぎず、キラキラギラギラシュワシュワ輝いてください。また会える日を楽しみにしています。6人の番組ができるといいなあ。書いたことが叶うから書いとこ〜。今年もよろしくお願いします。小さな仕事も大変だろうけど、それはそれで、ファンは嬉しいのだ。
BETRAYER Ⅳ 2020.08.25
ルカ「暑いの?」
シークレットルームの上半身裸のダニーに聞く。
ダニ「違う。脱がされた」
ルカ「リオに?」
ダニ「そう」
ルカ「それは、それは。仲良くて」
ダニ「いや、俺が服を汚しちゃって。いや、マジで。ケチャップ付けちゃって。あ、凄く美味かった。ご馳走様」
ルカ「いえいえ」
ダニ「あ、それで、リオが怒って。なんか服を持ってくるかと待ってたけど。来ない」
ルカ「え?」
ダニ「ん?」
ルカ「どっかでかけたよ?」
ダニ「リオは他のこと思い付くとすぐこれだから。もー、忘れられた」
ルカ「ぷははは」
ダニ「服着てくる」
ダニ〔どこにいる?〕
黒いTシャツを着て、シークレットルームに戻ったダニーは、彼らの特殊なシステムからリオにLINEを入れた。
──リオがひとりで出かけることはよくある。でも誰にも何も告げずに行くことは無い。洗剤を買いに行くくらいなら、もう帰ってもいい時間だし、連絡しても返信もないなんて。
心配しているダニーの元にやっとLINEの返信が届く。
リオ〔電車。ジェフを探してる。さっき、一瞬強く、ジェフを感じたんだ。近いところじゃないんだ。普通じゃないよ〕
ダニ〔だとしても、なんで、教えないの?〕
リオ〔そんな暇なかったんだ。ジェフを感じることが出来なくなっちゃう。少しでもわかる内にって歩き始めちゃった。僕、今、電車の中だから、ここがどこか、分かんないよ〕
ダニ〔兎に角、次の駅で降りて。ルカにジェフの記録を調べてもらうから。降りたら動かないで〕
リオ〔分かった〕
ダニーの横で、既にルカはPCを操作し、リオの位置とジェフの携帯の位置を調べ始めていた。
ダニ「ルカ、俺は地下の車を使う。情報はそっちに転送して」
ルカ「分かった。気を付けて」
ルカの言葉を背にダニーはシークレットルームを出た。
PCを操るルカの指が加速する。
──リオにはMINDと意識を感知するスペックがある。ジェフのダダ漏れの意識をリオがよくからかっていた。しかし、ジェフはそれを今、完全に消し去っている。こんなことは一度もなかった。俺たちでは感知できない僅かなジェフの意識を、リオが気付いて追っている。どこで携帯を切り替えた?どこでMINDを閉ざした?どこだ?何があった?
ジェフは障害を起こしているサーバーを時間をかけて直していた。
高梨「もう、どのくらいかかりそう?」
口元に笑みを浮かべながら覗き込む。
ジェ「分からない。ボクも難しい」
高梨「へぇ〜?あまり時間かけちゃうのはダメよ」
ジェ「え?どして?」
高梨「ふふふ。夕ご飯の時間だよ。準備してるよ。上の部屋に。アキちゃんとお話しながら食べるといい」
優しい顔と裏腹に威圧感のある声を残し、部屋から出ていった。
夕食のため、ジェフを部屋へ先導したのは、給湯室にたむろしていた連中の中に居た、ガタイのいい角刈りの男だった。階段を昇りドアを開けると、中にいた不安げなアキが椅子から立ち上がった。立ち止まった ジェフの背中を角刈りの男が突き飛ばした。
──直せと言うから直してるのに、この態度は、失礼でしょ。
フツフツと怒りが湧き上がってきた。
──でも、こんな時こそ、落ち着かなければいけない。そうだ、ボクが星で仕事をしていた時を思い出そう。
ジェフは大きな深呼吸を数回した。
ジェ「ジェフさん。大丈夫?」
アキ「だいじょぶ」
応接室のような部屋。長方形のローテーブルに向き合って置いてある茶色い革のソファー。向かい合って座った。テーブルの上には弁当とお茶が置いてある。この部屋の趣味はクリスタルのグラスだ。部屋の二面が壁に埋め込まれたショーケースになっている。カーテンの隙間は、外がもう暗くなったことを知らせた。
アキ「ジェフさん。ここすごくいい会社なんだって。ここで働かない?」
ジェ「アキちゃん?」
アキ「まだ、アメリカに戻れないでしょ?お給料もいいって」
ジェ「いや、ボクたちべんきょしてる。仕事しない」
アキ「だって、いつ帰れるの?このまま日本にいなきゃいけないもん。働かなきゃでしょ?私もここで働くつもり」
ジェ「アキちゃん。違うでしょ?商社行くって、言ってた」
アキ「こっちの方がお給料も凄いんだって!ジェフさんと働けるなら、私も嬉しい」
ジェ「突然過ぎるよ?」
アキ「ジェフさんの友達も誘って。ジェフさん。私の事、好きでしょ?この会社で一緒に働こう?」
真意が分からず、アキの目を覗き込む。動揺と焦りが現れている。
ジェ「アキちゃん、どして?」
アキ「どうしても。私の事嫌い?」
ジェ「What’s going on?」
アキ「でないと、お兄ちゃんに、会わせないって」
ジェ「え?だって仕事でって、え?なんで?」
アキ「ここで、ジェフさんが働いたら、どこにいるか教えてくれるって」
ジェ「意味分からない。ゼンゼン」
アキ「ITに強そうな人を探してくれって、言われてて」
ジェ「おにさんに?電話で?」
アキ「LINEで」
ジェ「それはおにさん?」
アキ「分かんない。こんな事になると思わなくて」
両手で顔を覆い、肩を震わす。
ジェ「Can’t get out easily……逆らうとおにさんに会えないのね。アキちゃん泣かないの。まず、ご飯食べよ」
ここは逆らわずに様子を見ることにした。
──ボクたちのビルのスパコンの事は高梨のみが話している。ボクたちの素性は気付いていなそうだ。ここにいる人たちは、いろんな見返りを求める。ジジイ、ボクにも分かる。仲間とは違う人たちだ。
30分程でドアが開き、角刈りの男が「さっきの続きをしてもらおうか」と顎をクイと動かし、ジェフを呼んだ。
ジェフはアキを振り返り言った。
ジェ「おにさんの事、教えてもらうから。約束。待ってて、一緒に帰ろね」
閉じられていくドアのすき間にアキの縋るような顔が見えた。
コンピュータ室に高梨の姿はなかった。
ジェフはサーバーの不具合を見つけ出しては直している。セキュリティーもろくに管理できていないくせに容量だけがやけに大きい。部屋にいるのはひょろひょろとしたグレーのツナギを着た10代かと思えるような男だけだった。
アキと店の外で初めて会った日をジェフは思い返した。
◇
アキ「もうすぐ終わるから、外でちょっと待ってて」
コンビニでレジに並んだジェフに店員のアキが囁いた。「へ?え?はい」としどろもどろな返事をした。アキにふふっと笑われて、バケットハットの下で赤くなった。
10分程でアキがレモンイエローのワンピースにレース状に編み込まれた白いカーディガンを羽織り出てきた。アキの小麦色の肌を引き立てていた。
アキ「ごめんなさい。急に。待たせてしまって」
ジェ「え?だいじょぶよ」
ドギマギしながら答える。
アキ「これ食べたことあります?」
手に下げた袋からケーキのようにデコレートされたカップアイスが出てきた。ジェフはじーっと見つめてから、ふるふると首を横に振った。
アキ「公園に行って食べませんか?私、誕生日なの」
ジェ「Wow!Birthday!お祝いの人。ボクでいいの?」
アキ「もちろん!」
ジェ「わかった、お祝いするよ!歌うよ。nameは、アキちゃんでいいですか?」
アキ「いいですよ。ほんとはね。暁乃って言うんだ」
ジェ「えと、?」
アキ「アカツキという字」
ジェ「ごめんね日本語詳しくない」
アキ「あ、いいのよ。生まれたのが、夜が明ける前、すごく綺麗な空の色だったの。パパがこの空の色を忘れたくないからって、つけてくれたの」
ジェ「パパ、ステキな人ね」
ジェフは『light&shadow』で客の誕生日を皆で演奏し歌ったことを思い出し、ハッピーバースデーと歌い始めた。その声は少しひんやりし始めた公園の草木に優しく降り注いだ。アキもうっとりと聞いている。
アキ「ジェフさん、すごく優しい声」
ジェ「え?ホント?楽器あるとよかった」
アキ「うううん。歌声だけで十分。ありがとう。1番嬉しいかも」
アキのキラキラした目にジェフは照れた。
大学生のアキの実家は静岡のお茶農家だと言った。都内に兄がいるが色んな仕事を転々としているらしい。ジェフは、自身をITの研修に来たが、コロナ禍でアメリカに帰れないと伝えた。
アキ「みなさん、そうなの?同僚?友達?」
ジェ「出身同じもいるし、こっちからの友達もいるよ。ITや日本のべんきょはみんなしている。アキちゃん何知りたい?」
アキ「一応、就活が始まってるから。色々参考にしたいなって」
ジェ「そなのね。頑張って。アキちゃんは何なるの?」
アキ「外資系の商社にはいりたいな」
ジェ「すごい。バリバリ働くの?」
アキ「違う、素敵な旦那さん見つけるの」
ジェ「え、そなの?」
アキ「わたし、要領がよく無いから、仕事はあまりできない気がする。素敵な旦那さん見つけて、幸せな家庭を築きたいんだ」
ジェ「それもNiceよ」
アキ「ドン引きされるかと思ったら、違うのね」
ジェ「そんなことない。ステキよ」
アキ「ジェフさんありがとう」
アキのアルバイトが終わる頃にジェフはビルを出て公園で待つ。アキは売れ残りのお弁当を持ってくることもあった。
ジェ「すごく助かっちゃう。料理作るのお休みできる」
アキ「ジェフさん、料理するのね?凄い。わたしは料理あんまり上手じゃ無いから」
ジェ「ダンナさん見つけるなら、料理もべんきょしないとだね?」
アキ「うふふ。そうね。頑張るっ」
日本の女の子の笑い声がこんなに柔らかで、とても心地が良い事にジェフは驚いた。
◇
その男に修復したことを告げると慣れた手付きでPCを操作し始めた。回復したサーバーのシステムを見て「え?」と驚いてジェフを見る。
ジェ「も、いいでしょ」
ジェフの言葉に返事はせず、ツナギの男はPCを動かしている。高梨と連絡を取り合っているようだった。
男「じゃあ、次、これ直せって、言ってます」
と、エラーを起こしているシステムのプログラムを見せた。
ジェ「これを?いつまで?」
男「僕はね指示を受けてるだけだからわかんない」
汗を流しながら真剣にプログラムの修復を行っているジェフもコンピュータの熱にやられ意識がボーッとしてくる。
いつの間にか高梨が横に立っていた。ジェフは驚いて、椅子から落ちそうになる。
高梨「ジェフ君、あのビルには大きなコンピュータがありますよね?操作を学んでるって?こんなちっぽけなところは、退屈だろう?」
──どこまで知ってるんだろう。
びっくりした時とは違う動悸に苦しくなる。
ジェ「知らない。べんきょしてる」
高梨「隠さなくていいよ。仲間の何人かで来てくれないかな」
男「このお兄さんだけでもこっち来たら、すごく助かるんだけど」
ツナギの男が高梨に囁く。
ジェ「アキちゃん、おにさんに会えないって、どして?」
高梨「私はここにおいでと伝えたのに、連絡がないんだよ。参ったね」
ジェ「おにさん、どこにいるの?」
高梨「それは、ジェフ君の心掛け次第だよ」
優しい声で囁き、コンピュータルームを出ていった。
ジェフは上の部屋で睡眠を取るように言われたが、それを断り、システムのプログラムを直し、セキュリティをかけ、大量の情報を仕分けした。終わったのは、翌日のかなり陽が高くなってからだ。それでも、驚異的な速さと言える。
背の低い相撲取りのような体型の男に昨日の応接室へ連れていかれた。簡単な食事が準備してあった。高梨の姿は見えない。何としてもアキの兄の情報を知りたい。
ジェ「高梨さんどこ?」
男「さあ」
ジェ「アキちゃんは?」
男「隣の部屋だ。食って少し休め」
ジェ「やることまだあるの?」
男「やることなら沢山あるぜ」
ジェ「アキちゃんのおにさんのこと教えて」
男「それはまだ、教えらんねーな」
ジェ「じゃあ、やること早く教えて」
男「おい、寝なくていいのか?」
ジェ「いいの」
ジェフは5日くらいは寝ずに過ごせるが、体力を回復するためにFILMが発生する。これは地球の人間には見られてはいけない姿だ。FILMが発生する前に、アキの兄の情報を聞き出さなければならない。男を急かして、ジェフは地下に戻った。
〜頭の断片〜
ちっちゃい大群引連れ、ちっちゃい可愛い子がど真ん中で歌ってる─
B.I.Shadow=黄色い子達
ジャニーズって結構、兄弟で、入ってるのね─
Rの法則、Jrに外人さんいる〜
バカレアってよく聞くけど、なんだ?
京本政樹さんの子供がJrらしい
マスマティックな夕暮れ。面白かった!この俳優さんたちこれから伸びそう
パンツ見せて踊るジャニーズJrがいるという─
パーフェクトワールドの義足の子、絶対これから出てくる。素敵な俳優─
遂にJohnnys、YouTubeやるのか─
優吾君が秋田に来て、はてどのような方?と調べて、伏線回収のように断片断片がひとつに繋がった時、あーそうだったのかと。感動と同時に納得した。この人達を推したら、絶対面白いぞと。波に乗っていく人達だと。
いや、既に彼らが起こした風は彼らを乗せる波を作っていたんだよね。
様々な場所でそれぞれの挑戦を!
また、願いが叶って嬉しい限り。
全部、観に行く!当選したら。
宮城に来てくれてありがとう。
2022.6.6
BETRAYER Ⅴ 2020.08.25
リオがインターフォンを押し、「こんにちは!」「すみません」「誰かいませんか?」と何度も話しかけるが、返答は無い。
塀は屋敷を取り囲み、門は堅く閉ざされている。
門の上部にある大袈裟な防犯カメラを目を細めてリオは睨んだ。傾いた陽射しがカメラに反射している。
少し離れた住宅の塀の陰に、車を停めているダニーにリオの意識が届く。
──ジェフはこの中にいるよ。分かる。僕に気付いてるけど、何も伝えてこないんだ。どうしよう。誰も出てこないし......
──リオ、ルカが色々調べてくれている。一旦離れて、車に戻って来て。
──わかった。
ぎりぎり門が見える場所に車を停め、ふたりは様子を伺う。
リオ「何も言ってくれなかったけど、ジェフは僕らを巻き込みたくないと思ってるみたい。でも、すごく、疲れてる」
ダニ「そう。もっと、話をするべきだった。追い詰めちゃったな。分かってやれるのは俺らしかいないのに」
リオ「ジェフは凄く頑張ってるよね」
ダニ「頑張ってる。リオ、それはみんな知ってる。大丈夫だ」
リオ「うん」
辺りの影が大きく傾いている。住宅街の灯が点きはじめた。時折、リオがFILMをステルス化させ、屋敷の塀の前を歩いてみたが、門が動く気配はなく、ジェフから伝わってくるものはなかった。
ルカのデータによると、この家の所有者は一般人だが、不動産屋や管理会社は、反社会的勢力の存在が噂されているところだ。ダニーたちとは対角線上の立場にある多国籍企業の傘下だ。家の造りからして、所有者はダミーだろう。
ダニ「あまり、関わり合いたくない相手だな」
涼を求めて散策に出た人々を見ながら呟く。
リオ「ヤバい所なの?」
ダニ「まぁ、どの視点で見るかだよね。ありとあらゆる手段で収入を得るあちらさん側と、あらゆる情報を売って収入を得る俺ら、こっち側と」
リオ「僕らは世の中のためになってるじゃん」
ダニ「ワクチンの開発が早くなったせいで本来死んだかもしれない人間が沢山助かった。医療の進歩って事にはなってるけど、少し意味合いが違うんだよ。俺たちが企業に渡したものは、本来は半年後に出るデータなんだ。俺たちが未来を変えてるんだ」
リオ「相馬さんもたくさんの命を助けているよ?良いことをしてるんじゃないの?」
ダニ「相馬さん個人が助けたくて助けた命もあるだろうけど、企業側の依頼は全てお金の為だ。安全に暮らしたい俺たちはそれに上手く便乗しているんだ。俺たちの星で寿命延長は当たり前だけど、この星は違うんだよ。相馬さんはね、自分の匙加減で他人の未来が大きく変わることに、凄く苦悩し葛藤し続けている」
リオ「でも、ノアが変えようとしている未来は?代償なんか求めていないのに」
ダニ「変えようとしているんじゃない。運命なんだ。本当はノア以外、誰も気付かない間に終わっていたかもしれない」
リオ「そう......なんだよね。僕、それを思うと胸が締め付けられるように苦しくなるんだ」
ダニ「みんなも、同じだよ」
街灯の周りを蛾や甲虫類が、飛び回ってる。
リオ「あんな、あんな小さな虫たちまで、ノアは助け........
リオの顔が歪み、最後の言葉が掠れ、声にならなかった。ダニーは優しくリオの頭に手を置く。
出歩く人も少なくなり、遂には消え、辺りはしんと鎮まり返った。
リオ「何故、ジェフだったんだろう?」
助手席に深く沈み込んで気持ちを整えていたリオが、ダニーを見上げ聞く。
ダニ「あちらさんが少なからず俺らのことを知っているからだ。どこまでか、分からないけど。でなければ、ジェフが拉致されるわけはないな。アキちゃんは利用されただけと思う......」
リオ「絶対そうだよ!いい子なんだ。友達になるの」
ダニ「アキちゃんもそう思ってるの?」
リオ「そうだよ。一緒に食事したり買い物行ったり、マニキュア見せ合ったりするの。地球の女友達になるの!」
ダニ「そうか。早く助けてあげたいけど。ジェフも体力を削りながら行動するタイミングを伺ってるのかもしれない」
ジェフから何かしらの合図がないか、ふたりとも神経を研ぎ澄ます。
前触れもなく、ふいに門がスライドし、ゴミでも捨てるかのように、何かが放り出され、再び門は閉じられた。
目を凝らしてそれを確認したリオが叫んだ。
リオ「え?あっ、アキちゃんだ!酷い!」
ふたりが車から飛び出す。リオはアスファルトに転がるアキに駆け寄り抱き起こす。
リオ「アキちゃん、痛いところない?」
アキ「リオさん?」
リオ「そうだよ」
アキ「わたしは大丈夫。兄ちゃんが!お兄ちゃん、死んじゃう!お兄ちゃん」
リオ「落ち着いてアキちゃん。大丈夫だから。頭の中整理して」
と、意識を読むためアキの肩に手を置いた。
リオ「アキちゃん?君……」
アキ「ジェフさんが、まだ中に!」
リオ「あ、うん。分かってる。大丈夫だから。車に入って、ロックして。見えないように。じっとしてて」
アキ「はい......」
震えるアキを気にしつつ、リオは車を離れた。ダニーは少し離れたところで、ルカと連絡を取りあっていた。
リオ「ダニー、ジェフが!」
ジェフの意識が語りかけて来た。アキが解放されたからだろう。
ダニ「俺にも分かった。行こう」
ふたりは、地球に降りた時のような暗色のスーツとブーツ姿だ。街灯の明かりから遠ざかったところへ素早く移動する。ふたりの身体からゆらゆらとFILMが湧き、姿が消える。
塀の手前で、一歩踏み込み、タンッと地面を蹴る。重力調整ブーツを履いたダニーとリオは一気に塀の上に飛んだ。
塀の上から様子を伺う。庭には夏の夜の生ぬるい空気と、帷が連れてきた冷えた空気が絡み合っている。塀の上から屋敷の側面が見える。窓も固く閉じられているようだ。塀から音を立てないように降り庭木に沿って歩く。
アキを放り出したらしい男が玄関のドアを開けようとしていた。
リオ「ねえ」
FILMを収め、男に声をかける。
ひと気の無かった背後から声をかけられたにもかかわらず、男はゆっくりと振り返った。
ジェフより大きそうな角刈りの男が「お嬢ちゃん、どうしたの」と視線を下に落とした。
リオ「友だちがここにいるんだ。帰ってこないから心配してきてみたんだ」
男「友だち?そこにいなかったか?」
リオ「知らない」
男「じゃあ、知らねーよ」
リオ「連れ込まれてさ、コンピュータ直せって言われた友だちなんですけど」
男「そんなやつはいねえよ。お嬢ちゃん帰りな」
リオ「おかしいなあ」
男「おまえ、さっき、何回もインターフォン押してたろ」
リオ「ああ、そうだよ」
男「勝手に庭に入ったり、悪戯はそこまでにしとけよ。ガキ」
男は家の玄関のドアを引き、入ろうとした。開いた扉の隙間からステルス化したダニーが足音も立てずに先に入る。
その後にリオも続いた。
男「このガキ、何してる!」
リオ「うっせーな。ジェフを拉致ってるんじゃねえよ」
男「口の悪いお嬢ちゃんだね」
リオ「お前にお似合いの言葉使ってやってんだよ」
男「大概にしておけよ?」
リオをつまみ出そうとした男の後ろに、素早く回ったリオが、男の片腕を背中にねじり上げた。が、大男の怪力が勝った。男が体を反転させると、その反動でリオは吹っ飛んで尻もちをついた。すかさず男がリオの肩を掴み立たせたが、リオが思い切り相手の股間を蹴り上げ、男はその場にうずくまった。苦しみながらも男はリオの足首を掴んで離さない。
リオ「離せよ!」
男「なめんな、このガキ!」
捕まえようとするもう一方の手がリオに触れる直前、男が背後から脇を蹴りあげられ、振り向く前に側頭部に2発目の蹴りを受け「ぐはっ」と発し男はそのまま床に伸びた。
ダニ「また、無茶して。中に入るなって言っただろう?」
リオ「ありがと。僕も行く」
ステルス化したダニーの姿は見えないが、リオにはFILMを纏うダニーがはっきりと感じられる。
ダニ「リオ、危ないことはするな」
リオ「えーでも、ジェフがここにいると思ったら」
ダニ「でも、じゃない!」
リオ「ごめんなさい」
ダニ「分かったよ。リオも消えて」
リオ「うん!」
FILMを発生させ、姿を消した。
先に進むと階下から昇って来た3人の大男たちに出くわしたが、ステルス化したダニーとリオには気付かず、横を通り過ぎ、倒れた男を囲み見下ろしいている。
──ダニー、ジェフの声聞こえてる?
──分かってる。ルカにすぐ、伝えるよ。
──ジェフも、戦いかた知ってるのに、何故、出てこないんだろう。
──争いは嫌いなんだよ。先へ進もう。
コンピュータ室から、偶然出てきた人間の脇を通り中に入ることができた。ガラス張りの左右の部屋には数人の男たちがPCを操っている。タバコの臭いが充満した給湯室を過ぎ、ジェフのいる部屋の入口に着いた。
カチッと音がして、ダニーとリオの目の前でドアが開いた。ジェフが開けたのだろう。音もなく侵入する。入口横のPCのディスクに座っていたグレーのつなぎを着た男が、訝しげにドアに目を向け、扉を閉める操作をした。
ジェフがコンピュータ室の奥から、重い体を引きずる用に歩いてくる。ダニーとリオに気付いているが、表情には出さない。
ジェ「おわたよ」
男「まじか、速いね。お前、何もんだよ」
モニタを見て驚嘆する。
ジェ「ジェフ」
男「名前じゃないよ」
ジェ「帰る」
男「待て」
つなぎの男が、PCで誰かと通話し始めた。「は、いや、終わったって。ほんとっすよ.......」
つなぎの男がジェフを手招きする。モニターの右上部に高梨が映っている。
高梨『ジェフ君、さすがだね』
ジェ「帰る」
高梨『こんなにできる子なんだね。引き止めて悪かった』
ジェ「アキちゃんに、可哀想なことしたでしょ」
高梨『彼女の兄は荷物でしか無かったからね。面倒を見たのは私だよ。お兄さんの連絡先は伝えたよね』
ジェ「ボクは帰る」
高梨『もう遅い時間だ。僕のところに来ないか?アキちゃんとお兄さんもまとめて面倒見るよ?』
ジェ「見返りは良くない人する。ここは良くない。良くないことしてる」
薄らとジェフのFILMが発生し始めた。体力が限界を超えて今にも崩れ落ちそうだ。FILMを知られてはいけない。
サーバーの陰からFILMを収めたダニーとリオが思わず飛び出し、ジェフの身体を支える。
男「なんだ?お前ら!」
いきなり現れたふたりにつなぎの男が驚く。ほぼ同時にドアが開き、4人の大男たちが入って来た。
男1「ふたりもいるじゃないか」
男「いつの間に!」
男2「あのガキだ!俺を!」
さっき蹴られた男が腕を振り上げ、リオに襲いかかって来たが、一瞬にして間を詰めたダニーが男の腕をかいくぐり「それは俺だよ」と、アッパーカットを喰らわし、男を床に沈める。
ダニーは、動体視力(DVA)と反射能力が高い。
他の男たちも一斉に飛びかかろうとしたが高梨の『止めろ!』と言う声に、小さく舌打ちをし、その場に留まった。
高梨『お前たちが勝てる相手じゃない』
リオ「勝ち負けじゃないよ。ジェフを迎えに来ただけ」
画面越しの高梨を睨みつけながら言う。
高梨『ふふっ。どうやら、ちょっと面倒な方々をお招きしてしまったようですね。こちらも、それなりの応対が必要でした。大変失礼しました。また、お会いすると思います。きっと。その時はね、宜しくお願いしますね』
ダニ「もう関わらないでくれ」
静かに伝えた。画面の向こうの高梨は微笑んでいる。
ディスクに両手をついて肩で息をしていたジェフが、長い腕を伸ばし、キーボードにカタカタと数回打ち込んでEnterを押した。モニタの高梨が消えた。一瞬の間を置いて、全ての機器と照明がシャットダウンし辺りは暗くなる。
男「何をした!?」
つなぎの男の声がする。真っ暗な中、他の部屋からも、声があがる。
10秒ほどだった。再起動したPCが辺りを照らしたが、3人の姿はそこにはなかった。男たちが慌てて探す。
モニターに、プログラムが崩壊する様子が映し出されている。つなぎの男はどうすることもできず悲鳴を上げ、頭を抱えた。
おやすみの歌は
『Cassette Tape』/『Everlasting』/『真っ赤な嘘』
『Make Up』/『Call me』/『Curtain Call』/『ってあなた』/『So Addicted』/『love u...』/『You & I』/『Gum Tape』/『Lifetime』
の順で。
大抵、『Everlasting』で意識不明となるのですが、『Lifetime』まで聴いたのは今まで3回程かな。このラインナップはわたしに最高の安心と安眠を与えてくれます。
『わたし』の楽曲達は今のところ明るい時間に頂いております。
BETRAYER Ⅵ 2020.08.26
ノア「大丈夫。誰も来ないように見張ってるよ」
ニコ「ありがとう。頼むね」
都心から少し離れ、海の近くに工場が並ぶ。こんな夜更けでも、建物から金属的な音が届き、煌々と明かりが灯っている。明かりの影となる場所に建つアパートは暗くて足元もおぼつかない。
眉間に縦じわをつくり、腰に手を当て仁王立ちしているノアの頭に烏が1羽留り、足元にサテン生地の水色の首輪をした牛柄の猫が擦り寄っている。
ニコが佇むアパート1階奥のドアノブには、コンビニの袋が数個かけられている。それをはずし、ドアノブを回してみる。鍵はかかっていなかった。アパートに足を踏み入れるや暑さと悪臭にむせ、ニコは顔をしかめた。電気を点ける。入り口横にバスユニットと6畳一間に小さな流しが設置されている。流しには弁当の殻やカップ麺の食べ残しが放置されている。悪臭を放つものをゴミ袋に放り込む。
畳に敷かれた薄い布団の上に毛布の膨らみがあった。悪寒がしてかけたのだろう。膨らみは動かない。
窓を開け、エアコンのスイッチを入れた。古いのか音がややうるさい。悪臭が軽減されていく。
男「だ........れ.........?」
掠れた声が微かに聞こえた。
毛布をめくってみた。痩せた男は顔も手も黄土色だ。近くの酸素をかき集め口に取り込む力もないらしい。目を開ける事もできない。くの字に横たわり、かさなる両手の指先が痙攣している。このまま放置すればあと数時間でこの男は命を落とすだろう。
男「だ........れ.........?」
また、男が聞いた。
ニコ「お前とお前の妹が騙した男の仲間だ」
言ってしまってから、ニコは力の入っていた両拳を見つめ気持ちを鎮めることに集中した。
窓を閉めてから、呼吸を整えFILMを発生し、男を包み込んだ。ニコのFILMの中に青白い粒子が散る。
まず、気管を広げ、酸素の通り道を確保した。目を瞑り、痛んだ臓器を確認する。遺伝子を形成する蛋白質を組換え、治癒する方向に構築すればいい。気管支に纏わりつくウイルスも徐々に減っていくだろう。
治療を行える場所は、自分たちの星KPnsだけだと、先代は記憶していた。しかし、相馬は長い時間をかけて、この星で消えかけた生命を救う術を身につけた。勿体ぶることも無く、相馬はニコに知識を与えてくれるが、まだ、離れたMINDを引き戻す感覚が完全に掴めていない。それどころか、たったひとりの治療だけでも未だにヘトヘトになる。
過去にも相馬の元で手技を覚えた者が1名いたというが、70年程前から連絡が取れなくなったと聞いている。
アパートの駐車スペースを無視し乱暴に停めた車から、コンビニの袋をぶら下げた男が二人やってきた。
ノア「あ、ダメだよ。この先」
男1「あれ?当番間違えたかな。何?お前」
ノア「ノア」
男2「それ、何?」
ノア「俺の名前」
男2「名前なんて聞いてねーよ」
ノア「え?なぁんだ。あの部屋の人、具合悪いよ、病院に連れていかなかったの?」
男1「オレらは弁当係だ、か、ら!」
男2「弁当持ってくんの忘れてたんだよな。今日は。あははっ。やー儲けちゃって遅くなっちまった」
とパチンコのハンドルを回す手付きをする。
ノア「心配じゃないの?仲間じゃないの?」
男2「金ないんだぜ?仲間なわけないべ。遊びにも医者にも行けねーし、死んじまった方、良くねーか?どけよ。そこ。取り敢えず袋置くだけだからさ」
ノア「なんで、そんなこと言うんだよ?死んじゃったら、おしまいだろ?お前らは」
男2「お前ら?あいつと一緒にするなよ。あいつはなんも役に立たないからいんだよ」
ノア「役に立たないって何?何の事?」
男1「あ、もう、うるせーなー」
横を通ろうとする男の前にノアが立ち塞がる。
ノア「俺、ニコに頼むねって言われちゃったし」
暗闇で見えなかったノアの頭のカラスが羽をばたつかせる。
男1「わっ!なんだよこいつ。気持ちわりぃ。お前が渡せ、弁当」
と差し出してよこす。
ノア「弁当係じゃないもん」
男2「からかってんのか?」
ノア「唐揚げ弁当?うまいよねっ」
男1「はぁ?」
ニコは1時間程でFILMを閉じた。
押入れから汚れの少ないシーツやタオルケット、タオル。肌着を見つけ出し、取り換えてやった。見た目はまだかなり危険な状態ではあるが、身体は回復する。汚れているものは押入れに突っ込んだ。
──後はアキちゃんに任せよう。アパートが近くなったら、部屋には入れず、救急車を呼ばせよう。
ダニーに連絡した。
ニコ「アキちゃんがここについたら、」
ダニ『いや、いない』
ニコ「いない?」
ダニ『車で待ってるように言ったんだ。いなかった。リオと探したけど』
ニコ「そう........分かった」
苦しみから解放されつつある男にニコが聞いた。
ニコ「妹は、いる?」
男「……いもうと?」
ニコ「アキちゃん」
男「…知らない」
ニコ「兄弟は?」
男「兄が...いる」
ニコ「そうか」
男「あ...あの...ありがとう...ございます...」
ニコ「もし、助かったら、助かったなら、ちゃんと生きていくんだな」
この男がどんな経緯で見捨てられたのかは分からないが、まともに働いて楽しく生きてきたようには思えない。そこまで詮索する気はないし、治るとも言いたくない。しかし、縁あって、治療することになった。せめて、生き直してもらいたいとニコは思った。
サングラスをしたニコが部屋から出て、男達に近づく。
ニコ「ノア、どうしたの?」
ノア「弁当係だって」
ニコ「僕が今、彼を診てきた。感染によって瀕死の状態だ」
男達はサッと後ろに飛び退いた。
男2「なんてことしてんだよ。馬鹿じゃね?絶対、感染ったよな。お前」
ニコ「君達はあの男の面倒を見るつもりはないんだな」
男1「感染ったらやべえじゃん。俺らは弁当置いてくだけだから」
ノア「あ〜ん?まだ、そう言うの!じゃあ、さっさと消え失せろ!」
ノアの頭のカラスが男たちを威嚇する。
慌てた男達は弁当も置かずに停めってあった車に乗り込み、走り去った。
ニコはルカに連絡を取り、救急車の手配を頼んだ。
ニコ「ま、これで大丈夫。ノア、言葉が悪いよ」
ノア「だって、使ってみたかったんだもん」
ニコ「ドラマの見過ぎだって」
ノア「えヘっ。めっちゃ面白いよ!……ねぇ、ニコ、目は痛くないの?」
サングラスを取ったニコの瞳が青白く発光しているようにも見える。
ニコ「痛くはないよ。僕の目の色はすぐ元に戻るよ」
ノア「相馬さんの目と同じ。俺が海で会った、ちっこい子も同じだった」
ニコ「でも相馬先生も施術毎、色が変わる訳では無いって。何故か分からないんだ」
ノア「きれいだよ。海の底から、空を眺めているような色だよ」
そんな色なんだ?と口先にでかかったが、ニコは留めた。ノアが見た色は苦しみとともに経験している色だ。思い出させたくない。
ルカが上手く伝えてくれたらしく救急車が到着した。発車するまで10分とかからなかった。ふたりは建物の影から見守った。
1台の車が救急車と入れ違いに、駐車場に静かに入ってきた。
後部座席ではジェフがFILMの中で眠りながら漂っている。その隣へ、ニコが滑り込む。ノアも乗り込んで、ギューギューになった。
リオ「ノア、ニコ!お帰り!」
嬉しそうに助手席から振り返る。
ニコ・ノア「ただいま」
ノア「おお?ダニーが車運転してる!」
ダニ「初めてにしては上手いだろ?」
他「怖っ!」
ダニ「なんで?運転方法、ちゃんとインプットしてあるから!」
薄く目を開いたジェフがニコを見つめている。
ニコ「ジェフ、寝てていいよ」
ジェ「お帰りなさい」
ニコ「ただいま」
ジェ「怒てない?」
ニコ「怒ってないよ」
ジェ「良かた」
ニコ「元気になったらアキちゃん探そうね」
ジェ「うん......いや、探さない」
ニコ「いいの?」
ジェ「うん」
5人が乗る車が高速道路を走る。
ジェ「ニコ、空の色」
ニコ「もうすぐ朝日が昇るんだ。綺麗だね」
ジェ「アカツキ?」
ニコ「そう。夜明け前の暁色だね」
ジェフが瞼を閉じた。真珠の粒がFILMの中で暁色に光って消えた。
=SixTONES summer liSTening PARTY on YouTube2022=
素敵な時間をありがとうございました。うん。この歌声なんです。6人の楽曲達。ギラギラしたオラオラ感がデビュー前の曲にある凄さ。この2曲も爽やかなあの曲も好きだわ。ここから、ガンガンレベルアップしていってるけど、さらっとこなしている。いやきっと、大変だとは思うんだよね。難しいもん。でも、ここの歌い方すご〜いってところが耳に残るし心地良い。お陰様で、楽曲の様々なドラマを見せて頂いています。カップリングなんて勿体無い曲がliSTening PARTYにて披露されたのが嬉しい。
自分が健康なだけでは、乗り切れない時代になりました。心のやり場が無くて悔しい思いをすることがあるけれど、水飲んで、笑って、一緒にぶっ飛ばしましょ。
RESOLUTION Ⅰ 2020.12.14
12月半ば相馬の村は豪雪に見舞われる。その情報は、オフィスのルカから村にいる相馬とニコへ伝えられた。除雪作業を手伝おうと颯爽と雪が降る前に村に着いたリオ、ノア、ジェフは一番広く雪を寄せた者が勝ちにしようと、呑気な話をしていたが、一晩で壁のように高く積もった雪を見てひるんだ。
ノアは相馬家のペットや逃げた家畜たちに追われ雪の中を嬉しそうに走り回っている。リオは1時間ほどで、手にマメができたと大騒ぎし、休憩ばかりしている。その横で黙々と雪を寄せていたのはジェフだった。途中からは一旦診察を終えた相馬、ニコも加わり、日が沈むまで近隣の家の雪も寄せた。
ジェ「ズルいよ。リオとノア、やらなかた!」
リオ「雪ってこんなに重いと思わなかったもん」
と、口を尖らせ、ちょっと誇らしげに赤いマメのできた掌を見せた。治癒させずに見せたかったらしい。
ノア「俺はほかの事で忙しくて......うあっ」
言っている傍からペットである大型犬にのしかかられている。
逃げてきた家畜のヤギや牛を引き連れ、そのまた後ろに犬やら猫やらがくっつき1列に並んで歩いている様は、この辺りでは普通の光景になっているようだった。
相馬の医院と棟続きになっている自宅の居間には、大きな暖炉があり、ぱちぱちと薪が爆ぜている。柵には雪で濡れた手袋、帽子などがかけられている。頬を赤く染めた3人が椅子に座り、ノアの横のカーペットにペットの犬と猫が寝そべってストーブを囲んでいる。
リオ「ニコは?」
ジェ「雪寄せ終わて相馬さんと往診」
リオ「真面目かよ」
ノア「じっとしてないよニコは」
ジェ「お医者さんのニコ、優しくてカッコイイ」
リオ「良いところ見れてよかったね」
ジェフが照れながらコクンと頷く。キッチンから漂う匂いとジェフの幸せそうな顔に、リオは安堵する。
キッチンを区切る暖簾からひょっこり顔を出した晴美が声をかける。
晴美「もうすぐ出来るからねー」
3人が歓声をあげる。
程なく、相馬とニコも往診から戻り、料理を並べ始めた4人の輪に加わる。
焼魚の大きな切り身が乗る皿や根菜類の煮付け、千切りのキャベツの横には揚げたてのコロッケ。牛乳をたっぷり使ったスープ、食べやすいだろうと俵状に握った山盛のおにぎりがこの地方の漬物と共に、2つ並べた長方形のテーブルに賑やかに並ぶ。
ノア「晴美さんの料理、すっごい美味しいから待ち遠しかった!食べよ食べよ!」
リオ「ここん家の人かよ」
晴美「ここん家の人以上よ」
ジェ「ホント?ノア?AHAHAHAHA」
晴美がジェフの豪快な笑いに吹き出す。それにみんながつられ、笑い出す。
相馬「我が家にこんなに集まってくれるなんて」
と目を細める。
リオ「すみません、いきなり来ちゃって」
晴美「謝ることないわよぉ。近所の人たちも凄く助かったのよ!それより、見て、今ここに?私だけよ!地球の人!不思議!」
リオ「晴美さん、そこ面白がる?」
晴美「めちゃくちゃ面白い!」
相馬「お陰で、晴美さんは人気があってね。話をするために、病気でもない人が通院してきてね。忙しいんだ。でもね、野菜とか、卵とかいろいろ置いていってくれるから、あまり食べ物に苦労しないんだ」
ニコ「診察以外にも相馬さんがこの土地の人を大切にしているからですよ」
ジェ「AHAHAHA!この村ステキね」
晴美「そうよ。だから、いつでもいらして」
リオ「ずっといていい?」
晴美「いいよ。雪寄せ頑張るならね」
リオ「えー。手が痛い!」
晴美「リオちゃん、すぐ治るのに!何言ってんの?」
晴美も全てを理解しているから、この家では誰も隠し事はしなくていい。リオは平気でFILMを広げて手のマメの治療をしている。ちょっとした我儘も受け入れてくれる晴美に母親のような思いを皆が抱いている。
ニコ「往診に行ったら、お前んとこにいっぱい派手な若いのいたなーって、言われて。まあ、リオとノアは若いけど、それ以外は、あなたより年上だよなんて言えないしね。87歳のおじいちゃんに。うははは」
相馬「そう。本当はね。そうなんだよ。でね、君たちの事、娘の婿候補かって聞かれるんだ」
リオ「どう答えたの?」
相馬「ま、都会に暮らしてる親戚の子達ですよって。実際、そんな感じだもの」
晴美「そんな感じよね。一挙に親戚が増えて、私も嬉しいの」
ノア「ダニーとルカも来ればじいちゃんたち腰抜かすよ」
相馬「ふふふっそうだな。一度にたくさんの若者を見て、曲がった腰も治るかも」
皆が笑い合う。美味しい料理に、箸も話も進む。リオは皆を見ながら、この瞬間がずっと続いて欲しいと願う。それが叶わないことも分かっている。そして、全員が同じ思いでいる意識に触れて、切ない気持ちになる。
ノア「リオ、明日、雪だるま作ろ?」
リオ「うわ、作る作るっ!」
ジェ「ボクも作る」
ニコ「じゃあ僕も混ぜて」
リオ「ニコって、意外に好きだよね。こんなの」
晴美「ニコちゃんは、さすがに相馬とは遊べないもんね」
相馬「どうしてだ?私も作る」
晴美「うわっ、はしゃいじゃって!」
その言葉にまた皆が笑う。
翌日の夜更け。ニコとジェフがストーブの前で燃える薪を長い時間見つめている。リオ、ノアは雪寄せと雪遊びで疲れ果て、深い眠りについたはずだ。
医院の前の庭の大きな雪だるま2つと、蝋燭の淡い光が灯る氷の灯籠に静かに雪が積もっている。
ニコが自分に伝えたい何かをジェフはじっと待っていた。普段、穏やかなニコの横顔が、緊張しているようにも見える。
ニコ「ジェフ。いい?」
ジェフに視線を向ける。
燃える薪に目を細めながら
ジェ「だいじょぶ」
と答える。
ニコは大きな息を吐き、ストーブの炎に向き直った。
ニコ「君の頭の中にはチップが埋め込まれている。どこからかの指示で、ジェフの知らない情報がもたらされる。だから...ジェフのせいじゃない」
ダニ「ここ着いて、すぐ、相馬さん、ボクを診た。そなの......」
ニコ「ジェフがノアを送り出すだけの役割だったとしても、仕方なかったんだ。僕がそれに対し怒ったところでどうにもならない事だったんだ。苦しませてしまって。ごめん。申し訳なかった。
何かのズレのせいで、僕らはこの星に長く留まることになって。そしてジェフの中に自我が芽生えた。Topで、多くの人々を支える仕事をしていたし、元々ジェフは他の役人より、情というものが深いのかもしれない」
ジェ「ジョウ?」
ニコ「何だろえーと、Emotion?Loveかな?」
ジェ「Love?わぁ、なんかうれしい」
ニコ「これからも、君の意図しないことが起こるかもしれない...。それを起こさない方法はある。チップを破壊するんだ。相馬先生から過去にそんな人がいたって、聞いた。相馬先生はチップを破壊できる。
でも、破壊すると僕たちの星の記憶は失う。もちろんTopとの交渉も出来なくなる。帰れなくなる。つまり地球人として、生きていくことになる」
ジェフの視線が床に落ちる。
ジェ「えと、ニコやみんなのこと忘れる?」
ニコ「全部忘れる訳では無いらしい。仕事以外の記憶は残るようだ」
ジェ「Topとの交渉は?...出来なくなる?」
ニコ「こっちの状況をTopに伝えることができるのは、今はジェフだけだからね」
顔を上げたジェフがニコを見る。
ジェ「だったら、ボクがTopに伝えることが、全て?Topは、僕たちのactionを待ってるなら、ボクたちがstrong positionだ」
ニコ「そういうことになるね」
ジェ「......」
ニコ「ジェフ?」
ジェ「ボクがnegotiatorなる。ボクは皆と同じ気持ち。Topのジェフじゃない。だから、違うことしたボク、違うボクなんだ。そうなったら助けてくれる?」
ニコ「もちろん」
ジェ「ありがと。もし、どうしても、抑制が出来なくなたら、チップ壊して」
ニコ「そんなことはしたくない」
ジェ「ちがう。ニコ。してよ。ノアが銀河を助けて、ボクたちがノアを探して、みんなで星に帰るために、もし、ボクが、違うことをした、みんなが帰れなくなる。チップを。お願い。ニコが壊して。できるでしょ?」
ニコ「ジェフ.....分かった。僕が壊すよ......」
他の誰でもなくジェフは自分に運命を預けた。ニコは受け止める決心をした。
ジェ「ボク、仕事できなくなると、Topは代わりの役人、ここにTRANSさせる。その彼が次のnegotiatorなるから」
真っ直ぐな澄んだ目がニコを捉える。
ニコ「分かった......」
声が震えた。
ニコに寄り添うようにジェフは長い腕を伸ばし肩を抱いた。ニコも腕を伸ばして、肩を組んだ。
ニコ「ジェフ。僕は、ジェフがこの地球という星の人になっても絶対、見捨てたりしない。皆もきっとそう思うよ。だけど、頑張ろう。そうならないように。みんなで一緒に帰ろう」
ジェ「うん」
自分達には今、2つの力が動いていることをニコは確信した。このままノアをひとりっきりで未来へ旅立たせ危機を救わせようとする力と、未来へ飛んで銀河を救ったノアと共に星に帰らせようとする力だ。見極めながら、慎重に進まなければならない。
薪の残り火がふたりを照らしている。
2022もあとわずか。速い。速すぎる。あっという間に棺桶に両足が
入りそうな私も周りの環境が変わります。じっくり観察して、冷静に分析して、一歩をどこに踏み出すか。見極めて。見極めて。
backgroundには素敵な6人の声が重なり響き合って、物語を作っている。ずっとずっと新曲にびっくりさせられて、活躍を喜んで、ドラマや舞台に笑って泣いてっていう時間、楽しんだなぁ。来年も、そうあってほしいと願う。Kono星に願います。
RESOLUTION Ⅱ 2020.12.13
ドアがスライドする時間ももどかしくオフィスに飛び込んだダニーが、オフィスを見回しキッチンでお茶を淹れているルカを見つた。
ダニ「なぜ、ジェフを行かせた?」
とにじり寄る。
ルカ「相馬さんの村が大雪でこれから大変なことになるんだ」
ダニ「知ってるよ。でもジェフがいないとこっちからのTRANSは出来ない。そうだ、ルカはひとりでここに来たじゃないか。頼むよ。Topへ申請してくれ」
ルカ「いや、あれは時間をかけて計画されたものなんだ」
ダニ「だったら、ジェフを呼び戻してくれ!」
ルカ「ニコが、どうしてもジェフをよこせって。精神的な部分のリハビリも兼ねてだよ」
ダニ「リハビリ?そんな場合じゃない!」
ルカ「やはり、あの彗星なのか?ダニー!」
ダニ「分かりかけてるんだ!分かりそうなんだよ!KP3へ行きたいんだ。俺が行けば分かると思うんだ」
両手を大きく広げ、ルカに訴える。
ルカ「無茶だ。KP3は危険な星だ。なあ......リオにインプットしてもらおう」
ダニ「それは、ダメだ。絶対。インプットさせたくない」
ルカ「じゃあ、望み通りダニーがKP3へ行けたとして、必ず、見つけられるのか?砂に覆われているんだろ?一緒にその洞窟で見たわけじゃないだろう?それに戻れるのは早くて3ヶ月後だぞ。他にTRANCEした者がいれば、エネルギーが使われて、もっと遅くなる。インプットしてもらえば、詳しい彗星の軌道が早く解明出来るかもしれない!相馬さんにお願いして、K384(ケーフォー)の記録を」
ダニ「それは出来ない。嫌だ」
ルカ「リオはその為に、ここに送られたんだ」
ダニ「ああ、気付いたよ。俺も。誰だよ。誰が、俺たちをこんな......」
ルカ「リオに伝えたら、きっとインプットしてくれる」
ダニ「そうするだろうよ。だけど、K384のことを知ってしまったら、リオが壊れてしまう」
一瞬で死んでしまったK384の事故に深く関わっていたダニーを、リオは知ることになる。
極力、ダニーはK384と過ごした日々を懐かしんだりはしないようにし、意識を解放しなかった。過敏な年頃のリオに知られないためだ。教育プログラムで一緒だったルカとニコが、事故を知ったのはこの星に着いてからだ。
相馬の村に出かける前に、リオがふと、ギョベクリ・テペの遺跡にこんなのがあったと、コピー用紙にいつくかの丸い小さな点と線を引いた。
リオ「んとね、同じなの。ギョベクリ・テペで見たのと。テペのはね動物で、点とは違うんだけど、並び方?線の感じ?なんか砂の中で見た気がする。砂遊びした事あったっけ?」
こっちが砂のほうと、リオは別の用紙にまた丸い小さな点と線を描いた。
リオ「昔さ、めちゃくちゃに点を書いても、ダニーが、この星座に似てるって、その星や地球に伝わる神話の話してくれたじゃん。なんか思い出してさ」
ダニ「そんな遊びしてたなぁ。砂に書いて遊んだ事もあったかもしれないね」
ここまではただ子供の頃を懐かしむ会話だった。
リオが出かけてから、ディスクの上の2枚の用紙に目を落としたダニーは愕然とした。冷静に何度も確認したが、一枚は地球からノアが見た、もう一枚はKP系から見た、同じ星群だった。直線がなかったら『子供の頃のお星様の話』で済むはずだった。さらに角度を分析すると、2枚目はKP3上から眺めた星群で、直線は真っ直ぐに星々の中を横切るあの彗星の軌道だ。
KP3に行ったことも無いリオの描いた絵は、死ぬ直前のK384の記憶だ。
リオはK384が亡くなる以前に保存した遺伝子から作られている。記憶が紛れ込むことはあり得ない。
しかし、今一番欲しい情報は、KP3から見た遥か古の星の詳しい配置だ。ノアが経験した彗星が向かってくる軌道と、ギョベクリ・テペの遺跡の軌道、リオが描いたこの約8千年前の過ぎ去っていく軌道が確認できれば、ノアのXdayにもっと近付ける。そして自分たちの星を助ける道につながる。
ダニーの心はザワザワと騒いで、思考もままならない。
◇
KP3は恒星KPを回るKPnsとKPazの兄弟惑星である。KP3は生き物がいないと言われていた。しかしKPazに住む《shapeless》(形無き者)の言い伝えを調べ、約8千年前に生き物が存在していたらしいと知ったK384は痕跡探しに夢中になった。
KP3に渡ったダニーは土の成分を調べるため無人探査機で採取した砂の標本を船内で作っていた。K384は船外で、反射法による地下の調査をしていた。この星に気体は無いと言われているが、僅かな重力により、移動は容易だった。
彼女のライフラインはシャトルと繋がり、バイタルと共に感覚を読み取り、記録が行われている。ダニーとの意思疎通はライフラインにより可能となる。
突然アラームが鳴った。
ダニーは慌てて、モニターをチェックする。200メートルほど離れた場所に立ったK384の足下が崩れ、8mほど落下していた。
バイタルは正常で、ソナーに映る人型の影が動いているのを確認し、ダニーはホッとした。ライフラインを掴んで、足のつく場所まで降りているのが分かる。緊急事態を想定した幾多の訓練がその身を助けた。
K384は落ちた場所からさらに奥へと進み始めた。
今まで調べてきた地域から更に範囲を広げ、2人はシャトルを利用し、調査地区外へ初めて来た。シャトルが着地している場所は何度もソナーで調べ安全を確認した場所だ。
自分たちの星であるKPnsがグレーの大気を纏って地平線に浮かんでいる。ダニーはそれを目を細めて眺めた。
彼女の意識が届く。
——生命体の痕跡がある!この奥にもっと広がっている!気体も存在する!
しかし、ダニーは何か嫌な感じがして、戻るようにと意識を飛ばしたが、聞こえないかのようにどんどん奥に進んで行く。
——壁画がある!なんて素晴らしいの!?
K384からの意識と被ってアラームが鳴り始めた。シャトルが傾いた。ダニーはシャトルの真下を調べる。砂の下の岩盤が崩れ空洞ができ始めている。
——戻れ。ラインを伝って早く上がれ。
——もう少し調べたい。
——だめだ。危ない。すぐ離陸する!早く戻れ!
——分かった。こんな貴重な遺跡があるんだもの。また、絶対来る!
ラインを掴んだK384の足下の砂がザラザラと崩れ、なかなか登れない。船外服に着替えてラインを巻き取る準備を始めたダニーの目の片隅に映ったのは、採取を終えた無人探査機だった。慌てて停止させたが、既に探査機は広がって行く砂の開口部に捉えられ、彼女から少し離れた所に落下した。
——K384!大丈夫か!?
——ラインが探査機に挟まって戻れない。
——待って。こっちから巻き取ってみる。
無人探査機のせいでラインが動かないばかりか、シャトルがますます傾く。
——K384そこに居て。助けに行く。
——来ないで。シャトルを飛び上がらせないと。沈めば帰れなくなる。
K384が外に出ようとしたダニーを止める。傾きがこれより進むとシャトルは離陸できなくなる。シャトル側と彼女側の両方からラインを切り離すしかない。
——私が飛び上がるから、ハッチ開けていて。
——よし、切り離そう。10秒後だ。
K384はブーツの重力装置をタッチした。砂の穴は広がっている。穴の開口部まで走り、地面を蹴ればハッチまで飛び上がれる。だが、ラインを切り離した瞬間から二人の意識は繋がらなくなる。
ダニーはシャトルの浮力により、ラインが動くのではないかと、ギリギリまで試みたが、無駄に終わった。
ダニーが地鳴りを感じ視線を上げると、広がる穴の向こうの砂の地表が膨れ上がっていた。
——?何だ?…まずい!爆発だ!!早く来い!切り放す!
——T160(ティーゼロ)……
——切り離せ!!
——右手が………飛んでっちゃった
——K384!身体を切り離せ!
——あなたが愛してくれたこの身体を愛してるの…捨てられない。待っていて。この身体と、あなたの元に戻る。
——何を言ってる?早く、身体とMINDを切り離せば間に合う!ここに来い!
せめて、MIND が残れば、再生の可能性はある。
——T…
次の瞬間、ダニーは噴出した爆風によってハッチの奥の壁に叩きつけられた。
上空に漂うシャトル。開けていたハッチ内も火災がおこったが、自動消火され、ダニーは生きていた。泡だらけの船外服のまま、よろよろ立ち上がり船内に戻る。
——地下の僅かな気体が僅かな重力によって閉じ込められていたんだ。それに何らかの火が引火した?探査機の火花?俺はK384を見殺しにした……
モニターを見るが何も写っていない。砂の地表はまるで何事もなかったようだ。
巻き戻してみる。
砂の穴に伸びたラインが蒸発する。一瞬の爆風で何も見えなくなる。モニターのバイタルが消え、ソナーの人型も、霧のように画面から消えた。喉の奥が張り付き声も出せなかった。もう一度巻き戻して、消えていく人型に震える焦げた手袋でそっと触れた。
ダニーの意識がまた遠のく。
宇宙空間を漂っていたシャトルを救ったのは、同じ宇宙省の船だった。直ちに、ダニーは回収され、身体の治療を受けた。宇宙省がその後、何度も現場近くを調査したが、K384の身体もMINDも見つけることは出来なかった。
◇
ルカ「本当に仲の良い恋人同士だった。ダニーが悔やんでも悔やみ切れないことも分かってる。でも、記憶をリセットしたじゃないか。K384はK384だ。リオはリオだ。この星には相馬さんもニコもいる。それにお前がそばに居るんだ」
ダニ「こんなことの為に、TRANSを許したんじゃないんだ。なぜここに来ること、許しちゃったんだろう。俺は直ぐにKPnsへ戻って、KP3へ行きたいんだ。青森からでもいい。ジェフからTopへ連絡してもらう!」
ダニーはオフィスのPCから相馬の家へ繋がる特殊なシステムを開こうとするが、シークレットルームからの操作が必要だった。そこへ向かうため駆け出したダニーをルカが羽交い締めにして取り押さえる。
ルカ「ダニー!ダニー!冷静になれ。落ち着くんだ!どんなにリオが大切か分かる。俺は分かる。でもお前も大切だ。ジェフも大変な時なんだ。この6人で、いや、相馬さんや奥さんや夏美も含めて、乗り越えよう。お願いだ、冷静になってくれ。頼むよ」
両手で顔を覆い、膝から崩れ落ち床に突っ伏したダニーの背中を、跪いたルカがさする。
ルカ「ダニー、リオにはニコから伝えてもらうよ」
フラフラと立ち上がったダニーは支えるルカの手を振り解き、俯きながら自室に戻っていった。
2023年あけまして。お久しぶりです。ごめんなさい。あ、自己満SFだから謝らなくていいか。いやダニーごめんなさいの回でした。ごめんなさい。
今年も勢いに加速がついていますね。いや追いつけないって!大変。うれしい悲鳴よ。凄いね。頑張って、ついていくぞ。
おひげさんの写真。「こんなに大人になっちゃって」ってうれしい反面、切ないのよ。だって、これから大人の期間はもっともーっと長いからね。そんな早く大人にならないで良いのよ?
宮城ライブありがとう。歌声、パフォーマンス堪能して、泣いて、笑って、ずんだシェイクアイス飲みながら?食べながら?帰りました。ドームおめでとう。こちらも行けそうです。双眼鏡、必須?かな??
今年も、休むときはしっかり休んで、怪我なく、病気せず、健やかな、素敵な推しでいてくだされ。
RESOLUTION Ⅲ 〜2021.2.25
腰に両手を当て一息ついているリオにニコが「休み過ぎ」とこぼす。
リオ「言いたいことあるなら言ってよ」
と口をとがらせる。
ニコ「雪を寄せてと言ってる」
リオ「違うよね。早くしないといけないことでしょ?」
ニコ「分かっちゃうか」
リオ「気が急いている感じがね。ずっとする」
その晩、相馬の家の暖炉前でニコはリオにK384(ケーフォー)の亡くなる直前の記憶のインプットの必要性を伝えた。
ニコ「K384の情報を聞き出した後は、重い感情が残るかもしれない。アウトプットしてもすぐに記憶は消えない。苦しくても時を味方にして忘れていくしかないんだ」
リオ「分かった」
いつも妖しく揺れ動く潤んだ瞳も、ニコの口元をじっと見つめ、一言一句、聞き逃すまいと微動だしなかった。リオの覚悟がニコにとっては辛かった。リオはノアと同じまだ幼年だからだ。
ニコ「ダニーが質問するけど、リモートにした方がいい?」
リオ「いや、直接でいいよ。ねえニコ、謝らないで。色々抱えてるの分かってるよ」
口にしなくても、ニコの意識をリオが拾ってしまう。
リオ「僕がここに来れたのは、この為なんだね。もう、どんなことも驚かないよ」
ニコ「……苦しくなったらすぐ、教えて。僕と相馬さんで助けるから」
リオ「うん」
ひとりになったニコは燃える薪を見つめる。
──寿命を延ばしに延ばし事切れたあとは、同じ遺伝子を持つ《gemini(クローン)》が自分の意志とスペックを引き継ぐ。だから死を怖いとも思わなかった。だけど、この星において相馬さんが診る穏やかな老人達の一度きりの生き方は、より人の尊厳性があると思う。いや、そもそも過程のひとつでしかない自分達には尊厳なんてないのかもしれない。
将来を期待されているノアのような《original》は、寿命が短い。自分たちの星に《original》を増やすことが自分の任務だ。《original》が増えればいずれ星を動かしているスペックや記憶のインプットは無用となる。でもそう簡単に《original》の寿命は伸びない。外部からの侵入を即座に防ぐ遺伝子があるからだ。自然妊娠をする前にまず精子が攻撃され、次に胎児を母親の遺伝子が淘汰する。《original》を産みたい女性は多くいるが、ノアの親のように不受精治療を何年も前から始めないと、子供の成長を見ることができない。せっかく、ここまで大きくなったノアがGalaxy body clockを持っているのは、偶然なのか?ノアを失ったら両親はどんなに嘆くだろう。
ずっと、地球の様な生命みなぎる星にしたいと、研究者は長年も研究に携わって、やっと屋外に防護マスクをつけずに出られる様になったが、そこに造りものはあっても人間以外の生物は存在しない。自分達は何物からの脅威もなく暮らしている。偶然が作り出した地球は、時の流れに順応するように独自の進化を遂げ、勝ち残ったものだけが生きている。大きな生物からバクテリア、ウィルスなどの微小な生物を知れば知るほど、自分の星の脅威になりうる危険を孕んでいて、相馬さんは絶望感に苛まれた。
相馬さんを救ったのはこの地球の家族だ。相馬さんはこのままこの地球に殘り、これ以上寿命を伸ばすこともせず、家族と年齢を重ねていくつもりだと言った。
僕はただ相馬さんを探して、一緒に生命溢れる地球のような星にする為だけにここに来た。でも違った。自分達6人が、相馬さんも巻き込んで、星の危機を救うノアを送り出す役目に選ばれていた。
ニコは天井を見上げる。
──Topはノアを救うことなんか考えていなかった。じゃあ何で今、6人がここにいるんだ?僕達は何に動かされているんだ?僕はどう行動すればいい?
ジェフとニコが先に青森の相馬の家から戻る。リオにK384 の亡くなる直前までの記憶をインプットする為だ。
シークレットルームでMUGENから繋がるTopのコアにアクセスした。K384のデータはすんなりと手に入った。ジェフはTopに現状を伝え、KPnsを救う為に自分たちをTRANSさせた事を認めさせ、代わりに、あらゆるデーターの開示の許可を得ていた。
相馬とリオが二日後にビルに到着した。ダニーに会うことはなかった。
翌日、相馬とニコがリオの部屋に持ち込んだデータ機器とmedical examinationを接続しスタンバイした。相馬の指示に従いベットにリオが横になり目を閉じると、自然とリオのFILMが発生する。時を刻むような音だけが設置機器からカチカチと響く。
1時間ほどでリオは深いノンレム睡眠に入った。ニコに呼ばれたダニーが部屋に入る。
ベットに横になるリオを見下ろし、愛おしそうにゆっくり頭を撫でたダニーが、一つ息を吐いてベット脇に置いた椅子に腰をかける。
リオの枕元に座る相馬がFILMを発生させリオを包む。そしてニコがmedical examinationに接続した機器のスイッチを押す。インプットの時間は短かった。
リオの呼吸が徐々に浅くなり、レム睡眠状態に戻ったのを確認し、相馬がニコに合図を出す。
ニコ「リオ?リオ、いい?」
リオ「いいよ」
目を閉じたままリオが答える。
ニコ「まだ、リオは眠りの世界にいるよ。でもK384の記憶がインプットされた。順番に見ていくんだ。決して、リオの記憶では無いのだと、認識して。俯瞰で捉えて。これからダニーが質問するよ」
リオ「ダニーいるの?久しぶり。大丈夫だよ」
ダニ「リオ、頼むね」
リオ「うん」
ダニーがリオの中のK384の記憶について質問する。
ダニ「リオ、分かるか?K384は今どこだ?目に映ったものを、教えて話してくれ」
リオ「砂の上は歩きずらい。砂が地下に吸い込まれてる。ああ、落っこちた。大丈夫。上手にライフラインに掴まって降りてる。流れ込んだ砂でダメージは無いよ。周りは岩だけど、削られたあとだね。そして、右手奥に空洞がある.....わぁ、すっごい!楽しい!色彩が、こんなに!8000年以上前でしょ?ずっと奥まで。KP3の生物が壁画にある!なんか節足動物みたい!こんな身体のまま文明が進化してたんだ」
感動で声がうわずる。
リオ「ダニーが戻れって言ってるよ。まだだよ。進むよ」
ダニーの顔が険しくなる。
ニコ「名前を言ってみて」
リオ「リオだよ。大丈夫。まだだよ。もう少し。その先でしょ?あの星群が描かれているのは」
皆に、緊張が走る。
ダニ「リオ、無理するな」
リオ「わぁ、凄いよ。星の色がみんな違って綺麗だ。大丈夫、記憶するよ。これは僕の記憶として」
ダニ「彗星の軌道も描かれている?」
リオ「見た。寸分違わなく、再現できるよ」
K384が爆発に巻き込まれる前に終わらせなければならない。
ニコ「じゃあ、リオ、もういい。戻ろう。いいか、僕の声と同時に…」
不意に、リオの白く細いしなやかな指が宙を彷徨う。
ニコ「リオ!?」
リオ「T160(ティーゼロ)。ねえ。会いたかった……」
思わず、ダニーが駆け寄ろうとするが、ニコがダニーを制し、リオの手を取る。
ニコ「リオ、捕われるな。自覚するんだ!」
相馬「一種の幻影に迷ったんだ。ニコ、冷静に」
リオ「あなたの元へ。絶対、戻る。待ってて、今行く。T160だって私、あなたの……』
ニコ「いや、お前はリオだ。K384の全てはこの世界にはないんだよ」
言い聞かせるように、冷静にニコが語る。
リオ「......」
リオが苦しそうな表情をした後、いきなり上半身を起こし、「うわあああ」と叫び声を上げ、胸を掻きむしり、過呼吸を起こす。
ニコ「間に合わなかった。爆発を見たんだ」
呼吸を整えようと相馬がベットに腰かけ、リオの背中と肩を押える。相馬のFILMの粒子がリオに流れる。だんだん呼吸が落ち着いたリオが目にしたのは、ニコの肩に顔を埋め号泣するダニーだった。リオは自分の右手を見て、そっとお腹に手をやる。
───赤ちゃんがいたんだ。
ニコがダニーの肩を担ぎ部屋を出て行った。
リオはベットの上でそのまま、頭に焼き付けた映像を、準備されていたタブレットの星座と見比べ、修正していく。
リオ「やっぱり、8000年前から星は同じだけど、消えたり、生まれたりしてる星があって……」ほろほろとFILMの中に涙がこぼれ輝き消える。
相馬「もう少し、頑張ろう。すぐ、アウトプットするからね。その後は何も考えず眠るといい」
リオ「う……ん。もっと辛いのは、ダニーだね」
相馬「大丈夫。彼は大人だから。ほら、鼻水」と、ティッシュを渡す。
リオ「grandpaみたい」
相馬「いや、パパにしてくれ」
リオ「うふふふ。ニコがdaddyだもん」
鼻を赤くしたリオが笑う。
相馬「ダニーは?」
リオ「大事な人だよ」と目を伏せる。
相馬「そうだね」
晴海とともに育てたの夏海の成長が、相馬の心に生きる希望と喜びを与えた。同じ星から来た、この若い命もとても愛おしく思う。苦しい経験はもちろんさせたくないが、なにかのシナリオを忠実に再現させられているようでならない。
リオは自分のFILMの中で漂い、眠り続けた。憔悴していたダニーはジェフが無理やり食事をさせて支えた。リオが目が覚めたと聞き、やっとダニーは安堵し、シークレットルームにこもり、ルカ以外とは殆ど顔を合わせず、データを解析している。
夏海は「青森より都会の冬の風が絶対冷たい」と、膝下まですっぽり隠れるグリーンの厚手のキルティングコートを着て、暖色の混ざり合う毛糸のマフラーをぐるぐるに巻いている。足元は内ボアのハイトップの黒いスノーブーツ。足先しか見えずダルマのようだ。
リオはオフホワイトのショート丈のダウンコートの前を開け、アイボリーのインナーにペールブルーのハイウエストのワイドパンツを合わせた。ブラウンの革パンプスのヒールは低めだ。2人とも先程行ったショップで買った色違いのバレッタで、髪を後にまとめている。
夏海「リオ、寒くない?」
リオ「大丈夫。やっぱり雪が積もってるほうが暖かい感じはするよね」
セレクトショップやカフェの多いこの場所は日暮れとともにイルミネーションに溢れ活気がある。コロナ禍の過ごし方に慣れてきた人々が集っている。二人はショップを覗きながら歩いている。
夏海「久しぶりでしょう?外」
リオ「なかなか退屈してた」
夏海「解放おめでとう」
リオ「クリスマスもお正月もFILMの中だよ?」
夏海「それは、誘い甲斐があったわ」
リオ「そうだよ。ありがと」
振り返り夏海を見つめるリオの瞳と金髪のおくれ毛にショーウィンドウの明かりが灯り思わず見とれる。
───とても美しい。思いがけず被った辛苦をまだ若いリオは、受け止め切れるんだろうか?
ふと心に浮かぶが取り消そうとしても、リオには気付かれてしまう。
リオ「僕さ、決めたんだ。相馬さんから聞いたでしょ」
夏海「聞いた」
リオ「びっくりした?」
夏海「うん。でもちょっと寂しいかな」
リオ「大丈夫。僕が男になっても、夏海ちゃんは友達だし、綺麗なものや、美味しいものは共有したいと思ってるよ」
夏海「ありがとう。そうね一緒に楽しもう」
精一杯の笑顔を向ける
リオ「これからも、よろしくね」
美しく微笑むリオに、夏海の涙が溢れ出そうになる。
リオ「夏海ちゃん、大丈夫。僕、分かったんだ。あんな身体になってもダニーの元に戻ろうとしてた。僕はK384のように出来ないよ。ダニーのショックは大きい。女の僕が傍にいたら、思い出してずっと苦しむと思うんだ。男になって仲間になるんだよ。ダニーを支えるんだ。だから泣かなくていいよ。仲間になることが嬉しいんだ」
夏海「そうなんだね。ごめん」
FILMも収まらず、部屋から出られないリオは「買い物に行きたいんだけど!」「ゲームしたいんだけど!」「世界で一番美味しいトマト食べたい!」と我儘言い放題だった。リオの傍に常に居たノアが健気に買い出しをしたり、ゲームに付き合ったりしていたが、度が過ぎると、遂にノアが怒り出し、ふたりで子供のように喧嘩を始めた。
リオが思い出してふふッと笑う。
夏海「?」
リオ「ノアがさ、怒るんだよ。でもね、喧嘩した後って、落ち着くの。面白いでしょ?なんでだろ。まだノアが怒ってるから、何か買っていくよ。ずっと寝てた僕を、起こしてくれたのは、ノアなんだよ。声がしたの。『寝すぎだよ、コノヤロ!起きろよ』って」
夏海「リオを起こして、ストレスを発散させたんだね。ノアは」
リオ「そうなの。ふたりでいるとみんなに兄弟みたいって言われる」
夏海「みんな兄弟みたいよ」
リオ「でもさ、この星で考えたら、僕とノア以外は膨大な年寄りだよ!」
夏海「ふぅはははっ!膨大な年寄り!確かに!」
リオ「膨大な年寄り達はね、もう、研究熱心すぎて面白みがないの。華やかさがないの。だからノアと盛り上げてるんだ。あ、たまにジェフも来てふざけるけど、ジェフも忙しい時があるし、僕とノアは何もできないから」
夏海「そんなことない。あなたたちは、自分の星だけでなく....」
リオが夏海の言いたい事を理解し、遮る。
リオ「夏海ちゃん!ほら、あそこのカフェ素敵だよ。行ってみようよ。あったかいの飲もうよ」
とまた泣き出しそうな夏海の手を取って走った。
リオが性別形成の為に相馬の施術を受けた直後は体の不調を訴えていたが、回復までには時間はかからなかった。
金髪を短くしたリオがガキ大将のようにノアの真似をして、窓際の事務机にふたりで腰かけ、外を眺めながら足をブランブランさせている。
ノア「ねぇ〜、リオ。何か、変わった?」
ほかの4人は気を遣い、口にしないようにしていてもノアはズケズケと言い放ち、皆がギョッとする。
リオ「ん、なんかね、生えてきた」
ノア「マジ?見せて」
リオ「後でお風呂一緒に入ろう。その時ね!」
ノア「うっわ、やったぁ~」
ニコ「リオとノア、行儀悪い!机に座らないの!」
と会話に呆れながらもニコがたしなめる。
ノア「はいはい」
ニコ「『はい』は、一回!」
「は〜い」と机から降りたふたりは、キッチンへ向かい冷蔵庫を開けて、今度は食べ物を探している。
ニコ「まったく」
ジェ「AHAHAHAHA。育ちかざり」
ルカ「育ち、ざ、か、り」
ジェ「間違てないよ」
ダニ「間違えてたよ」
ジェ「ダニーほんと~?AHAHAHA!」
ルカ「じゃあ、リオがちゃんと生えたら、スーパー銭湯にでも行こう。6人で一緒に入れる記念日だ」
ニコ「僕はいい」
ルカ「協調性の無いやつだな。晴海さんから送られてきた、ホクホクのコロッケあるんだけど。あげない」
ニコ「じゃあ行く」
ルカ「それでよろしい」
ジェ「AHAHAHAHA!楽しみ。何着ていこう!」
ルカ「おしゃれしなくていいよ。ただの銭湯だし、近いところだし」
ジェ「え~~?みんなで出かけるの無かた!おしゃれしたい!それで、スーパーセントて何?」
ダニーが吹き出た。つられてみんなが笑いあった。ダニーに少しずつ元気が戻って、みんなが嬉しかった。
桜の蕾が膨らみ始めている。
う〜わ、年末です。ストーブライダーに心酔して、1年経ってた。まずいぞ。これはまずい。はい。こっちに戻ります。
まあ、とんでも無く、陳腐な物語なんだけど。語彙力ないし(涙)でも、愛着出ちゃったよね。
やりたいこと少しずつできてる。
せっかくだから、一話ずつ読めるように整理もしたい。ほぼ自分だけしか読んでない(笑)
さて、またも大変な年でしたね。きっと、話し合って話し合って、結論が出ないまま辛い日々を過ごしたこともあったと思います。
それでもいつも私たちに笑顔をありがとう。
周りには守ってくれる人たちがいますか?甘やかさず、キツイことを勇気を持って話してくれる人がいますか?そんな人たちで、武装してください。あなたたちは、もう、立ち塞がる相手の、横っ面を引っ叩ける程の力があります。武器を大事に、育んでください。
NEWアルバム、ドームツアーおめでとうございます。楽しみです。
LOST I 2021.7.15〜
新型コロナウイルスの株が変異し、威力を誇示している。ワクチンの接種も始まった。ルカが株の変異と感染力の増強は弱毒化のカモフラージュだと言ったが、高齢者や基礎疾患のある人には変わらず重症化のリスクが高い。この状態は何年も続くらしい。外出時のマスクは必須だが、供給も安定し、この混沌とした世の中でもファッション化しカラフルに顔の一部を飾る。
オリンピックに感化され、ぺいさんから教えて貰ったトレーニングジムに行くだけでは飽き足らず、Tシャツに短パン、運動靴というやる気満タンのジェフがオフィスの隅にランニングマシーンを置いた。
リオ「この高さで、外を見ながら運動するの良いねえ」
と言ってマシンの上をのしのし歩く。
ジェ「リオ、それ走るのよ」
リオ「走るのめんどい」
ジェ「じゃ、ボク走る」
とリオの脇に手を入れ軽々と持ち上げて、マシンから、トンと床に置いた。ジムに行き始めて力持ちになったようだ。
マシンの上で楽しそうにAHAHAHAHAと笑いながら走っている。
ノア「ジェフ、オレも走るぅ」
リオ「ノアは、走んなくていいよ」
ノア「え〜?やりたいよ!」
とほっぺを膨らませる。
日焼けをして、カッチリした体型のノアだが、特に運動をしている様子はない。でも、自分の好きな物を見つけると真っ先に全速力で走って行く。それで十分な運動になっていると皆が思っている。
ニコはキッチンで3人を眺めながらボトルの水を飲んでいる。ノアがジェフをマシンから引きずり下ろそうと頑張るが、走るジェフには影響ないようで黙々と走っている。そんな様子に、口に含んだ水を吹き出しそうになる。
ニコ「ノア、順番に!ジェフ、最強だね」
ジェ「こっちの星で運動やてない。弱いとダメだから」
ニコ「無理しなくていいよ」
ジェ「ボク、みんなを守る」
拉致された日の苦い思いやTopに対する反骨精神もあるのだろうとニコが思う。
汗を流し肩で息をしながら、ジェフがマシンからやっと降りる。すかさずノアがマシンに上がり、全速力で走り出す。
リオ「凄っ」
ジェ「リオはチカラが弱い。筋肉つけなさい」
リオ「分かった」
マシンの上を走るノアの背中にリオが飛びつくが、背中に乗せたまま、スピードも落ちることなくノアが突っ走る。
ニコ「怪我しないでね~」
とおかしくて変な声になる。
ジェ「そだ、ニコもジム行こよ。ニコ、みんなでセントー行った時、saunas好きと言った」
ニコ「サウナ?」
ジェ「そそ、それ、ジムにあるよ」
ニコ「相馬さんもこっちに来てるし、行ってみようかな」
ジェ「行こ行こ」
リオ・ノア「オレたちも行く〜」
ニコ「うるさくしないなら、いいよ」
リオ・ノア「やった〜」
と顔を見合わせハイタッチをする。
Galaxy Body Clockを持つノアがひとりで出かける事はない。ビル以外では誰かが必ずノアの側にいる。鬱陶しいとも思わず、ノアも自然体で日々を過ごしている。
もし、ノアが未来へ行ってしまった場合のシュミレーションはほぼ出来上がってきている。と言っても、不測の事態も有り得る。昨日から相馬が青森から来ていて、このビルに寝泊まりしながら仕事に出掛けている。10日間ほど相馬がいる事で、6人の安心感は格段にあがる。
トレーニングジムで皆が軽く汗を流した後、お目当てのサウナに入ったが、「ムリ!ムリ!ムリぃ〜」とピンクに茹で上がって一番最初にサウナのドアからリオが飛び出す。水風呂につま先をそろそろと入れたが、また、「ムリ!ムリ!ムリぃ〜」とシャワーに向かう。ややぬるめのシャワーで整っている。
しばらく頑張っていたノアも汗だらけで飛び出し、桶で水をかけた後、水風呂にザブンと入る。お尻をぷかんと浮かせ、潜って遊んでいる。
ニコとジェフは我慢くらべの末、ほぼ同時に立ち上がったが、先に出たのはジェフだ。
ジェ「あぁ、ニコに負けちゃった。AHAHAHAHA!」
ニコ「よっしゃ、勝った!」
二人が水を浴びる。
窓際の長椅子に並んで腰掛け、外の明かるさが入る曇りガラスで囲まれた部屋の中の小さな花壇を眺める。
リオ「僕だちの星にもいつかこんな花が咲くの?」
ニコ「僕たちの星だって進化するよ。人工的に手を加えなければならないけれど」
ノア「オレたちが、進化を後押ししてるんだよね?」
ニコ「そんな職業だからね」
更衣室に戻る途中、前方からやって来た男が、端へ寄りニコたちを通してくれた。
ニコ「すみません」
その声に男が反応し、ニコの前に周り、顔を覗き込む。
男「あの、もしかして、あの、私を覚えてませんか?」
と聞く。
背はニコたちと同じくらいで、ジムのロゴが入ったポロシャツと同色の紺の短パンを着た身体は鍛えられた筋肉がついて、肌も褐色に焼けていた。黒髪がやや被さる目は、ニコを見つめ、涙も浮かんでいる。
身体は逞しくなり、あの毛布に包まっていた男の面影はないが、施術した患者を忘れる事はない。しかし、ニコは「知らない」と答えた。
男「その声!忘れてません。命を助けて貰ったものです」
ニコ「さぁ、なんのことだか」
男「絶対、間違えません」
ニコ「間違えてますよ」
男「では、聞き流してくれていいです。でも言わせてください。命を助けて頂いて、本当にありがとうございます。あのまま死ぬのだと思ってました。そこに、あなたが来て治してくれて。ちゃんと生きようと思いました。今、嬉しくて仕方ないです。本当にありがとうございます」
と深々と頭を下げる。
ノア「オレもそばにいたんたよ。助かってよかったね」
ニコ「ノア!」
ジェフ、リオは少し離れたところで3人を見ている。
ノア「でも、この人ぉ、特殊な気功術だから、ほかの人に話さないでね。話すとね、まずいんだよ。有名になって、忙しくなってこんな休みが取れなくなっちゃうから」
男「そうですよね。入院先でも、何を言っても信じて貰えなくて、その後、誰にも話してないです」
ノア「よしよし、いい子ですね。じゃあ、お友達になりましょ。ね!」
ニコ「ノア!」
───なんかあった時、相手を知っていれば安心できるよ。
ノアの意識が3人に伝わる。
男「いいんですか?うれしいです!」
ノア「やったぁ!友達増えた!」
ノアとその男は連絡先を交換した。
行方不明のアキちゃんが懸命に助けた男に皆の興味はあった。しかし、不信感は拭えない。オフィスに戻るとニコとジェフはノアが交換した連絡先から男を調べた。リオとノアもPCを覗いている。
静岡のお茶農家の次男というのは本当だった。佐伯大光という名前だ。大学デビュー後、夜のアルバイトをきっかけに、調子に乗ってどんどん悪い連中と繋がり始め、半グレ集団に取り込まれてしまった。
新型コロナウィルスの為入院したが、退院してからは実家で少し療養していた。最近になって、都内の大学へ復学している。情報学部のシステム・メディア情報学など学んでいる。高梨はその知識を必要としたのかもしれない。しかし、今はあのスポーツジムの雑用をしているらしい。
ノアがアキちゃんのことを聞いていたが、やはり知らないと答えていた。確かにアキちゃんは皆が認識していたが、調べるとアパートの本当の住人は夏休みで留守にしていた全くの別人だった。
リオ「彼から、ほかの人間の意識を感じた。誰かに守られている感じ。アキちゃんはそれとも違っていて僕には初めての透明な感覚だった。この星の人間特有のドロドロした感情なんて全然なくて、必死さというか。彼を失いたくないってそんなのが分かったんだ」
ニコ「複数の意識を感じたの?」
ノア「アキちゃんと?親なのかな?おばあちゃんとか?この星はoriginalしかいないもんね」
ジェ「アキちゃんは人でなかた?」
リオ「う〜ん。よく分かんない」
ノア「そういうこともある思うよ。人より人以外の生き物や植物のほうが多いじゃない。彼らは純粋だから、気持ちがとても優しいんだ。この星ってそんな生き物にも守られてると思うんだよね」
リオ「そうなのかもね」
ニコ「今はその佐伯って子?自分を大事にしているみたいでよかったけど、ノア、油断はしないでね」
ノア「ひとりで会うことないし、大丈夫だよ」
そう言っていたノアが、4日後、ビルから姿を消した。
はい。ごめんなさい。ノアを行方不明にして、年を越します。
今年もたくさんたくさん、💎さんありがとうございます。
私も頑張れたよ!
明日の12/31は日帰りで横浜行きます。
YouTubeと横浜Walker参考にするね。
横浜中華街に行ったことが無い子がおるので。
さて、来年はどんな年になるのか。
私も趣味を仕事にできればいいな。
いえいえ小説は断然無理と
分かっておりマッスル。
別の趣味の方で
皆さん良いお年をお迎え下さい。
健やかで素敵な2024年になりますように!
2023.12.30
LOST II 2021.7.19〜
朝食前には必ずオフィスのソファーでゴロゴロしているノアの姿が見えない。
ニコが気付き、ジョギングから戻ったルカに尋ねたが、見かけていないという。寝ぼけ声で携帯に出たリオも、慌てて飛び起き、ダニーもジェフも相馬もオフィスに駆けつける。
携帯は部屋に置きっぱなしで、ひとりで出かけることの無いノアは小銭くらいしか所持してないはずだ。
ルカ「リオ、ノアの意識は感じる?」
リオ「感じるけど、いろんなとこから感じるんだ。このビルにはいないのに。ノアが何人もいるみたいに」
ダニ「MIND離れてないですよね」
相馬「それはない。その時はとてつもないエネルギーが動く。大丈夫だ。変動はない」
相馬とルカが開発したオシロスコープに動きはなかった。エネルギーが動いて造られる、電波、音波などあらゆる波形を感知しアナライザにより即座に解析され判別がつく。しかし、ノアが持つGalaxy Body Clockの謎は解明された訳ではない。ひとりの時に何かあったらと不安が皆を襲う。
リオ「昨日の夜、ノアが屋上に登ってる。すごく悲しい意識が残ってる。悲しいって、なんで?」
ジェ「ルカ、来て!調べる」
リオの言葉に、ジェフが突然シークレットルームへ走る。ルカも続く。
ルカ「何か、思い当たるのか?」
ジェ「当たるのダメなの。ダメなんだけど……」
素早くルカがルームの扉を開け、即座にコンピュータを起動する。
ジェフがMUGENからTopのコアに入る。ルカが補佐をする。ジェフが長いパスワードを入力する。そして、オフィスに繋がるよう設定した。
昨晩、ノアが両親と交信した記録がある。600光年離れている自分たちの星KPnsとのやりとりは、光より早い粒子にしたレターを送っているが、Topとの連絡よりは精度が劣るため、ノアが受け取ったのは2ヶ月程前のレターだ。
ジェフがTopのコアからKPnsの住民台帳を素早く確認する。
ジェ「Oh……」
ルカ「どうした」
ジェ「当たちゃた。ノアの家に……子供いる」
映像には優しそうな両親が映る。言葉を発しない文化の為、意識が映像の隅で文字に変わる。元気か?こっちも変わりなく元気だよと、他愛もない日常を伝えている。終えようとした映像が一瞬消え、再開した時は父親だけだった。笑顔で手を振って終わっている。
消えた部分を復元した形跡がある。今のノアにとっては容易なことだ。映像にはトトっと走り込んできた子供が写っていた。それをノアの母親があわてて追いかけ腕に抱えて隣の部屋へ消えた。
ルカ「ええっ?ノアは、ひとりっ子でしょ?産まれたってこと?」
ジェ「gemini」
ルカ「gemini?え?って誰の?」
ジェ「……ノア」
ニコ「ノアの小さい頃と……そっくりだ」
オフィスでシークレットルームのモニタを見たニコが呆然とする。
ルカ「いやいや、geminiは本人が亡くなってから申請して許可されるはずだ」
ダニ「Requestは両親が?」
ジェ「分かんない」
リオ「ノアが二人いるってことなの?」
ルカ「まだ、幼いノアって言うか、新生M456ね。台帳の年齢と照らし合わせると、ノアが地球に来る前にRequestが受理されている」
ジェ「originalの子供亡くなたら、Centerでなくて、親育てることできる」
リオ「嘘でしょ?ノアが死んじゃうと思ってたの?geminiが来ることを条件に送り出したの?苦しんでお母さんが産むんだよね?そうやってノアが産まれたんだよね?それなのに?」
相馬「ノアを送り出した両親は、Galaxy Body Clock知っていたのか?」
ルカ「どこまで親が知っていたかはわからない。Topは今も絶対なんです。逆らえないんです。その代わりのgeminiだっだのかと。でも、Xdayがズレてノアは生きている。ふたりが存在する場合はどうなるんだろう」
ジェ「artificial selection...」
相馬「どちらかが?」
ジェ「...そぅ。Top決めてる。でもボク、頑張る!ノアはoriginal。帰って、おうちで幸せに暮らすのいい」
ダニ「ニコとジェフは本当に知らなかった?」
ニコ「あの両親にそんな素振りは微塵も感じなかった。こんなこと知ってたら、知ってたら!ここには来なかったよ!」
ダニ「ごめん。悪かった」
ジェ「ボクの記憶無い。知てるかもしれない」
ルカ「いいよ。今のジェフが分かることでいいから」
ジェ「ごめなさい」
ルカとジェフがオフィスに戻る。
ダニ「手分けして、探そう」
ニコ「みんながどこに居るか分かるように設定しよう。ルカはここで指示を出して。相馬さんもここで、ノアが戻った時のケアをお願いします」
相馬「分かった」
ニコ「ちゃんとお水を持って。暑さが厳しくなるから、無理すると危ないよ。ずっと会話できるようにイヤフォンして」
4人は携帯とイヤフォンを確認した。
ニコ「ジェフはこの近辺詳しいからペットショップや動物がたくさんいる所を探して」
ジェ「分かたよ」
最近は、動物たちも落ち着いたのか、ノアに迷惑をかけないようにしているが、少し離れたところで群れていることが多く目印にはなる。
ルカ「ダニーはリオが意識を追えるように車に乗せて移動した方がいいかもしれない」
ダニ「そうする」
ニコ「僕は少し離れたノアの好きな水族館や動物園に向かってみる」
相馬「みんな、気を付けて。ノアを連れて帰って来てくれ」
頷いて4人がオフィスを出る。
最初にリオが向かったのは屋上だった。ぐるりと周りを見渡し「ノア!ノア!!」と呼んでみる。せめて自分の声がノアに届かないかと叫んだが応答はなかった。
──昨日の夜、僕は何してた?ここに来てあげればよかった。帰ってこなかったらどうしよう!
──リオ、だいじょぶ、ボクたちFamily。だいじょぶよ!がんばてさがす!
走っているジェフの意識が届く。
ダニーとリオが乗った車が地下駐車場を出る。
ダニ「朝から、酷い暑さだ」
リオ「こんな暑くなるのに、ノア、馬鹿だ!」
ダニ「そんなことも考えられずに、飛び出したんだ。どの辺に向かう?まだ、ショップなんかは開いてないから、海に向かいながら、下道を走ろうか」
リオ「うん。お願い」
車を20分ほど走らせた。
近距離ならばノアと会話はできるが、今は意識を辿ることしかできない。リオはノアを感じるよう努力していた。Xdayに対処できるように、自分の感覚を研ぎ澄ます努力を惜しまなかった。
リオ「苦しいよね。産んでくれた親が自分じゃない自分と暮らしてるなんて、両親の話は僕たちの前でほとんどしなかったけど」
ダニ「geminiの俺たちに気を遣ってたんだ。ノアはまだ両親が恋しい年齢なのに」
車の窓を開けて外を必死に探す。
リオ「なんだろう、ノアの意識が散らばっていて。方向が定まらない」
ダニ「どういうこと?」
リオ「多分、多分そうだ!ノアの感情を生き物が共有してるんだ」
ダニ「じゃあ、あそこを飛んでいるハトとか?」
リオ「そうみたい。ノアの悲しみが深くて大きくて、生き物に影響してるんだ。あ、あのカラスも」
ダニ「そんなことある?」
リオ「だからここから遠くないところにノアはいると思う」
リオ「あっ」
Tシャツの袖で汗を拭っていたリオの身体が一瞬大きくガクンと揺れ、ダッシュボードに手をついた。シートベルトがキツく身体を抑える。
ダニ「どうした?」
リオ「ノアになんか、起きた」
リオの呼吸が荒くなる。
ダニ「何?」
リオ「…よく…わかんない」
ダニーが、車のハザードを点け路肩に止め、リオにミネラルウォーターを飲ませ落ち着くのを待つ。
ダニ「大丈夫か?」
リオ「ごめんね。僕は大丈夫。ノアが待ってる。遠くない」
ダニ「分かった。取り敢えず見つかりそうで良かった」
電車を使いながら、ノアのいそうなところを探していたニコから連絡が入る。
ニコ「聞いて。見つかったよ。今、佐伯君といる」
皆に会話が聞こえるように設定する。
ニコ「佐伯君、ありがとう」
佐伯『いえ、ノアが電話してって。怪我してて』
ニコ「怪我?酷いの?」
佐伯『いや、車に跳ねられてというか、跳ねられてないんですけど。ボンネットに飛び乗って』
ニコ「どういうこと?」
佐伯『本人は大丈夫とは言ってるんですけど』
その間にルカが佐伯の携帯の信号をキャッチし場所を確定し、皆の携帯とカーナビに転送する。
ルカ『ダニー、そこから10分はかからない。ニコも側にいるから、拾って向かって!』
ニコがダニーの車が通る車道まで走りながら、佐伯と話す。
佐伯『犬も怪我してて』
ニコ「犬?」
携帯の奥から、『ニコォ!ニコォ!』と叫んでいるノアの声がする
ニコ「ごめん、ノアと代わってくれる?」
ノア『ニコ?助けてこの仔。お願い。助けて。死んじゃうかもしんない』
ニコ「ノア、怪我してるんだろ?」
ノア『オレは大丈夫なんだよ』
ニコ「分かった。車で向かうから。もう少し待ってて」
視界の隅にダニーたちが乗る車を見つけ、手を挙げる。
コンビニの駐車場の隅にいるライトブルーのTシャツに紺の短パンのノアと長袖の薄いパープルのランニングウエア姿の佐伯を3人が見つけた。
ノアは汗もかいているが、肘と膝から血が出てる。ノアの掌には小さな黒っぽい物体がクタリと乗っている。
ニコ「ノア、痛いところは?」
ノア「ないよ!こいつさ、オレ見て道路に出てきたの!車に跳ね飛ばされたんだ」
リオ「それで、ノアが助けたの?」
ノア「拾ったら、すぐ車が来て間に合わなかったから、その車を飛び越えるつもりだったんだ。でも転んじゃって、潰さないようにしたんだけど、動かないんだ」
ダニ「相手の車は?」
佐伯「一瞬止まって、ノアが転がってるの見て、逃げました」
ダニ「逃げた?佐伯君はなんで一緒にいたの?」
佐伯「ノアは私の走るコースを知っていて、ここで待っていたようなんです」
ニコ「佐伯君、ありがとう。お礼は改めてするから。大丈夫そうだけど、知り合いの病院へノアと仔犬を連れて行くから、安心して」
佐伯「あ、はい。分かりました。お礼なんていいです。警察に連絡しますね」
ダニ「大丈夫だよ。こっちでやるから」
佐伯「ノア、じゃあ、またね」
と左手を振り、皆にもペコリと頭を下げて、駈けて行った。
ノアのFILMが自然に発生し始めた。
ダニ「ノア!早く車に!」
とドアを開ける。
リオ「ノア!結構、血が出てるよ!」
ノア「それより。この子」
ニコ「分かったから。ノアも犬も一緒に診るよ。早く乗って」
そういって車に詰め込むとすぐFILMを発生させてノアと仔犬を包み込んだ。
ニコ「この仔は後右脚が折れてる。大丈夫、重要な血管は損傷していない。他は止血して骨もくっつくようにした。10日程で治るよ。よしよし痛かったね。もう少し頑張って」
ノア「良かった」
と言ってフッと気を失う。
ニコ「ノア!」
リオ「どうしたの?」
ニコ「今、診てる。大丈夫。外傷は擦り傷だ。それはFILMが治す」
リオ「MIND離れてない?」
ニコ「ここにいるよ」
リオ「良かった。今、どうなってるの」
ニコ「脳震盪を起こしていたと思う。頭の中身も損傷はないよ。助けるって気力だけで今まで動いてたんだ。FILMが収まれば目が覚めると思う」
ニコがノアのシートをゆっくり倒す。
ダニ「人騒がせな!どうやって慰めようかって、すごく悩んだ」
リオ「僕も。でも、良かった。見つかって」
気を失っているノアに仔犬が前脚でにじり寄り、ノアの首元に安心したように挟まる。
ニコ「飼い犬かな?」
リオ「交番に電話しておく。迷子の動物には慣れてるし」
ニコ「頼むね」
リオ「この仔はさ、ノアに惹かれて轢かれたんだね。ん?日本語難しい」
ニコ「ノアに向かって来たって言ってたね」
ダニ「子供だから、危険だってこともわかんないんだよ。あ、この先にジェフがいるから、拾うよ」
ルカ『気を付けて帰ってきて』
ダニ「りょーかい」
リオ「またぎゅーぎゅーになるね。うふふふっ」
ニコ「そうね」
眠るノアと仔犬を見ながら、やっと皆が一息つく。
ビルに着く頃には、ノアも意識を取り戻して大事そうに仔犬を抱いていた。改めて、相馬にノアと仔犬を診てもらったが、見立てはニコと同じだった。
ノア「ねえ、お願い、ここで飼いたい」
ニコ「飼い主が見つかったら返さなきゃダメだ」
ノア「違うよ。カラスがトンビから奪ったって。どこから来たか分からないって。暴れたから、向かいの生垣に落としたんだ。そっからこっちきて。跳ねられたんだ。たがら飼い主なんて居ないよ!」
ニコ「誰から聞いたの?」
ノア「鳥たちだよ?」
ニコ「そんなはっきり分かるの?」
ノア「言葉じゃないよ。意識かな?」
リオ「ノア!人とも意識通じさせてよ!探したんだから!」
ノア「あぁ、ごめんなさぁい」
と泣きそうな顔になる。
リオ「もう!拾った仔犬はね、治療中って警察に伝えたから、飼い主見つかるまでしっかり面倒見てね!」
ノア「うん。みるみる!」
途端にいつもの屈託のない明るい笑顔になる。
ニコから一人で出かけるなと、キツくお灸を据えられても、ノアの口から家族の話は出てこなかった。それに対して皆も触れなかった。
ダニ「ボンネットにジャンプしたなんて、誰も見てなかったかな?」
ルカ「いや、もう、SNSに上がってたから、拡散もできないように今、全部消える様にしてる。あ、その前に見る?」
その言葉にみんながモニターを覗き込む。
仔犬が対向車側ではね飛ばされ、まるで水を吸った布切れの様にクルクルと宙に舞った。目の前の車道に落ちそうな瞬間に、ノアが走り寄り右腕を伸ばして拾ったが、後続車がすぐ迫っていたため、仔犬を掌で包み込んだまま、車をやり過ごそうと地面を蹴って飛び上がった。しかし、車がブレーキをかけたたためタイミングが狂い、ボンネットに落ちルーフに仰向けに倒れ、そのままバク転しながらアスファルトに落ちた。対向車のドライブレコーダーらしき映像だ。
リオ「う〜わ!」
相馬「おお〜。やっぱり、運動能力高いな」
ジェ「重量調整ブーツ履いてないよ?凄い!ノア」
ノア「着地失敗してカッコわる!」
ニコ「まともに轢かれたたら、大変だったよ」
ルカ「じゃあ、いい?消すよ」
ダニ「そうだな」
相馬「その方がいい。ボンネットと屋根が潰れた車には悪いが、轢き逃げの代償だ」
ルカはカタカタと20秒ほどPCに打ち込んだだけで「完了!」と言った。
まだ1ヶ月ほどの仔犬にノアが哺乳瓶でミルクをせっせと飲ませ、排泄の世話もし、つきっきりで親のように面倒を見ると1週間後には歩き回れるようになった。
やや涼しくなった屋上に向かったリオは、仔犬を抱いて四阿のベンチに腰かけるノアを見つける。
あの日、偶然を装って会った佐伯に、家族のことを聞いていたようだ。弟ができたと言ったノアに、年が離れた弟は可愛いと思うよと、そんな話をしたらしい。
リオ「寝てるの?」
ノアの横に座り、掌に収まっている仔犬を軽くつつく。仔犬はぐっすり眠っている。
ノア「オレにくっつくと、すぐ眠るんだ」
リオ「めちゃ可愛いね」
ノア「凄く。········ねえ、オレ、帰っていいのかな」
リオ「え?KPnsの家のこと?当たり前だよ」
ノア「もうひとり、オレがいるんだよ」
リオ「大丈夫だよ。何人いても子供は子供だよ!帰ったらパパもママも、とっても喜ぶよ」
ノア「そう······かな」
リオ「絶対、そうだよ!」
ノア「オレ、死んじゃうって思われてたんだよね」
リオ「いい?僕達が絶対そうさせない!パパとママはとっても辛かったと思う。星のためって言われたんだよ。ノアが生きてて本当はすごく嬉しいって思ってるよ」
風が髪の毛を弄び、悲しそうなノアの横顔を隠す。
ノア「本当は、何もかもから逃げ出そうと思ったんだ」
リオ「·········うん。苦しいよね」
ノア「でも、やっぱり、オレなんだ」
リオ「······」
ノア「……この仔犬が真っ直ぐオレに向かって来た時に、オレしかいないんだなって、思った」
リオ「そう······」
ノア「あー!もっと強くなりたい!心も身体も!」
リオ「ノアだけでなく、みんなそう思ってるよ。僕らもノアと一緒にもっともっと強くなるよ」
掌の仔犬が大きなあくびをした。
その可愛さについつい笑みがふたりにこぼれた。
犬は雌だった。結局、飼い主は見つからず、ノアは”ローズマリー”と名付け、ロジーと愛称で呼んだ。オフィスではソファーのあるローテーブルにPCを設置し、ロジーがいつもノアの膝に登れるようにした。
静かだと思うと、ソファーで眠るノアの小指に吸い付きながらロジーも眠っている。
ルカ「ちっちゃくて可愛いい」
ニコ「今はね」
ルカ「今は?」
ニコ「結構あの子、小さい割に脚先が大きいんだ」
ルカ「と、いうことは?」
ニコ「まあまあでかくなる」
ルカ「まじか」
程なく、元気な仔犬とノアが走り回り始めた。ジェフが取り寄せた樹木や草花の鉢がオフィスに林を作っている。おかげでオフィスは格好のかくれんぼの場になり、屋上はかけっこの場所となった。犬種はどうやら雑種。鼻先が長く鼻の色は黒。毛量が多く、茶褐色の背中に一本線が入ったようにグレーの部分があり、手脚と尻尾の先と喉からお腹が白い。ロジーの姿はコリーとコーギーを足して2で割ったようで、若干、手脚が短い。人に会うとパタパタと尻尾を振り、誰とでも満遍なく遊びたがり懐いたが、琥珀のような美しい瞳はいつもノアの存在を確認し、眠る場所はノアの側と決めているようだ。
オフィスを駆け回るノアとロジーを眺めながら呟く。
ジェ「あ〜あノアかリオ、もう1匹増えたよ!」
リオがジェフを睨んだが、ルカとニコが同時に「ホントだ~」と言い、ジェフの大きなAHAHAHAという笑い声にリオもつられて笑った。
もう1月が終わりますね。明けましておめでとうございますでした。
ドームツアーの参戦ならず!どっちにしろDVDは買うので、それ見てパーリーするわ。
アルバム、また極むずの歌い方の曲ばかりですね。凄い!素晴らしい!様々な場面でのプレイリストを想像しながら作ってます。
どうやら今年も、個人での活動が多そう。6人一緒の番組はきっと間も無く。
出演している番組、映画のどれも現場が優しい雰囲気ですね。それは皆さんの人柄と努力によると思います。素敵な作品を待っています。
身体に気をつけて、また1年頑張ろうね。
LOST Ⅲ 2022.3.23
ルカは桜の花弁が舞う公園を通りビルに戻っている。あのベンチは変わらずにそこにある。4年前の今日、ルカと夏海はここで出会った。ふたりで小さなケーキと麦茶で少しの時間ではあったがお祝いをした。
とてつもなく稀有な時間を今、この星で過ごしている。信頼できる仲間や相馬夫婦、夏海がいなかったら、多分ここに存在はしていないだろうと歩きながらルカは思う。
黒塗りの大きな車が途中から、ルカの歩みに合わせ横にピタリとついてきていることに気付いた。横道に入り、小路をいくつか曲がりながら抜け、車を巻いたと思ったが、その車は再び現れルカの前方を塞いだ。
後部の窓が下がり、中から声をかけてきた。
男「ルカくん、無視しないでくださいよ」
名前を呼ばれ、慌てる。
ルカ「な、なんですか?どなたですか?
高梨「……高梨ですよ。乗りませんか?」
ルカ「高梨?高梨って、ジェフを拉致したやつか?」
運転席と助手席から黒スーツ姿の男が降り、ルカの両脇につく。上背はルカより遥かに大きい。男たちは、スーツの下に、武器らしきものを隠している。さすがに拳銃では無いようだが、スタンガンや警棒の形状と似ている。いざとなったら、逃げることもできるが、この星の者でないことがバレてしまう可能性もある。
高梨「どうぞ」
ひとりの男がドアを開ける。内装は広く、シートの真ん中で光沢のあるグレージュのスーツを着た高梨が、足を組んでゆったりと座る。彼の前にも、向かい合わせにシートがある。
ルカは車に乗り高梨の前に座った。ジェフのことを思い返し、握った拳が震えてきた。
ルカ「なんのつもりだ」
高梨「君に会ってるじゃないか。覚えてないのか?」
ルカ「いいや、初対面だ」
高梨「会ったことがある君から、君に会うように言われている」
ルカ「どういうことですか?とても不愉快だ。訳の分からないことを」
高梨「私も訳が分からないよ。一度会っているはずなのに、知らんぷりだ」
ルカ「は?会ったことは無いし、あなたと話す事は無い。仲間を傷つけて。とても、許されない。これでも冷静を装っているんだ」
高梨「じゃあ、そのまま冷静でいてくれよ。争いは私は苦手だ。なぁ、会ったことがあるお前は、随分やつれてて、必死だったぜ」
ルカ「…………」
──さっきから何を言っているんだ?
高梨「私を、あの一軒家の詐欺集団のレベルだと思わないで欲しい」
ルカ「なんで、そんなことを思わなくちゃいけない?」
高梨はふーうと、しばらく天井を見上げた後、ルカに柔らかな視線を落として聞いた。
高梨「クリスマスに準備したゲームは楽しんだ?稀にあのビルのセキュリティがリセットされるよね。そこからサンタさんはお邪魔させてもらったよ」
ルカ「は?え?」
──思い当たる。そうだクリスマスの辺りだ。MUGENにちょっとしたバグが起こった。最初は小さなものだった。プログラミングを修正すると、別の箇所に発症した。それも治すと、別の箇所にまた出現する。しかも増殖し始めた。かなりの手の込んだものだった。いずれシステム自体に影響を及ぼすのではないか、そんな脅威も秘めていた。いたちごっこのように何度も修正をしてやっと根絶した際に、Congratulationの文字が現れた。潰した原語を繋げるとひとつのURLになった。過去にこんな高度なゲーム性のあるプログラミングを仕込んだ人間がいるのかもしれない。後々影響が出ないように削除はしたが、深追いはしなかったし、そんな暇もなかった。。
高梨「ジェフくんが来た場所は、取り敢えず金の欲しいやつが集まっていた所なんだ。あまりにも好き勝手やられて、プログラムもボロボロでね。ジェフくんに修理しててもらったんだけど、彼の能力にはびっくりしたよ。腕っぷしのいい仲間もいるようだ。興味が湧いたんだ。退屈していたからね。そして君たちを認識できた」
ルカ「ただのエンジニアだ」
高梨「いやいや、尋常な知識ではないよ。その中のひとりである君が会いに来てくれた時は震えたよ」
ルカ「だから俺は知らない」
高梨「覚えてないのか?ただ、もう君から報酬は貰っているんでね。流石に悪いからね」
ルカ「報酬?俺が?」
高梨「そう、儲からせてもらった。暫くは使えそうだ。ありがたいよ。思い出して私に会いたくなったら、連絡くれよ」
ルカ「お前の連絡先も知らない」
高梨「私もできたんだから、調べたら?」
ルカ「何を言って……」
高梨「大事なお客様がお帰りだ」
外にいた男がドアを開ける。
そのままルカは解放されたが、すぐビルに戻る気になれなかった。目に付いた広い前庭のあるビルのベンチに崩れるように腰掛けた。
──地球の人間であることは確かだったが、ジェフも言っていた通り、あの男の意識は読めない。俺に会ったって、どういうことだ?いや、それは嘘かもしれない。でも、俺の顔と名前を知っていた。最初からつけて来ていたなら、夏海の住まいも知られている。気をつけさせなければ。でも..........記憶喪失になったことなんてない。やつれていた?分からない。報酬?儲からせた?……情報か?情報を渡した──?
慌ててルカは立ち上がり、ビルに戻り、シークレットルームに真っ先に向かう。
ダニ「ルカ、どうした?」
ルカ「あ、いや、なんでもない」
ダニ「夏海ちゃんに会えた?」
ルカ「え?ああ、少しだけ」
ダニ「そう。良かった」
ルカ「ダニー、少し、席を外してくれないか」
ダニ「え?……どうした?」
ルカ「ちょっと、プライベートで調べたいことがあるんだ」
ダニ「俺がいるとダメなやつ?」
とニヤリとする。
ルカ「あ、あ、ああ、そう。そうなんだ」
ダニ「ルカ?」
ルカ「いや、大したことないんだ」
ダニ「上でなんか食べてくるよ」
ルカ「あ、そうだね。そして、少し休めよ」
ダニ「ああ。わかった」
と、椅子から立ち上がり、大きな背伸びをした。
ダニーが部屋を出たのを確認し、シークレットルームを閉ざした。外部からアクセスはできない。
ルカ、または自分以外が、高梨について調べた記録がないか確認した。
ジェフが監禁された時のものだけだ。拉致された屋敷は、地下が埋められ、今は一般住宅として売り物件となっている。検索したのはそこまでだった。
──あの詐欺組織も煙のように消えた。ただ、あの屋敷を管理していた不動産屋に繋がる会社は確認していた。高梨はその会社の者なのか?もし、本当に自分がこのMUGENの情報を高梨に漏らしたとしたら?いやそんなことはない。とんでもないリスクだ。この地球と自分たちの星の今後に関わる重大なことだ。そんなことは絶対にしないはずだ。絶対。
不動産屋の親会社と関わりがある会社の動きをルカは調べている。
親会社は貿易商を営む会社で他国から品を仕入れ、他の国で加工し、そしてまた他国へ売り捌く。鉱石だったり、木材、食品。様々なものだ。さらにその先を見て行く。
ルカの顔色が変わる。ある国の名前があった。最近戦争を始めた国だ。戦争を始める3ヶ月前に、大型運搬船を使い、アジア圏の商社からその国へ大量の品が運ばれている。船の部品だったり、建造物という建前になっている。その商社がわざわざ運ばなくても自国で造れる物のはずだ。
──兵器か?
背中を冷たいものが走る。
湾岸戦争で、相馬は命を救おうと、戦地に赴いたと言う。それ以前の世界大戦の時より、相馬の手技は上達した。多くの命を救えると思った。だが、兵器は相馬の想像以上に進化し、命を救う間も与えられず、あっという間に人ともわからぬ物体を作った。驕り昂っていた自分が恥ずかしく、物体の山の前で、申し訳ないと泣き伏したと苦しそうな顔で話してくれたことがあった。
──俺は死体の山を作る武器輸出に加担したのかもしれない。いや、俺はそんな事はしない。自分が自分を信じなくてどうする。しかし、高梨が会った俺が別人だったら?実際、ノアが生きているのにノアのgeminiが作られている。俺がもうひとりいる可能性もあるんだ。どうしたら確認できる?そして、高梨に会ったという俺は今、どこにいるんだ?
高梨がゲームと呼んだ、プログラムを消した際に出現したURLを記憶から呼び起こしたが、既にその先は消されていた。
ルカは頭を抱え、しばらくテーブルに突っ伏した後、決心したように、ゆっくり頭を持ち上げる。
──もう一度高梨に会って情報を得るしかない。
多分、ミモザでペンダントトップを作ることも無かっただろうし、星に関する本を読むことも、ここに文字を連ねることもしなかっただろうなぁ。思ってたより、自分の生き方が変化しているよ?全部きちんとできない体質で、中途半端が沢山ある。情けなく思う適当で弱い自分。でも、見つめる方角があるのは心地が良い。次から次へと、妄想が膨らんで、創造のアイディアが浮かんでくる。楽しい。ついでに、私も年齢不詳にしよう。見た目はしょうがないので、気持ちは解き放って自由になろう。
頑張ってポジティブになって人との繋がりを沢山沢山作る人。大好き過ぎる5人のどんな小さな言葉でも絶対に見逃さず拾い上げる人。努力して積み上げた歌唱力、表現力を惜しみなく還元する人。行動力と機転で一番底からみんなを元気に持ち上げる人。スクリーンに出続けることで、自分たちを知らしめようとする人。毎日の行動や言葉、笑顔で安心感を分け隔てなくみんなに与える人。
6人が奏でる音色に支えられてる。そして沢山の人が支えてるよ。大丈夫。前だけ見ててね。いつもありがとう。
バースデーとNew Single おめでとう。ちょっと遅くなりました。
フェス!楽しみだね〜。小児科医さん良い♡
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